『王子様』の秘密
新キャラ登場☆
私——梅原 彩香は昔から読書が好きだった。
小学生の頃、大好きだった本にこんなセリフがあった。
『女の子は誰でも、お姫様になれるのよ』
(私でもお姫様になれるんだ‥‥!)
当時、私は本当にそう思っていた。
でも、それは幼い頃の話。今はしっかり現実を見てる。
(お姫様になれる、か。はぁ‥‥)
廊下の鏡に映った自分に、心の中で溜息が出る。
平凡な茶髪をおさげにして、濁った緑眼は厚い眼鏡で隠されている。
出来る限り自分の姿を見ないように図書室を出ると、廊下に人だかりができている。
(なにかあったのかな?)
気になって後ろから覗くと、その理由がわかった。
「今日も一段と笑顔がまぶしいわ~」
「素敵~!」
「王子様~!」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
周囲から黄色い声が上がる中、優しく微笑む彼は同級生の篠原 慶くん。
彼はかっこよくて、誰にでも優しいその性格から『王子様』と呼ばれ、今みたいにいつも人に囲まれている。
(かっこいい‥‥)
私は、そんな篠原くんに恋をしている。
でも、篠原くんに話しかける勇気なんて私にはない。
それこそ付き合うだなんて夢のまた夢。
こうして遠くから見るだけで幸せなのだ。
(あ、もう教室戻らないと)
名残惜しいけど、足早にその場を去った。
*****
放課後、私はいつも通り図書室へ向かう。
防音性の重たいドアを開けると、中は電気がついてなく、シンとしていた。
(よかった。誰もいない‥‥)
ほっとしながらいつもの席に鞄を置く。
私の定位置はドアから少し離れている、この図書室で唯一死角となっている場所だ。
(なんの本を読もう‥‥)
基本的にジャンルは問わない主義の私はいつもいろいろな本を読む。
一周くらい回って、ようやく一冊を手に取った。
(今日はこれにしよう)
綺麗な表紙が印象的な、ちょっと分厚めのミステリー小説。
席に戻ろうと後ろを向いた時、ドアが開く音がした。
とっさに本棚に隠れると、そこには篠原くんがいた。
なにかブツブツと言っている。
お行儀が悪いとわかっているけれど、つい聞き耳を立てる。
「あーいっつも俺にばっか面倒事押し付けてきやがってまじめんどくせー。俺だって暇じゃねぇし何なら忙しいわ。なんも知らないくせに知ったかぶりすんじゃねーよクソが」
バサッ
驚きのあまり手元の本を落としてしまった。
慌てて本を拾い、ちらりと後ろを見るとバッチリ目が合った。
(ど、どうしよう‥‥)
混乱と恐怖で足がまったく動かない。
こっちに近づいてくるのが気配でわかる。
「‥‥ねぇ。今の、聞いてた?」
「え、えぇと‥‥」
(どう答えたらいいんだろう‥‥やっぱり素直に言っちゃう‥‥?)
意を決して口を開く。
「は、はい。その、最初から、全部聞いてました‥‥」
「そっか…‥」
恐る恐る篠原くんを見ると、うつむいてしまっている。
(ど、どうしよう‥‥殺されちゃう‥‥!)
そんなわけないと普段ならいえるが、この状況を前に冷静な判断ができない。
さっきまで持っていたミステリー小説が原因だろうか。
「ごごご、ごめんなさい!悪気はなかったんです!許してください!何でもします!」
「‥‥ふーん。なんでも、ねぇ」
顔を上げた篠原くんはニヤリと笑う。
(すごく‥‥すごく嫌な予感がする!)
背中に冷たい汗が伝う。緊張でコクリと喉が鳴る。
「じゃあさ、僕の言う事聞いてくれる?」
ホッと息を吐きながらも、恐る恐る質問を返す。
「え、えっと‥‥私は、何をすればいいんですか?」
篠原くんは笑顔のまま答える。
「今日から僕の命令には絶対従ってね!」
「え!?」
驚きのあまり声が漏れる。
私なんかが篠原くんと関わるなんて二度とないと思ってた。
そんな彼と、こんな関係でも関われるなんて‥‥。
嬉しい、嬉しいはずなのに‥‥。
(ん?命令?)
「絶対‥‥従う‥‥?」
「うん!だってなんでもするって言ったよね?」
頭の中が?で埋まる。
「た、確かになんでもするとは言ったけれど‥‥どうして絶対服従(?)なんですか?」
「なんでって‥‥」
ニヤリと笑みを深める彼に、悪寒が走る。
「いつ君が僕のことを話すかわからないから、手元に置いておかないとでしょ?それに‥‥面白そうだし」
(お、面白そう‥‥?)
彼が何を考えているのか全く理解できない。
「というわけで、今日からよろしくね!僕の可愛いペットちゃん♡」
(ペ、ペット‥‥)
「返事は?」
「は、はい‥‥」
戸惑いながらも答えると、篠原くんはぷうっと頬を膨らませた。
「返事は『はい』じゃなくて、『はい、ご主人様!』でしょ?」
「あ‥‥は、はい、ご主人様‥‥」
イケメンの笑顔圧とはまさにこのことだろう。
素直に従っちゃうほど怖い‥‥。
「よくできました!」
よしよしと頭をなでる彼の顔は、いつもの天使を思わせる王子様スマイルじゃなく、まさしく悪魔の笑みだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
そろそろ全てのキャラが登場し終えます!!