『女王様』と後輩
新たに、犬系後輩×ツンデレ先輩の二人☆
放課後、冬河とさくらは生徒会室に向かっていた。
扉を開くと、一人の少女がソファに腰かけていた。
「まあ、花恋ちゃん!こんにちは」
「おや、今日は橘さんが一番か」
「ごきげんよう。さくらさん、会長」
淑女らしく礼をとるのは、高等部二年、生徒会書記の橘 花恋だ。艶やかな長い黒髪、猫のような瞳、滅多に変わらない表情は人形のようだ。冷たい言動から『女王様』と疎まれているのだとか。
「そんなにかしこまらないでくれ。ここは学園だ」
「そうですわ、花恋ちゃん。書類整理ですよね、手伝いますわ」
「ありがとうございます、さくらさん」
二人はソファに座り、テキパキと書類を配分していく。実に優秀な人材だ。
「そういえば、他の人たちはどうしたのかな?」
「菫さんと紫藤さんは弓道部、田中さんはボランティア活動、会計・総務の二人は先生に呼び出されておりますわ」
「そうか、ありがとう」
彼女は礼儀正しく正義感が強い性格だ。思慮深く、細やかな気遣いもできる。
今のように、全員に紅茶を振る舞い、次々と仕事を片付けている。
「そういえば、花恋ちゃん」
「なんですか?」
「最近、花恋ちゃんに恋をしている一年生がいらっしゃると聞いたのですが‥‥」
「ぶふっ」
「か、花恋ちゃん!」
優雅に紅茶を啜っていた花恋は盛大にむせ、さくらは慌てた様子で水を差しだしている。
「‥‥その様子だと当たりのようだね。浮ついた話が一切ない君が珍しいね、橘さん」
「‥‥別に、やけに構ってくる後輩がいるだけですわ」
平然とした顔で言い返すが、指が震えて茶器がなっている。動揺がわかりやすいのは相変わらずか。
「で、ですが入学して二週間程度ですのに早いですわね。中等部の知り合いですか?」
「いえ、全く面識がないはずですが‥‥」
友人の春の気配に嬉しそうなさくら。さくらに弱い花恋は洗いざらい話すことになるだろう。
*****
(あとは、報告書を作らないとね)
今日の予定を見直しながら廊下を進む。
人が多い廊下に一人でいるのは私だけだろう。
「げっ、橘さんだ‥‥」
「おい、反応し過ぎだって!聞こえるだろ」
全部聞こえてる。
でも何とも思わない。悲しい、寂しいなんて感情は湧かない。
「あ、あの、橘さん‥‥ハンカチ、落としましたよ」
「ああ、ありがとう」
緊張で顔に力が入る。女生徒は「ヒッ」っと悲鳴を上げてそそくさと逃げていった。
「お~怖っ。別に睨まなくてもいいのにな~」
「冷たいし素っ気ないし、まるで薔薇のとげだな」
「本当に、美しい『女王様』だこと」
周りには侮辱と嘲笑が溢れている。
また、笑顔で話せなかった。どうしてこうなってしまうんだろう。
「はぁ‥‥」
「せ~んぱい!お疲れ様です♪」
まただ。
「何かしら?わたくしも暇ではないのよ」
「も~相変わらず冷たいですね~」
最近ずっと付きまとってくる一年生の杉山 和樹。
いつもならみんなすぐ離れていくのに、この子はずっと私のもとに来る。
「それはともかく、ため息なんてついてどうしたんですか?」
「別に‥‥何でもないわよ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「‥‥ええ。要件はそれだけ?じゃあもう行くわ」
「え~もっと話しましょうよ~」
「嫌よ」
「いいじゃないですか!ねっ?」
「い・や。あなたと話して私に利益はないもの」
「わぁ~ん!先輩ひどいです~!(泣)」
「‥‥じゃあね」
「はい!また明日です!」
私と話して楽しいの?こんな仏頂面の女と。
明日も、いつもみたいに声をかけてくるのかしら。あの明るい笑顔とともに。
読んでいただき、ありがとうございます。
新たに登場した二人の恋模様に、乞うご期待です!