幼馴染の彼ら
新たに、侍従×お嬢様という王道主従関係登場☆
わたくし――西園寺 菫の部屋は寮の最高階にあります。この寮は生徒会役員と多額の寄付によって部屋の階数が決まります。わたくしは生徒会の補助でありながら、寄付によって最高階の部屋を与えられました。寮には従者を連れることが許されますが、ほんの一握り。申請すれば同性の従者に一室を与えることもできます。わたくしの部屋には専属侍女の美奈がついてくれました。そして、もう一人――
「お嬢様。優でございます」
「どうぞ」
専属侍従の優だ。彼は代々西園寺家に仕える紫藤家に生まれ、幼い頃からわたくしの侍従として共に育ってきました。学園は校則により校舎に従者が立ち入ることはできません。優は学園の生徒となることでわたくしの護衛の任を続けてくれました。優が部屋に来ることも学園側に特別に許可をいただき、これまでのようにお世話されております。
「お嬢様。課題は終えられたのでしょうか?」
「今やっているわ」
「そうですか。では、お茶をお淹れいたします」
「まあ、ありがとう」
優の紅茶は絶品だ。味覚の鋭いさくらをも唸らせる腕を持ち、彼の右に出る者はいない。
早く課題を終わらせて、お茶を楽しみましょう。
「菫お嬢様。何かお菓子を用意いたしましょうか?」
「ありがとう、美奈。そうね‥‥さくらちゃんからいただいたクッキーがあったわね」
「では、そちらを」
優秀な二人のおかげで課題が終わる時にはティーセットが完成されていた。
紅茶に口をつけ、顔が緩む。美味しいですわ。
「美味しいですわ、優。大変結構でございます。美奈も準備ありがとう」
紅茶とクッキー、二人とおしゃべり、こんな毎日がとても楽しい。つい手が進んでしまいますわ。
「お嬢様。もう夜ですし、食べすぎはいけませんよ」
「まぁ、わたくしが丸くなってしまったら優は嫌いになるの?」
「まさか。お嬢様を嫌うなんてありえませんよ。ですが、健康のためにもお嬢様には丸くなってほしくありませんからね。美奈、クッキーはそろそろ下げなさい」
「はい、優」
「‥‥わたくしのおやつを取るなんて、そんな意地悪に育てた覚えはなくってよ?」
「育てられた覚えもありませんからね。私の方が年上ですので」
「つまらないこと」
菫は拗ねたように頬を膨らませ、紅茶を飲みほした。
「今日はもう休みますわ。優も部屋にお戻りになって」
「かしこまりました、お嬢様。おやすみなさいませ」
「ええ、おやすみ」
優は慇懃に礼をして、部屋を後にした。
菫は寝間着に着替え、美奈を連れて寝台に座る。就寝前『恒例』のガールズトークである。
「‥‥ねえ、美奈。優はいつわたくしの気持ちに気づいてくれるのかしら」
「それ以外はすぐ気づくのに、残念な男です」
「そうよね!わたくしたち両想いのはずですのに!!」
「その通りです、お嬢様」
「絶対に好きと言わせてみせますわ!美奈、応援してくださいまし!」
「勿論です。ですが、本日はもうお休みになられるべきです」
「わかりました。ではおやすみなさい、美奈」
「おやすみなさいませ、菫お嬢様」
美奈は音を立てぬように隣の自室に戻った。菫が就寝中は言わば非番であり、美奈の自由時間だ。
(まったく、いつ二人は付き合うのかな~。両片思いなんだからさっさとくっつけばいいのに)
それは、西園寺家の総意でもあった。彼らの期待が実る日はまだ遠いだろう。
読んでいただき、ありがとうございます!
お嬢様のアタックがいつか届きますように‥‥。