謝罪の次は
新キャラ登場☆
放課後、陽菜はつい彼――白井くんに目を向けてしまう。
(朝からなんだかぼんやりしているみたいだし、体調悪いのかな?)
昨日のことで話しかけたかったが、タイミングを失い放課後になってしまった。
(い、言わなきゃ‥‥嫌われちゃってるかもしれないけど言わなきゃ‥‥)
「おい」
「わっ」
後ろから声をかけられて心臓が出るかと思った。声の主は白井くんだった。
「し、白井くん。どうしたの?何かわからないことでもあった?」
微笑んで聞いても無言。神様、私はどうしたら‥‥。
「ちょっと、話したいことがあるから一緒に来て」
「え?じゃ、じゃあ中庭で‥‥」
放課後は部活に行くか寮に帰るのが普通なので、中庭に人はあまり来ない。ここでなら気兼ねなく話せるだろう。
「‥‥それで、どうしたの?話って」
「お、俺‥‥」
俯きっぱなしの白井くんが心配になるけど、話始めるまで気長に待たねば。
「ごめん!!」
白井くんは私に頭を下げ、謝ってきた。突然のことにびっくりして、思考停止した。
「ど、どうしたの?急に。なんで、謝って‥‥」
「‥‥俺、気づいたんだ。今まで誰も言わなかっただけで、俺は人のことを傷つけてたんだって。ハッキリ言うことで誰か悲しんでいたかもしれないって。昨日も俺、お前のこと何も知らないのに貶して‥‥本当に、悪かった」
白井くんに何があったんだろう?急に自分の言動を謝るなんて‥‥。
でも、彼の拳は震えるほど握られ、顔も赤い。彼が誠意を持って謝っているのは伝わってくる。
「‥‥うん、わかった。謝ってくれたからいいよ。私も、昨日置いて行っちゃってごめんなさい」
しっかり謝罪して、顔を上げた時には笑顔をかたどる。
「さ、お互い謝ったからもうおしまい!白井くんはちゃんと自分を認めることができて偉いねぇ」
「そ、そうか?俺も人に言われて初めて気づいたんだが‥‥」
「素直に受け入れた時点で偉いよ。白井くん、正直すぎてクラスメイトに嫌われかけてたからね」
「そうなのか!?」
「えっ気づいてなかったの?」
普通に会話した白井くんは面白くて、根は素直な子だとわかった。これならみんなも受け入れて、クラスの輪に溶け込めるだろう。
(良かった。誰かわからないけど、白井くんを変えるきっかけになる人がいて)
*****
生徒会室では、窓から一人の少女が中庭を眺めていた。
「‥‥あら。彼、噂の転校生ですわね」
「おや、他クラスの君にも噂は届いているのかい?」
「ええ。誰にでも噛みつくような人は、学園に長くいられませんもの」
「この学園は、言わば社会の縮図。将来国を背負う若者たちが、立ち居振る舞いを学ぶ場所でもあるからね」
「ですが、貴方には必要ないようですね。会長?」
「それは君もだろう?西園寺財閥の一人娘 西園寺 菫さん」
ハーフアップに結った紫のストレートヘア、菫を閉じ込めたような瞳、白い雪肌。全てを魅了するような穏やかな微笑みは完璧であった。
「この学園、いや、国のトップレベルのご令嬢の君には怖いものなんてないだろう?」
美貌の少女にさえ心を許さない『氷の帝王』は、完璧な笑みを返す。
二人の笑みは美しく、完璧で、どこか嘘くさい。
「ご冗談を。わたくしにだって、怖いものはありますわ」
「へえ。ぜひ知りたいな」
「乙女の秘密を探るのは無粋ですわよ?」
意味のない穏やかな会話は、ノックの音で中断された。
「冬くん、菫ちゃん。お疲れ様です」
「お嬢様。お迎えにあがりました」
入ってきたのはさくらと、菫の専属従僕の紫藤 優だ。
本来青空学園は寮以外で従者は立ち入り禁止だが、優は学園の生徒になることで四六時中菫を護衛していた。
「もう、優。この二人の前ではかしこまる必要はないのよ?」
「そうですね、ではお言葉に甘えて」
「優は真面目ですねぇ」
「そこが彼のいいのところだよ」
日頃は交友はないが、幼馴染である四人は気安い仲でもあった。気軽に話し合う機会が減ったが、交流は続いている。
「お嬢様。暗くなる前に寮へ戻りましょう」
「まあ、もうそんな時間ですの?」
「仕事は終わったし、私たちも帰ろうか」
「ええ」
生徒会補助を務める菫と優は非常に優秀だ。どんな雑務でも快く引き受けてくれる頼もしい存在である。
一同が片づけをしている時、菫がふと中庭を見ると陽菜と昴はまだ話しているようだ。
「ふふ、案外仲良くなったりして」
「菫ちゃん?何か言った?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
菫の呟きが聞こえなかったさくらは聞き返してきたが、勝手に広めるのは野暮なことだ。
これからのことは二人にしかわからないのだから。
読んでいただき、ありがとうございます。
完璧同士の会話って難しい‥‥。