無意識の自惚れ
翌日、朝一で生徒会室に呼び出された昴は非常に不服だった。
(なんで俺が呼び出されたんだ‥‥?)
心当たりと言えば昨日の女子に対しての発言しかないが、思ったことを正直に言っただけだ。わざわざ学園の生徒会長様に呼び出される理由がわからない。
(適当に流して帰るか)
長い廊下の奥でたどり着いた風格ある扉に金字で『生徒会室』と書かれている。無駄に豪華すぎる。
「失礼します。二年の白井です」
「どうぞ」
短い了承が返ってきたことを確認し、ドアノブに手を伸ばす。部屋に入ると、落ち着いた上品な調度品が目に入る。足音を抑えようとせずとも吸い込む上等な絨毯。視線を上げると落ち着いた柄の壁紙。更にやや小ぶりな豪奢なシャンデリアが目に入る。
思わず息を呑み、見惚れてしまった。それらよりも輝く会長――伊織 冬河は椅子にゆったりと腰をかけ、長い脚を組むのは様になっている。その類稀な美貌は、微笑んでいるのに冷酷さを感じる。
「さて‥‥まずは、突然の呼び出しに応じてくれてありがとう。初めまして、生徒会長の伊織 冬河だ」
「は、初めまして。白川 昴です‥‥」
「君を呼んだのは、少しばかり忠告をしようと思ってね」
「忠告、ですか‥‥?」
「ああ」
優雅に立ち上がり、近づいてくる冬河に、昴は無意識に緊張から喉をこくりと動かす。
「君は随分と正直な性格のようだから、今後は気を付けた方がいい」
「はぁ‥‥」
「この学園は多くの名家の子女が通っている。当然、君より立場が高い者ばかりだ。今までのようにすり寄ってくれる仲間は簡単に作れない」
「なっ‥‥お、俺は作りたくて作った訳じゃ」
「うん、それは理解している。だが、今までのように誰も注意しない環境とはいかないんだ。この学園で平穏に過ごしたいなら、自惚れずに身の振り方を弁えるべきかな。誰も彼も穏便な性格というわけじゃないからね」
漆黒の瞳は玲瓏たる輝きを放っている。穏やかな語り口なのに反論する隙がない。
「‥‥わかりました。ご忠告、感謝いたします」
「うん、わかってくれて嬉しいよ。では、下がっていいよ」
「失礼します‥‥」
昴は部屋を出た後も緊張をぬぐえなかった。あの瞳に見つめられると、何もかも見透かされているような感覚になる。
(俺は、自惚れていたのか‥‥?)
今までどこに行っても俺は一番偉かった。大病院の跡取り息子として生まれ、大人までもがおべっかをかいて、うんざりしていたはずだ。でも、いつの間にかそれが当たり前になっていたのではないか。何をしても褒められる環境に胡坐をかいていたのではないか。
「俺は‥‥」
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