彼女の本性
新たに、完璧腹黒男子×おっとり少女が誕生‼
清々しい朝、学園内の登校道は、多くの生徒がほうっと溜息を漏らしていた。
「あぁ会長。なんて麗しいのでしょう‥‥」
「クールなご容姿と圧倒的な手腕から『氷の帝王』と呼ばれるのも分かりますわ」
「あら、お隣の『春の天使様』が目に入りませんの?なんて可憐なのかしら」
「お似合いのお二人よね‥‥」
「初等部からの付き合いだそうですし、本当に付き合ってらっしゃったり!」
「素敵よねぇ!微笑み合う二人はまるで絵画のようだわ」
生徒たちがうっとりと見つめるのは、隣り合って歩む二人の男女だ。
淡いピンクの髪は緩やかに波打ち、同色の大きな瞳は瑞々しい笑みが浮かんでいる。透き通るような白皙の肌、そして儚げな美貌を持った彼女は、青空学園生徒会副会長 天宮 さくらと言った。桜のように儚い容姿を持ち、佇まいは優雅。それでいて、学に優れ、才に溢れ、心根も善良。『春の天使様』と周囲から慕われている。
一方、漆黒の髪と瞳は知性を感じさせ、所作には品が滲んでいる。齢十七にして圧倒的な美貌を持つ彼は、青空学園生徒会会長 伊織 冬河である。『氷の帝王』と尊敬と畏怖の念を集めることで学園を統治しているとも言えた。氷のような冷たさを感じる容姿だが、生徒や教師の信頼も厚い優等生である。
浮ついた話が一切ない二人は幼馴染ということもあり、周囲は期待で満ちていた。互いのファンも彼らなら、と認め合うほどだ。
「あぁ、焦れったいですわね。お二人は想い合っていらっしゃるのでは?」
「会長は未だあどけない天宮さんを思っていらっしゃるでは?」
「お二人なら家柄もご容姿もつりあいますのにねぇ」
だが、二人の間には常に礼儀正しい距離が開いている。結ばれるのはまだ先だろう――と周囲は温かく見守っていた。
*****
「冬く~ん」
甘えた声で俺の腕に身体をしなだれさせるのは、幼馴染の天宮 さくら。そう、『春の天使様』と呼ばれる副会長が、このだらけきっている美少女だ。
さくらは本来、自堕落でおっとりした性格だ。天宮家の令嬢として、常に気を張る環境では心身共に疲れるだろう。その甘え先として、俺が使われている。役得。
「疲れたよ、冬く~ん」
母親同士の交流があり、俺とさくらは昔から面識があった。さくらも俺によく懐いており、我が家にも頻繁に遊びに来ていた。それは現在も続いており、互いの寮部屋に行くことも少なくない。一般生徒のフロアならまだしも、生徒会役員は階が同じで個室だ。監視カメラに気を付ければどうということはない。
「はいはい、お疲れ様」
労うように頭を撫でると、さくらは気持ちよさそうに目を細める。少し乱れている髪を直そうと、髪を梳く。柔らかく艶のある長い巻き毛はからまりを知らず、滑らかな指通りだ。
綺麗に整え終わると、さくらは大変満足そうな顔をしていた。お気に召したのだろう。明らかに年頃の男女がするような行為ではないのに、さくらは全く疑問を持たない。箱入り過ぎて比較対象がいないのも原因だろうが、昔から気軽におぶったりしていたから、抱き着いたりすることに抵抗がないのだろう。
それをいいことに、俺は頬や首筋にゆっくりと触れる。怖がらせないよう、優しく。
「くすぐったいわ、冬くん」
「そう?ごめんね」
今はまだ、このままで。
コロコロ笑うさくらに笑みを返しながら、幼馴染の特権を満喫した冬河。今夜はさくらよりも、冬河のほうが癒されたかもしれない。
「そういえば、田中さん。大丈夫かしら‥‥」
「先ほどの話、我々も関係ないとは言えないしね。随分とこちらを侮っているようだけど」
さくらは心配そうに田中 陽菜の部屋に視線を向けている。あまりさくらの心を翳らすようなら、対策を取らねば。
「この話は私が対処しよう。さくらは心配しなくても大丈夫さ」
「本当に?わたくしも何か手伝うわ」
「大丈夫。それなら田中さんのことを気にかけておいてあげて」
「わかったわ!」
今回の転入生はそれほど家柄が高くない。俺やさくらが本気を出せばすぐに潰れてもおかしくない。あまり圧をかけすぎると不自然だし、今回は一人でやったほうがマシだ。
ふと後ろを見ると、二人の男女が合図をしてきた。
睨むような視線を送る彼女は、さくらの専属侍女の杏奈だ。自他共に認める腹心の彼女はさくら至上主義だ。もう夜も遅いし、さくらの睡眠時間を気にしているのだろう。
隣で呆れたような顔の男は、俺の侍従の海斗。俺たちのスキンシップはいつも通りだが、海斗はいつでもあのような反応しかしない。
「うん、さくらは優しいね。今日は遅いから、もうおやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
さくらが杏奈を伴って笑顔で部屋を出た瞬間、一気に表情が抜け落ちる。
「‥‥本当に、さくら様の前では特大の猫かぶってますねぇ」
「減らず口だな、海斗」
ソファに戻る頃には、さっそく転校生の資料が用意されていた。
仕事だけはできる海斗は、大体の情報を掴み終えていた。
「今のところさくら様に実害はないと思いますが、どうなさるおつもりですか?」
「勿論手を打つさ。なにかあってさくらが傷つくわけにはいかないからね」
(相変わらずさくら様のことしか考えてないな)
海斗の心中など気にせず情報を吟味する。
「‥‥明日、生徒会室に彼を呼び出せ。直々に話をつけよう」
「承知いたしました」
慇懃に礼をして、情報を回収する。主人が暗記し終えた今となってはただの紙だ。
名家の跡取り息子として生まれ、その権力と能力をすべて幼馴染のために使う伊織 冬河。
さくらが望めば全て叶える。それが彼の生きる目的とも言えた。
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