帰り道のぬくもり
お茶会編終了!
いよいよ本格的に進めていきたいです。
「くそっ‥‥」
その頃、慶は悪態をつきながら廊下を急いでいた。
教師に雑用を頼まれ、女生徒たちに囲まれ、彼の機嫌は最低潮と言ってよかった。
(梅原に声をかけるはずが、連絡もつかないし‥‥。ひとまず、生徒会に顔を出さねば)
己が手を抜いて会長たちを煩わすわけにはいかない。与えられた役割は果たさねば。
生徒会室に近付くにつれ、人通りは少なくなってくる。張り付けた笑みを消し、足だけ前へ進む。
ようやくたどり着いた扉の前で息を整え、服装に乱れがないか確認する。
扉の奥では、朗らかな笑い声が聞こえる。やはり出遅れてしまったかもしれない。
「遅れてすみません。ただいま参り‥‥」
「あら、篠原さん。遅かったですね、お友達がお待ちですわ」
「え、えと、こんにちは‥‥」
生徒会の女性メンバーに囲まれていたのは梅原 彩香だった。
「なぜ梅原がここに‥‥」
「わたくしが誘いましたの。篠原さんは随分とご心配していたようでしたから、お顔を見た方が安心するかと思いまして」
にっこりと応えるさくらに悪気はない。純粋な善意だ。
それは彩香も然り。一生徒の彼女が天宮家のご令嬢に逆らえるわけがない。申し訳なさそうに肩をすぼめる様子からも窺える。
「そうかっかしないでくださいな、篠原さん。梅原さんはわたくしたちとお茶をしていただけですから」
「‥‥ですが、西園寺さん」
「彼女は貴方のために待っていたのですよ?」
「橘さんまで‥‥」
学園のトップレディたちに諭され、慶は返す言葉がない。
花恋の様子から粗相はしていないようだが、緊張しやすい彼女が長時間いるのは負担だろう。
「‥‥そうですか。私の友人を対応いただき、感謝いたします。ですが、彼女は繊細な気質なので休まねば。今日も倒れたばかりです」
「そうですね。わたくしったら長々とお引止めして申し訳ありません」
「い、いえ。そんなことは‥‥」
申し訳なさそうに眉を下げるさくらに彩香はたじたじだ。
ちらりと盗み見ると、さくらは合点がいったような顔をして微笑んだ。
「篠原さん、今日は彼女を寮まで送ってあげてくださいな。貴方の仕事はわたくしが対応いたします」
「それは、大変ありがたく存じます。では、早く寮に戻りましょうか」
「で、でも‥‥」
笑顔で圧をかけると、青ざめてコクコクと頷く。彩香の鞄を取り、手を引いて退出を促す。
「あの、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「ゆっくり休んで頂戴ね」
「お気をつけて~」
「またお会いしましょう」
「さようなら、梅原さん」
丁寧に挨拶し、彼女たちに見送られながら帰路についた。
「あの、ご主人様。連絡をせず申し訳ありません。迎えに来てくれて嬉しかったです」
「‥‥ふん。副会長からの誘いを断れば角が立つからな」
ふと、未だ自分たちが手を繋いだままのことに気付いた。
急に恥ずかしくなったが、緊張で冷たくなった体に温かい彼の手はありがたかった。
このぬくもりをもう少し味わいたくて、手に力がこもる。
「‥‥ありがとうございます」
慶が彩香に目をやると、頬を紅潮させてはにかんでいた。いつも強張って青ざめてばかりの彼女の人間らしい表情は、愛らしさを感じさせる。
思わず目を奪われたが、すぐに意識を取り戻す。
寮に近づくまで、二人はずっと手をつないでいた。
更新が遅くなり、申し訳ありません。
速度は落ちますが、これからも細々と続けるつもりなので応援よろしくお願いします!