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青春物語  作者: おもち
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可愛い後輩

今回は和樹視点のお話です。

「杉山くん!これ、この前教えてくれたレシピを参考に作ってみたの!どうかな?」

「うん、おいしいよ!頑張ったんだね!」

 杉山 和樹こと『製菓部のエンジェル』の満面の笑みに、部員一同は和んでいた。

「杉山くんって本当にかわいいよね」

「ほんとほんと。子犬みたいだよね~」

「女子力も高いし、男子なんてもったいないよね~」

 『かわいい』というフレーズにちょっとムッとしながらも、笑顔でその場を乗り切る。

 一人が話しかけると一人、また一人と来て、気付いたら囲まれている。

 好意はありがたいけど、今日の放課後はすぐ先輩に会いに行くって決めているんだ!

 嬉しすぎて早足になりながら廊下を急ぐ。

 ひょこっと先輩の教室を覗くけれど、数人の男子生徒しかいなかった。

(先輩は生徒会かな?残念‥‥)

 しょんぼりしながら教室に戻ろうとすると、わっと教室から声が上がった。

「はい!お前の負け~(笑)」

「クッソ!また俺の負けかよ~」

「しっかり罰ゲーム受けろよ~。学園の『女王様』に嘘告白!」

「えぇ~本気でやるのかよ~」

「当たり前だろ?じゃなきゃ罰ゲームになんねーよ」

(は?罰ゲーム?)

 つい聞き耳を立ててしまったが、内容に思わずイラっとする。

 俺の存在に気付いていない男子生徒はゲラゲラと話を進める。

「きっつ(笑)でもさ、あの人って告白されたことなさそうじゃね?」

(きついってなんだよ、きついって)

「確かに(笑)いくら美人でもあの性格じゃあな~」

「初めてなら余計期待すんじゃね?散々弄んで、最後は罰ゲームでした~って」

「最高!!」

 先輩を貶す会話に、とうとう怒りが先駆かった。

「ふざけんな!」

 自分でも驚くほど大きな声。

 きっとそれほど、俺は腹を立てているのだろう。

「は?」

「何だよ。急に出てきやがって‥‥」

 はっと我に返り、落ち着いて先輩たちを見る。

 でも、先輩たちを睨む目だけはやめられなかった。

「橘先輩への罰ゲーム、やめてください」

「は?なんだ聞いてたのかよ。別にお前には関係ないだろ?」

「あ、ていうかコイツじゃね?最近橘に付きまとってるコ―ハイ!」

「確かに!こんなチビだったんだな~。よちよち、女王様にまったくお相手されないから八つ当たりでちゅか~かわいそうでちゅね~」

 その発言にどっと笑いが起こる。

 改める気のない態度に、なお腹が立つ。

 思わず胸倉をつかみ上げるほど。

「は、離せよ!」

「次、先輩の陰口を言ってみてください。ただじゃ済ませませんよ?」

 あまりの迫力に全員が黙り込んだ。

 パッと手を離すと、先輩は地面にへたり込んだ。

「ところで、さっき橘先輩の顔やら性格やら言ってましたよね?」

「そ、それがなんだよ…」

 まだ虚勢を張る先輩に、ふうっと溜息をつきながら屈んで視線を合わせる。

「先輩はとっても素敵な女性ですよ。常にみんなのことを考えている、強くて優しい自慢の先輩ですから」

 多分最後の方は本当に笑えたと思う。

「でも、あなたたちみたいに知能も階位も低い人間には、わからないんだろうね」

ちょんと鼻先に指を置くと、座り込んでいた先輩はさっと顔を青ざめさせる。

「も、もう行くぞ…」

「おう‥‥」

 すごすごと逃げていく先輩たちに呆れしか出てこない。

(さて、教室戻るか)

 教室のドアに目を向けると、そこにいないはずの、いてはいけないはずの人物がいた。

「せ、せんぱい!?」

「‥‥」

 まさか先輩がいたとは。いつからいたんだろう。最初から?もしかして俺の言葉も聞いていた?

「あの~先輩。いつからそこにいたんですか?」

「最初からよ」

 最悪だ。よりによって先輩本人に聞かれてしまったとは。

「嫌なところ、見せちゃいましたね。すみません」

「‥‥そんなことないわ」

「え?」

 顔を上げると、夕日か先輩自身かわからないけれど、顔が赤く染まっていた。

「そ、その‥‥か、か‥‥」

「か?」

「っかっこよかったわよ。杉山くん」

 恥ずかしそうにしながら言う先輩は今までで一番穏やかな顔をしていた。

「せ、先輩!も、もう一回!もう一回言って下さい!!!」

 普段の先輩からは考えさせられない言葉。つい夢かともう一度聞いてしまう。

「なっ!も、もう言わない!!私は帰ります!!」

 完璧に赤面した先輩はバッと鞄を取ってドアへ走った。

「‥‥またね」

 教室を出る際に覗かせた顔は、とても色っぽい。思わずキュンとしてしまう。

 慌てて教室を出ると、先輩はまだ廊下を走っていた。

「先輩!また明日!!」

 パタパタと走る先輩の背中に、俺は思い切り手を振った。

(かっこいい、かぁ‥‥)

 今までずっと『かわいい』としか言われてこなかった俺に、その言葉はとても響いた。

 嬉しくて顔がにやける。きっと今の俺は先輩と負けず劣らず真っ赤だろう。

 先輩の言葉が頭の中でこだまする。珍しい先輩の笑顔が頭から離れない。

(またね‥‥)

 可愛くて優しい、俺だけが知っている先輩。

 また明日も、明後日も、明々後日だって、いつまでも話しかけよう。

 愛おしい君の笑顔が見れるなら。

読んでいただき、ありがとうございます!

可愛い人って怒らせたらホント怖い‥‥。

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