『王子様』の内心
今回は慶視点です。
ペットに残された俺――篠原 慶はしばらく放心していた。
(え‥‥足はや!!)
置いて行かれたことよりも、彼女の逃げ足の速さに驚いていた。
(極めたらもっと速くなりそう‥‥て関心してる場合か!先に帰られたんだぞ!!)
冷静になり一人でツッコミを入れても現実は変わらない。
(予定を聞いといたらよかったな‥‥まぁもう後の祭りか。仕方ない、今日は帰ろう)
諦めて一人で寮に向かう。いつもより足が早いのは気のせいだろう。
(にしても本に水やりか。ずいぶんお粗末な言い訳だな‥‥まあ明日話せばいいか)
そんなことを考え、あっというまに寮に着く。
「ただいま‥‥って誰もいないよな」
生徒会で書記を務める俺は一人部屋だ。会長たちのように侍従は連れておらず、部屋はいつも静かだ。
俺の両親は共働きで帰りも遅く、休みも滅多にない。家政婦も仕事が終われば帰るし、1人は慣れていた。
『一緒にいられなくてごめんね』
というのが両親の口癖だった。
申し訳なさそうな二人に、俺は本心を抑えて無理に笑顔を作る。
「全然大丈夫!お仕事頑張ってね」
両親には罪悪感を感じてほしくなかった。
だから、寂しいなんて言ってはいけない。二人がもっと困ってしまう。そう言い聞かせていた。
いつしか俺は常に本心を隠すようになった。教師にも、友人にも、親にさえも。
人に囲まれていても、俺はずっと一人だった。わかっている、わかっているんだ。俺が誰にも心を開かないから、上辺だけの関係しかできないなんて。
でもこれでいい。誰にも迷惑をかけないのだから。
俺の壁を乗り越えて俺を理解してくれる仲間は少なからずいる。それだけで十分恵まれているのだろう。
だから大丈夫。皆が望む、理想の『王子様』を演じてやろう。そう思っていたのに‥‥。
(まさか他人に聞かれてしまうとは‥‥しくじったな)
あまつさえあんなことを言うなんて、我ながらストレスが溜まっていたのかもしれないな。
私服に着替えてソファに座る。
(何やってんだろ、俺‥‥)
呆れ交じりに溜息をつくと、ポケットに入れていたスマホが鳴る。
ホーム画面には一つのメッセージ通知。
正直面倒だが大事な連絡かもしれないと開く。
相手はあの眼鏡女子だった。
驚きつつ内容を読む。
『今日は先に帰ってしまって、本当にすみませんでした』
謝罪メールだった。
基本非がない人に謝れるのは好きではない。罪悪感を感じる必要なんてないのだから。
『今日はお疲れ様。水やりはちゃんとできたの?(笑)
次からは私用があるときは互いに連絡しよう』
スマホを投げてソファに体を沈める。
(‥‥そろそろ夕飯にするか)
俺はいつも部屋で夕食をとる。食事時にまで人に囲まれるのは勘弁だ。
今日はルームサービスではなく、気分転換に自炊をする。
(卵、鶏肉、玉ねぎ、人参‥‥オムライスでいいか)
冷蔵庫を覗いてメニューを決める。
がちゃがちゃと調理器具を取り出して準備に取り掛かる。
(あ、コーンスープもあったな。使っちゃうか)
エプロンをつけながら新たにメニューを追加する。
数十分後、机の上に並ぶのは一人分のオムライスとコーンスープ。
「いただきます」
スプーンを手に取り口に運ぶ。
(我ながらうまくできたな)
口に広がる軽やかなケチャップライスに、とろとろの半熟卵が絶妙なコラボネーションとなっている。
小さい頃からよく手伝いをしていたし、腕が立つだろう。
それに、料理は俺にとってのストレス発散でもあった。この達成感がちょうどいい。
「ごちそうさまでした」
皿を片し、風呂に入った俺はそのまま引き込まれるようにベッドへ飛び込む。
(疲れた‥‥)
一日の疲れを吐き出すように溜息をつき、天井を見る。
(そういえば、あの子の名前聞いてなかったな‥‥今日はもう遅いし、明日聞こう)
そう思い、俺は早々眠りに入った。
読んでいただき、ありがとうございます。
みんな早く結ばれないかな~




