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青春物語  作者: おもち
10/18

ペット就任(?)

今回は彩香視点です。

 図書室で衝撃の真実を知った後、私は放心状態で寮に帰った。

 ルームメイトのあの子はいないようだ。

 部屋に入ってすぐさまベッドに飛び込み、あの後を思い出す。

*****

「早速なんだけど、スマホ貸して」

と篠原くんに言われて恐る恐るスマホを出す。

 すると、彼は何か操作した後

「はい。これ俺のアカウントね。返信はすぐにすること」

(連絡先交換‥‥)

 私は高鳴る気持ちを抑えながらスマホを受け取る。

「は、はい!ご主人様‥‥」

「よろしい。じゃあ、また明日ね」

 篠原くんは満足そうに図書室を出ていった。

*****

ふと顔を上げ、スマホのメッセージアプリを開く。

数少ない連絡先の中に、篠原くんのアカウントがある。

(夢じゃ、ないんだ‥‥)

 一生関わる事なんてないと思っていた相手と初めて会話をして、連絡先まで交換した。

 正直、すごく嬉しい。一方で、不安な自分もいる。

(篠原くんのペット‥‥どういう意味なんだろ‥‥)

 ずっと考えても、篠原くんの行動が謎ということしかわからない。

 しばらくぼんやりしていると、あの子が帰ってきた。

「あ‥‥おかえりなさい、鈴木さん」

「ただいまー彩香ちゃん」

 ルームメイトの鈴木 麻衣さんは、いつも明るく私にも優しく話しかけてくれる。

(これ以上考えてもしょうがないよね‥‥)

 起き上がって私服に着替えていると、隣で着替えていた鈴木さんが声をかけてきた。

「ね、彩香ちゃん。今日一緒に夕食食べない?」

「夕食?鈴木さんはいつも田中さんと食べてるんじゃ‥‥」

「陽菜は今日生徒会で遅くなるらしいから。せっかくだし一緒に食べよっ!」

(生徒会ってことは役員の篠原くんも遅いのかな?)

 どんな顔すればいいかわからないし、いないうちに食べたほうがいいかもしれない。

「い、行きまふ!」

「よし、じゃあさっそくレッツゴー!」


 翌日、ポケットに入れていたスマホが鳴った。

(お母さんかな?)

 メッセージを見ると、なんと慶くんからだった。

(篠原くん!)

 ドキドキしながら読むと、話したいことがあるから昼休みに図書室に来てほしいという旨だった。

(また会える!)

 そう思うと胸が高鳴る。

 急いで「はい、ご主人様」と返信して、メッセージ画面を見つめる。

(会えるのは嬉しいけど、やっぱりモヤモヤするなぁ‥‥)

 考え過ぎもよくないと頭からモヤモヤを追い出し、スマホをポケットにしまった。

 ふと周りを見ると、みんなあちこちで楽しそうに会話している様子が目に入る。

(みんな楽しそうだなぁ‥‥)

 私は小学生の頃から友達があまりいない。気が付けばいつも本と一緒だった。

(私に、話しかけられる勇気があればよかったのに‥‥)

 ズキン、とした胸の痛みを無視して昨日図書室で借りた本を読み進めた。

*****

 昼休みになると、教室は一層賑やかになる。

 私は急いで昼食を済ませて図書室へ向かった。

(話って何だろう‥‥また命令かな?)

そんなことを考えていたらあっという間についた。

急に不安になり、扉を開けるのが怖くなった。

(弱気になっちゃダメ‥‥ちゃんとしないと!)

 意を決して扉を開けるも、中には誰もいない。

 私が一足早かったようだ。

(ちょっと早かったかな?)

 とりあえず近くの椅子に座るも、何もすることがない。

(暇だな‥‥あ、今のうちにご主人様呼びも慣れておかないと)

 周りを見回してもう一度人がいないことを確認して口を開く。

「えっと‥‥なんでしょうか?ご主人様。うーん、なんか違う‥‥どうなさいました?ご主人様。の方がいいかな‥‥」

 寮に従者を連れるほどお金持ちではない私は正しい応対がわからない。

 あまりしっくりこず、唸りながら「ご主人様」と呟く。

「何やってんの?」

 顔を上げると、そこには篠原くんがいた。

「ひゃっ!?篠原く‥‥じゃなくて、ご主人様!いらしてたんですね!!」

 慌てて声を上げるも、思い描いていたのとまったく違う。

(せっかく考えたのに‥‥)

 呆れられるかと思ったけど、彼はクスッと笑っただけだった。

「ほんと、君って面白いね」

 その表情は自然にあふれたような優しい笑顔。

(良かった、いつもの篠原くんだ‥‥)

 なぜか安心する、ホッとする顔だ。

「し‥‥ご主人様」

「何?」

「私、ご主人様の今みたいな笑顔好きです。見ていて嬉しくなる、素敵な顔」

 思わず本音を漏らしてしまった。

 篠原くんはしばらく固まっていたけど、急に顔面を大きくつかまれた。

「えっご、ご主人様?この手は‥‥」

「うるさい」

「で、でも何も見えな‥‥」

「え、ええ~?」

 何か気に障ることを言ってしまったのかと反省する。

 思い切りつかまれているから篠原くんがどんな顔をしているのかもわからない。

「‥‥見せられるかよ、こんな顔」

 私は見えなかったけれど、篠原くんは珍しく顔が赤く火照っていた。

*****

「そういえば、お話って何ですか?」

 ようやく顔を解放されて、違和感がある両頬を揉みながら疑問を口にする。

「昨日、重要な約束を伝え忘れていたからだ」

「重要な約束?」

「そう。仮にも主とペット。主従関係に約束は大事だろう?」

(た、たしかに‥‥!)

 全然確かにじゃないけど‥‥たしかに!

「ということで、3つの約束事を言います」

 ゴクリと息をのんで、真剣に耳を傾ける。

「1つ、このことは誰には話してはいけない。2つ、君は俺に対して絶対服従。3つ、お互いに不要な感情は持たない。恋愛感情、とかね」

(嘘、でしょ‥‥)

 私は思わず言葉を失った。恋愛感情が禁止なんて‥‥。じゃあ私のこの気持ちは、どうすれば‥‥。

「わかった?」

「あ、はい‥‥わかりました」

「じゃ、放課後下駄箱で待ってるから」

「あっ‥‥」

 反論する隙も与えず篠原くんはさっさと行ってしまった。

*****

 篠原くんとの約束が頭から離れなくて、そのあとの授業はほとんど集中できなかった。

 気づいたら夕日が赤く染まるほど時間がたっていた。

(そういえば今って何時?)

 時計を見ると、とっくに部活動の時間は過ぎていた。教室にも人は全くいない。

(いけない!篠原くんと待ち合わせしてるんだった!)

 慌てて荷物を詰め、飛び出すように教室を出た。

(どうしよう、まだいるかな?)

 速足で下駄箱に向かうと、見覚えのある背中が見えた。

「ご、ご主人様!遅れてごめんなさい!!」

「‥‥俺との約束に遅れるなんていい度胸だね?」

「ひっ‥‥」

 思わず涙目になったけど、篠原くんは溜息を一つついただけでそれ以上は言及してこなかった。

「あの、ご主人様。ごめんなさい、こんなに遅くなってしまって‥‥」

「もういいよ、次から気を付けて。今日はもう遅いし、帰りながら話そうか」

「えっ‥‥か、帰りながら?」

「何か問題ある?」

(大アリです!)

 この時間校舎にいる人はあまりいないだろうけど、それでも誰かに見られたらまずい。

 こんな冴えない陰キャが学園の『王子様』と帰るなんて、絶対にあちこちから責められる。

 あの時みたいに。

「あ、あの!」

「ん?」

 振り返った篠原くんを見ると、さらに緊張が走る。

「え、えと、私、その‥‥本に水やりをしなきゃいけないので!さよなら!」

 自分でも何を言ってるのかわからないけど、とにかくその場から離れたかった。

 篠原くんが見えなくなるまで走った。

 あの時のことを思い出して、体が震える。体中冷たくなる感覚がして、足元がおぼつかなくなる。

(情けない‥‥)

 こみあげてくる涙をこらえて、私は一人で寮に帰った。

 その夜、私は猛烈な自己嫌悪に陥っていた。

(ああああ~なんであんなこと言っちゃったんだろ‥‥)

 このままじゃ篠原くんとの約束破ってしまう。篠原くんに軽蔑されて、もっと学園に居づらくなるかもしれない。それだけは絶対にダメだ。

 勢いよく起き上がって、ひとまず謝罪のメッセージを送る。人には誠意を示しておかなくては。

 送ったそばから再び頭を抱えていると、スマホの通知音が鳴った。

 そこには篠原くんからのメッセージ。震える指で画面を開く。

『今日はお疲れ様。水やりはちゃんとできたの?(笑)

次からは私用があるときは互いに連絡しよう』

(篠原くん‥‥)

優しさを感じられるメッセージに、胸が温かくなる。

 篠原くんは本当にやさしい。そんな彼に私の想いを伝えたら‥‥どうなるんだろう。

 私は考えるたびに、胸が苦しくなった。

読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ続く二人の話‥‥。

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