平凡でも主人公
今回はメインキャラクター 3人の物語です。
私、田中 陽菜。高校二年生。容姿、家柄、成績、すべてが平凡。そんな私の唯一の誇りはあの私立青空学園に通っていること。
私立『青空学園』。かつては貴族や華族の子女が通い、卒業生は政財界で活躍する者も多い、国内でも最高峰の偏差値を誇る、由緒正しき私立一貫校である。
つまり、この学園にはお金持ちが溢れているってこと。庶民に毛が生えた程度の私には肩身が狭すぎるよ‥‥。
「陽菜!おっはよー」
「麻衣。おはよう」
後ろから声をかけてきたのは友達の鈴木 麻衣。麻衣とは一年生から同じクラス。美人でスポーツ万能で鈴木神社っていうすごく大きな神社の一人娘で巫女見習いなんだって。
一緒に会話しながら登校していると、麻衣が急に足を止めた。
「げっ、今日強井先生立ってるじゃん。最悪~」
強面で有名な強井 面太先生。担任兼生活指導担当教師である強井先生に、何度も私物を没収されている麻衣は苦手みたい。
「そんなこと言ってないで。ホラ、行こう」
「‥‥うん」
重い足取りで校門に向かう麻衣に苦笑が漏れる。
「おはようございます、先生」
「‥‥おはようございまーす」
「おう‥‥鈴木 麻衣、今日はいらないものを持ってきてないだろうな?」
「も、持ってませんよ!」
強井先生に鞄の中を見せ付けようと突進する麻衣を慌てて羽交い締めにして抑える。
「わかった、わかったからもう結構。行ってよし」
「は~良かった~。ていうか先生、今日って持ち物検査の日だったんですか?」
「いや、今日は転校生が来るからな。その出迎えだ」
「「転校生!?」」
「ほら、もういいからさっさと教室行け。あとで紹介してやるから」
「約束ですよー強井せんせー!」
呆れたような顔をしながらしっしと手を振る強井先生に、麻衣はべーっと舌を出す。
「麻衣。仮にも先生なんだから敬意を払わないと」
「私は陽菜みたいな優等生じゃないからいーの!」
麻衣は上靴に履き替えながらまだ文句を言っている。
「それにしても転校生か~どんな子なんだろ~」
「そうだね~」
曖昧に返事をしながらも、既に私は妄想の世界へ既に旅立っていた。
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『初めまして、転校生の天 かす生です。よろしく』
『陽菜!転校生、かっこいいね!!』
『そうだね』
麻衣と話していると、天 かす生と麻衣の目が合った。
花が、花が見えるよ麻衣!
麻衣の左隣の席になった天 かす生くんを私はこっそり盗み見る。
天 かす生は、麻衣に顔を寄せて
『キミ、可愛いね』
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「ふっふふふ‥‥」
「ひ、陽菜?陽菜!!」
「へっ!?え、な、なに?」
だらしなくさがった顔を叱咤して麻衣へ振り向く。
「も~ちゃんと聞いててよ」
「ごめんごめん」
「まったく」
溜息をついている麻衣に続いて教室に入る。
「おはよ~」
「おはよう」
挨拶をしながら席に着き、麻衣とのおしゃべりに花を咲かせていた。
「おはよー!」
一人の明るい男子の声に、クラスのみんなが視線を向ける。
同じクラスの嵐巻 颯くん。明るくてクラスの中心的存在の彼はみんなの人気者だ。
「おはよう!」
そして後ろの席の彼は毎日こんな平凡女子にも優しく声をかけてくれる。
「お、おはよう。颯くん!」
嬉しそうなはに笑みは太陽のよう。眩しくて見れない‥‥‼
「おはよ~颯」
「おお、おはよう麻衣」
二人は母親の繋がりで昔からの仲らしい。
体育の先生が頭を抱えるほどの運動神経を誇る、息ぴったりな幼馴染コンビで有名だ。
~~~~~
学園の中庭、爽やかな風に髪がなびく。
「麻衣、俺はお前が好きだ」
「颯‥‥」
「待ってくれ!俺は麻衣を愛しているんだ!!」
「天 かす生‥‥」
幼馴染の嵐巻 颯と転校生の天 かす生に突然告白され、麻衣は困惑の色を浮かべている。
「麻衣!頑張って!」
そしてその様子を近くの物陰から見守る私こと田中 陽菜。
キラキラとした青春イベントが起こる今、麻衣の運命は如何に‥‥‼
~~~~~
「ふふふ、ふふ‥‥」
「うおっ!すごい顔してるぞ田中!」
「無駄だよ、颯。この時の陽菜は何言ってもムダムダ」
そんなことを話している2人に気付かず、私は妄想の世界に旅立っていた。
ガラッ
「席につけー。HR始めるぞー」
強井先生の声に、みんなバタバタと席に戻る。
「えー、今日は転校生を紹介します」
「転校生だー!」
「男?女?」
「静かに、静かに!」
にわかに騒がしくなった教室は、先生が声を上げるだけで静かになる。
「では、入ってきて」
扉を開けて入ってきたのは黒髪の男の子だった。
整ってる顔立ちに、少し癖のある黒髪、海のように澄んだ青い瞳。
(これは‥‥ラブコメ展開が⁉)
キョロキョロと周りを見回して運命のヒロインを探す。
(いない‥‥)
シュンとしながら再び前を向いたときには教卓の隣に立っていた。
「じゃあ自己紹介を」
「白井 昴です。よろしく」
簡素な自己紹介をしてすぐ黙り込む白井くんに拍子抜けする。
「じゃあ白井はあの席に座ってくれ。田中‥‥茶色の短髪女子の前の席だ」
「はい」
「ちょっと先生ー!女子に向かって失礼~」
「すまんすまん」
麻衣の声にドッと笑いが起こる。
そんな明るい空気にも、白井くんは我関せずといったように机に座っていた。
「今日のHRはここまで。次の授業の準備しとけよ~」
先生がさっさと教室を出ていくと、女子が一斉に白井くんの周りを取り囲んだ。
「ギャッ」
人の多さで後席の私は弾き飛ばされてしまった。
(まぁイケメンだもんね。これだけ人気でもしょうがないか)
形のいい唇が開く。みんな何を言うのだろうと前のめりになっている。
(ま、かくいう私もそうだけど☆)
「俺に関わるな」
教室内の空気が冷えたのが肌で感じる。
冷たく言い放った白井くんは何事もなかったように授業の準備を始めた。
「冷たいな~白井!ほら皆、そろそろ授業始まるぞ~!」
その空気を断ち切るように明るい声を出した颯くんに、クラスメイトはちらほらと離れていく。
「なにあの態度。かんじわる~」
「ね。いくらイケメンでもね~」
どこからかひそひそと陰口が始まる。
(白井くん‥‥大丈夫かな?あんなこと言われちゃってるし‥‥)
ちらちらと白井くんを見ていたら、先生が扉を開けた。
(へ~三角四角五角形‥‥なるほどなるほど?)
顔を伏せしっかり教科書読んでいますよ風を装い、イケメンを見ていたことをごまかす。
そんな私を白井くんがこっそり見ていることも気づかずに。
読んでいただき、ありがとうございます!
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