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天翔る、美章園!

この作品は、天翔る、美章園!0.5(大地の精霊使い)のあとの出来事です。時系列ではこの本が最後になりますが、書いた順番は最初になります。粗削りですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

水前寺湖のふつふつと湧き出る水を眺めながら、美章園りかるは、長い黒髪を触り、学校の遠足とおぼしき一団を見ていた。 彼女の視界に飛び込んできたのは、真鍮色の髪をツインテールにしている小柄の学生であった。記憶の奥底にぼんやりと覚えている気がした。

その学生以上に気になったのは、黒髪ショートカットに碧眼の男子学生である。その日本人離れした容姿には、確かに誰もが見とれるだろう。美章園は、その男子学生の左手に目を向けた。

『輝いている』

「あれは、御使いの文字ではありませんこと」

普通の人間には痣にしか見えないが、御使いの文字が分かる美章園には読むことが出来た。そして、ふらふらと男子学生のほうに足を向けていた。ある程度近づいた時、文字が読み取れた。

『空の書』

「くーこのような場所で巡り会うとは、なんという導き」

美章園りかるが、喜びを噛みしめていると、目の前に真鍮色の髪をした少女がいた。美章園はゆっくりと顔を見た。

「ぐわ」

っとのけぞると、タンスの後ろにいつか落としたコインを見つけたように。

「トキノスミカ!」

「今頃気がついたのか」と時乃

「何故あなたがここにいるのですの?」

「説明すると長くなるからなーちなみに人間に見えると思うが擬似体のようなものだ」

「では。あなたはもう、御使いではないので?」

「御使いだが、階級が低い」と時乃

「そう」

美章園は、以前のように強さのない時乃澄香を見て残念に思う反面、これは好機なのではと考えた。修学旅行で来た熊本、たまたま一人で散歩していると、向こうから一度は手に入れ失った『空の書』が歩いてくるとは、なんという幸運。しかも御使い時乃澄香は力がない。

(あれは、私のものとりかえしてやりますわ)

「ところで、りかる」と時乃

「なんですの?」

「気がついているかもしれないが、彼には手を出すな」

「なんのことですの?私には、さっぱりわかりませんの」

美章園は。鼻の頭を手で押さえる。

「まったく。昔から嘘を隠すのが下手だな、嘘をつくと鼻の頭を押さえる癖」と時乃

「澄香ー」

元気な声がした。主は、シャギーとレイヤーたっぷりの黒髪のボブ、小柄ではあるが、活力に満ちあふれる走り方で、時乃のところへ着た。

「誰?澄香のお友達?」

「友達というか・・・色々昔戦争した仲というのが正解なのかもしれない」

「ふーん。御使い絡みか」と石原

「よければ、紹介してくれる?」と石原

時乃は少々隠したい様子でもあったが、マスター石原の頼みなので、そうそう断れることではないので、紹介に踏み切る。

「コル・リカル。星団王国の姫。だが父がある罪を犯した故に、聖絶されるべき存在。わたしの甘さから姫とその友達を助け、空間跳躍で別世界へ飛ばした。もう百年以上も前になる気もする」

「ほうほう」と石原

「トキノスミカところで、この小娘は誰ですの?」

「わたしの現在のマスター石原瑠奈」

「人間がマスターとは、トキノスミカの器はしれていますの」

美章園は、ほほほと笑っている。

「笑っているのも今のうち」と時乃

石原瑠奈は、空気を読んで、中に入り。

「私は、石原瑠奈、虹の原学園二年三組、好きな飲み物は、みかん水。好きなお菓子は、ジャンボ餅、特技は発電!コルさんも好きなものとかある?」

美章園は目を細めて

「私は、今はコルではありせんことよ。美章園、美章園りかる。覚えておきなさい」

美章園は、少し体と視線を水前寺湖にむける。この人たちと関わるよりも、あの碧眼の学生に会いたかった。運命とは人知を遙かに超えている。早く何とかしたいと願うばかりであった。

「トキノスミカお聴きしてもよろしくて?」

「かまわないけど」

「あの碧眼の学生とはお知り合い?」

「まあ~クラスメイトだからな」

「そうなの。ふ~ん」

「ちなみに、無理矢理あれを、奪おうとしたら、わたしは見過ごさないぞ」と時乃

「あら。怖い、そう言えば、私たちに修理させたエデンの持ち主はどうなりましたの?」

「フィンはもう・・・」

「そう。あの時の借りは、また返してもらうですの、とにかく今はあの碧眼の学生のー」

辺りを見渡す美章園であったが、碧眼の学生の姿もなく、また、トキノスミカが邪魔すると心が萎えていた。すると、遠くから、美章園を呼ぶ声がする。ホテルに戻る時間が来ていたのである。美章園自身も修学旅行で来た熊本であり。あきらめていた『空の書』と遭遇するとは、考えていなかったので、時間を忘れてしまっていた。

「今日のところは、これぐらいにしてやりますの!トキノスミカ覚えておきなさい」

「わたしは、何も酷いことしていないぞ」

白々しいと思いながらも美章園は、水前寺湖を後にした。


         *


熊本城近くのホテルの一室に、美章園りかるはいた。今日の出会いが夢のようでもあり、時乃澄香との出会いは悪夢のようでもあった。嬉しそうな顔をして、お風呂の用意をしているところを見るとプラス面が多いのであることが窺える。部屋に備え付けの電話が鳴り、美章園は応対する。

「姫様、お風呂どうされますか?」

「大浴場に行きますわ」

「では、わたくしたちもご一緒いたします」

「先に行ってますわよ」

「はい。こちらも用意して向かいます」

美章園は、まだ誰もいない大浴場の脱衣所でナルシストぶりを発揮していた。

「トキノスミカは、嫌いですけど、一つだけ良いところがありますわ。それは、向こうの世界とこちらの世界でこの美的な体が変わらないことですわ」

大浴場の湯船につかりながら。かつてベルニケでの時乃との出会いを思い出していた。魔法と科学の融合に長けていた王朝。何不自由なく暮らすコル・リカル。星雲外の星から探索隊が帰還、一つの封印された魔道書のようなものを手に入れる。調べていくと、これは、空の書と呼ばれる聖典では?という結果が出た。数々の情報を処理し。ブックカバーを解凍する作業に入った。魔方陣を形成し、あらゆる魔法や科学に長けた友に作業してもらった。そんな時、轟音とともにそれは来た。外の様子はすでに火の海、逃げ場はもうなかった。目の前に聖方陣が形成され、真鍮色の髪をした人とおぼしき個体が現れた。

「リカル申し訳ない。努力はしたのだが、お前の父が犯した罪は重い。聖絶が下った」

「トキノスミカ!」

リカルは、思わず大きな声を出した。

「待ってください。姫には、関係ないでやんす」とラーニャ

「姫が許されるならこの命惜しくはありません」とセカイ

泣きながら、リカルの友達は時乃に懇願した。切なくなった時乃澄香は、決断した。

「皆を、空間跳躍させる。但し場所と時間の指定はできない。それでもいいか?」

「トキノスミカ、あなたが裁かれますよ?」

リカルは、涙を流し床に座りこんだ。

「お前とも、戦争したり、エデンの修理をしてもらったり色々あったが、リカルの友達の友情がわたしを動かしたのだよ。もう会うことはないかもしれないが、もし仮に会うことがあれば、わたしも友達に入れてくれないか」

リカルは、泣きながらうなずいていた。

「時間がない。急ぎ跳躍する」

聖方陣が展開しリカルとその友達は吸い込まれ消えていった。そして八十三年ほどの時が流れ、阪和線の美章園から鳳各駅に赤子が放置されていた。その手には宝石を握りしめておりローマ字で名前と思われる文字が掘ってあった。警察は、なんらかの事件との関連性を見つけることもできず。赤子たちは、施設に引き取られ、その才能を開花していった。美章園はそんなことを考えながら、のぼせ気味になっていた。

「目標、ガスタンク二個搭載した輸送艦、魚雷発射!」

ラーニャが美章園に抱きついてきた。

「撃沈」

ラーニャが嬉しそうにしている。

「まったく。いつの間にきていたのラーニャ」

「あっしのステルス機能は尋常じゃないですぜ」

「あ~ラーニャどさくさではなくて、公然と何をしているの怒りますよ」

セカイが真っ赤な顔をしている。

「セカイもラーニャも後で、話がありますの」

「姫様からお話とは、深刻そうですね」

「今日、トキノスミカに会いましたの」

二人は、「えー」と大きな声を出した。


        *


夕食をホテルのレストランでとりながら、美章園は今日の出来事を二人に話した。

「結論から言いますと。空の書は男子学生の内部に展開しているということですの」

「どうやって抽出するのでやんすか?」

「トキノスミカから聞き出すしかないですの」

「それはまた、ハードルが高いですね」

そこに、容姿端麗な男子学生がきた。

「姫は、何をこそこそ話しているんだ」

「おお。レモン殿ではございませんか。お察しくださいませ。重要会議でやんす」とラーニャ

「それはそれは。ご用の時はご連絡くだいませ。では」

「別に仲間はずれにしなくてもよくて」

「いえいえ姫様!障子に耳ありとも申します。ここは、ご慎重に」とラーニャ

美章園は、魚以外の料理はほとんど食べていた。

「ところで姫様。その魚はどうなるんでやんすか?」

「食べたいなら、差し上げてもよろしくてよ」

「では、遠慮なく」

ラーニャは、丸呑みして見事に、骨だけを標本のように出した。

「まったく。元猫系獣人族は、魚が好きなことですの」

「あっしにしてみれば、この性質を改善されなくて、ほとほと幸せでやんす」

「姫様、今後はどうされる予定ですか?」とセカイ

「決まってますわ、空の書を手に入れます」

「昔も言ったけど、それって美味しいのでやんすか?」

美章園は、知ったかぶりな顔をしている。

「もちろんですわ」

「あっしも一生懸命お手伝いるるでやんす」

「私もがんばります」とセカイ

「アゴーモアイ」

「アゴーモアイ」

「アゴーモアイ」

アゴーモアイとは、ベルニケ語で同意して共にがんばりましょうの意である。


         *


九州新幹線全線開通により、熊本大阪間の移動も便利になったもので、美章園の在籍している『美章園自治区、鈴蘭学園』高等部二年生の修学旅行は、熊本であった。最終日は、大阪への移動のみなので、時間まで土産物屋などを回ることになる。

「土産物~困りましたわね。何を買いましょう」

「姫様~この木の彫り物!気に入ったでやんす」

ラーニャは、熊が鮭をくわえている木彫りの置物に、頬ずりしている。その横には、『くまエモン』と言うご当地ゆるキャラが置いてある。

「姫様。これ売っていたのですけど、食べますか?」

「何かと思えば、ミスドではありませんこと」

「駅前で売っていたのでつい」

「二人とも、お土産と言うものが、わかっていないのではありませんこと。わたくしが三人分チョイスしてあげますわ」

美章園は、色々商品を見ながら、これならいけるというものを注文した。

「すみませんこと。この『いきなり辛子蓮根』というのを3箱いただけますか。あと、この子の持っている熊の木彫り」

「さすが姫様、あっしの分も買っていただけるとは、ありがたいことでやんす」

「姫様、お持ちいたします」とセカイ


          *


程なく時間となり、大阪行きの新幹線さくらが到着した。早々に三人も乗車してくつろいでいた。ラーニャは、熊の木彫りを大切に手で持っている。

『コーヒー。アイスクリーム。お弁当はいかがですか~』

車内販売のワゴンが通りかかる。

「姫様、車内販売と言うと思い出すのが、世界的に売れたファンタジー小説でやんす。あっしは、あのお菓子の中でも、校長先生のカードが入ったのがいいでやんす」

「そうね~わたくしなら、車内販売のお菓子よりも、主人公の親友兄弟が経営している、悪戯専門店のお菓子がいいかもですわ」

「私なら、そうですね~鼻くそ味は、勘弁してほしいですね」とセカイ


『まもなく岡山・岡山、乗り換えは~』


「姫様、岡山で、ままかり寿司を買うでやんす」

「よろしくてよ」と美章園

ラーニャが、早々に出て行くと。新幹線は、停車した。窓越しに、やたらと体格の良い男性が数人隣のデッキに入っていくのを確認できた。少し間があり、発車の合図とともに、新幹線は、岡山駅を後にした。

「ラーニャ遅いですこと。乗り遅れたのかしら」と美章園

「いえーそれはないかと。出るときに、詠唱していたので、加速していたと思います」

突然!新幹線が急停車をした。美章園の隣の車両から、悲鳴や銃声が聞こえた。

「何事ですの」

「姫様は、ここでお待ちください。私が様子を見てきます」

セカイが扉を開け、デッキに出ると。エムピー五ケイを構えている男が。

「動くな!少しでも長生きしたけりゃ言うこと聞くんだな」

男越しに扉が開閉していた。よく見ると、ラーニャが手首を返され、人質になっている。セカイは、詠唱して、デコイを出しもとの車両に戻った。

「姫様!ラーニャ達が人質になっています。どういう輩かわかりませんが、一大事です」

美章園は、以外に冷静であった。

「助ける準備をしますわよ」

「アゴーモアイ」とセカイ


         *


『ここで臨時ニュースをお届けします。本日十二時二十四分頃、山陽新幹線さくらにおいて、武装した男数名が、修学旅行の高校生を人質にトレインジャックしている模様です』

『新しい情報が入りました。トレインジャック犯は、原子力発電推進塾とのことです』


「澄香、何か事件のようですよ」と石原

「次から次にやっかい事が絶えないな」と時乃


『速報です。犯人から、電子メールによる犯行声明が出た模様です』

「映像でますか」とアナウンサー

『我々は、原子力発電推進塾の者だ!人質の命が惜しくば、直ちに、日本中の原子力発電を再開しろ』


映像には、犯人三人と猫耳セミロングの髪で身長百五十センチくらいと思われる女子高生一人が映っていた。

「あの子どこかで見たような」と時乃

八歳くらいで髪をポニーテールにしている子供が、携帯ゲームをしながら、チラと見た。

「懐かしいな」

「フラット知っているのか?」と時乃

「あれは、ベルニケにいた姫の友達だろ。たしか、ラーニャとか言ったかな」

「そう言えば、似てるな」と時乃

「な~んだ二人の知り合いか・・・って、助けなくていいの」と石原

「そうだな。あの姫何もできないからな」と時乃

「俺が、内部に侵入するぜ。お前らは、目立ち過ぎるからな」

と言うと、フラットは、携帯ゲーム機をスリープにして。自分の部屋へと言った。

「石原、ヴィ型二気筒にスナイパー装備して回してくれるか」

ヴィ型二気筒とは、時乃の世界で開発されたもので、亜空間での戦闘を可能にする兵器である。

「了解、澄香」


         *


「セカイ、調合材料を鞄から出してもらえるかしら」

「はい姫様」

「グラス蛙の皮膚、デメギヌスの皮、乾燥アイスフィッシュの三種混合」

美章園は、小さな壺とかき混ぜ棒を出し、混ぜ合わせた。壺の底に、小さく魔方陣が形成され、怪しげな煙が軽く出る。

「完成!インビジブルポーション。これを飲んで透明になり、奴らの背後から、首を絞めて武器を奪いますわ」

「姫様がんばってください」

「飲みますわ」

「おお。姫様消えました」

「では、ラーニャを助けに行ってきますわ」

美章園は、ぬるぬると移動して、中腰で銃を肩から下げているテロリストに近寄った。そして息を殺して後ろから首を絞めた。

(なんてこと、よく考えたら、握力十五のわたくしに首を絞めることなんてできないですわ)

兵士は首の辺りに違和感を感じながら、隣のテロリストに。

「なんか俺、甲状腺のあたり痛いのだが、病気かな」

「そんなの気のせいだぜ。見せてみろ」

二人は立ち上がり、美章園は、お尻りから転がった。テロリスト二人は、見つめ合うような姿勢になった。美章園は、作戦を変え、テロリストのズボンを下げた。

「おい!何するんだよ」

「何言っているんだよ。もう少し上をみてごらん」

怪しい雰囲気になってきた。その隙にと美章園は、テロリストからハンドガンを奪い取る。刹那、インビジブルポーションの効果が切れて、実体化する。

「手を上げるですわ。まあ、言うとおりすれば、命は助けてあげますわ」

「この嬢ちゃん何言っているんだ」

「武器もないのに、何を意気込んでやがる」

「武器なら、このハンドガンが目に入らなくて」

「まぬけな嬢ちゃんだな、よく見ろ、それは、ハンダゴテだ!」

「何を言ってるの、そんなはずないですわ」

美章園は、トリガーを引くが何も出ない。刹那、手首を返され、手錠を掛けられる。

「スイッチをトリガー風にカスタマイズしているのさ。そこで、大人しくしな、嬢ちゃん」


         *


美章園は、心の中で泣いていた。自分を慕ってくれる仲間を、助けたいのに、何時も失敗ばかりで嫌気がさしていた。そんな時、服を引っ張る感覚があり、そちらへ目を向けた。小学二年生くらいの背丈に、ポニーテール、髪の色は、真鍮色。

「姫さんや手伝いに来てあげたよ」

「わたくしは、幼女に助けてもらう言われはなくてよ」

「幼女とか、気にしてることをずばずばと。俺は、時乃澄香の副官でフラットだ。聞いたことくらいあるだろ」

「トキノスミカの副官と言うと、確か、背が高くて、こんなちんちくりんではなくてよ」

「あ~頭来た。でも、澄香の命令だから遂行するけどな。これから起こることをよく見て、俺が副官であることを知ることだな」

そう言いながら、フラットは、美章園に架けられていた手錠の電子ロックを解除する。

「今から、六号車に突入する。お前は、ゆっくり付いてこい。そして倒れてるテロリストに片足でも乗せてふんぞり返っていろ」

「生意気な命令を出すわね。でも、面白そうじゃない。トキノスミカの副官行くのよ」

ため息を出しながら、フラットは、手にカイザーナックルを付ける。突入の合図を指で出し、六号車に入る。美章園は、後ろからぬるぬると付いていく。すぐに、鈍い音が聞こえてくる。明らかに、骨が折れる音である。内蔵も逝っているかもしれない。少しの間があり。

「りかる、ここにこい」

小学生に指示されるまま。大柄の男が倒れているところに進み出た。

「予定道理たのむよ。姫様」とフラット

(澄香、空間転移たのむ)

シールドウェーブ通信機を使用し連絡する。このシールドウェーブは、生体USBでインプラントされ、口に出さなくても会話することが出来る。

「空間転移」

時乃の座席左手付近にある聖方陣が回転する。程なく、フラットが後部格納庫に戻ってきた。

「澄香、警察、マスコミ行動に入ったみたい」と石原

「空間転移深さ十五秒」

聖方陣が回転し、ヴィ2の姿は消えた。

時乃澄香の世界では、深さ一分までの亜空間を表層亜空間と呼んでいる。ここまでの深さは、特別な装備をしなくても滞在できる。


『今、警察特殊部隊が突撃しました。動向を許された放送局も追随しています』


そこには、一人の少女が腕を組み、片足を巨男に乗せて、踏ん反り返っていた。警察は、迅速にテロリストを確保し、テレビ局は、その少女にカメラを向けた。


『ここで何があったのでしょうか』


「見ての通りですわ。わたくしが懲らしめてやりましたわ」

そこに、気を失っていたラーニャが目をさまし抱きついてきた。

「姫様、怖かったでやんす」

「わたくしが、付いていますから、もう大丈夫ですわ」


『人質は、全員無事です』


〈そう姫は、人の前に立ち、空の書を手に入れ王になるのです〉


「姫、大変だったな」

「レモン殿、何処にいっておられたでやんすか」

「いや~トイレに閉じ込められて困ったよ」

「そうでやんすか、運が悪いでやんすね。姫様の輝かしい姿を見せてあげたかったでやんす」

「ラーニャは、見ていたのかい」

「あっしは・・・陰ながら応援していたでやんす」

「それは良かった。これからも姫を頼むよ」


時乃達は、表層亜空間で警戒していた。


「澄香もう撤収してもいいかと」と石原

「そうだな、わたしは、少しお産土を渡してくるかな」

「澄香程々にな」とフラット


         *


美章園りかるは、警察の事情聴取やら、マスコミやらで忙しかったが、自宅のある美章園自治区中央ビル十五階にて、大きな天球儀を見ていた。程なくして、呼び鈴が鳴り、玄関へと向かう。そこには、三国ヶ丘セカイがいた。

「姫様、おかえりさない。お疲れとは思ったのですけど、生もののようなので、早々にお渡しに来ました」

「なんですの、この箱」

「時乃澄香様からなのですけど」

「トキノスミカからですの。献上品にしては小さいこと、器がしれますわ」

と言いつつ、箱を開け、シュークリームを食べ始める。

「トキノスミカにしては、美味しくてよ」

美章園は、セカイにもシュークリームを渡し、食べるように即した。

「姫様、美味しいですね~どこの名産かしら」

箱には、『やっふ』と書いてある。美章園は、ふと思った。トキノスミカと空の書を持っている男子学生は知り合い。と言うことは、このお店から、トキノスミカのことを聞き出し、空の書を手に入れる前段階まで行けるのではと考えた。

「姫様、どうかされましたか?」

「そうね。そうそう」

そう言いながら、パソコンの前に行き。

「最近は、スクエアーフォーの会社のパソコンでないと仕事になりませんことね」

「ですね~オーエス風林火山込みでの性能は、格別ですね」

美章園は、シュークリーム販売店の情報を入力し、その町がどのような所かを調べた。

「ここは、宇宙人の町ではないですこと、さては、トキノスミカは、宇宙人!」

「姫様~今更ですが、時乃澄香は、御使いでやんす」

「ラーニャいつの間に、来たのですの」

「あっしのステルス機能は、尋常じゃないですぜ。時にその~シュークリームとやらは、いただいてもいいでやんすか」

「よろしくてよ」

「美味しいでやんすね。このシュークリーム屋に乗り込むでやんすか?」

「もちろんですわ」

「時乃澄香は、アイ・シー・ビーエムに追われる組織みたいでやんすね」

「それは、シー・アイ・エーですよ、ラーニャ」とセカイ

「とにかく、今週の土曜日に、鹿児島に乗り込みますわよ」

「アゴーモアイ」


         *


「一週間に二回も新幹線に乗るとは、思わなかったでやんす」

「しょうがないですわ。ヘリは、あってもパイロットがいないのですから」

「ベルニケの人間は、操縦苦手でやんすからね」

「一般人雇うのもいいのですけど、深入りされるのも嫌ですわ」

「ですね」

「姫様、あれは何でしょう?」

「あれは~牛ですわ」

「食用でやんすか」

「違いますわ、あれは、牛車という乗り物と記憶していますわ」

「乗れるのですか?」とセカイ

「聞いてくるでやんす」

ラーニャは、牛車の持ち主と思われる人と、オーバーアクションに、交渉している。

「姫様~乗れるでやんす」

「よくやりましたですわ。ラーニャ」

「ささ。乗るでやんす」

三人は、ゆっくりと景色を見ながら、移動を始めた。

「牛といえば~ライダーでやんす」

「ライダー?」

「あっしの大好きな、アニメでやんす」

「そう言えば~護身用に、銃をもってきたのですけど」

「そんなの必要ないですわ。わたしの魔法に掛かればイチコロですわ」

「姫様、続きがありまして、銃と思ったら、ハンダゴテでした」

美章園は、飲んでいたジュースを吹いた。そして、何事もなかったように、ハンカチで口を拭いた。


  *


牛車は、進み古風な町並みへと入っていった。

「ずいぶんと、古い家ですこと」

「駅で貰った観光案内によりますと、武家屋敷群とあるでやんす」

「大河ドラマのロケ地にもなったようです」

「あそこは、小学校に見えますわね。立派な門ですこと。ところで、シュークリーム屋には、いつ着くのかしら」

「聞いてくるでやんす」

ラーニャは、牛車の御者とオーバーアクションに聞いている。

「姫様、特別料金で向かってくれるでやんす」

「最初は、行く予定では、なかったのですね。まあ、よろしくてよ」

一時間ほど、牛車に揺られて目的のシュークリーム屋に到着する。

「少し疲れましたわ」

「あっしは、ライダーになった気分で楽しかったでやんす」

『やっふ』と書いてあるお店に入る。そこで店員に、身振り手振り、絵を描いたり、名前を言ったりして聞いて見るが、話が進まない。そこに、お客が来たようである。

「シュークリーム十個入りを二箱お願いします」

よく見ると、真鍮色の髪に、ツインテール小柄で、どことなく見覚えがある。

「ですから、ここに来る客で、トキノスミカといいますの」

「なんだ、りかる、人の名前を軽々と言って」と時乃

「うわ!トキノスミカ」

「人間のその反応には慣れてるけど、あらためてされると、気分のいいものではないな」

「トキノスミカ、わたくしがここに来たのは、理由があってよ」

「おまたせしました。シュークリーム十個入り二箱です」と店員

時乃澄香は、お金を払うと、そそくさと店を出て行った。美章園達も、ロールケーキを買い、時乃を追いかけた。

「待ちなさい、トキノスミカ」

「わたくしと契約しないこと」

「しない」と時乃

「空の書を渡すでやんす」

「時乃様、お願いします。姫様にご協力下さい」

「と言われても、りかるは、ろくなことに使わないだろ。そもそも空の書が何であるかも良くわかっていないようだが」

「知ってますわ!トキノスミカ!あなたと同じ能力が使えるようになるのですわ」

「まあ。否定はしないけど、りかるの物になるか挑戦してみてはどうかな?」

「挑戦?どのようなことですの」

「とりあえず、今日は、だめだ忙しい。りかるのアドレスを、ここに書いてくれるか、後日そちらに行くことにしよう」

時乃澄香は、バイクで行ってしまったので、追うこともできず美章園は、怒っていた。

「まったく、どうしてくれましょう」

「まあ姫様、収穫はありましたし、何か名物でも食べて帰りましょう」

「そうでやんすね」


  *


その日、時乃澄香は、半袖パニエ付き黒いゴシックワンピースを着て、大阪府美章園自治区中央ビル十五階、美章園りかるの部屋に来ていた。

「これは、りかるが、空の書を手に入れるクエスト」と時乃

「どうせ無理難題を押しつけるつもりですわ」

「無理かどうかは、りかるが決めるといい」

「では、言ってみなさい」

「現持ち主の紫尾清人と相思相愛になることだ、前段階としては、友達になること、理由は、契約の言葉をただ唱えても、相手が受け入れていなければ、契約は、成立しない。しかも抽出したいとなると、もっと難易度が上がる」

「時乃澄香は、姫様の見方になってくれるでやんすね」

「以前、言ったではないか、友達になってくれと」

「姫様、よかったでやんす」

「わたくしの美貌を持ってすれば、紫尾清人を落とすのも時間の問題ですことよ」

「でも、姫様は、ベルニケ以外の男友達はいないでやんす」

「それは、わたくしが言い寄る殿方を振ってきたからですわ」

呼び鈴が鳴り、ラーニャが応対に出る。しばらくすると、牛乳瓶底のガラス眼鏡に、作業服を着た十六歳くらいの少年が入ってきた。

「良いところに来ましたわ、ケイ」

「懐かしいな、マッド・インベンター・ケイ」

「おお!時乃澄香やん、お久しぶり」

「まだ、妙な発明をしているのか」

「妙なとは、異議を唱えたいな、今日も発明したばかりの品を持ってきたで」

「ちなみに、ケイは、鳳重工業の社長でもあるですわ」と美章園

「では、発明品は、こちら」

いかにも、無骨なローラースケートである。

「エンジン付きのローラースケートか?」

「エンジンと言ってもごく普通の物ではないで、なんとボイラーや、点火してから動くまで、半日はかかるで~」

「いや、良さがわからないのだが」

「ロマンやもう一個あるで、これや」

袋から、洋式便器を取り出した。

「これは、便器だろ、わたしが一番用のないものだ」

「まあまあ、人間には必要やで、しかもこの便器中が鏡になってるんや、自分の排便を確認できる上に、肛門の状態や、周りの湿疹も見れる、どや!すごいやろ、他にも見せたい物いっぱいあるねん」

「みなさん、お座りになって、コーヒーを飲みましょう、わたくしが入れたのですから、感謝しなさい」

呼び鈴が鳴り、ラーニャが玄関に向かう。セカイが大荷物を抱えて入ってきた。

「姫様、ただいま戻りました」

「ご苦労様、セカイ」

「姫様から頼まれた、食材とヘアアイロン、あれ『ハンダゴテ』でした」

美章園は、コーヒーを吹き出した。


         *


「今日は、わたくしが夕食を作りますわ、トキノスミカの口に合うは~わかりかねますけど、レシピも紹介しますわ」


『にんにく4かけ、生姜大1、白ネギ一本、白菜四分の一、椎茸4枚、牛蒡二本、しゃぶしゃぶ用豚肉四百グラム、八角2個、豆板醤、中華スープの素、ちょい辛ぶっかけラー油、レッドペッパー、ごま油』


「この材料を用意いたしまして、まずにんにくと生姜をすり下ろしますですわ。ネギは、みじん切りに、この三つを、コーティング鍋にごま油を入れ熱した所に入れますわ。あらかじめ牛蒡をスライスしておき、水につけておきますわ。この水を鍋に、注ぎますわ。千五百CC位ですわ」

「ものすごく本格的だな」と時乃

「姫様は、料理には、こだわりがあるでやんす」

「続いて、ちょい辛ぶっかけおかずラー油を入れますわ。しかもレッドペッパーも小さじ4杯、しばらく沸騰するのを待ちますわ」

「辛いのではないのか?」

「実は、ものすごく辛いです」とセカイ

「沸騰しましたら、中華スープで味を調えますわ。量は、お好みですわ。白菜、椎茸を加え、少し煮込み、豚肉を丁寧に入れてできあがり」

セカイは、美章園の料理を食卓へ運び、あらかじめ用意しておいた副菜も、丁寧に並べた。

「みなさん。お食事をどうぞですわ」

「ぎゃー辛いでやんす」

「なんやろ。辛いけど元気が出るな」

「なんという、濃くのあるスープなのでしょう、さすが姫様」

「わたしは、本来炭水化物が好きなのだが、こういうのもありだな」と時乃

「トキノスミカ、わたくし料理しながら考えましたの」

「何を」

「わたくし、宇宙人の町に引っ越ししますわ。学校も紫尾清人と同じ学校に転校しますわ」

「姫様、それは、無茶でやんすよ」

「一人では、行かないですわ。ラーニャ、セカイ一緒に来るのよ」

「姫様、素晴らしいご決断です」とセカイ

「あっしは、何処までも姫様に付いていくでやんす」

「なんか、やっかいな話なってきたな~」

「で、トキノスミカ、学校名は、なに?」

「虹の原学園だが」

「そう、後で調べて、転校の準備をいたしますわ」

「時乃様、紫尾清人様の情報を少し欲しいのですけど~たとえば、趣味とか」とセカイ

「そうだな~この間、同じグループの時に、ハンダゴテでバリコンチューナーラジオを作ったらしい」

「ハンダゴテ!」とセカイ

美章園は、飲んでいたスープを吹いた。


         *


美章園達は、再び宇宙人の町へ来た。

「改めて、駅の周りを見ますと~宇宙人のモニュメントが多いですね」

「姫様、あっしらは、宇宙人でやんすか?それとも異世界人でやんすか」

「そうね~世界で考えると、宇宙人ですわ、異世界は、御使い種がほとんど」

「あっしらも、あんな蛸かイカのようなものでやんすね」

「あれは、アメリカが想像した宇宙人ですわ」

「そうでやんすか」

美章園は、タクシーに乗り、移動する。

「マンション・ロコイドまでお願いしますわ」

「ロコイドでやんすか、あっしが使ってる薬と同じ名前でやんす」

「パンフレットに、アレルギーに優しいマンションとありましたわ」

「あっしのために選んでくれたのでやんすね」

「当然ですわ」

程なく、タクシーは、マンションに到着し、美章園達は、待たせておいた不動産社員とやりとりをして、十二階の角部屋に入る。

「荷物が来るまで暇ですわね」

「しりとりでもしますか」とセカイ

「あっしからいきやすぜ。宇宙人ではなくて、宇宙」

「次は、セカイ」

「はい。宇宙戦艦ではなくて・・・牛」

「死海なんてどうかしら」

「姫様いい感じです」

「芋虫でやんす」

「シーア派」とセカイ

「ハですわね。ハンダ・・・」

セカイの顔がぱぁっと明るくなる。美章園は、悪いフラグでは、と考えとっさに。

「ハンダシンヨウキンコですわ」

「なんでやんすか?食べ物でやんすか」

「愛知県半田市にある。金融機関ですわ。ちなみに、わたくし、ごんきつねのファンなので、知多半島は好きでしてよ。但し、とうがんは、苦手ですわ」

セカイは、なんとなく残念な顔をしている。そこに、呼び鈴が鳴り、美章園は、応対に出た。荷物が届いたのである。


 *


虹の原学園と大きく書いてある学校、綺麗なアーチ型の門。入ってすぐの花壇と噴水。下足場には、広いガラス張りのドア。ロビーは、三階までの吹き抜け。天窓から優しく光が差し込む。そこを三人の人影が通っていく。

「広い学校でやんすね」

「こちらで、よいのでしょうか」

「あそこの男子生徒に聞いてくるでやんす」

ラーニャは、素早く、たむろしている男子学生に声をかけた。

「あの~すみませんでやんす」

男子学生は、立ち上がり百八十センチある身長から見下ろした。残りの男子生徒も立ち上がり、厳つい目つきで、ラーニャを睨んだ。

「理事長室には、どう行くでやんすか」

「あん!理事長だと。糞が」

「中野さん、あまり絡む必要は、ないかと」

「お前は黙っていろ!」

ラーニャは、胸ぐらをつかまれ、宙に浮いた。

「こら、やめなさい!許しませんよ」

美章園が、顔を赤らめ、中野に近寄る。

「だ~こら」

中野は、今度は、美章園の胸ぐらを掴み。

「ここは、俺の縄張りだ。わかるか」

と言った瞬間に、中野は、後ろに吹っ飛んだ。

「いってな~誰だお前!」

「石原隊、加紫久利瑠唯」

「同じく石原隊、矢筈剛」

「何が、石原隊だ!ぼけ」

そう言うと、もう突進してきた。

「ここは、俺が行きます」と矢筈

右ストレートは、交わしたが、左のボディーブローを喰らい、前のめりに崩れた。

「どうだ、俺のハラパン、次は、何奴だ」


「姫様、これをお使い下さい」

セカイは、美章園に道具を渡し。

「私が、敵の急所に、有鉛ハンダを投げつけます。姫様は、全自動ハンダ吸い取り機で吸引すれば、敵は怯みます」

「こんなので効きますの?」

「勿論です、ケイ様からの預かり物ですから。では、行きます」

セカイは、直径5センチ程の有鉛ハンダを、中野の股間に投げつけた。

「いて!」

「姫様、今です」

「我が、ベルニケの科学力を、受けてみるが良い」

有鉛ハンダの付着したズボンは、股間部から、見事に破れ、全自動ハンダ吸引機に吸い付いた。

「おい!何しやがる!俺の特注ぼんたんを」

美章園に、中野は、突進した。加紫久利が電気カミソリを手に持ち止めに入る。


『ストリーマ』


瞬間、中野は、何かに痺れて倒れた。

「何してるの、みんな」

「石原隊長、中野がまた、来校者に喧嘩売っていたので・・・電気カミソリ使いましたよ」

石原瑠奈は、顔を押さえながら、来校者を見た。

「あれ、水前寺湖で会った。りかるさん?」

「どこかで見たことあると思えば、トキノスミカのあるじでは、ないですこと」

「学校に用事だったの?」

「勿論ですわ、転校手続きに来たのに、この学校はどうなっていますの」

「この学校色々事情が複雑で、ごめんなさいね」

加紫久利は、矢筈の額に、ハンカチを濡らし介抱している。

「私が、案内しますね。瑠唯あとお願い」

「了解です!隊長」


         *


石原瑠奈、美章園りかる、三国ヶ丘セカイ、上野芝ラーニャは、虹の原学園理事長室の前に来た。

「澄香いる」と石原

「いますよ~」と部屋の中から、錦野が答える。

「入るね」

理事長室の扉を開け中に入ると、錦野が書類を並べては、クリップで止めたり、ファイルに入れたりしている。

「澄香は、奥?」

「そうそう、なんか急ぎの用事があるそうで、今日にも、アメリカに行くそうです」

「そうなんだ、ものすごく急だ。そうそう、こちらの三人の方が転校手続きに来られたそうだけど・・・」

「そう言うことなら、読んで来ますよ。澄香が今してる作業は、同人誌とかだから」

錦野は、奥の部屋に入ると、時乃澄香を連れて出てきた。

「今日は、忙しい気がする」

「同人誌ばかり手をかけているからですよ」

美章園りかるは、時乃澄香を見て。

「トキノスミカ!ここで何をしていますの」

「わたしは、もともと理事長ではないのだが、今は、理事長なのだよ」

錦野は、応接テーブルに三人を案内して、お茶を出した。

「虹の原学園は、三人の理事と一人の総理事で構成されていたのだけど、経営難から、理事三人は権利を手放し、総理事は、行方不明、なので澄香が全てを買い取った形になってるの」と石原

「時乃澄香は、金持ちでやんすか?」

「この場合、澄香が金持ちというか、会社に財力がある感じかな」

「会社をもってるでやんすか?」

「そうですよ~」と石原

「何という名前の会社でやんすか?」

「スクエアーフォーと言う会社ですね」

美章園は、お茶を吹いたが、何もなかったように、ハンカチで口を拭いた。

「ところで、同人誌とは、なんですの?」

「よくぞ聞いてくれた。何かにつけて、才能のない、わたしではあったが、漫画を書いてみたら、以外にこれがよくて、プロには、ほど遠いが同人誌で印刷とかしてもらっている。ちなみに、今書いているのが、『宇宙人姉妹』内容は、こちらを読んでくれ」

時乃は、三人に一冊ずつ渡す。


『あらすじ

 宇宙で暮らす三姉妹は、同じ目標

 を持った。それは、地球人観測員

 姉は、優秀な成績で先を行ってい

 た。双子の妹は、成績も悪く地球

 人観測員になれるかは微妙であっ

 た。枠はあと三つ、六人で争うこ

 とになる。双子姉妹は、姉の力を

 頼ることなく、合格し、特殊能力

 も身につけた。双子の姉妹リード

 は、鉛を操る能力、もう一人の双

 子 ベルは、すずを操る能

力、姉は、熱を操る能力、三姉妹

でハンダ付けができる。この能力

を駆使して、地球で普通の生活を

送る努力をする』


美章園は、また、飲んでいたお茶を吹いた。

「時乃様、素晴らしいです」とセカイ

「あっしには、よくわかりあせんが、書けるのがすごいでやんす」

「まあ。トキノスミカにしては、面白そうですわ」

時乃は、書類を三人に配り、必要なことを書いて貰い。

「りかる悪いけど、一ヶ月ほどいないから、あとは、石原と錦野に聞いてくれるかな」

「紫尾清人のことは、どうなりますの」

「それは、りかる自信が考えることと思うけど」

と言いながら、時乃は、奥の部屋に移動した。

「では、来週から登校と言うことで、必要な物は、今日中に届けますからご心配なく」と錦野

「校門まで、送りますね」と石原


         *


「と言うことで、今日から三人は、クラスメイトになります。では、軽く自己紹介お願いしますね、美章園さんからどうぞ」

黒髪をロングにふんわりさせて、アクセントにサイドに丸い月形のヘヤピン、凛とした目に眉毛、身長約百六十センチ魅力的な体型、でもどこか憎めない彼女が話し出す。

「わたくしは、美章園りかる。皆は、姫様と呼びますわ。趣味は、薬品調合と料理かしら以上」

「姫だって」

教室の中が騒がしくなった。そして次に、どことなく、おどおどしながら、ショートカットで、真面目そうなセカイ、身長百五十五センチ。

「三国ヶ丘セカイです。皆さん、セカイと呼んで下さります。特技は、そうですね細やかな配慮ですかね。以上です」

ラーニャは、髪型が猫耳のような形、セミロングでややブラウン、身長は、百四十四センチ、小柄で、やせているので、高校生に見えない。

「上野芝ラーニャでやんす。みんな、ラーニャと呼んで下さるでやんす。特技は、百メートルあたりコンマ一秒早くなることでやんす」

「では、三人は、後ろの空いてる席に着いて下さい。」と相田先生

チャイムが鳴り、授業も終わる。三組は、転校生に群がる体制に入ったが、いきなり美章園は、立ち上がり、紫尾清人の所に行き。

「紫尾清人、友達になってあげてもよくてよ」

美章園は、誇らしげに、紫尾に指を指している。

「転校生の美章園さん、あなたは間違っている」

紫尾清人が立ち上がりながら言った。

「転校生という、萌えの立場が分かっていない。群がる生徒から、質問され答えていく中で、聞き耳を立ててることが男子生徒の楽しみであることを。どうやら、君には、萌えについて教える必要があるようだな。もっとも僕と友達になりたかったら、保健委員になりたまえ、そうすれば、デートの一回でもしてあげよう、その時にでも萌えについて語ろうではないか」

「清、トイレいこうぜ」

紫尾は、連れられていってしまった。二人の会話が終わると、高遠美鈴が以前より伸びた髪を揺らしながら。

「石原、これはどういうことだ!宇宙人を連れてくるとは!」

「え!宇宙人誰が?」と石原

「ここの三人」

高遠は、美章園とセカイとラーニャを指さした。

「え!そうなの?」

「そうだ」

「あっしら、宇宙人ではないでやんすよ。日本の国籍もあるでやんす。どっからどうみても地球人でやんす」

「は~今更、時乃澄香のようなのが、増えても大して変わりはないか」

「時乃澄香の関係者でやんすか?」

「関わりたくないが、今は、お目付役だ」

「もしかして、あなたは御使いなのですか?」とセカイ

「私は、ただの保健委員だ。じゃ」

高遠は、どこかへ移動した。美章園は、がっかりして席についたが、クラスメイトが、話を聞きに来たので、喜んで対応していた。


         *


「目標、虹の原学園二年三組に入った模様、第一突撃隊は、速やかに、行動されたし」

「b班、包囲網完了」

「狙撃隊準備完了」

「我々原子力発電推進塾の恐ろしさを見せてやる」


『これより、虹の原学園を占拠し、美章園りかるを抹殺する。作戦開始!』


轟音とともに、アメリカ製ヘリコプターブラックホークは、虹の原学園校庭に着陸した。同時に、武装した兵士が校舎に突入した。


制圧されるのに、大して時間は、かからなかった。


「おらぁーここは、俺の縄張りだぞ!」

「中野さん無理ですぜ」

中野は、武装兵に突撃していった。兵士は、銃床で軽く殴り、中野を失神させた。

「抵抗はやめろ、お前らに勝ち目はない。見ろこの銃、エムフォーエーワン、そしてこの手榴弾、しかもこのファッションどうだ、屈服したか」

二年三組では、突然の来客に対応できず、銃口を向けられ、石原をはじめ、皆床に座らされていた。高遠は、御使いとか、宇宙人なら、ある程度把握できたかもしれないが、まさか、人間の武装集団が来るとは予想もしていなかった。そのため、対抗する間もなく、一時囚われの身となった。

「美章園りかる。前に出てこい」

セカイは、美章園を止めたが、姫としての威厳なのか、前に出て、いきなり、武装兵の顔を平手打ちした。

「来てやりましたことよ」

「このやろ!」

武装兵は、そのごぶつい手で、美章園の顔を打った。美章園は、あまりの痛さで、その場に崩れた。

「お前を、殺す手はずになっている。それまでは、生かしてやるよ」

「姫様!」

セカイは、近寄ろうとしたが、高遠がそれを制した。ラーニャも動こうとしたが、石原が止めた。この騒ぎに乗じて、高遠美鈴は、実体化を解除した。


      *


『私たち、エムビーテレビは、虹の原学園を占拠しているテロリストと接触するため、正門前で待機しております。警察、自衛隊も人質の命を第一にするため、半径一キロ付近で、待機しております。犯人は、何者で、何を要求するのでしょうか?誰か出てきたもようです』

武装した兵士が、美章園を連れて、マスコミの前に現れた。


『我々は、原子力発電推進塾である』

『我々の目的は、日本中の原子力発電の稼働である。そのためには、いかなる手段も惜しまない』

『最初の要求だ!川内原発稼働と、増設をしろ、さもないと、この新幹線さくらで、英雄ぶった小娘を殺す』

『もう一つ言っておこう。我々には、バックがいる。原子力潜水艦から、ミサイルを何時でも発射できる!これは、リアルだ!一時間以内に返答するように以上!』


その後、美章園は、二年三組に戻され、武装兵一人が監視に付いていた。

「まったく、こんな扱いをするとは許せませんわ」

「姫様、護身用にこれを持っていて下さい」

セカイは、ポケットに入るほどの箱を渡した。

「私が、合図したときに、その武器で、攻撃して下さい。きっと上手くいきます」

「期待していますわ」


石原瑠奈は、どうしたものかと思案していた。

(高遠さんいる?)

(いますけど、知っての通り、私は人間のいざこざに無闇に干渉することを許されていません)

(澄香を召喚してはいけないの?)

(時乃は、実は、アメリカではなくて、天界に行っています。そろそろあれも、こちらでの役目を果たさないといけませんから。なので、この一ヶ月は、召喚しないでいただきたいです)

(なら、あの双子に頼もうかな)

(そうですね、こういう時のための配置ですから、では、私は、あなたの危機に介入しますので、失礼します)

(了解です)

石原は、隠れながら、ゆっくり廊下近くに座っている双子の、紅桜と桃桜に声をかけた。

「二人ともいい?協力して欲しいのだけど?」

二人は、活版印刷機を操作して。

【わかりました】

と印刷した。この二人は、人間ではないので、その話す言葉、手書きの物も人間界に影響されるので、活版印刷機を常時持ち歩き、印刷し会話する。

「テロリストの配置と人数、あと攻撃時に紅桜さんの歌声で、撹乱して欲しいの」

金髪、碧眼の如何にも日本人らしくない二人は、活版印刷で答えた。

【了解です】

【配置及び人数に関して】

【学園の四方に、二人組の狙撃手がいます】

【校庭にある武装ヘリに二名】

【校舎各ブロックに九名】

【この教室に一名】

【ところで、石原、あの宇宙人達、何かしようとしていますが】

「え!」


         *


セカイは、ポケットから、直径5センチメートルくらいの有鉛ハンダを取り出し、武装兵の股間に投げつけた。

「ぐえ!」

武装兵は、股間を押さえジャンプを始めた。

「姫様!今です」

美章園は、ポケット中から箱を取り出し中から、全自動ハンダ吸引機改のトリガーを引く、電池カートリッジが射出され、勢いよくハンダを吸引始める。

「ベルニケの科学力を思い知るが良い」

武装兵のズボンは、丸く破け、パンツも破け、毛も抜けた。露わになった、急所を隠したいけど、アサルトライフルは、両手で持つという訓練が思い出されて、両手で持ち直すが、急所が露わになり、片手でなんとか隠そうと試みるが、隠しきれない、そこに、ラーニャが飛びかかり、顔を掻きむしった。武装兵は、右手でラーニャをはがそうとするが、上手くいかない。

「姫様を叩いた仕返しでやんす」

武装兵は、痛みに耐えきれず、両手でラーニャを掴んだ。そこに美章園が走り近づき。

「わたくしの苦しみの分ですわ」

急所を力一杯蹴り『バッキ』と鈍い音がして、武装兵は、床に崩れた。


【面白い、宇宙人】

【よいよい】

紅桜と桃桜は、関心しながら、活版印刷で話している。


クラスの男子は、武装兵から武器やら装備やらを奪い、暗視ゴーグルを付けたり、ガスマスクを付けたりしならがら。

「私は、ハスク大佐である」とか

「鳥山画伯のまね」

とか言いながら楽しんでいる。

「僕は、ミリタリーな装備は好きではないな。それにしても美章園もガチなんだな。萌え文化なら、あそこは、恥じらいを見せるところではないのか。まあでも、好感はもてた」

と紫尾清人は、美章園に声をかけた。

「清、こいつ縛るの手伝ってくれ」

紫尾は、武装兵を縛るのを手伝いにいった。


【敵の武装兵をなるべく、一つ所に集めるのが得策】

【ヘリにいるのが、この部隊の指揮官】

「では、指揮官を確保して、そこに武装兵を集めるといいのね」

【狙撃手に注意】

「了解です」と石原


         *


石原は、時乃が留守なら自分がしっかりしないといけないと、拳に力を入れた。


「みなさま、この勢いで、敵を殲滅しますわ!我が民よ、付いてくるのよ」

美章園は、力を込めて演説していた。

「え~」

石原は、困った顔をして、紅桜と桃桜を見る。

【よいよい】

【我らは、美章園を援護する形で、石原も目立つ必要はない】

【心に平安を】

「ふー了解です」


教室の後ろ扉から、加紫久利と矢筈が入ってきた。

「石原隊長、ご無事ですか?」

「かすり傷一つないから、心配しないでね」

「このクラス盛り上がっていますな」

「二人とも、美章園さんを援護する形で、お願いしますね」

「はい!」

「了解しました」


「皆の者、集え!ただいまより、脅威を排除する」

美章園は、知らずに、人の志気を高めている。クラスは、一丸となり、各々武器になりそうな物を手に取り、教室を後にした。


「者ども!あそこの武装兵を倒すのよ」

生徒は、一丸となり、武装兵に向かっていった。気迫に押されたものの、武装兵もライフルを乱射した。

『バリィ』

石原瑠奈は、額に御使いの文字を浮かべ、両手を斜め前に出し、防御聖法を使った。全弾生徒達の前ではじかれた。リロードする間に、生徒達は、武装兵を殴り、気絶させた。紅桜、桃桜は、後ろから、付いてきていた。活版印刷機は、コンパクトに折りたたみ、専用のバックパックで担いでいる。一階に着いたころには、九割近い生徒が参加していた。先頭が校庭に出ようとした時、銃弾が生徒の肩をかすめた。


         *      


原子力発電推進塾、美章園りかる抹殺及び、川内原発再稼働及び増設を要求する部隊の指揮官は、メガホンをとり。

「愚かな学生達よ!無駄な抵抗は止めろ。そこから一歩でも出たら、狙撃する。ちなみに、我が輩が連絡すれば、直ちに、原子力潜水艦から、ミサイルが発射される。だから、速やかに、武器を捨てて、そこに座れ」

セカイは、有鉛ハンダを取り出し、指揮官の股間に投げつけた。

「空中ならいいんでしょ。姫様!今です」

美章園は、全自動ハンダ吸引機改のトリガーを引いた。電池カートリッジが飛び出し、勢いよく吸引を始める。指揮官のズボンもパンツも丸く破け吸引された。

「愚か者め!そんな攻撃なんになろう。真の兵士は、急所はない!見よこの股間を!何もな~い」

「手術して取ったでやんすか」

「戦場で急所は命取りである。我が輩のズボンとパンツを破いた罰は、受けてもらおう。そこの碧眼前に出ろ!そして、狙撃され死ね」


【介入許可がおりた】

【我らが、狙撃手を倒す】

【空き教室借りる】

紅桜と桃桜は、素早く空き教室に入り、活版印刷機を下ろすと。

【ケルブ・紅桜】

【ケルブ・桃桜】

【戦闘形態】

大きな羽を翻し、霊体化して、空へ上がった。

【エデンを守りし、炎の剣よ】

【愚か者へ、懲らしめを】

ケルビムの投げた剣は、大きく円を描き、四方の狙撃手を切り裂いた。


司令官は、紫尾清人が、前に出ないことに苛立ち、後方の狙撃位置にいる部下に連絡をする。

「アクト・ツーそこから撃て!」

無線機は、反応なく、雑音のみであった。

「応答しろ!どうなっているんだ」

指揮官は、アサルトライフルを手に取ると、紫尾清人に撃ちだした。

『バリィ』

全弾、石原の防御聖法により、弾かれた。

弾切れと同時に、コンテンダーを取り出し、紫尾清人に撃ちだした。あまりの早さに、石原は、対処が遅れた。鈍い音がして、血が飛び散る光景がそこにあった。

紫尾清人は、無事であったが、撃たれたのは、三国ヶ丘セカイであった。とっさに庇ったのである。

「セカイ」

美章園は、セカイの体を支えた。

「姫様」

「すぐに病院へ連れて行きますわ」

「大丈夫です」

「でも、こんなに血が出てますわ」

「それは、お昼に食べようと思っていた。コッケ屋の唐揚です」

「でも赤いですわ」

「赤い物が入っているのです」

「あ~でも無事でよかったですわ」

美章園は、セカイを抱きしめた。


「あの。ありがとう」

紫尾清人が、照れくさそうに、お礼を言った。

「あわわ」

セカイは、恥ずかしそうに、困ってしまった。

「みなさま!あのオーフロントの指揮官を懲らしめますわ」


         *


学生達は、美章園を先頭にして、指揮官に向かっていった。指揮官は、ヘリに乗り込み、ガトリング砲を撃とうとした。そこへセカイが、有鉛ハンダを投げつけた。見事に、銃口を塞ぎ、暴発させた。慌てた指揮官は、パイロットに飛ぶように命じた。同時に、美章園、ラーニャ、セカイ、石原、紫尾が乗り込んだ。機体が浮き上がり始めたときに、操縦席のドアがはがされ、パイロットは、学生の中に飲み込まれた。

「俺は、よろずやの主人に頼まれただけだ。ただの派遣なんだよ。止めてくれ」

「お前は、すぎる君のパンツの刑だ」

「そんなの履けない!やめろ」


パイロットを失ったヘリは、ある程度まで、上昇し止まった。

「愚かな奴らだ。だが、お前らと心中するつもりはない」

機体は、揺れて、皆しがみつくのに必死であった。指揮官は、底をはがし、配線の一つを、三十センチ程切り取り。

「このヘリは、もう上にも下にもいかない。燃料が切れて落ちるだけだ。お前らの顔をもう見ることはないだろうな」

そう言うと、指揮官は、服に付いている紐を外し、飛び降りた。服は、ムササビ型に広がり、滑空していった。

「くっそでやんす」

「落ち着きましょう」

「私が、機体安定させますから、何か考えましょう」

「操縦できるでやんすか」

「免許あるのですよ。初心者マークですけどね」と石原

程なく、機体は、安定した。

「さて、どうしたものでしょうね」

美章園は、髪の毛を整えながら、皆を促した。

「姫様、ここに普通のハンダコテがあります。その上、私は、有鉛ハンダを持っています。なので、切り取られた配線を繋げばいけるかもです」

「三国ヶ丘さん、頭いいな」と紫尾

「いえ~そんなことないですよ」

「しかし、電源は、どうする」と紫尾

「そうですね。バッテリー何処なのでしょう」

「ごめん!みんな、燃料漏れてるみたい。早くしないと墜落しますよ」と石原

「電気がいるのですけど、コックピットにありますか?」

「電気がいるの?」

「はい」

「なら。ラーニャさんこっち来て。座って操縦桿を今の位置で固定してくれますか」

「わかったでやんす。こうでやんすか」

「そうそう」

「あっしも免許とれるでやんすかね」

「澄香に頼めばいいかもですね」

「電気は、どうしますの」

「ごめんね。私が出します」

「人間にそんなことできますの」

「コンセント貸して下さい」

美章園は、石原にハンダゴテのコンセントを渡した。

「雷発電オア交流変換」

石原瑠奈の額に、御使いの文字が浮かび、プラズマが出た。

「今です」

「姫様、ハンダを熔解して下さい」

「わかりましたわ」

切り取られた、配線をハンダで繋ぐことに成功した。

「凄いな!三国ヶ丘さんあんた凄いよ」

「あわわ」

「ラーニャさん操縦変わってね」

石原は、操縦席に入ると、手際よく機体を扱い、ゆっくり降下させる。程なく校庭に接地して、エンジンを切る。学生達が集まり。皆、美章園を褒め称えていた。


安全と判断した警官隊も突入し、武装兵を逮捕していった。マスコミは、前回の新幹線さくらで、英雄となった美章園がターゲットになったことにより自重した。


         *


事件の次の日は、休校したものの二日目には、普通授業体制となった虹の原学園。銃弾で傷ついた廊下の壁など、早々に工事業者が入り修復し始めていた。二年三組の教室には、学園で一躍有名になった美章園がいた。彼女は、襲撃事件でのゴタゴタで、当初の目的、『空の書』を手に入れることを忘れかけていた。

「姫様、次の授業は、電気科において交流学習のようです」

「そうですの、ケイがいたら、喜びそうですわね」

「ですね~」

「あの、ご挨拶遅れました。委員長の五万石かぐやです。転校初日から、ごたごたして申し訳ありませんでした」

学級委員長は、深々と頭を下げた。

「あれは、仕方ないですわ。気にしなくてよくてですわ。なんとなくお名前が、八丁味噌市にある家具屋みたいですわね」

「丁寧な挨拶ありがとうございます」

「こちらこそ、よろしくでやんす」

「簡単に、学園の実情をお伝えします。諸事情により、普通科、工業科、看護科が同じ学園内にあります。その関係で、気の荒い生徒や、慈愛に満ちた生徒など個性に満ちています。なので、用事もないのに、他科の校舎に行かないほうがいいかと思います。喧嘩を売ってくる生徒もいますから。あと、現在生徒会が機能しておりません。なので、不自由をかけるかもしれませんが、ご了承ください」

「どうりで、いきなり喧嘩を売られたわけですわね」

「では、教室移動は、ご一緒に行きましょう」

「助かるでやんす」

「助かります」とセカイ


『この時間は、二年三組普通科との交流学習である。ハンダゴテを使って、トランスミッターを作ることにする。各班に部品その他、必要なものを置いてある。あと普通科の諸君で分からないことは、電気科の生徒に聞くように』


「姫様、ハンダゴテどうぞ」

「ハンダゴテ見ると何故か、走馬燈を覚えるのは、気のせいかしら」

体格が良く眼鏡をかけ、髪型を耳出し、前髪眉上にした学生が近づいてきた。

「今日、この班に入れていただく野田雅史です。分からないことあれば聞いて下さいせん」

「転校して間もないので、分からないこと多いですけど、よろしく御願いします」

「転校ですか、九州弁を一つ。あなたのハンガーを訳すると『ハンガ、ハンガー』面白いせん」

「笑って良いところなのでしょうか、困りましたね」とセカイ

「あっしも、芸を一つ、新世界のおじさん」

『あう゛ぁう゛ぁう゛ぁ』

「凄いな」

「そこ静かに」と先生


「姫様、ハンダを溶解して下さい」

「そうね、このやり取り、トラウマになりそうですわ」

「姫様、完成したでやんす」

「ラーニャ上手ですこと」

「姫様のトランスミッター複雑でやんすね」

「そうね、何かしら、こうしないといけないような気がして魔法体質のせいかしら」

「姫様のトランスミッターに電池を繋いで機動してみましょう」とセカイ

「いきますわよ」

美章園は勢いよくスイッチを入れた瞬間緑色の閃光が辺りを包み、四人は、消えた。


美章園は、ゆっくり目を開けた。柔らかい物の上に座っている感じがする。目の前には、大きなキュポラがあり、ベルトコンベアーがコークスを運ぶ様子が見える。

「中野さんの上に、突然女が現れた!」

「姫様、逃げるでやんす」

美章園は、中野の丸めた背中から降りると、野田、セカイ、ラーニャの側に、素早く移動した。

「ここは、金属科の実習室」

野田は、顔を青ざめている。

「おい!教師入れるな!黒焦げにしてやる」

「姫様、怖いでやんす」

「姫様の作ったトランスミッターで、瞬間移動したのでしょうか」とセカイ

「瞬間移動だって、冗談は止めてくれよ。しかも金属科とか洒落にならないせん」

「今は、この場を切り抜けることが、先決ですわ」


         *


「おい!清、ここの連中消えたぞ」

「またまた」

ふと、石原瑠奈は、この会話に耳を向けた。確かに、一班いない。しかも見渡すと、転校生三人の姿が何処にもいない。「え~」

石原は、思わず声が出た。すぐに、双子の紅桜と桃桜を見る。二人は、活版印刷機で印刷して。

【心配するな】

【我らが動くことでもない】

【心に平安を】


そして、石原は、高遠美鈴に近寄り。

「ほっといていいの」

「あの三人と男子生徒一人は、空間跳躍したようだな。魔法的なものと思われる。心体に影響はない。この程度なら、歩いて帰ってくるだろう。ところで石原は、トランスミッター出来たのか」

「いあ~実は、電気流れて丸焦げです」

「雷をもう少し上手く使えるように、訓練が先だな、それから、宇宙人の心配でもするといい」

「努力します・・・」


        *


「さて、何奴から痛めつけるかな」

「中野さんをなめるなよ」

取り巻きのテンションも上がってきた。

「だが、運の良い奴らだ。今日は、俺様の大好きな鋳造実習だ!だから、クイズに答えたら、そこの扉から出ろ!出てからは知らぬ」

「中野さんいいんですかい。こいつら例の転校生ですぜ」

「今日は、特別だ!キュポラを見てみろ、まさに漢だ!では、問題だ!答えるのは、黒髪の長いお前だ!四人で相談してもいい但し!答えを三回はっきりと言え!」

鹿児島県川内市で小さな団子を方言で何と言うかだ!そら答えろ」

「まあ~そんなローカルな問題分かるわけないではありませんこと」

「姫様、野田さんならわかるかもですよ」

「野田君どうでやんすか」

「正直、分かります。ですが、これを美章園さんが言うには、相応しくないかと思うのですけど・・・」

「いいのよ。言いなさい」

野田雅人は、美章園に小声で教えた。

「!ヒ」

「だから、無理ですよ」

「姫様、あっしら痛い目に遭うでやんすか」

「姫様がなんとかしてくれます」とセカイ

美章園は、少し下を向き、薄ら笑いを浮かべて。

「中野!聞きなさい!これが答えよ」


『チ※コだんご』

『チ※コだんご』

『チ※コだんご』


「どう!」

美章園は、左手を腰に当て、右手人差し指を中野の胸の辺りに指している。

「良いだろう!正解だ!さっさと行け」

四人は、鋳造の実習室から無事出ることができた。

「姫様、ありがとうでやんす。あっしのために、あんな恥ずかしい台詞を言ってくれるだなんて」

「これも、空の書を手に入れるため・・・あ、この学園に来たのは、空の書を手に入れるためではないですこと。うっかり忘れていましたわ」

野田雅人は、次の扉を覗いている。

「まずい、金属科の不良がたむろしてるせん」

「姫様、もう一度トランスミッターを使うのはどうでしょう」

「そうね、機動してみましょう」

四人は、美章園に近づいた。頃合いを見計らって、スイッチを入れる。緑の閃光が辺りを包み、四人は消えた。


三国ヶ丘セカイは、何か柔らかい物に座ってる感覚があった。恐る恐る目を開けると、紫尾清人に抱っこされていた。

「わ!清が、三国ヶ丘さんを抱っこしてる」

他の三人は、教室の床に叩き付けられた。

「痛いでやんす」

紫尾清人は、セカイを静かに降ろすと。

「三国ヶ丘さん、痛いところとかはないですか」

「大丈夫です」

「そうですか良かった。三国ヶ丘さんとは、運命的なものを感じます」

「清、何恥ずかしいこといってるんだよ。惚れたのか」

生徒達は、黄色い声を上げながら、冷やかしていた。

「静かにしなさい。今日、作ったトランスミッターは、各自家に持って帰るように、変な所に捨てるなよ!よし解散」

先生がそう言うと、各科の教室に、皆戻り始めた。


【おい、宇宙人】

【よく帰ってきた】

【褒めて使わす】

【その調子で、今後も頼むぞ】

双子の紅桜と桃桜は、活版印刷で、そう言うと教室を後にした。

「美章園さん達、ほんとに大丈夫なの」

石原は、心配そうに覗き込んでいる。美章園は、トランスミッター(宝具)をポケットに忍ばせて。

「当たり前ですわ。これぐらいのこと、幼少期の苦しみ比べたら、何でもありませんことよ」

美章園は、教室を後にし、ラーニャとセカイが付いていった。


         *


紫尾清人の家は、小さな商店をしている。青果がメインではあるが、色々と取り扱っている。但し営業日は、土曜日のみ。清人の母は、行方不明、父は、ある日を境に、心が壊れている。なので、家計を切り盛りしているのは、清人と中学三年生の妹、紫陽花である。


この土曜日も、朝から商店を開ける準備をしていた。そこに、朝の散歩をしていた三国ヶ丘セカイが通りかかった。

「あれ~紫尾清人様では、ありませんか、おはようございます」

「え!三国ヶ丘さん」

「三国ヶ丘ではなくて、セカイと読んでくだい」

「そんな、恥ずかしいな」

「みなさん、そう読んで下さいますから、気にしないでください」

「じゃ~セカイさん、おはよう。せっかくだから、台湾バナナあげるよ」

「ほんとに~ありがとう」

「ここ、僕の店なんだ。今から開店して稼がないといけないんだ」

「失礼ですけど、家庭事情複雑なの」

「まあ。大したことないよ」

「清兄!トマトいくらで仕入れたの」

妹の紫陽花がトマトの薄箱を抱えて出てきた。

「それは、ネリだ」

「清兄、その人誰」

「同じクラスのセカイさんだ」

「そう」(可愛い)

「紫陽花は、それ終わったら、唐揚げな」

「アーラーム・セ」と紫陽花

「忙しいの」

「忙しいな、一週間の生活費稼がないとな」

「お手伝いしましょうか」

「それは、悪いよ、家族でもないのに、家のこと手伝ってもらうなんて、厚顔無恥な僕でも言えないよ」

「そうですか~なら、家族になります」

「きき君は、何を言ってるか分かってるのか」

「オフコース」

「イエス・イエス・イエス」

「何をしましょうか」とセカイ

「レジ出来るか」

「もちろん」

朝の六時には、お客が入り始めた。路上にも、台車に乗せた野菜がザルにもられたり、コンテナケースに満載してある。清人も人混みを掻き分けながら、陳列に勤しんでいた。時折、お客のお尻とぶつかり。

「すんまそーお知り合いになりましたね、ほほほ」とか言っている。


「きゅうり一バケツください」

「は~い。百円になります」

「消費税は、いらないのかい」と買い物客

「てげてげでいいそうです」

「そうかい、なら、嬢ちゃんに昨日作った、あくまきをあげるよ」

「ありがとうございます」

「わ~ん。清兄、唐揚げと一緒に指揚げちゃったよ」

「早く冷やさないと」とセカイ

「気合いでのりきるんだ!」

「紫尾様、応援呼びましょうか」

「まて!セカイが呼ぶのは、猫耳と美章園だろ、勘弁してくれ」

「そうですか、姫様料理上手ですよ」

「いや、そう言う問題ではなくて、ああ言う、色気まき散らしてる子は、嫌なんだ」


忙しく働いている間に、昼が過ぎ、売る商品もほとんどなくなったので、店を閉める用意にとりかかった。

「セカイさんは、紫陽花の片付けを手伝って貰えますか」

「はい」


紫陽花は、物陰に隠れて、コロッケを食べていた。

「紫陽花さんお手伝いしますよ」

「ゲホゲホ!」

「ああいいですよ、無理に急がなくても」

「ゲホ、ジィティエックス五千八百」

「あ、水ですね」

急いでセカイは、水をくみ飲ませた。

「ふー危なかった」

「美味しいの」

「もちろん」

「もらってもいい」

「もちろん」

「美味しい!姫様に教えないと。でもこれから、姫様とどう向き合えばいいのかな」

「どしたの」

「いえ、別に」

「ところで、清兄とは、どんな関係なの」

「そそれは、家族になる約束をしました」

「紫陽花のお姉さんになるの」

「はい」

「めでたいお話ですね!応援します」

「ありがとう~」


  *


「姫様ただいま戻りました」

「セカイ遅かったですわね」

「この台湾バナナお産土です」

「熟し加減の良いバナナですわ」

「はい」

「あっしも食べていいんでやんすか」

「もちろんです」

「そうそう、セカイ、堺アサヒが来てますわ」

「え!アサヒ様ですか」

「あなたの許嫁ではないですこと、そう驚くことはなくてよ」

「さ・・部屋に行ってきますね」

「ごゆっくり」


広くスペースをとったリビングに、大きな天球儀、豪華さよりも、心地よさを追求した、家具類、やたらと多いゲーム機、何よりも目に付くのは、バベルの塔を描いた絵画である。そこに、少年とも青年とも認識できない、男性が座っていた。

「長い時間お待たせですわ。もすぐ来ますわ」

「いえいえ。姫様の素晴らしい料理を頂いて、アサヒは、家宝ものです」

「アサヒ、バナナあげるでやんす」

「これは、また大きなバナナですな、一本いただきます」

「時に、アサヒ芸人としては、上手くいってるの」と美章園

「それは、もちろん」

アサヒは、サブカル系の芸人として、関西で活動している。

「では、このバナナを使った一発芸を」

『お腹が減って力が出ないよ~バナナマン』

『じゃ!僕を食べるといいよ』

股間の辺りに、バナナを持って行き、むき始めた。と、そこに。

「姫様、お待たせしました」

『さあ。全部食べてごらん』

「ひ!」

セカイは、顔を青ざめた。

「下ネタでやんすか、アサヒどの」

「いや、下ネタではない、パロディだ!変なことを想像するほうが、変態なのだ」

「まあ。面白くなくはなくてよ」


         *


三国ヶ丘セカイは、緊張しつつソファーに座っていた。 アサヒとは、よくある親が決めた許嫁であった。でもアサヒは、かなり真剣に考えていた。

「セカイにプレゼントを持ってきたんだ」

アサヒは、バックからラッピングを施されている箱を取り出し、セカイに渡した。

「開けてごらん」

セカイは、キザな奴と思いながら、包装を解いていく。中から出てきたのは、生々しい形状の置物であった。

「何これ」

「それは、リンパ官の模型だ!気に行ったか」

「このプレゼントで、あなたは何を表したいの」

「どうでもいいように見える体の一部、だがそれはとても大切である。そのような器官の一部のように、あなたと一緒にいたいのだ」

雰囲気が悪くなったのを感じた美章園は、テレビをつけた。

『このようにして、かいつぶりの雄は、雌とつがいになるために三つの試練を乗り越えなければいけません』

美章園は、素早くチャンネルを変えた。

『海から川へ登った鮭は、産卵のため』

美章園は、素早くチャンネルを変えた。

『上野動物園のパンダの繁殖行為を確認・・・』

美章園は、テレビを消した。都合良く、呼び鈴が鳴ったので、美章園は、応対に出る。


  *


カメラで覗いてみると、渦汚れた服を着た子供が隅に映っていた。弱弱しいなで肩、応対しても安全と判断した美章園は、ドアを開ける。子供の顔を見ると、美章園は、大きな声を上げた。

「浅香山ビンチャではないですこと!今までいったい何処にいたの!まったく」

「姫様、マイナスのエネルギーに引き寄せられながら、世界各地をさ迷い歩き、アフガンからシリア、そして強制送還されたのです。その後、宇宙人の町に、姫様が入ると聞き、その足で来たしだいです」

ビンチャは、顔を美章園に向けた。少年なのか少女なのか判らない容姿に、薄汚れた女子の服に裸足である。

「ラーニャ」

「はい姫様」

「ビンチャをお風呂に入れてあげて」

「おお!ビンチャ久しぶりでやんす」

「ラーニャ様も、お変わりなくなりよりです」ラーニャは、お風呂に行くために、リビングを横切る後ろからは、ビンチャが服の裾をつかみ付いてくる。アサヒは、ビンチャを見ると。

「お前は、ビンチャ、何故ここにいるのだ!しかも男のくせに女の服を着てるし」

アサヒの携帯の着信音が鳴る。どうやら、アサヒのマネージャーのようである。

「え!仕事が一ヶ月分全てキャンセル!」

アサヒは、顔を青ざめて、ビンチャを見る。「また!お前か、お前のせいか」

「僕のせいではない、アサヒのマイナスエネルギーが問題なのですよ」

ビンチャは、そう言うとラーニャに連れられてお風呂場へと行った。

「あっしも一緒にお風呂入るでやんす」

「何を言っているんだ、また小さい時のように、潜水艦ごっこするつもりだろ」

「ちっ!ばれたでやんす」

そう言うとラーニャは、脱衣場から出て行った。安全なのを確認してから、ビンチャは服を脱ぎ、一通り体を洗ってから、湯船に浸かっていた。

「ビンチャ大きくなったでやんすか~」とラーニャ

「大きくなんてなっていない!しもねた言うな!」

「違う違う、身長のことでやんす」

「そうなのか、ごめん」

「あっしも聞き方が悪かったでやんす。着替えの服置いておくでやんす」

ビンチャは、口近くまで湯船に浸かり、顔を赤らめていた。


         *


ビンチャは、ひまわりのワンポイントの入ったワンピースを着て、アサヒの向かい側に座りオレンジジュースを飲んでいた。しばらくの沈黙の後、アサヒは、ビンチャを右人差し指で指し目線は合わせず。

「ビンチャ聞きたいのだが」

「なんでしょう」

「どうして女の服を着ているのだ」

「そりゃラーニャ様に用意していただいたからです」

「マイナスのエネルギーとはなんだ」とアサヒ

「この地球には、法則があるのです。自分も悪いのに、人のせいにばかりしていると、マイナスのエネルギーがその人の内に増幅されるのです。ある種の方々は、大そうそのエネルギーが好きです。この方々をγと呼びましょう。γは、人のその心の醜いところに、入り込み憎しみを持たせます。やがて憎しみは卵を産みます。こうなると人には、手が出せない領域に入っていきます。アサヒは、まだそこまで酷くない。だから、自分を吟味してください。僕が悪いのか、自分も悪いのかを」

美章園は、天球儀の横に地球儀を持ってきて、くるくる回していた。

「人間は、他人を裁くはね。自分の目には、大きなゴミがあるのに・・・」

「γを喜ばせてはいけません。だから、アサヒも自分をもっともっと吟味して徳を高めるのです」

ビンチャは、立ち上がり両手を広げて一生懸命語っている。その姿は、男の子には、見えない華奢な体につるつるの肌。アサヒは、小奇麗にしたビンチャを見たことがなかったので一瞬目が釘付けになったが、瞬きを二回ほどして。

「わかった。俺が悪かった。吟味するよ」

携帯の着信音が鳴った。アサヒは、片手で携帯を開くと。

「一週間分の仕事が入ったのですか。ええもちろん。はい。お願いします」

アサヒは、携帯を胸ポケットに入れると。澄ました顔をしてビンチャを見た。ビンチャは、ブイサインをしている。アサヒは、顔が赤くなった。


         *


セカイは、様子を見ながら、みんなと距離をとっていた。許嫁の話題が出るのが嫌だったのである。そこに呼び鈴が鳴ったので、カメラを覗くと長居レモンと鳳ケイがいた。すばやくドア開け向え入れる。

「やっほー」とレモン

「遠かったけど着たで~」とケイ

セカイは、二人をリビングに案内した。

「アサヒやん。久しぶりやな。もっとテレビに出なあかんで」

アサヒは、ビンチャを見てから。

「テレビの仕事は、少ないけど地方回りとかけっこう忙しい。そう言えばくだらない遊びを思いついたのだが、みんなでしてみないか」

「どんな遊びでやんすか」

「こんな遊びだ、言葉の中にちんがつくものを言う。例えば、提灯とか、あとカッチンコッチンとかもあり。ただし固有名詞は、一人一回、言えなくなったら、そこまで、脱落ということで、最後まで残った人の勝ち。どう?やってみるかい」

「商品は、出るでやんすか」

「商品は・・・何かあるか」

「おいらが出すで、名古屋で買ってきたういろうや」

「適当な賞品だな」とレモン

「まあ。商品は、何でもいいですわ。問題は、アサヒの考えたゲームが面白いかどうかですわ」と美章園

「じゃんけんで勝った人から右回りで」

ラーニャが勝った。

「いくでやんすよ!」

「固有名詞は、有名人でな」

「提灯」とラーニャ

「ラーニャ様ずるい」とビンチャ

「小さな提灯」とレモン

「なかなかいいじゃないか」

「大きな提灯」とセカイ

「幼稚園のゲームみたいだな」とアサヒ

「短い提灯ですわ」と美章園

「長い提灯」とケイ

「カッチンコッチン」とアサヒ

「ちんあげ」とビンチャ

「運賃」とラーニャ

「けんちん汁」とレモン

「ともちん」とセカイ

「それは、固有名詞ということで」

「ヨウドチンキ」と美章園

「横○ん」とケイ

「下ネタきたでやんす」

「ちんちん電車」とアサヒ

「陳さん」とビンチャ

「マーチング」とラーニャ

「ちんちろりん」とレモン

「名古屋コーチン」とセカイ

「ちんすこう」と美章園

「轟沈」とケイ

「チンク固有名詞で」とアサヒ

「もう思い浮かばないので脱落します」とビンチャ

「チンパンジー」とラーニャ

「無理!脱落します」とレモン

「わたしも脱落します」とセカイ

「文鎮」と美章園

「チ○カス」とケイ

「うわ下ネタでやんす」

ラーニャが引いている。

「自転車のベルが鳴るチンチン」とアサヒ

「もう無理でやんす」ラーニャは、脱落した。

「レンジでチン」と美章園

「さすが姫様でやんす」

「もう無理や」ケイは、脱落した。

「俺も無理、脱落」とアサヒ

「賃貸マンション」と美章園

「おお」一同のどよめきがあり、美章園の優勝が決まった。ういろうが贈呈され。みんなでお茶うけに食べることになった。


 *


 浅香山ビンチャは、虹の原学園職員室にいた。校則に違反するところなく、きっちりと女子の制服を着ていた。

「では、浅香山さん教室に行きましょうか」

「はい。でもいいのですか?僕男の子ですよ」

「理事会が良いと言っているのでかまわないですよ。それよりも三組は、人数調整のためのクラスであったので変り者が多いから、何かあったら先生に相談すること、いいですか?」

「はい。相田先生」

二人が教室に入ると、ひそひそと

「また、転校生だと」

「しかもまた女子だぜ」

「テロリストの刺客ではないだろうな」

教室は、憶測が飛び交い騒がしさが止まなかったので、相田先生が手を叩いて、静かにするように即した。

「転校生を紹介します。浅香山ビンチャさんです。仲良くして下さいね」

相田先生は、挨拶するように、ビンチャに目で合図をした。

「浅香山ビンチャです。こんな服装ですが、男の子です。お手柔らかにお願いします」

教室内が耳鳴りするぐらい騒がしくなった。

「うそでしょ」

「あんなに可愛いのに、ありえない」

「と言うか、ならどうして女子の制服なんだ」

「あの病気なのか」

「最近多いみたいね」

「手術したのかな」

「まあ。いやらしいことを」

美章園は、立ち上がり、教室の皆に大きく手を振り。

「浅香山ビンチャは、わたくしのお友達ですの。だから静かに見守ってあげてください」

教室は静かになったが、今度は、美章園に対してつぶやく者が出てきた。

「美章園は、清に気があると思っていたが、本命は、浅香山なのか」

「どっちみち、二人に対して、友達としか言っていないからな~面白くない」

相田先生は、ビンチャに廊下側の一番後ろの席に座る用に指示をだした。ビンチャは、速足で席に着いた。前の席にいる紅桜は、活版印刷機で、【よろしく宇宙人】と打ち出し挨拶をした。

「僕は、宇宙人ではありません!日本人です」

と小声でビンチャは言った。

桃桜は活版印刷機で、【体の秘密も知っている】と打ち出した。ビンチャは、顔を赤らめて

「どうして知っているのですか、あなたもベルニケ人なのですか」

紅桜は、【沈黙】と打ち出し印刷機を片付けた。

 休み時間は、恒例となった転校生へ質問が始まった。

「ねえねえ浅香山さん。トイレは、どちらに入るの」

ビンチャは、赤くなりながら

「理事長室のトイレを使うように言われています」

「ねえねえ浅香山さん。更衣室は、どうずるの男それとも女」

「理事長室を使うように言われています」

「あなたも、生徒理事の一人になるの」

「生徒理事?」と首をかしげるビンチャ

「ほら石原さんや錦野さんみたいに」

「僕は、一般生徒です。そうかあの二人は、お手伝いと思っていたけど、学園のお偉いさんなんだ」


         *


三国ヶ丘セカイは、紫尾清人に土曜日のお礼にと、食堂でシュークリームをいただいていた。

「紫尾さんは、転校生の発言を耳に入れないのですか」とセカイ

「男だからいいや」

「私の知っているところ、男の娘は、人気があると聞きます」

「確かに萌学的には、人気はあるな。でも、僕は、一途なのかもしれない。セカイさんが・・・」

「セカイと呼んでください」

「ごほん。セカイが家族になってくれると言ってくれたこと、心から嬉しいんだ」

紫尾は、顔を赤らめながら嬉しさが出ていた。そこにラーニャが割って入って来た。

「なにやら怪しい雰囲気でやんすね」

「ラーニャどうしてここに」

「あっしは、何も見ていないし、何も聞いていないでやんす。ただ、シュークリームは、見過ごせないでやんす」

セカイは、慌ててラーニャにシュークリームをあげた。

「姫様には、内緒にしてあげるでやんす」

ラーニャは、シュークリームを頬張りながら食堂を後にした。セカイは、心中でラーニャに聞かれたこと、見たことを悔やんでいた。いくら内緒にしてくれると言っても、主人である姫様に問われたら、正直に話すに決まっている。何故なら、ラーニャの一族は、日本で言う、お庭番だからである。紫尾は、今のやり取りから安全と考えて。

「ラーニャも味方なら安心じゃないか」

「ええそうですね」と愛想笑いをするセカイ

「とうとう僕にも、彼女が出来たのか」

「ええそうですね」

と余所事を考えながら返事をする。

「どうしたの心ここにあらずだな」

「ごめんなさい。一つ聞いてもいいですか」

「どうぞご自由に」

「その左手の甲の痣のように見える文字何か知っていますか」

「これねー小さな頃からあるんだけど、悪いものではないらしくて今じゃ気にしていないな」

「そうですか」

「やっぱ気になるよな。刺青みたいだよな」

「いえカッコいいですよ」

予鈴のチャイムがなり、二人は、教室へ足を向けた。


        *


ホームルームの時間に、明日からプールの授業が始まると、相田先生から話があった。前もってプリントで知らせてあったので、大した騒ぎにもならず、下校となった。浅香山ビンチャは、もたもたとしていた。

「浅香山さんは、水着は、どちらなの男それとも女」

「それは、明日になればわかりますよ」

「わたしは、男にかけたわ。だって無理にきまってますもの」

「ですよね~くっきり形がでますよね」

「何の形がでますの」と美章園

「いえ。別に・・・急いでるので、またね」

女子生徒は、急いで教室を後にした。

「ビンチャ疲れたのでは」

「これくらいのこと、姫様の人生に比べたら大したことありません」

「そうそうならいいのですけど」

「宇宙人見つけた」

高遠美鈴が、しらじらしくやってきた。

「わたくしたちは、宇宙人ではなくてよ」

「軽いジョークです」と高遠

「そういえば、高遠は、御使いのようですけど、どうして人間と普通に接しているの」

「さてどうしてでしょう。御使いではないのかもしれませんよ」

「答えは簡単!完全に人間だから」

と石原瑠奈が飛び込んできた。

「そうですわよね。御使いがこんなに密集していたら、この世の終わりかと思い大ニュースになりますわ」

石原瑠奈は、少し視線を落としながら

「ですよね~そうだ、みなさん理事長室でお茶しませんか」

「御呼ばれいたしますわ」

「あっしも行くでやんす」

「僕も行きます」とビンチャ

「私は帰るよ」と高遠

「セカイさんは、今日はもう帰ったのかな」

「そう言えば、いないですわ」


        *


五人は、理事長室で紅茶を飲んでいた。

「ビンチャさん今日は疲れたのでは?」

「いえ大丈夫です。いつものことですから」

「そうなんだ」と石原

「そう言えば、餅井先生顧問の気功部、怪しげなことをしているそうですよ」

錦野は、お菓子の袋を開けながら話だした。

「なんでも、ち○気功をしてるらしくて、あそこに紐でバケツを結び、ゆらゆらしたり、ち○立て伏せという体操をしたり、ゆくゆくは、バスを引っ張るとか言ってるそうです」

「テレビで観たことありますわ」

「学校であれは、だめでやんすよ」

「でしょ」

「明日にでも、詳細を捜査することにしましょう。ところで美章園さん」

「なんですの」

「生徒理事にならない?美章園さんなら安心だな~」

「わたくし、鈴蘭学園のこともあるので、無理ですわ」

「そうなの残念、美章園さんの統率力なら、この危機に瀕している学園を革命できると思ったのですけどね」

「トキノスミカに、がんばらせればいいですわ」

「澄香は、かねがね理事から離れたいと言っているの、出資が出来て人格に問題ない方にゆだねて行きたいらしくて・・・」

「生徒理事かっこいいでやんすね。モテそうでやんす」

美章園は、当初の目的を思い出していた。紫尾清人と友達以上の仲になり、空の書を手に入れることをである。そのためにも、紫尾清人の心を捕える必要がある。

「石原さん、わたくし考えを変えましたの。生徒理事になりますわ」

「本当ですかありがとう」

石原は、美章園の手をとり感謝を込めた。その後、書類にサインをしてもらった。


         *


浅香山ビンチャは、理事長室でプールの準備をしていた。水着に着替えたその姿は、女子にしか見えない、下半身も綺麗なワイ字型で妙な膨らみもない。そこに石原瑠奈が入って来た。

「浅香山さん綺麗な体系」

「恥ずかしいのであまり見ないでください」

「本当に男なの?」

「小さなあれこれがあるので見た目から男と判断されています」

「手術でとっちゃえばいいじゃない」

「それはそうですけど、戸籍は変わらないのでそのままにしています」

「なるほど」

二人は、理事長室を出てプールサイドに来た。

「見てみて、浅香山さん綺麗」

「男じゃないじゃない」

「男か直に確かめる必要があるわね」

「どうやって確かめるの?」

「触ってみるしかないわ」

そう言うと浅香山ビンチャの近くに座り、小声で。

「浅香山さんあなた本当に男なの?」

「戸籍上は、そうですけど・・・」

「あれ付いているの・・・あれ」

「あれはありますけど、とても小さいです」

「そうなんだ・・・触ってもいい?」

「だめですよ。恥ずかしい」

「触らせてもらえないと、色々証明できないな~今しないと損ですよ」

ビンチャは、美章園に助けをもとめたいけど声が出せなかった。小さくため息を出し、触ることを承諾した。

「うっそー何もない」

「ほんとだ」

「女の子じゃない。可愛そうに」

「もういいでしょ。そんなに触らないで、お願い」

「大きくなるの?」

「多少はなりますよ」

「今は?」

「なっています」

「見た目変わっていないわ」

女子生徒は、ひそひそと話していたがやがて。

「浅香山ビンチャ!女の子おめでとう」

「ビンチャの勇気に感動しました」

「もういいですか」とビンチャ

「ええもちろん」

ビンチャは、美章園の側に座った。とても恥ずかしかったけど、言いつけることなく、自分の問題を解決できたことに自信をもった。


 *


『日本政府は、川内原子力発電所の再起動を決めました。これで夏の電力確保が容易になったと思われます』


「我々の作戦勝ちだな、散々な目にあったが、別働隊を政府内部で活動させていたのが功を制した」

「大佐どの、美章園りかるのマンションを特定しました」

「マンションごと吹き飛ばしてやる。トマホーク一番発射準備!」

「一番発射準備完了」

「発射!」

改ロサンゼルス級潜水艦からミサイルが発射された。

「我々がどれだけ本気なのか見せてやる」

大佐は、虹の原学園で言ったことを実行したのである。


(フラット様、東シナ海公海上より、ミサイルの発射を確認しました)

(着弾地点は)

(宇宙人の町です)

(こんなことをするのは、原子力発電推進塾だな。そんなことも言っていたし)

「鳳ケイ、この町にミサイルが飛んできているがどうしたい」とフラット

「せやな~発明したこの地対空ミサイル、で撃退や」

「ではたのむよ、俺はこの体だから大したことできないからな」

「わかったで、まかせろや、数ある発明品の中からこれや!」

そう言うと鞄からパクリオットを取り出し、人工衛星からのデーターとリンクさせる。鳳ケイは、バルコニーに出ると、安全装置を外しトリガーを引いた。ミサイは、白い煙を後に残し飛んでいった。宇宙人の町から20キロほどのところで、パクリオットは、コバンザメのように、トマホークに張り付いた。そしてハッキングにより全機能を乗っ取り、目標物に命中したと誤認させた。そして静かに空き地に胴体着陸をさせた。

「どや!」

「凄いな」

「いいもの見せたんや。エスピーシーのこととか色々教えてや」

「よかろう」

(ミサイルの回収たのむ)

(了解しました)


「トマホーク目標に命中!」

「おおいいぞ、これで美章園りかるも終わりだ」

大佐は、高笑いをしながら、潜水艦に潜るように指示を出した。


        *


「エスピーシーは、この螺旋型コンプレッサーにより強力な空気を出すことができる。上部カバーを開けると、このように、ローターリーエンジンがある」

「すごいやん」

「エスピーシーの副産物が圧縮燃料だ。単三乾電池の大きさでガソリン六十リットルになる」

「ブラックテクノロジーやな」

「その通りゆえに、俺たちにしか作れない」

「せやな~うちらは、電気自動車作るほうがええわ」

「で、本当の用事はなんだ」

「うちの姫様見ていると、隙だらけで心配なんや、空の書手に入れる言うとるけど、これ以上目立つことしてほしくないんや」

「ベルニケ人皆の意見か、それとも、ケイの意見か?」

「うち個人の意見や」

「なるほど、でも時代は、美章園を必要としていると思う。澄香もそのようなことを言っていたと記憶している」

「なら、しかたないな。うちが来たこと内緒にしててな」

「ああわかった」

「話は変わるけどな、大阪と宇宙人の町をリニアで結びたいんや」

「それはまた、大そうな計画だな、澄香は喜びそうだが」


         *


「大佐殿ニュースでは、トマホークの報道はされていないのですが・・・」

「これだけのことをして、ニュースにならないだと!政府の隠ぺい工作か、人工衛星海原二号で調べろ」

「はい大佐殿」

「まったく美章園がらみだと、かき回されてばかりだ」

「大佐殿、着弾地点マンション健在です」

「美章園め!また変てこなことしたな」

「大佐殿それはないかと思います。美章園はマンションにいるのを工作員が確認しています」

「あの町は、いかれてやがる!工作員を増やせないか」

「現在、友軍工作員二十四名音信普通です」

「現地で工作員を雇え!あの町は、よそ者を認識しているのではないのか」

「了解しました。大佐殿」


        *


そこには、三十代半ばと思しき男性がいた。スマホのメールを読み、顔を曇らせていた。

ただでさえ仲間との連絡が取れなくなっているのに、現地で工作員を雇えとか無理な命令と思っていた。丁度そこに、虹の原学園二年三組の朝霧梨乃が通りかかった。男は、後を付けて行った。朝霧は、スーパーの裏口から入り姿を消した。その後2時間ほどしてスーパーの裏口から出てきた。男は、高校生でアルバイトしているなら、金で雇えると考えた。だがどうやって話しかけるか、また、裏切られないようするにはどうすれば良いかと考えていた。男は、あとを付けながら考えた。弱みをにぎり、尚且つ多額のお金をわたす。これなら、工作員になってくれるかもしれないと考えた。朝霧は、町営住宅に入っていった。どうやら二○二号室のようである。しかし男は何もできずにその場をあとにした。その後、男は行方不明になった。


         *


美章園は、天球儀を見ながらくつろいでいた。頭の中では、紫尾清人に近づけないでいることに焦りを感じていた。でも生徒理事になったことにより接近するチャンスはあると考えていた。そこに浅香山ビンチャが入ってきた。

「姫様、あの活版印刷の二人は何者でしょう。僕の体のことも知っているようですし」

「もしかしたら、御使いかもしれませんわ」

「ならいいのですけど」

「ビンチャ、プールの授業は恥ずかしくなかったの?」

「恥ずかしかったですけど、姫様の苦労に比べたら大したことはありません」

「ならいいのですけど」

「恥ずかしながら、姫様には言いませけど、女子にあそこ触られたのです」

「どうして?」

「それは、男か女かを調べるのに手っ取り早いからと思います」

「結果は、その顔ならよかったのですね」

「はい!友達になれそうです」

「その子の名前は?」

「えーと朝霧梨乃です」

「あの子ね。しっかりしているから友達になるのもいいかもね」

「はい」

「と・こ・ろ・で、セカイとラーニャ遅いですわね」

「ですね~」


         *


紫尾清人と三国ヶ丘セカイは、宇宙人パークに来ていた。敷地には、宇宙人のモニュメントがあり、二人を歓迎しているようであった。

「セカイは、ここ来たことないだろ」

「はい、初めてです。わくわくしますね」

「この町は、冬になるとユーフォーが百機近く来ると言われている。ニュースで見たことあるだろ?」

「はい、薄らと聞いたことがあるように思います」

「地元のユフォークラブが、カウントしているんだ。あと観測所もある。宇宙人パークが同じ場所にないのは、失敗かと思う。でも町にも観光ルートがあるのも良いのかもしれない」

紫尾清人は、入場券を二枚買、宇宙人パークに入る。

「これが、宇宙人の腕だ」

「本物ですか?」

「ここをよく見ると、レプリカと書いてある」

「レプリカですか~びっくりしました」

「本物なら世界規模の大ニュースだな。これは、ユーフォーの部品だ、これは、本物らしい。去年異世界人との戦争があっただろ、それとは別のものらしい」

セカイは、本物かどうか念入りに見ていた。

「これは、読み物のようだが、言葉がわからない」

セカイは、少し笑いながら。

「恋愛小説」

小さな声で言った。

「セカイは、これ読めるのか?」

慌てて首を振りながら

「ジョークですよ」

「セカイもジョーク言うんだ」

「人並みには、言いますよ」

「等身大で安心したよ」

二人は、写真が多く展示してあるフロアーに来た。普通の人間には、宇宙の写真に見えるが、セカイが見るとベルニケの物と思われるものがあった。

「そろそろプラネタリュームが始まる。行こう」

セカイの手を取り、部屋に入った。ブザーが鳴り、初夏の夜空が写し出され、アナウンスが聞こえて来た。

「子供のころは、宇宙飛行士に憧れたものだよ。国際宇宙ステーションってあるだろ、あそこに行きたかったな」

「目指せば、行けますよ」

「いや、今は、普通の暮らしに憧れているんだ!夢だけでは、生活できない」

セカイは、プラネタリュームの間、紫尾清人の左手を読んでいた。

(あの時、ブックカバーは解凍できていたのね。本体だけになっている。読める文字はあるけど、段階踏まないと無理みたい)

プラネタリュームは終わり、宇宙人パークを出た。六月の午後六時三十分、まだ外は、明るかった。

「紫尾様、今日はありがとうございます」

「清でいいよ」

「はい清様」

「様はいらないけど、まあいいか」

セカイは、嬉しそうな顔をしている。風が吹きショートカットの髪が揺れた。二人は、駅まで歩いて来た。

「セカイ、じゃ、また明日」

「はい清様、失礼します」

セカイは、軽く手を振り、マンションの方に足を向けた。紫尾は、しばらくセカイを見送っていた。


         *


「ラーニャいるんでしょう」

「あっしのことは、気になさらずに」

「何処から着けていたの?」

「セカイは、その名の通り、世界を手に入れたいでやんすか?」

「私は、空の書には興味ありません。ただ清様の側にいたいだけです」

「ならいいでやんす。着けてきたのは、ほんんの二分前くらいでやんす」

「ラーニャ、私もベルニケの人間です。アゴーモアイと言ったからには、姫様をサポートします。だから清様とのことは、内緒にしておいて下さい」

「わかったでやんす。姫様には内緒にしてるでやんす」

二人は、美章園のマンションに入っていった。玄関の鍵は開いていた。

「ただいまもどりました」

美章園はふくれ面で

「お・そ・い」

と言い腰に手をおいた。

「散歩していたら、ついつい遠くまで行ってしまって、すみませんでした」

「姫を一人にするなんて、侍女失格ですわよ」

「これからは気を付けます」

「ラーニャも一緒だったの」

「あっしは、パトロールしていたでやんす」

「そう。変わったことはなかったでしょうね」

「爆弾一つなかったでやんす。ここは安全でやんすよ。ミサイルでも飛んできたら、すぐに姫様に知らせるでやんすよ」

「頼もしいですわ。さあ夕食にしましょう。今日のメインは、鳥の胸肉よりも美味しい、ささみの棒棒鶏ですわ」

四人は、食事を楽しみ喜んだ。セカイは、時折、美章園とラーニャを見ていた。


         *


四人はソファーに座り、ない知恵を絞っていた。

「紫尾清人と友達になるために、学費を免除するというのはどうかしら」

「それは反感買うと思います」

「どうして」

「あの人は、そんなことしたら学校辞めると思います」

「どうしてそんなこと分かるのかしら」

「それは、私の見る目です。たとえば、姫様に仕えているのも、私の見る目です」

「なるほど理に適っているわね。でも他に良い方法がなければ試ますわよ」

「紫尾清人と同じ部活に入るとかどうでやんすか」

「なるほど、放課後も行動を共にすれば、関係も近づくわね」

「そうでやんす」

「紫尾清人は、なに部なの?」

美章園はソファーに深く座りなおした。

「気功部だと嫌でやんすね」

「ごほん!」

美章園は咳払いをした。あまり話したくない部のようである。

「もういいですわ。電話で聞きだしますわ」

学級連絡網を取り出し、不慣れに電話をかける。八回ほど呼び出し音がした後、繋がった。

「もしもし」

あまり機嫌がよろしくない、紫尾清人の声がした。

「こんばんはですわ。わたくし美章園知っていますわよね」

紫尾清人は、ため息を出しながら。

「テロリスト事件で活躍した姫様が何のようだ」

「いえ~あの~紫尾さんは、何部に入っているのかな~と思うと、いてもたってもいられなくて、電話をしたしだいですわ」

「ふっ部活には、入っていない。だが助っ人を頼まれたら、どの部活でも手伝うぜ!」

「な・る・ほ・ど・帰宅部ね。わたくしと同じではないですこと、なんという運命!でわ明日学校で、ごきげんよう」

そう言うと美章園は、静かに受話器を置いた。

「帰宅部でやんすか、あっしと同じでやんす」

「僕は、部活に入ってみたいな」

ビンチャは、そう言うと、もじもじしていた。

「どんな部に入りたいの?」

「そうですね。文化系で萌要素のあるような楽しい部活かな」

「漫画研究部とかアニメ同好会とかかしら」

「どちらの部も、虹の原学園には、ありませんよ」とセカイ

「新しく作るといいでやんす。たとえば、サブカル部とかどうでやんす」

「新しい部を作って、紫尾清人を勧誘すると言うことね」

「そうでやんす。かなり近づけるでやんすよ」

「そうね~サブカル部いいかもね。紫尾清人も、萌文化がどうのこうの言っていましたわね」

「姫様、その計画は無理があるかも」

「どう言うこと、セカイ」

「はい。私が調査したところ、紫尾清人様は、放課後は自由に使いたい人のようです」

ラーニャは、目を細めて、セカイを見ていた。

「サブカル部は、自由な部になるでやんすよ」

「そうそう自由な感じでいいわ」

セカイは、少し肩を落としてラーニャを見た。ラーニャは、セカイと目が合うと笑みを浮かべた。

「では、顧問は、相田先生で、部員は、わたくしと、セカイ、ラーニャ、ビンチャね。これは姫命令です。よろしくて」

二人は、アゴーモアイと言い、忠誠を誓ったがセカイは、「はい」と小声で返事をした。美章園には、アゴーモアイしか聞こえなかったので、セカイを咎めることもなかった。


        *


美章園は、午前中には、部活の書類を用意した。相田先生には、理事権限で顧問になってもらっていた。問題は、紫尾清人が美章園を避けていることで、入部のことを声掛けできずにいた。

「まったく美章園はしつこいな!授業中に手紙が回ってきたと思ったら、サブカル部に入部するように!とか書いてあるし、あぶね~あぶね~セカイもよくあんなのと一緒にいるよな」

「姫様は、私に良くしてくださいます」

二人は、食堂でパンを買うと、手を繋ぎ、気功部の部室に入った。

「よう勢!」

「清どうした」

「ロッカールーム借りてもいいかな?昼飯食べたいんだ」

「で、その子は、彼女かい?」

「もちろん、オフコース」

「それはいいことだ、俺の気功を邪魔しないようにな」

そう言うと勢は、ロッカールームへ行くことを促した。セカイは、あの気功部ということもあり、少し怖がっていたが、紫尾清人の手のぬくもりが安心感を与えていた。窓を開け新しい空気をいれた。折り畳みの椅子に座り、二人は、パンを食べていた。

「どうして美章園は、僕にアタック賭けてくるんだ?」

「それは・・・」

「セカイは、知っているんだろ?教えてくれないか」

「左手にある物が欲しいのです」

「この文字のような痣のことか?」

「はい」

「この痣、実は、小さい頃、トラックに轢かれたんだ、誰もが死んだと思ったらしい、でも僕は、生きていた。そしてこの痣が出来た。これがいったなんなのか知っているなら、教えてくれないか?」

「信じて貰えないかもしれないですけど、それは、簡単に言えば魔道書です。清様が死にかけた時に展開したと思います」

「セカイさんが言うなら本当だ!もしかして、特殊な能力とか使えるのか?」

「制御できれば、使えるかもしれません。でも、下手に使うと清様の命を削ることになるかもしれません」

「なんかダークマスターみたいでカッコいいな~左腕に包帯巻くのもいいな」

「そうですね。文字を晒しているよりは、包帯を巻く方がいいですね」

「やっぱ、これ読めるのか?」

「はい」

「なんて書いてあるんだ」

「空の書とだけ読めます。あとは、御使いの言語に近くて、姫様でないと読めないです」

「だいたいのことは、分かって来た。ようするに美章園は、僕ではなくて、この空の書に用があると言うことだ」

「ごめんなさい。その通りです」

「謝ることは何もない!むしろ感謝だ!なら空の書を使いこなせるために、美章園を利用するか」

セカイは、返事をしないで、パンを食べていた。時乃澄香は、美章園にクエストとして与えた。そこに自分が割り込んでもいいのか分からなかった。でも逃げ回っているよりも、流れに乗ってみるのも良いのではと考えた。

「姫様を利用しましょう。清様は、サブカル部に入って、何事もなく生活を送りながら、空の書について色々聞き出すのです」

「セカイは、僕から空の書がなくなっても、彼女でいてくれるのかい?」

「もちろんです」

「ありがとう」

二人は、顔をほのかに赤くした。予鈴が鳴り二人は、二年三組の教室に入った。紫尾清人は、すぐに美章園の所へ行き。

「美章園、そのなんだ、へんてこな部に入ってやるよ」

いきなり展開が変わったので、美章園は、鳩が豆鉄砲食らったようになり、持っていた消しゴムを落とした。

「よろしくてよ。これが入部届ですわ」

「おう!ありがとう。放課後渡すよ」

午後の授業は、さくさくと終わり、紫尾清人は、美章園に入部届を渡した。

「さっそくですが、4階の部室で自己紹介をかねたお茶会をしますわ。ところで紫尾清人、左手に包帯まいて怪我でもしたの?」

「ファッションだ気にするな、あとフルネームでの呼び捨てよりは、清と呼んでくれる方がいいな」

「わかりましたわ・清・」


         *


五人は、理事長室と同じ階にある。サブカル部の部室にいた。洋風で小奇麗な作りである。部屋の中には、茶室と更衣室が別にあった。茶室には、先客がいた。紅桜と桃桜である。もともとは、二人の為の部屋なのだが、美章園が理事の力で割り込んだのである。結果この二人も名前だけサブカル部に入ることになった。紅桜は、五人にお茶を出した。そのお茶を紫尾清人が飲むと、左手に痛みを感じた。こっそり包帯を外すと、依然と模様が変わり二の腕まで文字のようになっていた。幸い美章園は、持ってきたカステラを切り分け皆に配っていた。紫尾清人は、包帯を急いで巻きなおし、美章園からカステラを受け取った。

「こほん!昨日出来たばかりの部ですが、早くも七名の部員を獲得していますわ。でも知った顔ばかりなので、自己紹介は中止にしましょう。何かやりたいこととかありましたら発言してもらえますか?」

「あっしは、漫画とアニメがあればそれでいいでやんす」

「私も漫画とかラノベ読めたら十分です」

「僕は、コスプレ出来たら嬉しいな、できれば皆さんと」とビンチャ

「僕は、皆に合わせるよ」

と紫尾清人が言うと、紅桜が手招きをしていた。目があった紫尾清人は、静かに立ち上がり紅桜のいる茶室に入ると、活版印刷で打ち出した紙を受け取った。

【それ!正常になった。お前の命、大切に】

「君たちはいったい・・・」

【黙秘】

桃桜は、活版印刷で打ち出した。

「まあ。いいか、何か知らないが、わくわくしてきた」

「清、何をしているのこちらに来るのよ」

「で、美章園は、何がしたいんだ」

「そうね~清のコスプレとかいいわね。物凄くピチッとした服がいいわね」

「微妙にセクハラな気もするが」

「怪しげな、気功クラブと同じにしないでくださるかしら」

「ごめん下さい」

石原瑠奈と高遠美鈴が入って来た。

「なるほど~これは」

高遠は、紫尾清人の左腕を見つめていた。石原もうなずいていた。

「時乃は、有機体だったが、これは無機物だな、しかもご丁寧に、あの方々のテコ入れまであるとは」

「もう、いったい何ですの、用事がないなら帰ってもらえませんこと」

「おう帰るよ」と高遠は、部室を出て行った。

「そうそう、今度町でオールドバイクフェスティバルがあるの、これ良かったら読んでみて」

そう言うと、パンフレットを渡し、軽く手を振り部室を出て行った。

「ほお!オールドバイクレースもあるのか、凄いな」

紫尾清人は、興味を持った。美章園は、紫尾からパンフレットを取り上げると、募集要項を見た。

『年齢十歳以上で運営が認めた方、排気量五十シーシー以下の旧車、改造は不可、一位から六位まで賞品有!一位には、ユーフォーの落し物と呼ばれるこちらの石が送られます』

美章園は、その石の写真を覗きこんだ。

「これは!空の書のブックカバーではありませんこと!」

紫尾清人以外の三人は、パンフレットを覗き込んだが。

「小さくて読めませんね」とセカイ

「ただの石でやんすよ」

「以前姫様が解凍した物ですよね。どうしてこんな所に」とビンチャ

「とにかく、このレースに参加して優勝するのよ」

「ベルニケの人間には無理でやんすよ」

「そうですよ姫様」

「セカイは、そのユーフォーの落し物が必要なのかい?」

セカイは、美章園に分からないように、小さく頷いた。

「提案なんだけど、僕とセカイが一チームで~その他の部員で一チーム合計二チームでの参加は、どうだい?」

「どうしてセカイなのかしら?」

「実は、セカイは、僕の彼女なんだ」

「えー」

まさかの交際宣言に、一同驚いた。

【言わなくてもよかったのでは】

【よいよい】

活版印刷の音がしていた。

「どう言うことですのセカイ?」

「sukinano。清様のことを好きになってしまったの!」

「これは事件でやんすね」

セカイは、涙を流し後ろを向いた。美章園は、口元に笑みを浮かべていた。

「アゴーモアイの宣言は、破棄と言うことですわね」

「ごめんなさい。私は、空の書なんて欲しくないんです。ただ清様の側にいたいだけなのです」

「でも、友達以上の関係になったと言うことは、取り出すことも可能と言うことですわ~これは裏切りですわ」

「裏切るつもりはなかったのです。最初は、一目惚れだったのです。学校にテロリストが襲撃したころから、この思いは、恋なんだとわかったのです」

「それで紫尾清人をかばったでやんすね」

「好きな人を守りたい、助けたいの一身だったのです」

そう言うとセカイは立ち上がり、紫尾清人の横に着いた。もう涙を流してはいなかった。紫尾は、もう一度パンフレットを取り六月七日土曜日が参加締切で、レースが七月五日午前十時であることを見ると、セカイの手を握り部室を後にした。

「まったくベルニケの恥ですわ」

「まあ。姫様セカイのことも察してあげてほしいでやんす」

「時にラーニャ、あなた知っていたのでは?」

「あっしは、今日初めて知ったでやんす」

「そう。ビンチャも?」

「はい。僕は驚いています」

「とにかく、ユーフォーの落し物は、わたくしが手に入れないと・・・まったくどうすればいいのかしら」

「姫様落ち着いてください。このレースに勝てばいいのでしょ。なら、地球人でレースができる人材を部に入れるといいですよ」

「石原瑠奈なんかどうでやんすか?」

「そうね~残念だけど、あの子は御使いの契約者だから無理」

「では、朝霧梨乃さんなんかどうですか?」

「あ~あの子ね。いいかもしれないわ。運動神経も悪くないわ」

「明日、僕が聞いてみますよ」

「お願いしますわ。あとはメカやレースに詳しい子」

「それは、僕がなんとか勉強してみます。姫様は、もっと部員を増やす方向で進んでは、いかがですか?」

ビンチャは、右手を机に付けて、お尻を突き出すポーズを取っている。美章園も部員を増やすことに賛成し、足を少し開き、腕を組んだ。


         *


翌日、浅香山ビンチャは、朝霧梨乃に部活入部とバイクレースに出てほしいことを頼んだ。朝霧も以前のプールでのことがあったので、ビンチャに悪いことしたと言う思いがあったので、すぐに了承してくれた。しかも、バイクのことに以外に詳しく、大会会場の宇宙人カートランドは、狭いのでツーサイクルのスクーターが良いと言ってくれた。美章園は、理事権限で授業をさぼり、バイク屋巡りをしていた。しかし気に入ったスクーターは、なかった。なのでバスに乗り隣の町へと出かけた。バスを降りると、潮の香りがしてとても気持ち良かった。地図を頼りに、郵便局の所を曲がり、スーパーを通り過ぎて、反対側にバイクショップがあった。美章園は、バイクのことはよく分からなかったので、店員に事情を説明すると、中古車で走行八千七百キロメートル、エンジンは、オーバーホール済のジーツーと言う名のスクーターを紹介してくれた。後部に羽がついているので、美章園は、ことのほか気に入った。なので悩むことなく現金で買うことにした。

「納車に二日かかります」

「わかりましたわ。配達お願いしますわ」

「承りました」

店員は、丁寧に対応した。美章園は、とてもこのお店が気に入った。


         *


三国ヶ丘セカイと紫尾清人は、紫尾屋の倉庫にいた。

「これ兄貴のバイクなんだ」

「お兄さんいたの?」

「東京で働いているけど、あまり便りがないんだ」

紫尾は、バイクカバーを取り除けた。バイクにエーアール五十と書いてありライムグリーンの色が綺麗であった。

「このバイクは、古いけど規制前のだから九十キロは出る」

「それは凄いですね」

「問題は、動くかどうかだな」

紫尾は、外にだし、エンジンをキックペダルで掛けるが、エンジン音は、聞こえなかった。十分ほどがんばったが、整備することにした。プラグが怪しいと考え、外してみる。古い燃料でべたべたであった。ワイヤーブラシで磨いてみた。キックペダルで再びエンジンを掛ける。軽くエンジン音がしたが、すぐに止まってしまった。今度は、キャブレターと考えフィルターを掃除してみる。再びエンジンを掛けると、子気味良いツーサイクルのエンジン音がした。

「いい感じだ」

「優勝できそう?」

「そうだな~やれるだけのことはしてみるよ。ユーフォーの落し物は、他人ごとではないように感じるからな」

「無理しないでね」

セカイは、少し紫尾に体を寄せた。二人は自然に手を握った。

「お兄ちゃんただいま~セカイさんこんにちは~二人とも仲いいね」

二人は、握っていた手をほどいて、顔を赤くしていた。

「私のことは、気にしなくていいよ、二人の世界を壊すようなことはしないし、壊そうとする人がいたら許さないんだから」

そう言うと、紫陽花は、家の中に入った。紫尾は、バイクのエンジンを切ると倉庫に入れカバーを被せた。セカイは、美章園のマンションに帰るのに気が重かった。しかし、自分自身の証のためにも普段通りの生活をする必要があった。


         *


「姫様ただいまもどりました」

セカイは、いつも通り美章園のマンションに入っていった。

「あら、セカイ今日は早かったのね。二人とも喧嘩しないようにするのよ」

「姫様、ありがたき言葉、感謝します」

「姫様は、紫尾清人には、興味ないでやんすよ。欲しいのは空の書だから二人のことは、応援するでやんすよ」

「僕も応援してるよセカイ」

ビンチャは、何故かミニ丈のメイド服を着ている。

「姫様、アゴーモアイ」

セカイは、そう言うと、美章園に抱き着いた。

「バイクレースの準備は、進んでいるの?セカイ」

「はい、清様のお兄様のバイクがありまして、古いけど性能は良いそうです」

「なら、一位と二位はわたくしたちのものになりそうね」

「はい姫様」

美章園は、やさしくセカイに髪の毛を撫でてあげた。


         *


サブカル部のメンバーは、中央公民館に参加登録のために向かった。以外に参加者は少なく予選落ちもないと言うことであった。ユーフォーの落し物目当てに参加するのは、よほどのもの好きである。そこに背丈が小学五・六年生で真鍮色の髪にポニーテールの女の子がいた。その子もどうやら、レースに出るようである。受付をすませ、美章園に気づき声を掛けてきた。

「美章園久しぶりだな!」

「どなたですの」

「時乃澄香の副官フラットだ」

「時乃澄香の副官と言うと、小学一年生くらいで~あ~でも顔はそっくりね。どいうことかしら」

「そのうち分かるさ、お前たちもレースに出るのか、怪我しないようにがんばれよ」

そう言うと、ヘルメットをかぶり、五十シーシーのバイクで帰っていった。入れ替わりに、来たのが、あの中野であった。

「また。お前らか、変てこなことして、レースに勝とうとかするな、ぼけ」

「中野も参加するのか、これは激戦だね」

朝霧梨乃は、震えを覚えた。でも体重の重い中野なら、ライバルにはならないとも考えていた。ただ練習するのに、自動車部のコースを使っているだろうから、侮れないとも思っていた。


         *


日曜日の午後に、サブカル部の部員は、宇宙人カートランドに集合していた。真新しいレーシングスーツを着た二人は、バイクに跨っていた。美章園が合図を出すと、二人は、アクセルを回した。スタートは、ジーツーの朝霧梨乃が早かった。しかし、次のコーナーでは、並び直線でエーアールの紫尾清人に抜かれた。三十分の練習時間は終わり、ピットに二人は、帰って来た。

「朝霧さん乗れてるね」

「小学生のころ父に、ポケバイ乗せられてね、よくここ走ったのよね」

「なるほど、僕が前走ったけど、本番だとどうなるか分からないな」

二人は、ヘルメットを外し、スポーツ飲料水を飲む。

「二人ともナイスですわ」

「バイク乗るの上手いでやんすね」

「当日、予選に出るのは、二十人だそうですよ」

「以外に少ないな」

「そりゃ商品があれではね」と朝霧

「ユーフォーの落し物なら、オークションでぐにゃぐにゃ」

美章園は、ビンチャの口に手をあてて喋れないようにした。そう、価値がわかる者から見れば億を積んでもいい商品、これ以上ライバルが増えることを望んでいなかった。とは言うものの登録受付は、終わっているので、心配しすぎることもないかとも考えていた。

「姫様何をするのですか~息ができないよ」「ビンチャ、ユーフォーの落し物のことは、口に出してはいけないでやんす」

「そうですね。ごめんなさい」

「いいのよ、これからは気をつけて」

美章園達は、細々としたものを片付けて、バックに入れた。バイクは、原付免許のある朝霧に乗っていってもらうことになっていた。

「そうですわ、サブカル部でツーリング行けるように、原付免許を皆で取りましょう」

「あっしら、下手でやんすよ」

「免許センターで五十問のテスト受けてから合格者は講習を受けるだけだから、大丈夫ですわ」

「講習でこけるとかないでやんすか?」

「自転車に乗れない、おばさんでも大丈夫らしいですわ」

「本屋で問題集とか売っているので、勉強すれば、一発合格ですよ」と朝霧

美章園達は、数件の本屋を回り、原付免許一発合格と言う本を買った。


         *


その日は、梅雨の中休みで曇り空であった。南国特有の湿度もなく、気持ちいい程度の風も吹いていた。美章園達四人は、新幹線とバスを乗り継ぎ、運転免許試験場に来ていた。視力などの測定や色の識別、耳の聞き取り、などの検査を受けた。

「君は、本当に十六歳?」

ラーニャは、高校生に見えないので声をかけられた。

「高校生には、見えないかもでやんすが、この戸籍謄本を見ればわかるでやんす」

「確かに十七歳だな。あとその耳みたいなの髪の毛なのか?」

「髪の毛でやんすよ」

「おしゃれだな」

「しかも君たち全員四月十四日生まれなのか、凄い偶然だな」

他の職員も

「もう一人君男の子だよね。服装とか髪の毛とか男らしくしないとな」

口元が薄らと笑っていた。ビンチャは、そのようなことに慣れていたので、気にもしなかった。

その後、試験場での試験に四人は、合格し実地講習のみであった。

「僕こけないかな」

「アクセルを、ゆっくり開けると大丈夫ですわ。危険を感じたら、足ブレーキですわ」

ブレーキを握り、セルスターターでエンジンを掛け、ブレーキを離し、アクセルを回す。フォーサイクルなので、意外にスムーズに発進した。コースを一周すると、とても楽しい気分になった。ビンチャだけは、スタートして直ぐに足を付いて転がった。幸い怪我もなく、バイクも傷一つなかった。その後、免許書が渡され、晴れて原付ライダーになった。「ベルニケの人間が運転免許証を所得する日が来るとは思いませんでしたわ」

「地球に来て、弱点が変わったとか」

「僕らは、まだ公道走っていないので、安心できませんよ」

「あっしは、ヘリの操縦経験あるでやんす。なので弱点が変わった方に一票でやんす」

「私は、一周でも怖かったですよ」とセカイ

「僕らもスクーター買うのですよね」

「もちろんですわ。マニュアルギアーのほうがよろしければ、それでもいいですわよ」

「スクーター以外無理でやんすよ」

「そうですよ。アクセル開くだけでも怖いのに、その上ギヤーチェンジなんて、ガクガクプルプルです」

「皆のスクーターは、後日探すことにしましょう~それまでは、ネットで観たり、サブカル部の愛車ジーツーに乗ったりしましょう」

美章園達四人は、その後宇宙人の町に戻ってきた。部活は、中止して自由行動にすることにした。


         *


ラーニャは、すぐに乗りたかったので朝霧梨乃の家に来ていた。呼び鈴を鳴らすと、弟が出てきた。

「お姉さんいるでやんすか?」

「姉ちゃん猫の耳付けた友達がきてるよ」

「分かったラーニャね。原付免許取れたのかな」

「こんにちはでやんす。無事に免許取れたでやんす」

「それは良かったね。で、乗るの?」

「乗るでやんす」

二人は、駐輪所にある、ジーツーからヘルメットを取り出し、ラーニャは、かぶった。もしもの時のために、手袋をした。

「最初は、ゆっくりアクセル開けるのよ」

「こうでやんすか」

ラーニャは、アクセルを軽く開けたつもりだったが、マシンスペックが高いため、ウィリー状態になり、ジーツーから手を離た。そのためジーツーは一回転して、傷だらけになった。

「ラーニャ!大丈夫!怪我は、ない?」

「大丈夫でやんす。でもジーツーが」

「大丈夫、大丈夫フロントカバーは欠けたけど、本体は、異常なし、もう一度乗りましょう」

「怖いでやんす」

「大丈夫」

朝霧梨乃は、優しくラーニャ促すと、恐る恐るジーツーに乗ると、セルを回しエンジンを掛ける。マフラーから白いツーサイクルの煙がでて子気味良いエンジン音がした。故障はないようである。ゆっくりと団地の回りを周回した。ラーニャは、満足したようで。ジーツーのエンジンを切り、スタンドを立てヘルメットを脱いだ。

「ありがとうでやんした」

「壊れた所は、後で美章園さんに、言っておくね」

「あっしが言っておくでやんすよ」

「なら、お願いしますね」

ラーニャは、ヘルメットを朝霧に渡すと、一礼して、マンションの方へ足を向けた。


         *


「姫様ただいまでやんす」

「おかえりラーニャ」

「実は、ジーツー乗ってきたでやんす。でもこけて少し壊れたでやんす」

「ラーニャに怪我はないのね」

「怪我はないでやんす」

「どの辺りが壊れたの?」

「フロントのボディーでやんす」

「バイク屋さんに電話しておきますわ」

「ありがとうでやんす」

美章園は、天球儀を静かに眺めていた。一カ月後のレースは、何が何でも優勝しないといけない。問題は、フラットが出場することである。新幹線さくらジャックの時に、あの大男達を素手で倒した子供。今は、小学六年生位に背が伸びている。きっと能力も向上しているはず。できれば、仲間に入って欲しいところであった。

「フラットが何処に住んでいるか知っている人いる?」

「たぶん時乃様と同じ家にいるのではないでしょうか」

「そうねーそうかもね」

「タクシーでスクエアーフォーの社長宅までお願いしたらいいかも」とセカイ

「そうね~わたくしフラットに会いに行ってきますの」

美章園は、軽く身支度をすると、タクシーを呼び時乃澄香の家に到着した。呼び鈴を押すとインターフォンからフラットの声がした。

「姫さま、何の用だい」

「少しお話がしたいの、家の中に入れて下さらないこと」

「まあ。いいけど、あまり驚くなよ」

フラットがルームウェアー姿で出てきた。

「姫さん、入っておいで」

美章園は、恐る恐る玄関に入った。ごく普通のサイズの玄関で靴を揃えスリッパに履き替える。廊下左側は、広いリビングになっている。ソファー越しに真鍮色にツインテールの頭が見える。美章園は、見覚えがある程度の記憶しかなかった。しかしその子と目があった時に思い出した。

「トキノスミカ!」

「気づくのが遅いな」

「アメリカに行っていたのではなくて」

「実はアメリカには行っていない。プラス何処に行っていたかも言えない。一つだけ言えるのは、りかるはクエストには失敗したようだな」

「それは、そうかもしれませんけど、わたくしのかわりに、セカイが紫尾清人と仲良くなりましたわよ」

「なるほど、それで、色々動きがあるわけだ」

「色々といいますと」

「ユーフォーの落し物を狙っているやつらがいる。警備は、厳重にしているが、優勝者の手に渡る時が危険だ!だからフラットにも、レースに出てもらうわけだ」

フラットは、二人に紅茶を用意した。

「だいたい優勝賞品がユーフォーの落し物とか、主催者側もおかしく思いますわ」

「商工会に手回しした、宇宙人か異世界人がいそうだな、プレアデスの残党でなければよいのだが」

「あれが、原子力発電推進塾にでも渡ったら、面倒なことになる」

「空の書が面倒なのは知っていますけど、ブックカバーも面倒ですの?」

時乃澄香は、紅茶を飲みながら

「カバーが実は重要なんだ、放射能を食べることができる」

「どういうことですの」

「放射能を転移することができる。それもとても簡単に、だから事故で漏れる放射能を転移させて事故の心配はありませんから、もっと原発を増やしましょうとか危険だよ、何処に転移したかも知らないで」

「何処に転移しますの」

「何処だか分からないから怖い、東京かもしれないし、大阪かもしれない」

「それは、怖いですわ」

「商工会に圧力かけて、取り上げるのも筋が通らないから、レースで正々堂々と貰い受ける予定なのだが、りかるも欲しいわな」

「当たり前ですわ、なんのためにバイクの練習していると思っていますの」

「今日、りかるが家に来た理由は、たぶん。フラットが優勝しても、ユーフォーの落し物を手に入れたい、そんなところだろ?」

「その通りですわ」

「残念だが、俺が優勝したら、渡すわけにはいかないな」

「フラットは、現在、身長百三十五センチメートル、年齢二十歳となっている。以前よりは大きくなったが、小柄でバイクの取り回しも容易ではない。りかる本気で勝負しよう!」

「わかりましたわ。わたくしが勝った時は、ブックカバーの化石化を解いて下さらないこと」

「いいとも、その時には、無作為転移することないようにしておこう。あと空の書の本文読んだことあるのか?」

「ないですわ」

「そうか、それはよかった」

「よかったとは?どう言うことですの」

「本文は、わたしが書いた小説なのだよ」

美章園は、飲んでいた紅茶をこぼした。フラットがティッシュを持ってきて拭いてあげた。

「だから前聞いただろ、空の書が何なのか知っているのかと」

「面白いジョークですわ!優勝してから詳細に確かめてみますわ」

「ご自由に」

時乃は、長い真鍮色の髪をふわりとさせ、ソファーに座りなおした。

「時に、鳳ケイがこの町と大阪をリニアで結びたいと言っていると聞いたが、りかるは、どう思う?」

「そんなの五カ年計画になりますわ」

「そうでもない、トンネルだけなら直ぐにでもできる。それがわたしの能力だ」

「チート能力もいいところですわね。でも良くてよ」

「良くてよと言うのは、作ることに賛成と言うことかな?」

「ですわ。宇宙人の町と美章園駅を繋ぐリニア素晴らしいですわ」

「あと一つ、こちらからの一方通行な話だが、地下に都市を移設する」

「それは、未知の生命体と戦争になった時に、対応する都市ということかしら」

「そうかもしれないが、どちらかと言うと、自然災害に対応するためのものだ」

時乃は、リビングのスクリーンに、色々な災害の様子を端末によって映し出した。

「理解しましたわ。このままだと何の準備なく起こると言うことですわね」

「そうだな、来週早々にでも、このことは進めたいと思う」

「ところで、トキノスミカは、現在も疑似体なの?」

「人間でもあるが、昔の状態に近い、詳細は、言えないが、これを見て創造してくれたらいい」

と言うと、時乃澄香は、輝き出し、背中に綺麗な四枚羽が出てきた。

「四枚羽の御使い」

美章園は、少し後ずさりした。時乃は、直ぐに人間体にもどり。

「そう言うわけだ」

「わかりましたわ。だけどレースには、負けないですわ」

時乃は、気を利かせて、フラットに、車でマンションまで送るように言った。美章園は

「また来ますわ」と言って車に乗った。


        *


美章園は、天球儀を見つめながら、考え事をしていた。そこに浅香山ビンチャが来た。

「姫様、お困りですか?」

「困ってはいないですけど、レースと言えば、レースクィーン・・・ビンチャ!レースクィーンになりなさい。コスチュームは、これ!」

「そんな水着みたいなの恥ずかしいですよ」

「ビンチャなら、何処から見ても大丈夫、とりあえず着てみて」

「はい。姫様」

ビンチャは、コスチュームを受け取り、自分の部屋で着替えた。

「姫様、やっぱり恥ずかしいです」

「いいから、おいで」

「はい」

ビンチャは、少し赤い顔をしながら、白生地に赤文字で鳳重工と書いてあるワンピースの水着を着ている。

「やっぱりビンチャは、何を着ても似合うわね」

「そうですか~セカイ様とかのほうが良いのではないですか?」

「セカイは、ピットクルーですから無理です。なのでやはりビンチャに決まり」

「僕もピットクルーですよ~ラーニャ様ではだめなのですか?」

「ラーニャは、警備とか忙しいですからね。無理ね」

「なるほど。姫様のご命令なら、ビンチャこの任務がんばります」

「うむ。がんばりなさい」

「はい!姫様」

「ところで、ビンチャは、自分のスクーター決めましたの?」

「いえ、まだです」

「カタログあるから、検討してね」

そこにラーニャがやってきた。

「ビンチャは、またしても可愛い恰好してるでやんす」

「これは、僕の趣味ではなくて、姫様から、レースクィーンをして欲しいと言うことで着ています」

「ビンチャは、あっしよりも、スタイルがいいでやんすね」

「はわわ」

「ラーニャも自分の乗るスクーター早く決めるのよ」

「了解でやんす。姫様は決めたでやんすか?」

「わたくしは、ジーツーの白にしようかと思っていますの」

「ジーツーは、暴れ馬でやんすよ。姫様は、フォーストロークのほうが良いかと思うでやんす」

「そうね~ラーニャが扱けたくらいだから、もう少し選んだほうがいいかしら」

そう言うと、美章園は、カタログを見始めた。

「僕は、このクーピーのツートンカラーのがいいかも」

「あっしは、赤のボーノがいいかもでやんす」

「二人とも選ぶの早いですわね。わたくしは、白のゼットアールがいいかしら」

セカイも部屋から出てきて、話に加わった。「私は、ピンクのボーノが良いかもです」

「姫様は、みんなに原付スクーターを与えて何をしたいでやんすか?」

「あら、言っていなかったかしら、皆でツーリングに行くのよ」

「初心者でツーリングですか~僕生きて帰れるかな」

ビンチャは、両手を拳にして顎の下にいれ、もじもじしている。

「法定速度三十キロ飛ばしても四十キロ、なんとか生きて帰れると信じたいですね」

「何時行くでやんすか?」

「七月二十一日月曜日、午前五時出発ですわ」

「何処に行くでやんすか?」

「一応、長島の予定ね。雨天中止」

そう言うと、美章園は、天球儀を覗き込んだ。

「姫様、私たち四人で行くのですか?」

「まさか、優勝のお祝いもかなてですから、紫尾清人と朝霧梨乃も強制参加ですわ」

「姫様ありがとうございます」

「そう言えば、今日、時乃澄香に会いましたの」

「えー」

「あの時乃様ですか、僕たちを助けてくれた恩人です」

「ビンチャは、あの時以来でしたわね。わたくしたちは、何度か会っているの」

「そうなのですか~僕も会いたいな」

「早ければ、明日会えるかもしれませんわ」

美章園は、そう言うと、天球儀から離れて、ソファーに座った。


         *


時乃澄香は、理事長室にいた。私物を片付けにきたのである。そこに着替えのため浅香山ビンチャが入って来た。

「時乃様ではないですか、お久しぶりです」

「一世紀またいでいると、お久しぶり以外の言葉があるといいな」

「また、会えて嬉しいです」

「わたしの方こそ嬉しいよ。着替えのようだね」

「あ、はい」

「奥に行っているから、着替えるといい」

「ありがとうございます」

「バイクのレースの方は順調かい?」

「ベルニケの人間から見ていると、朝霧さんとか紫尾さん凄いです。膝擦りながら、コーナー曲がっていくのですよ」

「うちのフラットも、そろそろ宇宙人カートランドで練習始めると思うよ」

「そうなんですか~」

「今は、スクエアーフォーの敷地内で練習しているけどね」

ビンチャは、水着に着替えると、急いで出て行った。予鈴が鳴ったのである。


         *


フラットは、苦戦していた。宇宙人カートランドは、直線が短いので、アールゼットでは、取り回しが悪いのである。マシンの変更はできないので、慣れるしかなかった。夕方になり、マシンも増えてきたので、フラットは、ピットに入った。そこに、美章園達が入って来た。互いに軽く挨拶すると、フラットは、ベンチに座って、ドリンクを飲んだ。

紫尾清人は、フラットのことを知らないので、軽く頭を下げた。

「あの真鍮色の髪の子は、セカイの知り合いかい?」

「はい、一応協力者でもあります」

「ユーフォーの落し物が貰えるとか?」

「さすがにそれはないですけど。他の人の手に渡るよりは良いかと思います」

紫尾は、ヘルメットをかぶり、軽くコースを走った。朝霧も準備ができ、コースに入っていった。二人とも順調な仕上がりであった。

レース前日にポジションを決める予選があった。ポールポジションは、エムビーエックスに乗る中野であった。二位が朝霧で三位が紫尾で何故かフラットは十一位でのスタートであった。明日の天気予報は、晴れであった。


         *


初夏の太陽がアスファルトを焦がしていた。カメラ越しだと逃げ水があるかのごとくに写る。宇宙人カートランドは、多くのギャラリーで埋め尽くされていた。ライダー達は、一周ペースメーカーと走り、それぞれのポジションに着いた。

「暑いでやんす」

「ここはまだ、ましですわ」

団扇で扇いだり、氷袋で冷やしたりしながら、スタートの時を待っていた。アクセルを吹かす音が大きくなり、その時が近いことを期待させた。信号がスタートのサインを出し、各車一斉にスタートした。ツーサイクルオイルの匂いが心地よかった。中野、朝霧、紫尾は、第一コーナーに入っていった。中野は、エンジンブレーキを上手く使い、コーナーを膝を擦りながら抜けていく。朝霧は、一週目からのハイペースに付いていくのがやっとであった。紫尾は、二人の様子を見ながら、朝霧の前に出ることを選択した。朝霧は、紫尾のスリップストリームに入ることができ、気分を落ち着かせることができた。ビンチャがレースクィーンの服で九と書いたパネルでサインを出す。あと九週で優勝者が決まる。フラットは、レーサーに怪しい人物がいるかどうか見極めながら、走っていた。エヌエスワンのライダーの背中にプルトニュームのマークがあったので後ろに付き監視していた。ビンチャは、レースクィーンの服で八と書いたパネルでサインを出す。中野は、早かった。この短いストレートで七十キロは出ている。紫尾と朝霧は、γに乗るライダーに抜かれていた。これ以上トップとの開きは、負けを意味すると思い全力でコーナーを駆け抜ける。ビンチャは、七と書いたパネルでサインを出す。

「姫様、中野が優勝したら、どうなるでやんすか?」

「あ~それ、わたくしも今考えていたのですわ」

「金で売って貰うでやんすか?」

「そうしたいのは山々ですけど、あの中野が売るとは思えませんわ、どうせ『ぼけ』とか言って無視するでしょうね」

『S字カーブでエムビーファイブの荒川転倒』

ビンチャは、六と書いたパネルでサインを出す。

『最終コーナーでハイアールの田中転倒』

中野は、早かったが周回遅れを処理するのにもたついていた。

ビンチャは、五と書いたパネルでサインを出す。

紫尾は、全力でストレートを走った。スピードガンで七十八キロ出ていた。いっきに中野との差がなくなりスリップストリームに入った。朝霧は、アールジー五十イーに抜かれ四位であった。

ビンチャは、四と書いたパネルでサインを出す。

周回遅れのエヌエスワンは、中野の進路を妨害していた。お陰で紫尾はあっさり中野を抜くことができた。

ビンチャは、三と書いたパネルでサインを出す。

五位の位置にいたエヌエスが、朝霧、中野を軽くパスし紫尾のスリップストリームについた。

ビンチャは、二と書いたパネルでサインを出す。

紫尾は、エンジンが熱だれしていることに、気が付いていた。ビンチャは、一と書いたパネルでサインを出す。ラスト一周にギャラリーも一段と騒ぎ出した。最初のコーナーで紫尾のエーアールから排ガスが大量に出た。エヌエスのライダーは、視界を失い、アクセルを緩めた。S字に入っても加速するごとに、排ガスが大量に出た。そのおかげで、二位との差は広がり、最終コーナーを立ち上がり、全力でチェッカーフラッグを受けた。

『優勝は、エーアールの紫尾清人選手、二位は、エヌエス尾上恭介選手、三位は、エムビーエックス中野元徳選手』

紫尾清人は、ヘルメットのバイザーを開け、ゆっくりコースを一周しピットに入って来た。ヘルメットを取り、スポーツドリンクを飲んだ。セカイは、「優勝おめでとう」と言うとタオルを渡した。ビンチャは、エーアールの横に立ちポーズを取っている。地元新聞社も来ているので、写真も撮られていた。朝霧もピットに入って来た。四位と大健闘である。

美章園は、スポーツドリンクとタオルを朝霧に渡した。

「美章園ごめんね」

「気にしなくていいのよ。紫尾清人は、優勝したことですし、自分の運命を自分で決めることができるわ」

「それは、どう言うことですか?」

「それは、彼を見ていたら分かりますわ」

朝霧は紫尾の方へ顔を向けた。


         *


表彰式も終わり、お決まりのコーラかけをした。トロフィーとユーフォーの落し物は、セカイに直ぐに渡した。人ごみに紛れてのことであった。セカイは、睡眠性の薬物を嗅がされ意識を失った。気が付いた時には、ユーフォーの落し物は盗まれ、美章園が介抱していた。

「あ!姫様」

「セカイに意識が戻ったでやんす」

セカイは、ユーフォーの落し物が盗まれたことに気が付き。

「姫様、ごめんなさい」

「セカイが無事なら、いいのよ。それにしてもいったい誰がこんなことを」

時乃澄香の家での会話を思いだして。

「原子力発電推進塾かもしれないわね」

フラットは、プルトニュームのマーク入りのツナギを着た二人組を、アールゼットで追いかけていた。総合運動公園近くまで来たとき、ヘリが降りてきて。フラットに対して、マシンガンを撃ってきた。タイヤとラジエターに命中し、フラットはヘルメットを投げ捨てた。

「こんな小さな体でなければ」

ユーフォーの落し物を受け取ったヘリは、高く舞い上がっていった。

(石原!今のヘリ追尾たのむ)

(了解です)

石原瑠奈は、スバルキリアと言うヘリのローターを外したような乗り物に乗りデジタル迷彩をかけていた。東シナ海公海上でヘリは、潜水艦に近づき、ユーフォーの落し物を渡した。

(澄香どうしましょう?)

(あまり人間のいざこざに関与したくないのだが、物が物だ、対処しよう)

(私は、どうすればいいかな?)

(石原は、実践経験少ないから、そのまま待機してくれるか)

(了解です)

時乃澄香は、転移しようと聖法陣を展開していると、紅桜と桃桜が来た。

「時乃澄香まて!今回のことは、人間による解決が望ましい」

「なので武器を与えて解決させると良い」

「補助的なことは認める」

「了解です」

時乃は、聖法陣を解除し、携帯電話を取り出しアドレス帳から連絡を入れた。


         *


美章園りかる、上野芝ラーニャ、三国ヶ丘セカイ、浅香山ビンチャ、紫尾清人は、時乃澄香の後ろを歩いていた。そこは、時乃の家からの地下通路であった。

「何処に向かってるでやんすか?」

「格納庫」と時乃

「なんのですの」

「りかる達が乗る船」

「操縦は、石原にしてもらう」

明るい開けた所に出てきた。そこには、不知火と書いた船があった。

「この亜空間駆逐艦不知火で、ユーフォーの落し物を奪還して欲しい。できるな!りかる」

「もちろんですわ。ベルニケの科学力いや、地球人の科学力いや、とにかく人間の力で奪還してやりますわ」

「日本にこんな所があり、こんな戦艦があるなんて、時乃澄香あんたは、何者なんだ」

紫尾は、時乃を見つめたが、返事はなかった。

「澄香~お待たせ」

石原瑠奈は、フラットと交代して帰って来たのである。

(フラットそちらの様子は?)

(現在も同じ公海上に留まっている)

(了解)

時乃は、皆を艦橋に案内した。

「なんか戦艦と言うよりは、ビッグスクーターと言う感じだな」と紫尾

「以外に狭いのですね」

「船内には、二十人ほど、従業員が働いてくれている。もちろん普通の人間だ」

「この船に乗っている時点で、普通ではない気がするでやんす」

「わたしは、一緒には、いかないからそのつもりで」

時乃は、そう言うと、艦橋から出て行った。

「さあ!急がないと!皆、空いている席に座って」

「艦長は誰でやんすか?」

「本当は、美章園さんにしていただきたいけど、今回は、私がします。作戦は、魚雷に音爆弾を入れておきます。これにより大多数の者は、失神するでしょう。その間に、ユーフォーの落し物を奪還します」

「その作戦なら、あっしが役に立ちそうでやんすね」

「操作で分からないことは、画面右にいるマスコットが教えてくれます。なのでキーボードを使ってチャットで話かけてね」

「なるほど~」

「聖方陣展開」と石原瑠奈

御使いの文字が額に浮かぶ。

「空間転移二分」

駆逐艦不知火は、真っ暗な亜空間に出た。

「亜空間機関始動!セカイさん了解を押してください」

「はい。これですね」

子気味良いエンジン音が響き、船は、進路を変えた。

「座標エックス三百二ワイ七十五ゼット十二へ移動」

石原は、エンジンのパワーを上げていく。

「わたくしは、何をすれば」

「そこにあるヘッドホンを付けて、何かしらの音がしたら教えて、わからない時は、先ほどのマスコットに聞いてね」

「何か聞こえたわ」

「スピーカーに出してみて」

『ウオンーウォンーウォン』

「これは、プレアデスの船?音声照合をビンチャさんお願いします」

「こうですか?」

「そうそう」

『照合プレアデス軽巡洋艦』

「紫尾さん主砲の撃ち方わかりますか?」

「照準合わせて、このトリガー引くんだな。ゲームみたいなもんだな」

「あの船は、敵です。容赦しないで沈めてください」

「敵と言われても、何の敵なんだ?」

「異世界人」

「去年の戦争のか?」

「残党ですね」

駆逐艦不知火を捕えたプレアデス艦は、魚雷を発射してきた。石原は、出力最大で離脱し、ダミーを打ち出しデコイにした。

「今度は、こちらから攻めます。主砲準備お願い」

「了解」

「ミサイルは、こちらで発射します」

「了解」

「五秒後、射程に入ります」

石原は、ミサイルを全弾発射し、すれ違いに主砲を打ち込んだ。敵も応戦してきたが、物理火力で有利な不知火が圧倒であった。

「全弾命中、敵軽巡洋艦爆散」とビンチャ

「通常空間に出ます。音爆弾の用意を」

「了解、いつでもいいぜ!」と紫尾

「聖法陣展開、空間転移通常空間へ」

駆逐艦不知火は、改ロサンゼルス級潜水艦の後方の空間へ、聖法陣とともに現れた。

「音爆弾発射!」

音爆弾は、潜水艦に命中、甲高い音と共に、爆発した。石原瑠奈は、不知火を潜水艦に横づけした。従業員がタラップを用意し突撃準備をした。艦橋にいた六名は、武器庫でスタンガンなどを身に着けた。従業員の一人がガス溶接機で丸く溶断し中に入れるようにした。石原瑠奈他五名は、敵潜水艦に入った。すると敵乗組員は、目を回していた。頭の回りを鳥が飛びピヨピヨしている感じである。

「きっと艦長室にあるでやんす」

艦長室は、鍵がかかっていたが、ラーニャが電子ロックを解除し簡単に開けた。中に入ると、大佐は、ラーニャをつかみ、銃を突きつけた。

「また。美章園か!またしても邪魔をしてくれる。武器を捨てるんだ!こいつ死ぬぞ」

そう言うと大佐は、一発威嚇射撃をした。皆武器を捨てた。

「死ね!美章園」

大佐は、美章園に銃で三回撃った。とっさに美章園は、トランスミッターを起動させた。緑色の閃光が辺りを包み美章園と浅香山ビンチャは消えた。怯んだ大佐に、紫尾は、体当たりをした。銃は、転がり、ラーニャは、逃げることができた。そして石原瑠奈は、額にもう一つの御使いの文字を浮かべ。

「雷!直流変換」

大佐の腕を握った。大佐は、感電し涎を垂らして崩れ落ちた。


         *


「姫様、ここどこ?」

「ニュースで見たことありますわ。ここは尖閣諸島ですわ」

「早く戻らないと・・・」

「そうですわね。もう一度起動します」

「それは、何ですか?」

「トランスミッター魔法の道具よ」

「?」

緑色の閃光に照らされ、二人は消えた。

「!」

「痛い」

二人は、潜水艦の艦長室に現れた。

「姫様ご無事で何よりです」

「このトランスミッターが、役に立ちましたわ」

「ユーフォーの落し物あったでやんす」

「でかしましたわラーニャ!さあ皆さん逃げるのよ」

六人は、来た道をもどり、駆逐艦不知火の艦橋に入った。

「通常空間用エンジン始動」

「始動了解」とセカイ

「反重力板始動」

「始動了解」

「聖方陣展開、空間転移深さ十五秒」

船体は、透明化した。大して時間もかからず、格納庫に戻ってきた。船から降りると、時乃澄香が出迎えてくれた。ラーニャは、時乃にユーフォーの落し物を渡した。

「聖法陣展開」

ユーフォーの落し物は、化石から、普通のブックカバーになった。それを、紫尾清人に渡した。

「君の物だからな。使うもよし、止めるもよし」

「使い方がわからないのですが・・・」

「恋人になった。三国ヶ丘セカイが紫尾清人の左手にブックカバーを巻きつけるだけでいい。普通の人間になれる」

「清人様、普通がいいですよ」とセカイ

唾を飲み込み、思い切って、ブックカバーを左手に巻きつけるように、セカイに頼んだ。

黄金色に輝き出し、それは、一冊の本になった。紫尾清人の碧眼の目も黒い瞳になった。

「清人様、目が黒くなりました」

「黒くても、好きでいてくれるのかい?」

「もちろんです」

本は、美章園に渡した。空の書と書いた表紙をめくると。

『堕天使のすみか』

「これは、もしかして、本当に、トキノスミカの本?」

「そうだと言っただろ」

六人は、苦笑した。

「家に行こう」

そう言うと時乃は、地下通路に入っていった。皆も続いていった。リビングに入ると、テレビの電源を入れた。


『海上自衛隊は、先ほど、原子力発電推進塾の幹部を拘束しました。この人物は、新幹線さくら乗っ取り、虹の原学園立て籠り事件など、複数の事件に関与しているもようです』

『続きまして芸能ニュースです』


時乃は、テレビを消した。

「色々あったが、皆無事で何より」

時乃澄香は、用意させておいた食事を皆に勧めた。

「くーコーラうめぇ」

「この料理は、時乃様が作ったでやんすか?」

「それはありえない」

と言いながら、フラットが入って来た。

「ところで石原様は、どういう立場でやんすか?」

「それは、想像にまかせるよ。この一カ月の間に、わたしのマスターではなくなったことだけは言っておこう」

「あ~そう言うことね。トキノスミカがマスターになったのね」

「何が何だか、僕にはさっぱりわからない」

「分からないことは、分からないでいい。わたしのことも、何となくしか記憶されないだろう」

食事も終わり、フラットが皆を送ることになった。


         *


学校では、紫尾清人瞳の色が黒くなったことは、話題になったが三日もすれば、皆気にしなくなっていた。

「清、トイレ行こうぜ」

「おう」

「姫様、その本は、なんでやんすか?」

「電子工作の本ですわ」

「また、ハンダ付けするでやんすか?」

「そうね~この電磁石と言うの作りたいわね」

「また、宝具が出来そうでやんす」


七月二十一日その日は快晴であった。美章園達は、真新しい、スクーターに跨っていた。この日集まったメンバーは、美章園りかる、三国ヶ丘セカイ、上野芝ラーニャ、浅香山ビンチャ、紫尾清人であった。朝霧梨乃は、アルバイトの関係で来ることができなかった。

「姫様、僕は、こんな服装で良いのですか?」

「ビンチャは、可愛いから、そういう服でないとだめですわ」

ビンチャは、フリルのキャミソールにミニスカート、白色のニーソックス、ツーリングでは、ありえない服を着ていた。

「こけなければいいのですが、心配です」

「それよりも、あれが見えるほうが心配でやんす」

「風の抵抗を計算して、ビンチャのスカート丈なら、めくれないと出ていますわ」

「なら安心でやんす」

五人は、静かにアクセルを開け、美章園を先頭に走りだした。新品同然のスクーター四台と旧車エーアール、国道を走るとトラックが多くとても危険であった。長島方面へ右折してからは、比較的安全であった。黒の瀬戸大橋を渡り、道の駅で休憩をした。五人いると、暴走族ではないが、それなりの雰囲気がある。海沿いを回るコースでもう一つの道の駅まで来た。美章園は、自販機で缶コーヒーを買いゆっくりと飲んでいた。

「姫様、これからどうするでやんすか?」

「どうするといいますと」

「空の書は、手に入れたでやんす」

「これからの目標ということね。何かで日本のトップに立ちましょうか」

「それは、どうやってなるでやんすか?」

「方法は、いくらでもありますわ。例えば、バイクの耐久レースに出るとか」

「バイク好きでやんすね」

「ラーニャは、嫌いなの?」

「あっしも自分で運転できる楽しさを知ったでやんす」

「でしょ」

「僕もバイク好きですよ。だってベルニケ人のままなら運転なんて出来なかったですよ」

「皆!次の目標に向かって、がんばりましょう」

「がんばるでやんす」

「アゴーモアイ」とセカイ

「アゴーモアイ」とビンチャ

「アゴーモアイ」とラーニャ

「僕は、よくわからないが、アゴーモアイ」

「ありがとう皆!それじゃー行くよー」


        了


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