01 都市伝説
理世が最初にその単語を耳にしたのは、ナナノから病理検査報告が届いた数日後、大学を出て駅へ向かう途中だった。
「やっぱイワザワさんの仕業じゃないかな」
「わたしもそう思う!」
「えー、いるわけないだろ、イワザワさんなんて!」
三人の小学生──背格好からして低学年だろうか──が、そんな会話をしながら理世とすれ違っていった。
──イワザワさん……?
話振りからすると怪談話の類のようだった。理世も小学生時代は、当時の友人たちと、怪談やら呪いやら都市伝説やらで盛り上がる事が多かった。
──トイレの花子さん、テケテケ、シャカシャカ、三本足の人形……他にも色々あったなあ。
それらの大半がいかに創り話らしいか、冷たい言い方をすればくだらないかは、一九歳の今なら考えなくたってわかる事だが、当時はどの話も本気で信じていたものだ。
それに、今だって全く信じていないわけではない。現に、ついこの間恐ろしい体験をしたばかりなのだから。
──あんなのもう二度とごめんだけどね!
数十分後、理世は再び同じ単語を、今度は自宅近くで耳にした。
「この辺にも出るのかな、イワザワさん」
「えー、まさか。誰も見たって言ってないじゃん」
話題にしているのは、五、六年生くらいの少女二人だ。
──結構流行ってるのかな?
帰宅後、理世はモカにメッセージを送った。
〝イワザワさんって知ってる? 小学生の間で流行ってる怪談とか、都市伝説みたいなものだと思うんだけど〟
聞くよりも先に検索した方が早い事くらいはわかっていた。単にモカとやり取りする口実が欲しかっただけに過ぎない。
返信が届いたのは、二三時を過ぎ、そろそろ布団に入ろうとしていた頃だった。理世自身、メッセージを送った事すら忘れかけていた。
〝返事遅くなってごめん。知らなかったから弟に聞いてみたよ。何か最近、怪談話を得意としてる「ロアニイ」っていう、おじさんの動画配信者が広めた都市伝説だって。やっぱり小学生を中心に人気あるみたいで、弟も時々視聴してるみたい〟
「ふーん……」
〝有難う! 今度時間があったら観てみるよ〟
〝って事は、そこまで興味ないな?〟
「ありゃ、流石モカさんわかってらっしゃる」
〝バレた?〟
〝バレバレ〟
──だって、小学生に人気って事は、全然怖くなさそうだし……。
つい最近、見舞いのため訪れた病院で、不可解かつ恐ろしい目に遭ったばかりだ。ちょっとやそっとの話では何とも思わないだろうという、妙な自信があった。
〝明日も仕事だから寝るよ。おやすみ〟
〝おやすみ! 情報ありがとね!〟
その後すぐ、理世の頭の中は大学の課題や同級生たちに関する内容で占められ、イワザワさんもロアニイも何処かへ行ってしまった。