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七話

 「では、律さん。 魔法に存在する属性を全て答えてください」

 「はい! 基本属性の炎、水、氷、風、草の五属性、特殊な力を持つ闇と光。 そして、今は亡き魔法の"聖"属性です」

 「素晴らしい、よく予習していますね席について下さい」


 私は席に座り、びっしりと書かれたノートを見て、息を吐いて、笑みを浮かべます。

そして、横にいる先輩に顔を向け、口を開いて小さな声で言葉を発します。


 「ありがとうございます先輩、先輩のお陰で勉強について行けます」

 「あははどういたしまして〜。 でも律ちゃんの覚えがいいのもあるよ昨日だけでまさか基本知識は全部覚えるとは思わなかったよ」

 「勉強は慣れてますから」


 昨日はあの後、先輩とずっとこの世界の勉強について教えて貰ったのですが、理解の領域を大いに超えており、正直このノートに書いた半分以上のことを私の頭は理解しておらず、答えられたのも偶々覚えれていた場所だったと言うだけなのです。


 属性や魔法の名称や起源、それぞれの魔法の魔法陣の形を覚えることは可能なのですが、魔力の流れ方や魔法陣への伝え方となってくると話は別になって行きます。


 魔力が無い私にとって、魔法陣に魔力を流す方法など分かりませんし、流石の先輩でもそこまでは教えることは出来ず、苦い顔をしていました。


 そして、今日の授業も正直全く分かりません。

今日も先輩に予習と復習に付き合って貰うようお願いするしかありません。


 しかし、筆記はまだ何とかなります。

先輩が見てくれるので、授業で分からなくとも、予習と復習で補うことが出来ますが、予習と復習では補えない物が授業の中で、一つ。


 「よし、じゃあ授業を終わるぞ。 次は実技なので、着替えて外に出るように、あとさっさと来いよみんな遅いからな」


 女性の方はそこまで言うと、広げていた本を閉じて、早足で扉に向かい、そのまま扉を開けて外へと出て行きました。


 そう、魔法の実技です。

この世界で言う体育の代わりの授業なのですが、魔力が無い私にとってはこの授業は最悪と言えます。


 「せ、先輩。 次の実技ど、どうしましょう」

 「うん、まぁ怪しまれない程度に頑張ろうか。 もしかしたら、律ちゃんが魔力に目覚めるかもしれないしね」


 先輩、それ全く助けになってません。

不安な気持ちがありますが、先輩も居ますし、何とかなると願って授業を受けるしかありません。


 「それで、先輩どこで着替えればいいんでしょうか」

 「着替えるも何も、律ちゃんはその服装でいいんだよ?」

 「え、私はこの服装でいいんですか?」

 「あぁ、そういえば言ってなかったね」


 先輩は左手で指を鳴らすと、白い光が先輩の身体を覆い尽くしました。

光は少し時間を置いたのちに消えて、中から白いローブに身を包んだ先輩が出てきました。


 「実技の時は律ちゃんが着ている様なローブな服になるんだ。 律ちゃんのペーシェンは実技でも筆記でも服が同じで変わらないんだけど、そこから上の序列は実技と筆記で、制服が分かれてるんだよ」

 「なるほど、では私は着替えずにこのまま行けばいいと言うことですね」


 先輩は首を縦に振り、肯定の仕草を表してきました。

そのまま先輩は手元に小さな杖のような長い棒と辞書のように分厚い本を出して、両手に持ちました。


 「よし、じゃあ行こっか律ちゃん。 案内するから俺に」

 「冬夜〜いこーぜー」


 先輩の声は私の後ろから聞こえた大きな声により、遮られ、私は咄嗟に先輩から目を離して、後ろに首を向けました。

私の目には、声を発したであろう人が立っており、その人には見覚えがありました。


 「佐久間さん! 春馬さん!」

 「おぉ〜律ちゃんやっほ〜」

 「…………………」


 佐久間さんは手を振りながら、笑顔で応えてくれて、春馬さんは前と変わらず無表情のまま私を見つめていました。


 「裕と蓮と会ってたんだ」

 「はい、先輩が用事で出掛けていた時に、部屋に訪ねて来たので対応したのです」

 「なるほどね。 まぁ、とりあえず行こっか遅れるとまずいしね」

 「だなぁ、あの先生おっかないからなぁ」


 佐久間さんと春馬さんは後ろを振り向いて、歩き出しました。

私も先輩が歩き出した後に続いて、歩き出しました。


 歩き出すまでの間、春馬さんの目はずっと私のことを見続けていました。






 「おぉ、広い。 凄く広いですね先輩」

 「律ちゃんの世界に比べたらそうだね、それに実戦を想定した実技もあるからね」

 「そうなんですね」


 巨大な草原が広がり、その先にさらに広がる巨大な森が私の目に入って来ます。

それは私から見れば一つの風景であり、絶景でした。

私の世界では中々見れない光景だからです。


 私が景色に見張れていると私の右隣に誰かが歩いて来ました。

身長の大きさから見て、先輩では無いとすぐに分かったので、私はゆっくりと見上げながら、右に首を向けました。


 右隣に居たのは春馬さんでした。

春馬さんは口を閉ざして、無表情を動かさないままで、私と同じように景色を見続けていました。


 私は特に気にせずに春馬さんから目を離し、同じように目線を前に向けて、同じように景色を見ました。

その時、私には出ない低めの声が、耳に届きました。


 「律……君は何故魔法が通じないんだ?」

 「え、?」


 突然聞こえた声に私は周りを見回しますが、近くには春馬さん以外居ませんでした。

私はゆっくりと首を動かして、春馬さんに目を向けます。


 春馬さんは目だけを私に向けて、変わらず無表情で私を見ていました。

睨み付けるように見ていた春馬さんの目線に私は少し後ろに退きました。


 「何故君には、魔法が通じないんだ?」

 「……あの、それはどういう」

 「律ちゃん、授業が始まるよ」


 左肩に手が置かれ、私の後ろから出てきた先輩が声を掛けてきました。

私は春馬さんに向けて目を先輩に向けます。


 先輩の目は春馬さんと比べて、優しく、安心するような瞳でした。

身体を少し先輩に近づけて、春馬さんの方をあまり見ないようにして、先輩の目を見続けます。


 「春馬も、そろそろ授業だよ」


 春馬さんは一言も発することなく、私達に背を向けて歩き出し、佐久間さんに歩いて行きました。

そのまま二人で話す姿を先輩と一緒に見つめていました。


 「さて、律ちゃん授業始まるよ。 何が起こるか正直分からないから、俺のそばにいてね」

 「はい、もちろんです」

 「うし、全員揃ってるな。 よしもっと近くに集まれ! 授業を始めるぞ!」


 実技、正直どうなるのか不安な所ですが、やるしか無いのは分かります。

とりあえず先輩の近くにいて、必要な事とかは先輩に教えて貰ってやるしか無いですね。


 「それじゃあ、まずはペアを組め。 基本の形の魔力共有を行う」


 早速私には不可能な実技が来たのですが、どうしましょうか。

とりあえず先輩にと思い、私は先輩の方に振り向いたのですが。


 「冬夜くん〜一緒にペア組まない?」

 「私も冬夜くんと組みたいな〜」

 「え、っと」


 先輩はかなりの人気者なようで、クラスの大半の女子に囲まれており、私の方には来れそうにありませんでした。

別にそれは構わないのですが、問題はペアの相手を誰にするかと言う話です。


 知り合いが先輩と佐久間さんと春馬さん以外居ない私は、他に誰とペアを組めば良いのでしょうか。

流石に知らない人を誘う勇気は私にはありません。


 「律…………ペア居ないのか?」

 「あ、え? 春馬さん?」


 突然後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには春馬さんが居ました。

無表情ではありましたが、目は先程よりも怖くありませんでした。


 「あ、はい実は先輩が」

 「あぁ…………いつものことだ。 律がいいなら…………今回のペア組むか?」

 「え、いいんですか? 佐久間さんとは」

 「あいつは…………他の女子ともう組んでいる」


 そう言って、春馬さんは人差し指を伸ばしました。

私はそれにつられて人差し指が刺された方を見ると、佐久間さんは他の女子と話していました。

他の人達を見ると、ペアがもうほとんど決まっている様でした。


 残りは本当に私達だけの様でした。

先輩は未だに囲まれていますし、それにせっかく春馬さんが誘ってくれたのでこれを断る訳にもいきません。


 「それなら、お願いしてもいいですか?」

 「あぁ…………構わない」


 その瞬間、また春馬さんの目が細くなり、身体が少し震えます。

春馬さんが何故この様な目をしてくるのかは私には分かりませんが、理由は明確だと思います。


 先程春馬さんが言っていた魔法が通じないという事、これについて私には心当たりがあります。

先輩が言っていた私の持つ不思議な力です。


 その力が何なのか先輩でも、私自身でも分かりませんが、私はその事を隠し続ける必要があります。

私は恐怖で震える身体を抑え込み、春馬さんの目を見続けました。


 「…………行うが、手を合わせるのは大丈夫か?」

 「はい、別に平気ですよ」


 春馬さんが伸ばして来た両手手を私は同じ様に伸ばして、春馬さんと手を繋ぎます。

手を繋ぐと春馬さんの手の感触が伝わり、私よりも大きく、ゴツゴツとしたガッチリした手が私の手を包み込みました。


 手を握れたのはいいですが、魔力が実は無いことは隠さなければなりません。

私は頭の中で、魔力が流れない言い訳を考えながら、手を握り続けます。


 「…………行くぞ」

 「はい、こちらも準備万端です」


 春馬さんの右手が温かくなり、その暖かさが私の左手に流れる様に、伝わった瞬間でした。



 「ぇ、…?」

 「………………!?」



 私の左手が腕から吹き飛び、宙を舞い、血を振り撒きながら、地面へと落ちました。

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