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二話

 目の前に居たのは見間違えることなんかありません。

いつもほぼずっと一緒に居て、一緒に生徒会の仕事をして、時には勉強を教えてくれて、困っていたら助けてくれた頼りのあって、探していた先輩が居ました。


 「先輩、見つけました…」

 「律ちゃん、どう、して」


 先輩は驚いたような顔をして私がどうしてここにいるのか分からないと言った顔でした。私は、無意識に手を伸ばして、先輩の身体にあと少しで触れそうな時でした。


 「冬夜〜?どうした〜?──────ん?誰だその子」

 「冬夜誰だ、その子は」


 先輩の後ろから歩いてきて、先輩に声をかけながら、私の方を見てきたのは先輩と大体同じくらいの身長の二人の男性でした。


 見た目だけであまり分かりませんが、先輩と同じくらいでしょうか。

その二人に移していた目を先輩に向けた瞬間でした。


 「うん、ちょっと知り合いなんだ。」


 今まで黙っていた先輩が声を上げ、私に向かって更に、近づいてきました。

言葉はいつも通り、ゆったりとして余裕な口調でしたが、動きはどこか素早い様に感じ、歩きも少し早歩きでした。


 先輩は私の目の前まで来ると肩を掴んで、私に顔を近づけできました。


 「律ちゃんちょっとごめんよ?」

 「え?………わっ」


 そう言うと先輩は、左手を私の両足に通し、右手で背中を抱えるようにして、私を持ち上げました。


 (え?何で私先輩にこんなことされてるの!?何これ何これ!?)


 突然先輩に抱き上げられて、何が起こっているのか訳が分からないままで私はいました。


 「また後で言うよ〜今はちょっとね〜」


 そう言った瞬間、私の身体は突然グンッと上に引っ張られ、意識が頭に追いついた時には私の身体は地面から離れ、下に居た人達が小さくなっていました。

はい、そうです。私は、空にいました。


 「ほんとに何なんですか!?先輩!?説明してください!!」


 私、小百合 律の人生で一番大きな声が出た瞬間でした。





 「ご、ごめんよ?律ちゃん………どうしてもあの場はああするしかなくて」

 「ほんっっっとに怖かったんですからね!?」


 私は今ベットの上で座って目の前の先輩を怒っています。

すごく高級そうなお部屋なのですが、ここは先輩のお部屋らしく、ここの学生の寮的存在でこれが普通らしいです。

私の知っている寮とは大違いです。


 粗方私の怒りも収まり、落ち着いたところで笑っていた先輩の顔から笑みが消え、言葉が紡がれました。


 「律ちゃん、聞きたいことがあるんだ」

 「え?どうしました?先輩」


 いつものふざけてる様子もなく、手を組み真面目な顔で先輩は私の目を見て言葉を続けました。


 「何故、ここに現れたのか、そしてどうして記憶が消えていないのか……この二つを律ちゃんから聞きたい」


 指を一つ二つと増やし、先輩は私に見せてきました。

嘘をつく必要も勿論ないので私は私の体験した全てを先輩に話しました。


 「えっと、ここに来れたのは先輩と書いたあのファイルが何故か突然光出して、気づいたらここに」


 そう言うと先輩は少し眉を顰めて少しの沈黙の後に言葉を発しました。


 「じゃあ、俺の事を忘れてない理由は?」

 「それが…………それが分からないんです」

 「…………え?」


 その瞬間、先輩は目を見開き、素っ頓狂な声を出しました。事実何故私が、私だけが先輩を覚えているのかは全く分かりません。


 「律ちゃんだけ、記憶が消えていなかったって事?それはありえないよ。俺は確実に俺と言う存在をあの世界から全て消したんだから」


 ただでさえ今のこの状況が分かっていないのに、ますます訳が分からなくなりました。


 「それに…………俺と言う存在を消したんだから、そのファイルが残ってるのもおかしい筈なんだ。俺に関する物も全部消した筈だから」


 先輩が悩んでいる中、私の頭は完全にショートして思考をほぼ停止していました。

しかし、今の私の頭でも分かる事は。


 ────私がここにいる言う事。


 ────私だけが白凪 冬夜の存在を覚えていると言う事。


 ────私を連れてきたファイルだけが何故か残っていると言う事。


 これら三つの事は先輩の姿や言葉を聞けば、普通では起こらない異常な状態と言う事です。

何故こうなったのかも先輩ですら分からないのでしたら、私にはお手上げであり、何もできません。


 少し下に向けていた顔と視線を上に上げ、先輩に向けると先輩は身体を後ろの壁にもたれかけさせ、右腕を左手の上に置くようにして、右手は顎を掴むようにして、やや斜め下を見て、考え事をしていました。


 先輩なら何か思い付いてくれるでしょうか。

そんな期待を持ちつつ、私は先輩が言葉を発するまで、先輩を見て待っていました。


 「とりあえず、律ちゃんには言わなければいけない事があるね」


 先輩はまだ何処か悩んでいる顔をしていましたが、形取っていた手を全て崩し、楽にして、私に向き直りました。


 「言わなければいけない事、ですか」

 「うん、今から律ちゃんの記憶を再度消して、元の世界に還す」

 「…………ぇ」


 最初は何かの冗談かと思いました。

先輩と会えたのに目の前の先輩は、私の記憶を消してこの世界から私だけを戻すと言うのですから。


 「ま……ッてください!!それなら先輩もッ!」

 「俺は元々この世界の住人だよ?律ちゃんがこっちの世界に来てるんだから」

 「そ………っれは、」


 そう言われて私は口を閉じました。何も言い返されないからです。

私はこの世界の人ではないただの部外者なんですから。

しかし、だとしても納得出来ませんでした。


 「ッ!それなら、どうして先輩は向こうの世界にいたんですか!?」

 「調べ物があったからだよ。別に奪うつもりも何も無いんだからいいでしょ」


 確かに先輩は何も奪ってもいなければ、破壊してもいません。

寧ろ、私達の学校の悪い所を全て改善してくれました。文句の一つも出ません。


 遂に私は、何も言えずに唇を噛みながら、口を閉ざしました。

それを見計らって先輩は私に近づきながら、口を開きました。


 「今から君の記憶を全て抜き取り、元の世界へと還す。痛みも何も無いから安心してね」


 私は強く目を瞑り、手を握りました。


 忘れたくない、まだ離れたくない、こんなところでお別れなんて、先輩との思い出が私の頭の中をぐるぐると回り、身体に更に力が入ります。


 「…………え?」


 しかし、いつまで経っても私の身体に何か起きた訳でもなく、記憶が無くなった訳でもありません。

そう、いつまで経っても何も起こらないのです。


 私は恐る恐る目をゆっくりと開けて、先輩を見ると困惑したような顔をしていて、右手を私に向けていました。


 「せん、ぱい?」

 「……………どういう、こと?律ちゃん」

 「ふぇ、?は、はい!」


 先輩は固まっていた身体を突然動かして私の両肩を持って私に詰め寄ってきました。

私何が何だか分からず、困惑するばかりです。


 「律ちゃんは魔力なんか持ってる訳ない、よね?」

 「いや持ってる訳が無いじゃないですか」

 「うん、そうだよね。俺が見ても律ちゃんの身体には魔力なんか見えないし、感じない」


 それは当たり前です。私は先輩とは違い、生まれながら魔力を持っている訳でも、魔術師でも、そして異世界ですらないんですから。

まぁ、先輩から見れば私は異世界人のような存在ですが。


 しかし、私の世界では魔法や魔術と言うのは御伽話や空想の話の世界であり、存在はしていますが、存在していないものですから。


 「律ちゃん、ごめんね?今日一日はここの部屋で悪いけど過ごして、俺は少し調べ物があるから」


 先輩はさも当然のように私に言ってきました。


 「え!?こ、ここ先輩の部屋ですよね!?私が過ごすなんて」


 当然無理に決まっています。先輩の部屋で過ごすなんて、しかも先輩をほぼ追い出すような形で。

しかも、この部屋にある寝具は、このベット一つだけです。

 「いやだって他に過ごすところないでしょ?」

 「そ、それはそうですが!」


 確かに過ごすところはありませんし、何より先輩以外頼れるところもありません、人も居ません。


 「そ、その場合先輩はどこで寝るんですか?今日一日私がここで使うのは………いや完全に納得出来ませんが、先輩はどうするんですか?」

 「あ〜どうしようね。うーん夜には部屋にいないといけないから、床で寝るよ」

 「いやダメですよ!?」


 私は声を荒げてベットから飛び出す勢いで先輩に詰め寄ります。

当たり前です。ここは私の部屋では無いのですから。

それなのに、家主をベットから追い出して、さらに今ですら迷惑を掛けているのにさらに迷惑をかけるのなんて嫌です。


 「う、うーんじゃあどうしよね」

 「なんか、布団かもしくはソファみたいなものってありませんか?」

 「えっと、一応使ってないけど……あそこにソファがあるよ」


 先輩はベットから少し離れた位置に置いてあるソファを指差しました。

赤色のもう、ザ・異世界という感じの王様が座る様なソファでした。


 「では、私がそこで寝ます。先輩はいつも通りベットを使ってください」

 「えっ……いや、流石に女の子をソファで寝かすのは」

 「わ・た・しが!いやです!」

 「わ、分かったよ。じゃあここ好きに使ってもらって構わないから、お風呂も好きに使っていいよ。ただし、この部屋から出ない、これを約束して欲しいんだ」


 先輩は渋々了承してくれた後、私に言い聞かせる様に指を一本出してきます。

理由は分かりませんが、ここから出てはいけない理由があるのでしょう。


 「分かりました。先輩が戻ってくるまで居ますね」

 「うん、お願いね。じゃあ…ごめんね少し行ってくる」

 「はい、大丈夫ですからいってらっしゃいませ」


 先輩は申し訳なさそうに言うと扉を開けて出て行きました。

先輩を見送った後、一人になった私は部屋に付いている窓から外を見ました。


 「今、私がここに居るのは……異世界なんですね」


 私は、窓に近づいて、窓に手を付けて、空を見ます。

目を開けて見るのが難しいほど光りを放ち、輝いている太陽は、私の世界とは寸分の違いも無く、この世界を照らし続けています。

私は、校舎とその後ろに少しだけ見える山を見た後、また目線を太陽に向け、そのまま見つめ続けました。


 「あれ、眩しく、ない?」


 そして、私は自分の異変に気づきました。

さっきまで眩しくて、この距離から見るのですら、まともに見れなかった太陽を見続けることが出来たからです。


 「冬夜〜?大丈夫か〜?」

 「!……はーい」


 その時、太陽に集中していた私の意識と目線は、後ろから聞こえた声と扉を叩く様な音に誘われ、扉へと向けられました。


 「うぇ!?あ、女の子の声したぞ!?」

 「あ………い、今開けます!」


 咄嗟に声を出してしまいましたが、無視する訳にもいかずに、私は扉に近づき、ドアノブに手を掛けて捻って扉を開けました。


 開けて私の目線の目の前に居たのは先程先輩に話し掛けていた二人の男子でした。

背は私よりも右にいる髪の色が赤色の男の人は一回りほど大きく、その左に居る紫色の男の人は二回りぐらい大きく私はほぼ見上げる形で二人を見ました。


 「あ……君さっきの子」

 「?……なぜ冬夜の部屋に?」

 「え、えっとそれはぁ。と…とりあえず自己紹介しますね!?私は小百合 律です!」


 気まずい流れを切るために私は声を大きくして自分の名前を言いました。

二人の男性はすごく驚いた様な顔をしていました。当たり前ですが。


 「………まぁ、細かいことはいいか!俺は佐久間(さくま)(ゆづき)って言うんだよろしくな!」


 赤髪の男性は佐久間さんと言う名前らしいです。

佐久間さんは私に右手を出しながら私に自己紹介をしてくれました。

私も、佐久間さんと同じようにドアから手を離し、左手を佐久間さんの手に近づけ、握りました。


 「よろしくお願いします!佐久間さん!」

 「……………?」


 佐久間さんも握り返してくれましたが、何も言わず、黙って何か訝しむ様に私の手を見ていました。


 「?……佐久間さん?」

 「あ!い、いやなんでもないよ!よろしくな!」


 声を掛けると、佐久間さんは先ほどと同じ様に元気に返してくれました。

何を考えていたのかはこの世界の人間では無い私には分からないことだと思われらので何も言わず、気にも留めませんでした。


 「……………」

 「おーい蓮も自己紹介しとけって」


 佐久間さんは目線を私から隣の男性に目を向け、肩を叩きました。

紫髪の男性は、無表情に私を見続けていました。

どう反応して良いのか分からず、私は佐久間さんとまだ名の知らない男性の間で目線を行き来きし続けました


 「………俺は、春馬(はるま)(れん)。よろしく」

 「は、はい!よろしくお願いします!」


 春馬さんは、軽く挨拶した後、すぐに私から視線を外し、身体を素早く動かして後ろを向きました。


 「あ………えっと」

 「ごめんごめん!蓮はあまり人と話そうとしないから誰にでもこんな感じなんだ」

 「そ…そうなんですね。よかったです」


 私が何かした訳ではないと一安心をして私は胸に手を置きます。

 

 「なんか突然来ちまって悪かったな律ちゃん。冬夜が帰ってきたら授業戻ってこいよって言っといてくれ」


 佐久間さんは両手を前で合わせ、申し訳なさそうに頭を少し下げながら笑って、依頼を頼んできました。

明るい方だなと思いつつ、佐久間さんに言葉を発しました。


 「はい、分かりました。きちんと言っておきます」

 「おう!じゃあな〜」


 佐久間さんは蓮さんの背中を押して扉を閉めながら、手を振って出て行きました。

私も佐久間さんに釣られて手を振って、二人の姿が扉に消えるまで見ていました。


 「…………え」

 「……………」


 扉が閉まる直前に私に首だけを九十度動かして見ていた蓮さんと目が合いました。

その時の蓮さんの目は。





 まるで敵を見る様な睨み付ける様な目でした。

ゾワッと私の背中に嫌な寒気が走り、私は両手で肩を持ち、身体を縮こませます。


 「…………気の所為、ですよね?と、とりあえずお風呂に入ってきましょうか」


 私は先程の目を忘れようとお風呂に向かって歩き出しました。



 未だ少し寒気のする身体を忘れるために。

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