一話
皆さんおはようございます。
あ、もしかしたらこんにちはこんばんはの人もいるかもしれませんね。
とりあえず自己紹介をしますね。
私の名前は小百合 律って言います。気軽に律と呼んでください。
普通の高校に通う女子高生です。
少し違うところといえば、生徒会の副会長をやっているというところでしょうか。
自分で言いますが、私は真面目です。いつも勉強をして予習、復習を欠かさず行い、ボランティアなどにもきちんと参加しています。
な!の!ですが!
私はいっつも現在の生徒会長であり、先輩のこの人に勝てません。
そして、今日までの仕事をやらずにまーた生徒会室で寝てるか、ゲームしてサボっているであろうその先輩の元に私は大量の書類を抱えて向かいます。
「もう!今日という今日は許しませんからほんとに!」
私は、独り言では抑え切れない音量の愚痴を吐き出しつつ、作業場であり、今の私の仕事場の扉の上にプレートで生徒会したと書いてある扉目の前で止まります。
私は扉のに付いている金色に染められた鉄の取手に指を入れ、力任せに腕を横に伸ばして扉をわざと乱雑に開け放ちます。
そして、目を教室の中に向けると案の定机に座ってゲームをやっている人が居ました。
かなり集中しているのか扉を大きな音を立てながら開けたと言うのに気づかず、私の存在にすら気づいていないその人に睨みつけて、肺に空気を大量に溜め込む。
「先輩!!」
私は溜めた空気を一気に吐き出して、教室中には十分すぎる声量を出します。
「おわっ、びっくりしたなぁ。やっほー律ちゃんその感じを見ると書類渡されたみたいだね」
「先輩のせいでさっき、、、ってなんで分かったんですか?」
眉毛ひとつすら変えていないくせに驚いたフリをして、ゲームをやりながら身体は全く動かさず、首だけを動かして私に目を向けてきます。そして、私が何を言いたいのかも分かっている様子です。
私はその言葉を聞いて頭を抱えたくなります。
こうなることが分かっててこの人は黙っていてサボっていたのです。
この人の頭の中には私が職員室に向かう、そこで先生に今日までの書類を渡される、それを私が持ってくる……そこまでこの人の頭には入っていたのです。
自分で取りに行けと思いますが、これを言ったところでこの人は反省しないのでやめておきます。
「まぁ…とりあえず書類ちょうだーいすぐ終わらせるからさ」
「もっと早くやってください出来るなら」
食い気味に私は口を開いて言います。
とりあえず、この人の話をしなきゃ行けませんね。
私の言葉を無視して、書類を次々と書いて終わらせているこの人の名前は、現生徒会長であり、天才という分類に入る人。
名前は白凪 冬夜先輩、まだこれでも二年生なんですけど、三年生を置いて生徒会長に選ばれるほどの能力があります。
まぁ色々とイライラはさせてきますが、私も冬夜先輩には助かっているのでそこまで強くは言えません。
ただし、腹は立ちます。これは忘れないでください。
軽々と書類を終わらしている先輩を一目見た後、私は自分の仕事を行うために先輩の対角にある椅子に座り、書類を置き、置いてあった私のカバンの中から筆箱を取り出して、そこからシャーペンと消しゴムを取り出します。
冬夜先輩が処理してる書類は部活動の部費、行事の予算、学校の必要施設の整備などなど金銭関係の最終チェック書類をやっています。
「律ちゃ〜んこれどう言うことなの?バレー部のこれ」
先輩の動きが止まり、一枚の書類を乱雑に持ち上げて私に見せてきました。
「………それ前に説明したと思うんですけど」
「あれ?そうだっけ?」
「はぁ……もう一度説明しますね」
「はーいおねがーい」
その前に私の仕事を説明しておきます。
私の主な仕事は、今先輩が処理してる書類を作ることです。
要するに、部費のことを部活の部長や顧問に聞き、なぜ必要なのか、どう使うのかをきちんと聞き、私の判断ではありますが、仮の許可をして、最終チェックの書類を作り出すのです。
そして、それの最後を決めるのが、冬夜先輩ってことです。
「バレー部のネットが壊れかけみたいで実際に見てみましたが、大きな穴が裂けて空いていました。使えなくはありませんが、少々不便だと思いましたから、一応許可を入れておきました」
「なるほどね〜だけどね律ちゃん。バレー部のネットって、いつ買い替えたか覚えてる?」
先輩はプリントを見て、腕を椅子の横の肘おきに置き、拳を作り、顎をその上に置くように当てました。
私の背筋にゾクリと身が固くなるような嫌な寒気が走ります。
私は、この時の先輩を、知ってるいるからこそ、今の先輩は……少し恐怖を感じます。
「覚えてませんよ。生徒会の仕事、ボランティア、勉強で手一杯ですから、それに書類もおそらく処分しちゃいましたし」
「六月二十八日十二時二十五分十八秒………この日、この時間にバレー部はネットを買い替えてるよ。
そして、その時はこれよりも一万二千五百六十円安かったよ?なのになぜ、上がっている?」
まるで、謎解きのゲームをしているかのように、先輩はつらつらと言葉を連なり、どこに記憶していたのか日付と時刻、金額を言い、疑問を私の耳へと当ててきます。
「ですが、もしそうだとしても」
「書類がもう無いそう言いたいんだよね?
でも、律ちゃん忘れてない?」
そう言って先輩は辞書のように分厚い一つのファイルを見せてきました。ようやく私はそこでハッとなり、気付きました。
「ん、思い出してくれた?きちんと書いてあるよ。
当時のレシートと請求書もね」
これは、冬夜先輩が初めに考えて行った事でした。
まず、部費や行事などの予算は理由を持てば自由に請求書していいと決めました。そして、その時のレシートと請求者を必ずこのファイルに入れることを決めたのです。
そしてこれを見ていいのは私と先輩のみで、他が見ることは禁止されています。なぜ私なのかはよく分かりませんが。
「ほらこれ」
先輩は分厚くて数多のページに覆い尽くされているファイルを普通に本を読むように当時のレシートが挟まれているページを開きました。
今日は九月の二十八日、約三ヶ月前のページを先輩は未だ鮮明に記憶に残しているのです。しかもバレー部がまたこのようなことをしてくると予想していたようです。
本当にこの先輩には敵う気がしません。
こんな感じで冬夜先輩が居てくれるととても助かります。
冬夜先輩がキチンと生徒会の仕事をやる気を出して行えばですが、しかし、それでも実際助かっています。
冬夜先輩は、生徒会の仕事だけでは無く、私の勉強も見てくれています。自分で出来る限り、努力はしていますがそれでも私では限界があり、結局最後には先輩には教えてもらって、甘えてしまいます。
冬夜先輩は困ったところもありますが、面倒見が良く、困っていたら助けてくれます。
ですから、私はこの先輩に憧れを抱いています。嘘偽りなく、全てにおいて、私はこの先輩のようになりたいと思ってます。
かなり遠く時間のかかりそうな目標ですが、それでも私は諦めません。
私はペンを止めて、書類から目を離してその目線をタワーのように積まれている書類を少しづつ崩している先輩に向けます。
先輩の顔をじっと見つめます。
いつもぐうたらでサボっている先輩ですが、きちんと仕事をする時の先輩は、普段は付けない眼鏡をかけて、口角を少し上に吊り上げ、余裕という表情で書類を捌き続ける先輩は、私にとってそれだけで絵になります。
ですが、先輩は時々悲しいような、寂しそうな顔をして、どこか遠くを見ている時があります。
先輩がどうしてあんな顔をするのかも、どこを見てるのかも私には分かりませんが、先輩の悩みがあるなら、私はその悩みを少しでも楽にしたいと思ってはいますが、自分じゃあ、今の自分では何も出来ないのも分かっています。
今私が出来るのは……先輩に仕事を手伝うことだけです。
「あの、先輩……」
「ん?どうしたの?律ちゃん。いつもよりも真剣に顔をしちゃってさ」
「もし、何かあったらいつでも私に言ってください。どんなことでも私が出来る範囲であれば、私は先輩の力になりますから」
先輩の動きが少し止まって、少しだけ目を見開いて私を少し凝視してきます。そして、すぐに口角を少し吊り上げて私に笑いかけてきます。
目だけは、どこか悲しそうな感じがしました。
そのあと、先輩からは何も言葉が綴られませんでした。
その後も私と先輩は、全く言葉を交わることはなく、最終下校時間まで近づいてきて、ようやく私は声を出しました。
「…………先輩、私はいつでも先輩の味方です。私はそれだけ先輩を信頼してます、だからいつでも声をかけてほしいです。
じゃあ、さようなら先輩、また明日」
私は鞄を持ち上げて先輩に一声掛け、扉をゆっくり閉じて生徒会室を後にした。
「はぁ………ありがたいけどね、ごめんよ律ちゃん。
さて、消しとかなきゃね」
朝、いつも通りの日々の日程を行い、いつもと同じ時間に私は学校に着きました。
下駄箱で靴を上履きに履き替え、私は階段に足をかけて上に上がっていきます。
足をすすめて目指す場所はこんな朝早くてもただ一つ、そして私はその場所に辿り着き、足を止めます。
生徒会室、朝からここに来る理由は、まだ私が部費の書類の処理が終わってないのと、もう私よりも先に来ている先輩がサボらないように監視をするためです。
私は扉の取手に手を掛けて腕に少し力を入れて横に引きました…………しかし、扉は寸分たりとも動くことはなく、固く開く気配はありませんでした。
「?………扉が、開いていない?先輩がまだ、来ていない?
そんな珍しいことがあるんですね。とりあえず鍵をもらいにいかなければなりませんね」
一度足を後ろに向けて階段を降りて、職員室へと向かい、鍵を貰い、もう一度生徒会室へと向かい、鍵を開けます。
ゆっくりと扉を開けますが、いつもの姿はそこにはなく、代わりに誰も居ない、静まり返った虚無の教室が現れました。
まるで、ここの扉から先だけ、何も無い、そう感じさせるように見えました。こんなにも、寂しく感じるのはなぜでしょうか。
先輩が居ないから?いえ、それよりも嫌な予感がします。
なんなのでしょうこの胸にあるザワつきのようなものは。
その時でした左耳から少し慌てたようなバタバタとした足音が私の方に近づいてきます。
私は首を左に動かして顔と目を生徒会したから外し、廊下へと向けました。
「あ、律さんもう来ていましたか」
私よりも少し身長が大きいくらいの女性の教師が息を少し荒くしながら私を見て安堵の息を漏らしました。
「先生、どうかしましたか?」
「はい、実は今日までの部費の書類を提出にしていただきたいと思い、もう出来ていますか?」
「はい、出来ていますよ。取ってきますね」
私は昨日先輩と処理した書類を取りに、未だ静かで暗く、孤独を彷彿とさせる生徒会室へとゆっくりと歩みを進め、昨日終わらせた書類をしまった引き出しの前まで行き、取っ手に手を掛け、ゆっくりと後ろに引き、その中から大量にある書類を整頓して先生に渡しやすいように整えていきます。
「流石です。やはり一年生で生徒会長に選ばれた律さんは秀才ですね」
動かしていた手が勝手に止まり、思考が動かなくなりました。
まるで時が止まったかのように私の身体はピタリと動きを止めました。
震える口から、掠れた声で私は言葉を紡いだ。
「先生……何を、言ってるんですか?」
「何をとは?」
「この学校の、生徒会長は………冬夜先輩ですよね…?」
あり得ないものを見るように。
そんな非現実なことがこの世にあり得るわけがないと頭に言い聞かせるように。
しかし、その非現実なことが起きていると、同時に分からされます。
「とうや?何を言ってるんですか?この学校の生徒会長は」
まるで、裁判を待つかのように私は無意味に心の中で祈り、顔を俯けます。
「あなたしかいませんよ?小百合 律さん」
私の頭が、完全に止まった瞬間でした。
生徒会室で私はただ一人椅子に座り、机の上に置かれた先輩の唯一残った書類に目を止めてじっと見続けています。
結局、あの後も生徒会書記類を見たり、学校の生徒表を見ましたが、どこにも先輩の名前はありませんでした。
先生や生徒会の方々、冬夜先輩のクラスの方々にも聞きましたが、皆んな口を揃えて。
「白凪 冬夜なんて生徒は知らない」と話しました。
そんなはずはありません。
確かに先輩が居た証拠はどこにもありません。
しかし、先輩の事は、私の中には残っています。
そして、昨日先輩が見せてくれた部費の請求書類やレシートが挟んであるファイルを机の上から持ち上げて、開きます。
そこに書いてある文字は…見間違えません。
もう何回も…飽きるほど見た先輩の文字です。
このままお別れなんて、嫌です。
まだ私は先輩から色々なことを学びたいんです。
唇を噛んで拳を握り締めました。
その時…突然私の目に黄色い光が差し込んできました。
光っているモノに目を向けるとそれは……唯一残った先輩が書いたファイルでした。
目を向けるのが難しいほど黄色く輝くそのファイルに私は手を伸ばします。
非現実な起きたならば、この非現実な今起きてる現象を起こしてるものに触れて、知りたいと思ったから。
そして、ようやく私の手はファイルに触ることができました。
その瞬間、光は更に強まり、私は瞼を完全に閉じました。
次に感じたのは肌を撫でるような風でした。
その風は私の身体全体を撫でた後、後ろへと吹き下がっていきました。
その次に聞こえてきたのは私と同じくらいの男女の声、でした。
私は疑問に思い、ようやく開けられる様になった目を少しずつ開けると今度はまた違う上からの光によって私は顔を顰めます。
「太陽…?」
目元に影が出来るように手で少し覆って、そのまま目を横に向けて辺りを見回ります。
私の目に入ってきたのは白い礼装の様な整った綺麗な服を着た私くらいの男女が私のことを目を見開いてみていました。
その後ろには白色の巨大な建物があり、その更に奥には見えるのは微かではありますが、巨大な塔の様なものが、見えます。
え?私一体なぜこんなところに?確実に校舎でないことは事実です。
しかし、なぜか声が出ません。
「誰?あの子」
「突然現れたぞ?あんな魔法存在したのか?」
「だが制服が違うぞ。あの子はどこの子なんだ?」
何か話している様ですが、私の耳には殆ど届いていません。
しかし、なんとなく話しているのは私のことでしょうか?
私は上手く動いてくれない身体を動かして、立ち上がろうと、足に力を入れた時でした。
「大丈夫?君」
「え?」
聞き慣れた声、毎日聞いていた声でした。
声を聞いた瞬間、私の身体は勝手に動いて見上げました。
目が合ったその人物と私はお互い目を見開いて動きがピタリ止まりました。
「律……ちゃん、?」
「先輩、?」
目の前にあったのは、いつも余裕な先輩の初めて見た少し間抜け顔でした。