アウトドアの恐怖。
じゅうう~~~。
じゅうう~~。
延々と白煙が上がる。
夜闇の空に。
焚き火で焼かれた大きな肉から白煙が立ち登る。
「いい匂いだな~~」
肉の焼ける匂いに刺激され、ヨダレが出るのを抑えらない。
良いな。
アウトドア。
自然を満喫する趣味。
焚き火を利用し、暖を取りながら調理する楽しみは家内では味わえない。
虫の声を聞きながら自然の中で眠りにつく。
昔は苦労するだけの馬鹿みたいな趣味だな。
等と思っていた。
だけどその認識は突如変わった。
切っ掛けは女の子が主役のアウトドアキャンプがテーマのアニメ。
そのアニメを見て自分の認識はガラリと変化した。
自分の中の何かが目覚めたと言って良い。
それを天啓と認識した時が、僕の中で『目覚めた』という言葉になった。
だから『目覚めた』というのは言葉の比喩であり、天啓だったと言い換える事も出来る。
じゅうう~~。
じゅうう~~。
「いい匂いだ」
肉の香りを堪能する。
そう思いながら僕は炭火で焼いた太もも肉に歯を突き立てた。
「ああ~~美味い」
「うまそうに食うな~~」
「外はカリッと中はジューシーで最高だよ!」
「確かに……」
僕の顔をニコニコとして穏やかに見る友人。
なんて美味いんだろう。
胡椒と塩の効いた炙り肉。
程よい脂が溶け舌に付く。
美味い。
蕩けるよな美味さだ。
「色々な手間暇と苦労が実った瞬間だ……]
「良かったな」
「うん」
ノビノビとストレス無く育った極上の炙り肉。
なんと甘美な美味さだ。
僕の名は宝来太郎。
見ての通り普通の学生だ。
まあ普通の定義は人によって様々だろうが。
うん。
アニメを見てアウトドアの魅力に目覚めた僕。
キャンプ道具一式を買おうと思ったのは必然の流れだった。
そのために小遣いを貯め、少しずつアウトドアの道具を買い集めはじめた。
全てはキャンプライフ実現のために。
まずはテント。
チラシで見て値段が安いものを購入。
テントの布の合成素材の質が、耐久性や軽量化に価格として転嫁されているので、ここは割り切らないと他の道具が買えなくなる。
次に寝袋。
種類は三種類あるが割愛したい。
まだそこまで詳しくないから。
とりあえずここも一番安い封筒型にした。
その次にランタン。
オイルランタンを考えてたが止めた。
落としてガラスを割ったら洒落にならん値段だから。
なので一般的なLEDランタンにした。
更にグリル。ここは拘った。
調理が出来れば良いのでは無い。
同時に焚き火も楽しめる奴にしたかったんだ。
その次に寝袋の下に敷くマット。
だがこれは必ずしも値段が高いのが寝心地が良いとも思えない。
更にその次。
クッカーやシェラカップにメスティン。
クッカーは皿やフライパン鍋を兼ねた金属製の容器だ。
シェラカップも似たような感じだが計量カップを兼ねてる。
メスティンは飯ごうのような物だ。
他は木炭や着火剤などかな?
「最後に肝心な物がある」
「肝心な物?」
そう……。
肝心な物だ。
必ずしも必要と言うものでない。
だが……。
それを見た瞬間に自分は一目惚れした。
無骨さと相反する繊細さを兼ね揃えた感じ。
シンプルで扱いやすく。
計算され尽くされた機能美。
そんなアウトドアグッツに一目惚れしたんだ。
その名は。
その名は。
それはシングルバーナー。
シングルバーナーはガス管に直接繋げガスの火を使える道具だ。
カセットコンロと違い軽く小さくて持ち運びやすい、
殆どの場所で使え温かい料理や飲物を用意できる道具である。
正しく究極のアウトドアグッツ。
究極の道具だ
「そんな道具なんだよっ!」
「あ、はい」
「あの無骨で繊細な機能美分かる?」
「……」
「こんなシンプルで使いやすさを追求した道具は今まで見たことが無い!」
「ヤバイ。こいつ沼にハマってるよ」
フルフルと顔を青ざめる友人。
「沼?」
「なんでも無いです……」
ドン引きしてる友人。
はて?
「その分高いけどね」
「やっぱり?」
友人が呆れてる。
いや良いけど。
「最低で一万円超え」
「高いなッ!?」
「だけど偶然安いのを見つけて買いましたっ!」
「良かったな」
「値段は何と驚きの六千円っ!」
「それでも高いなっ!」
「あ~~」
言われて見れば、たかがバーナーでここまで高いのを購入したのは初めてだ。
「それは良かった」
「はい」
「それでどう使うの?」
「別売りのガス管を買わないと~~」
「買えば?」
「お金ない」
「あ~~」
呆れた顔はやめろ。
仕方ないだろう。
これまで揃えたアウトドアグッズは合計四万円何だから。
「次のお小遣いで買うっ!」
「お~~」
投げやりの友人。
良いんだが。
それから一ヶ月後。
とてつもなく僕は落ち込んでた。
そう。
とてつもなく。
落ち込みすぎてカビが生えるレベルで。
「お~~い。ガス缶買えたのか~~」
「……」
ケッ。
等と言いたい。
「買えなかったの?」
「買えるけど買えない」
「はあ?」
落ち込む僕に首をかしげる友人。
「シングルバーナーに使う別売りのガス缶だけど」
「おう」
「同じメーカーでないと使えないらしい」
「買えば良いじゃん?同じ店で?」
「取り扱って無いって」
「え?」
「取り扱って無いって」
「バーナーだけって馬鹿なの?そこの店?」
「同じメーカーのガス管は置いて無いって」
「やっぱり馬鹿なの?」
うん。
僕も思う。
普通に詐欺案件。
レシートを取って置けば或いは返品が効いたかもしれんが……。
捨てたしな。
「しかも他の店に行っても売って無いんだよ」
「最悪」
悲惨という目で見る友人。
「しかもその店では別のメーカーのシングルバーナーとガス缶を売ってた」
「あ~~」
哀れんだ目。
「しかも値段が二千円安いんだああああああああああああああっ!」
「六千円の丸損かよ」
悲惨な目で見るのはやめろっ!
悲しくなるっ!
「うわあああああああああああああああああああっ!」
逃げ出す僕。
「あ~~」
気の毒そうな目で見る友人。
チクショウ。
これは実話。
被害者は作者。