旅の始まり
前作「復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~」の続編となります!
―――――これは、一度目の人生が途絶え……二度目の人生を与えられた、男のその後の、物語―――
「はぁ、これが外の光景なのねー!」
「一面、野原みたいですね……空気がおいしい」
目の前で、二人の少女がわかりやすく、はしゃいでいる。それもそうだろう、なんせ二人は、あの国を出るのが、初めてなのだから。
今までずっと国の中で生きてきたんだ、そりゃ物珍しさにはしゃぐというもの。
「ふふ、まったくもう、ノアリもミライヤもはしゃいじゃって~」
「すげーどや顔だな」
そんな二人の少女……ノアリとミライヤを見て、俺の隣に立っているもう一人の少女、ヤネッサはなぜかどや顔を浮かべている。
まあ、国から出たあの二人と違って……元々エルフの森に住んでいたエルフ族のヤネッサにとって、二人ほど珍しくは感じないのだろうな。
「でも、そういうヤークも、はしゃぎたくて仕方ないんじゃない? だって初めての外なんだし」
「俺は……まあ、その……」
腕を組み、余裕ありげな表情を浮かべるヤネッサは、俺にも話を振ってくる。あの二人と同じような、反応をすると思っていたのだろう。
だけど、俺にとっては初めて見る景色、ではなくて……
「あ、そうか。ヤークは前に、外を旅してるんだもんね」
「え」
「そのおかげ……っていうのも変だけど、私はヤークたちと出会えたんだもんね」
「あ、あぁ、そうだな……"そっち"か」
ヤネッサが言うのは、十年程前……俺が、エルフの森を訪れたときのことを言っている。あの時すでに外を見ているから、落ち着いているのだろうと。
それも、間違いではないが……少し、不意を突かれてしまったな。"あのこと"を、覚えているのかと。
……俺、ヤークワード・フォン・ライオスは、一度死んでいる。しかし、現にここに生きている……俺は、『転生』したのだ。転生前の名前は、ライヤ。ライヤの時代に、魔王討伐のために旅をしたことがある。
魔王を討伐するために、仲間たち勇者パーティーと旅をして……ついに魔王を倒した俺たち。だったが、その直後、仲間であったはずの勇者に殺され、あろうことか俺を殺した男の子供として、転生した。
俺を殺し、今や俺の父となった男に復讐を誓い生きてきた。そして……まあいろいろあって、その復讐にひとつの決着がついた。その後、ゲルド王国を飛び出し、こうして旅に出たわけだ。
俺が転生した事実は、ノアリもミライヤも知っている……いや、知っていた。だけど、まあこれもいろいろあって、今やその記憶はなくなっている。
もう、俺が転生者だと知っているのは俺だけ、ということだ。
「……ヤーク?」
「あ、あぁ、なんでもない」
てっきり俺は、"転生前の俺が旅をしていた"ことを覚えているヤネッサが、先ほどの発言をしたのかと思った。だけど、それは単純に、転生後の俺の行動を思い出してのものだった、ということか。
その事実が、少し寂しくもあるわけだが……
「おーい、二人とも、あんまりはしゃぎすぎて、遠くに行くなよ!」
「わかってるわよー!」
「わかってまーす!」
「モンスターにも注意して……って、聞いてんのかよ」
「あっははは、やっぱり賑やかだねぇ」
本当なら、俺はひとりで旅に出るつもりだったわけだが、ノアリとミライヤとヤネッサ……三人は、着いてきた。いや、着いてきてくれたと言うべきかな。
なんだかんだで、ひとりだといろいろと考えてしまうことも多かっただろうし。
三人の存在に助けられたのは、確かだ。
「ねー二人とも、ルオールの森林まで、あとどれくらいなの?」
こっちへ戻ってきたノアリが、隣に並ぶ。
ルオールの森林……それがエルフの森の名前だ。そこが、この旅の第一目的地。
ヤネッサにとって故郷であることはもちろん、俺とノアリにとっても縁が深い場所だ。ノアリは、今回初めて行くわけだが。
「お前らが道草くわなきゃ、もう少し早く着けそうなんだけどな」
「ぅ、それは……」
「冗談だよ、急ぐ旅でもないし、ゆっくり行こうぜ」
気ままな旅、なにか目的があるというわけでもない。強いて言うなら、世界を見て回る事。
とことこと、ミライヤも帰ってくる。
「エルフ族の住む場所、ですよね……なんだか、緊張します」
「大丈夫だよー、みんな優しいから」
「でも、ちゃんとお礼言えてないのに……怒ってないかしら」
「大丈夫だよー、みんな優しいから。それに、人間にとっての十年とエルフにとっての十年は違うから」
そう、かつて会ったエルフたちは、みんな優しかった。見ず知らずの俺に、あんなにも良くしてくれた。
俺がエルフの森を訪れた理由……それは、かつてノアリのかかった病、いや『呪い』を解くための、手掛かりを探すため。
結果として、彼らが協力してくれなければ、ノアリは助からなかったかもしれない。だから、ノアリにとって彼らは恩人なのだ。
「でも、やっぱ十年もお礼なしはまずかったんじゃ」
エルフの森まで決して近い距離ではないとはいえ……いろいろありすぎて、ノアリは国を出る暇がなかった。俺は、一応あの後顔を見せはしたが。
本人の口から、ちゃんと言いたいのだろう。だから、ちゃんと顔を会わせて、お礼を言わないとな。
「みんなノアリに会えるって知ったら、すごい楽しみにすると思うよ!」
「そうかしら」
「間違いないよ!」
「い、今のうちに名前覚えとかないと……え、えっと、じゃ、ね、びあさん……が……村長、で……」
「ジャネビアさん、ですよ。ライオス家のメイド、アンジーさんの祖父、でしたよね」
「そ」
今からそんな、必死になって覚えなくても。目的地に着くまで、まだ時間はあるんだし。
俺も、楽しみだし……確かめないとな。ちゃんと、"みんな無事なのか"を。
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