用心棒は反則じゃないの?
翌朝、茜と妃華璃は先に目を覚ます。
茜は皆の様子、特に愛海に変化が無いか確認しに向かった。
「(特に変わった所は無いか。相部屋の連中も襲われた様子も無い。まぁ事を荒立てられないから当然と言えば当然か。隙を窺っているのか様子見か。なんにせよ普通に一夜を過ごしたってところか)」
「茜さん、朝食の準備終わりますので椿さん達起こして来て下さい」
「ああ、分かった」
茜は部屋に戻ると妃華璃に変化が無い事を伝え、まだグッスリ寝ている椿を起こす為布団をひっぺ反す。
「椿、桜、朝食の時間…だ…」
「どうしたの狐…」
ひっぺ反したはいいが見てはいけないものを見たかの様に言葉が詰まる。その様子に何事かと妃華璃も覗き込むと案の定詰まる。
そこには魘されている椿と、暑くて服を脱いだ下着姿の桜が椿の胸の上で気持ち良さそうに爆睡しているのだった。
「えっと、これは…幼女に襲われるお兄さん…かしら」
「しかも傷口にダイブは流石の私も椿を殴れん」
とにかく二人を起こして桜に服を着させる茜。妃華璃は濡れたタオルを準備してくれた。
「椿ちゃんごめんなさい!」
「大丈夫ですからそんなに謝らないで下さい」
涙目で謝る桜と、包帯を解かれベッドに寝かされ妃華璃に傷口を拭かれる椿。
「起きなかった俺も悪いんですし」
「ホントよ。凄い汗なんだしこれじゃぁ傷口に塩塗られてる様なものよ」
「起こした時魘されていたからな」
「だからですか。茜と妃華璃に笑顔で傷口に塩塗られる夢見ましたもん」
妃華璃は「失礼ね」と言いながら強く傷口を擦ると椿はもがき苦しんだ。
「ありがとうございます」
包帯を替え終え身支度を整えると四人は朝食を食べに向う。
「兄ちゃん遅かったな。また痴話喧嘩か?」
「アゲハちゃん失礼でしょ」
椿は苦笑いをすると席に付き軽い朝食を済ます。
適当に時間を潰すが約束の時間までまだ余裕がある。
椿は独り外の木陰で煙草を咥えていると、茜が近付いて来るのが見えた。
「何だ椿、また考え事か?」
「ええぇまぁそんな所です」
火を点け様とマッチを探していると、「ほら」と人差し指で小さな狐火を出してくれた。
「聞かせてくれ。何か嫌な予測でも浮かんだ様な顔してるぞ」
「変なところで勘が鋭いんですね」
「いつもアホ面しているお前が真面目に考え込んでるんだ。解決の糸口になるかもしれん」
椿の隣に腰を下ろすと言葉を待つ。
「茜、修道服ってなんかエロいですよね」
言うと同時に額に裏拳がかまされる。椿は両手で額を押さえ蹲り悶えていた。
「茶化すからこうなるんだ。真面目に話せ」
椿は涙目で「すみません」と謝ると話を始める。
「考えたくは無いですけど、上手く行き過ぎている様な気がします。何て言うんでしょうか、シナリオ通りに動かされているって言った方が解り易いでしょうか」
「それは私達のやっている事が自ずと決まっているっている事か」
椿は空を眺めながら「ええ」と答える。
「ハク様が最初から椿を連れてくる事もシナリオに入っているのか?」
椿は表情を変えずに「おそらく」と簡単に返した。
「歯切れが悪いな」
「人里の件が片付いたら俺もハクの所に行きます。もしかすると…いえ、それはその時に言います。違うかもしれませんので」
「そうか。そんなに思い悩むな。成る様にしか成らんのだ」
「そうですね。俺はこのまま突っ走りますよ」
煙草を消しそのまま横になる。
「お前はこんな時にも寝るのか。少しは緊張感を持てと言ってるだろ」
「茜も少しはその短気直したらどうです? ただせさえ歳なんですから皺増えますよ」
「イタイ痛いです! めり込みますごめんなさい!」
横になっている椿の顔を鷲掴みにし地面へと押し付ける茜。
「こんな所に居たんですね。って、何してるんですか茜様」
「ちょっとこの馬鹿を大地へ還そうと思ってな」
ニッコリと桜に返事をするが鷲掴みをしている手は力を増す。
「椿ちゃんまた茜様を怒らせたんですか? いい加減痛い目見るの分かってるのに懲りないですね」
「桜は物分りが良くて助かる」
「それは桜も茜が短気って認めてる事になりますってアタタタタ!」
椿が土に還った所でようやく開放された。
「お前は反省と言う言葉を覚えろ」
「お断りします」
「即答でしたね」
教会へ入るとまだ皆は自由に過ごしている。妃華璃は一定の距離を保ち皆を見渡せる位置に居た。元々集団で行動するタイプでは無いのか孤立している様にも見えなくも無い。
「妃華璃ももう少し馴染んだらどうですか?」
「別に退屈している訳では無いから良いのよ。それよりそろそろ時間よ」
「ええ。取り合えずどうなるか行って確かめてきます」
「本当に大丈夫か? 何なら人間に化けて付いて行くが」
「そこまで心配しなくてもいざと言う時は全力で逃げますから」
椿はそう残して待ち合わせ場所へ向った。
「本当に何を考えているんだか」
「何も考えて無いわよ。行き当たりバッタリなのよ」
待ち合わせの甘味処。
「ようやく来ましたね椿」
カウンターの隅に宣教師風の格好をした女性が独り座っていた。
「お供をぞろぞろと連れて来てると思ったら一人ですか彩藍」
話しながら彩藍の隣の席に座る。
「デートのお誘いなのでしょう。永久からそう伺ってますよ」
「あの人の頭の中は春満開か何かですか。取り合えず店主、羊羹と善ざいとわらび餅とケーキ下さい」
「私はケーキセットを頂こう」
店主は品を差し出すと、昨日の話を聞いていたのか気を使って店を閉め、「話が終わったら呼んでくれ」と言い奥へと姿を消した。
「で、話と言うのは」
「人殺しの犯人は分かったのかなぁと思いまして」
「その件ですね。実を言うとまだ公にはしてませんが九尾の目撃があります。九尾に変化されると特定が困難なので片っ端から当たっているのが現状です」
「だからって手荒すぎませんか?」
「それに付いては椿も関わっていると分かり反省していますよ。それに現存する中で九尾は私が知る限り一人しかいません」
「茜ですか。それなら人違いです。茜は俺と一緒にいますから」
「信用しろと言うのですか?」
「そこまでは言いませんよ。俺達もこの件の解決を急がないといけないだけです」
「さっきの口振りからして何か掴んでいる様に聞こえますね」
椿は今まで起きた出来事と人里で起きた事件の手掛りを彩藍に話した。
「確かにそれだと椿を殺せるチャンスは出来るかもしれません。そうでなくても愛海なら私の所に来て何らかの手引きをして椿と衝突させる手立てをする筈」
「流石飲み仲間って言うだけはありますね。それならこの関係が成立します。それに自警団の隊長が永久だったので確信つけましたしね。明らかに俺と彩藍をぶつけて何かを企んでいます」
「ならどう出るか一つ芝居でもしてみますか?」
椿はあからさまに「面倒臭い」と言う顔をする。
「そんなに嫌な顔をしないでくれません?。椿には戦って貰うだけで良いのですよ」
「彩藍と戦ったら芝居もへったくれもありませんよ」
「何故私が椿と戦わないといけないのです。用心棒として彩魏がいます」
「言って置きますけど俺平和主義なんですけど。よりにもよって何故に鬼と勝負しないといけないんですか。そもそも何で彩魏がいるんですか」
「仙人秘蔵の酒を渡したら喜んで引き受けましたよ」
椿は呆れた顔で「左様ですか」と適当に返事を投げる。
「取り合えずこの話し合いの結果は私達二人しか知りません。お互いの言い分どっちが正しいか決闘で勝負をつける事になったとでも言って下さい。条件は互いの代表者一人。こっちは彩魏、そっちは椿って事で良いですね」
その他諸々の説明を受けると、「椿なら大丈夫ですよ」と他人事の様に言われる。
「分かりましたよ。ですが私からも一つお願いがあります」
「利用させて貰うんです。言って下さい」
「ここの会計お願いします」
「はい?」
計画についての頼みごとだと思っていた彩藍は何でもどうぞと構えるがキョトンとしてしまう。
「煙草買ってお金無いんです」
椿は財布を開き逆さにして無一文をアピールしていた。
「そもそも煙草代残ってても全然足りない金額ですが」
「だから彩藍に払わせようと此処を指定したんですよ」
「無駄遣いしたら永久に怒られるんですよ」
「芝居とは言え彩魏と争わせるんですからこれ位安いものじゃないですか」
「彩魏に事情は話しますが本気で行けと伝えて置きます」
「ほ、程々にお願いします」
椿は店主を呼ぶと会計を済まし店を出る。
「いいですか椿、明日の夜大通りで決闘です! 私は私の正義を貫きます。貴方は貴方の正義を貫いて見せなさい。いいですね!」
「(確かに誰が監視しているか分かりませんけども、もう演技してるんですね)交渉決裂って事ですね。分かりました。明日の夜大通りにて待ってて下さい」
二人は互いに反対の道を歩き出し、帰るべき場所へと戻った。
「はぁ~」
椿は疲れた顔をしながら教会へと入って行くと、茜、妃華璃、桜が出迎える。
「離れて大丈夫なんですか?」
「ええ。今の所いつもの愛海を装っているままよ。それとなくリルに話してあるから問題無いわ」
「で、どうだったんだ?」
椿は彩藍との話し合いの結果を報告する。芝居がバレない様に掻い摘んだ説明をした。
「彩魏と決闘だと。そんな事認められるか!」
「貴方確実に死ぬわよ。彩魏は鬼の中でも三本の指に入る実力者。人間の貴方にどうこう出来る相手では無いと思うのだけど」
「その時はその時です。彩魏とは知らない仲でも無いですので殺される事の無いよう祈ります」
「椿ちゃん彩魏さんとも知り合いだったんですか」
「昔色々ありまして、知り合ったと言うか絡まれたと言うか」
「お前もつくづく災難な奴だな」
椿は「あははは」と笑い誤魔化してその場を過ごした。
何事もなく時は過ぎ、更なる進展は決闘の日まで待機となる。
そして当日夜。マリアと知枝、子供達は教会へ残し指定された場所へ向う。
「お兄ちゃんが鬼と戦う所見てみたかったので付いて来ちゃいました」
「兄ちゃんは鬼嫁の拳にも耐えるんだから大丈夫だよ」
「おい、鬼嫁って私の事か」
「嫁じゃないけど鬼は間違って無いわね。狐だけど」
「来栖も似た様なものだと思うが?」
「そこまで短気じゃないと思うけど」
アゲハを睨むと次は妃華璃を睨む茜。この二人もどんな状況だろうが喧嘩は止まない。
「椿ちゃんも黙ってないで止めてくださいよ」
「嫌ですよ。決闘する前にボロボロになりますって」
そんなこんなで和気藹々と目的地に着くと、彩藍、彩魏、永久、付き人が待っていた。
椿は前へ出ながらさり気無く薬を一つ飲む。
「此処ならある程度騒いでも問題ない場所です。椿、貴方の正義見せてみなさい」
彩魏も椿と対峙する。
「よお、久しぶりだな。お前俺を避けているだろ」
「当然ですよ。会うたびに絡んでくれば避けたくもなります」
元気に声を掛ける彩魏に対し出来る事なら関わりたくない相手に椿は面倒臭そうに溜息を吐くが、彩魏の気迫に顔付きも変わった。
「もう一度お前と手合わせしたくてな。こんな形であれお前と勝負出来るんだ。お前はお前の信念の為、俺は今この時は用心棒だ、彩藍の信念の為に戦う。覚悟しろ」
「(これも演技ですかね。ですが目は本気の様です。真面目に勝負を楽しみたいって事ですかねこれは。寧ろ彩魏に演技しろって言う方が無理な話でした。全く、とんだ相手を用心棒にしたもんです)そっちこそ人間相手に負けても恨まないで下さいよ」
金棒を地面に突き刺すと単身で突っ込んで来る。肉弾戦と分かり椿も刀を突き立てると同時に突っ込んだ。
激しく響く鈍い音。彩魏と椿の拳がぶつかった音だった。
『!!?』
立会人として同行した両者共、鬼の拳を拳で受ける椿に驚きを隠せなかった。
「やっぱり只モンじゃなかったな」
「彩魏のせいで立場危いんですけどね」
椿は体を捻らせると脇腹に回し蹴りを浴びせる。それに耐えると彩魏は火が点いた様に猛攻する。
鬼の連激を耐えるが、生まれ持っての鬼の力の恐ろしさは受けている本人が一番分かる。
暫く攻防が続き距離を取ると膝を付く椿。
「椿!」
「来ないで下さい。これは俺の戦いなんです」
今にも倒れそうな椿に茜は飛び出そうとしたが言葉で制止する。
「どうした。もしかしてその程度だったのか?」
「人間相手に手加減と言う言葉は知らないんですか全く」
「俺は誰であろうと真面目だ。まだ本気じゃ無いがな」
椿も猛攻するが彩魏は嘲笑うかのようにそれを凌ぐと、椿の腹部に重い一撃を喰らわす。血を吐き出すと同時に飛ばされると、土壁に突っ込んだ。
土埃で薄っすらとしか姿は見えないが倒れているのが分かる。
「その程度の強さで信念を通すだ? 笑わせるな! 弱い奴には信念を通すどころかお前は何も守れねぇぞ! …ちっ、反応無しか」
椿に強くそう吐き捨てる彩魏。突き立てた金棒の所へ戻ろうとする。その時茜は何かに気付き「全く…ほら」と呆れた様に呟きながら火球を投げる。
「すみませんね。火が無くて」
椿が煙草を持って上げている手に茜は気付いて火球を投げたのだった。
「ほう、まだ動けるのか」
立ち上がる椿を見て彩魏は歩を止める。
「生憎としぶとさが売りなので。それに聞き捨てならない言葉を頂きましたのでね」
そう言い終えると煙草を咥えた椿の目付きが変わる。その眼を見た茜と妃華璃は椿に向け戦闘体勢を取った。
「二人とも心配しなくても正気ですよ」
椿の掛けた言葉に二人は安堵の溜息を漏らすと戦闘態勢を解いた。
「その鋭い眼…いや違うな。噂では鷹鬼は白髪の男な筈だ」
椿の気迫に構え直す彩魏はブツブツと呟いていた。
「興味あるんですか? 何だか分かりませんが鷹鬼って言うのに」
「今の椿の様な鷹の様に鋭い眼に鬼の如しと言われる強さ。付いたあだ名が鷹鬼。特徴は白髪だと聞いた事がある。下層界唯一の人間、数は数百位か。人間と言っても邪に支配された魔人間だが、鷹鬼は数百人いた人間を皆殺しにした。知っているだろアーサー姉妹。そいつ等を殺そうとして殺された。因果応報だから気にしちゃいない。だが一度その鷹鬼って言う男と戦ってみたくて人里をうろうろしてるんだ」
「そうですか…なら、やりますか…」
その話を聞いた椿は、一度目を瞑り精神統一をする。
『!?』
ゆっくり目を開らく椿の眼差しはさっきよりもより鋭さを増し、そして少しずつ黒髪が白髪へと染まって行く。
その光景を目の当りにした一同は本物の鷹鬼を目の前にし言葉を無くす。
「俺にそんなあだ名付いていたなんて知りませんでした。これが俺の本気です。さっき言いましたよね。聞き捨てならい言葉を頂きましたって。手加減しませんので本気で来て下さい」
「鷹鬼が相手ならそりゃ本気で行かせて貰うぞ!」
「第二ラウンド始めます!」
椿は煙草を指で上空へ弾くと、とてつもない速さで距離を縮め殴り飛ばした。
重いパンチを脚の踏ん張りで耐えると激しい攻防が始まる。
「(これは予想外ですね)」
互いの本気の戦闘を見た彩藍が困った表情を浮かべていた。
「(椿は芝居と分かっていて本気では無かったですが、彩魏のせいでこの後の椿との計画が狂いましたね。しょうがない、手を借りるしか無いですね)」
「!? 彩藍様どちらへ」
二人の本気の勝負に気を取られていたのか慌てた様子で永久に呼び止められる。
「いくら此処でも本気の二人に暴れられては被害が出てしまいますからね。茜達に結界の手伝いを頼んできます」
永久は「分かりました」と彩藍を見送る。
「仙人か。どうした?」
「今頃仲良くしましょうなんて言う積りかしら」
「このままでは流石に被害が出ますのでこれを何箇所かに貼るの手伝って下さい」
彩藍は茜と妃華璃の二人に札を渡すと、それぞれ離れた所へ貼りに向う。
「(お二方聞こえますか?)」
札を通じて念通を行うと二人から返事が帰って来た。
「(彩魏のおかげで計画が少し狂いました。すみませんが手伝いをお願いします)」
彩藍は簡単に椿との計画内容を話す。二人もそれに納得すると札を貼りに戻った。
椿と彩魏の攻防は激しさを増す。
「がはっ」
「ぐっ」
互いの一撃がもろに入ると両者共後方へと飛ばされた。
両者立ち上がると彩魏は金棒、椿は刀を抜き取る。得物を持った二人は武器の激しい打ち合いと化した。
「人殺しのお前に何か守るモノなんてあったのかよ」
「ありましたよ。結果的に何も守れず終わりましたけどね」
「そんなに強いのにか」
「強くなんてありませんよ。人間は弱い。弱いからこその強さがあるんです。俺は俺自身今の守りたいものを貫くだけです。なので負ける訳には行かなくなりました」
「だったらその想い俺にぶつけて証明して見せろ!」
「元よりそのつもりですよ!」
攻防の末、互いに間合いを取ると同時に両者の鋭い突きが先端にぶつかり火花が舞う。
「な…に…!」
彩魏の金棒が砕けると椿はその隙を見逃さなかった。
「俺を怒らせると怖いですよ!」
ニヤリと笑う椿は地面を踏みしめ体を回転させると、「うおりゃぁあああ!!」と雄叫びを上げ遠心力を使い峰で脇腹を薙ぎ払う。
「これが俺の想いですよ。誰にも弱いなんて言わせません」
壁に叩きつけられ倒れる彩魏は立ち上がらなかった。
それを見た椿も疲労困憊でその場に倒れる。
「椿!」
心配そうに見ていた愛海は椿が倒れると同時に逸早く駆け寄る。しかしそれとは裏腹に懐からナイフを取り出した。
「(掛かった!)茜! 妃華璃!」
彩藍の掛け声にすぐさま二人は愛海を取り囲む。
「あら、バレちゃってたのね」
「貴様何者だ!」
「笑ってないで本性見せたらどうなのかしら」
不敵に笑う愛海に剣を突き付ける二人。
「椿さんどういう事ですか?」
リルと桜の肩を借り起き上がる椿。その後ろにアゲハと香織は隠れる様に愛海の様子を見ていた。
「余計な混乱を避けるため黙っていたんですが、愛海は最初から偽者なんです。説明は後でします。桜、リル、二人の加勢に行って下さい」
椿はアゲハと香織の肩を借りると二人は加勢に向かおうとするが正体を見て直に足が止まった。
「そんなに怒らなくても今見せてあげるわ」
「「!?」」
余裕な面持ちのまま正体を晒すと、それは九尾の姿に変わった。それを見た二人は驚きの表情を隠せなかった。
「な、なぜ貴方が此処に居るのですか! 母上!!」
「同じ九尾だからもしやと思ったけど。貴方のお母さんの体なのね」
「体? じゃぁもしかして」
「話は御仕舞い。バレちゃったから予定通りの計画に移すわね。後、ここで人間は死んでないから。あれは私の自作自演、分からなかったでしょ。じゃぁバイバイ」
「待ちなさい!」
九尾の女性は笑顔で手を振るとあっという間に何処かへ去ってしまった。
いなくなってしまった相手を追っても既に手遅れと判断した妃華璃は困惑している茜に声を掛ける。
「貴方の母親、浅緋は昔に死んだわ。この事実は変わらない。あの言い方もしかすると違う魂が入っているわ。じゃなきゃ浅緋はこんな事しないわよ。貴方も解っている筈よ。確りしなさい!」
「あ、ああぁそうだな。まさか来栖に説教されるとは思わなかった。すまない」
混乱と困惑から妃華璃の言葉に正気に戻った茜は椿に駆け寄った。
「椿、大丈夫か!?」
「これが大丈夫に見えるのなら眼科に行った方が良いですよ」
「そこまでの口が叩けるのなら問題無いな」
彩藍達は彩魏を担ぐと一行は教会へと帰還する。
「目が覚めましたか彩魏。貴方のせいで計画が危くなる所でしたよ」
「悪かったな。でも上手く行ったんだろ」
「人里の事件は解決。後は椿達の進展に繋がりました」
「そうか。もう大丈夫だ自分で歩ける」
その途中彩魏も目を覚ますと自力で歩き出す。