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三魔界の似非陰陽師  作者: ロック
6/17

妖怪でも女としてのプライドがある

「茜様はまだのようですね」


「色々話すこともあるんでしょう」


「止まりなさい!」


 敷地内に下り、蛇杖院へ歩を進めていると今度はナース服の少女が立ちはだかった。


「蛇杖院は暫く休業中です。お帰り下さい」


「こっちは怪我人なんです! 椿ちゃんを看て下さい!」


「貴方が椿ですか。でしたら尚更通す事は出来ません」


 少女は明らかに敵意剥き出しに此方を睨む。


「ですが治療して貰わないと茜に怒られるんです。なので通して下さい」


「強行突破と言う事ですか。通すことも出来ませんが逃がす気もありません。排除します」


「いやいや、穏便に話し合いましょうって言ってるんです」


「先生を斬った輩と話すことは無いです!」


「「!?」」


 妖気の弾を椿に向けて放つが二人はそれを避ける。


「椿ちゃんがそんな事する筈ないです!」


「桜、とりあえず急いで茜に知らせて下さい。彼女からは殺気が満ち溢れています。何があったか知りませんがどうやら本気の様です」


「何をするんですか!?」


「応戦するしか無いでしょう。早く行って下さい」


 桜は慌てて走り飛び去って行った。


「貴方は逃げないんですね」


「俺飛べないですし、今ので傷が開きましたから結構きついんですよね」


 傷口の血が服に浮き出ているのが分かる。椿は刀を抜き刃を返した。


 それと同時に少女は弾幕を撃ち始めた。


 椿は驚異の反射神経と身体能力で弾を弾き距離を詰め斬り掛かる。しかし後方へと跳び交わす。距離を取り弾幕を放つと、椿は刀で弾き凌ぐ。


「深手を負っているのによくそこまで動けますね。ならこれでどうですか!」


 彼女は弾幕を両手で放つと数が増えた。その数を凌ぐことが出来ず次々と弾が当たる。


「がっ…」


 椿は刀を地面に刺し片膝を付いた。痛みに耐えながら再び立ち上がり刀を構える。


「あれだけ喰らってまだ立てますか。しかも少し目付きが変わりましたね。フフッ。面白いですね」


 少女は少し笑った。


「なら、貴方に相応しい死に方を与えます」


「…!」


 少女の目が赤く光る。それを見ていた椿は急に頭の中を搔き回される様な感覚に陥った。


「うっ…あっ…」


「私は蛇。幻術を操る蛇よ。今の貴方に与えたのは狂気。さて、どんな獣になるのかしら」


 頭を抱え倒れこんだ椿が急に静かになる。そして刀を掴み俯いたままゆっくり起き上がったが様子が可笑しい。


「え、何? どう言う事?」


 本来の変化とは違うのか明らかに動揺している。


「普通の人間なら野獣の様になるのにどうして?」


 すると、俯いていた椿はゆっくりと顔を上げた。


「!? ち、違う。あの眼、あの鋭く冷たい眼光…も、もしかして」


 椿の眼差しを見た少女は恐怖で一歩また一歩と後ずさる。


「一度…狂気に堕ちているの!?」


 少女が気付いた時には遅かった。瞬く間に少女の間合いに入り峰で大降りに薙ぎ払った。


「あ…うっ…」


 鈍い音が体中に響いた。右腕が折れ、そのまま地面を滑る。少女は立ち上がれず尻餅を付いたまま一歩一歩踏みしめ近づいてくる椿に後ずさる事しか出来なかった。


「椿ー! !?」


「椿ちゃん! ご無事で…!?」


 桜が茜を連れて戻ってくると、雰囲気がまるで違う椿を前に驚愕していた。


「おい貴様何をしている! 早く術を解け!」


 事を察した茜が椿を止めに少女の前へ立つ。


「さっきからやってます! けど一度狂気に堕ちているので解けないんです!」


「その程度で解けない筈は無いだろ」


「椿の狂気は根が深いんです。私では解けません」


「考えるのは後だ! おい、霞蛇は動けるのか!?」


「はい。幸いにも傷は浅かったので」


「桜、そいつと一緒に事情を話して霞蛇を連れて来てくれ」


 桜は少女と一緒に蛇杖院へ走って行った。


「私が相手になってやる。(解けない狂気…いったい椿はどんな過去を送ったんだ)」


 椿は躊躇いも泣く茜に斬りかかる。大怪我ながらも動きは昨日より速い。


「狂気が椿の甘い性格を消しているのか。速さもあり斬ることに対して躊躇いも無い。唯一残っているのは逆刃にしている位か。しかしこちらも少し本気を出さないとな」


 椿の出血もあり出来るだけ捕らえたいが鋭い攻撃がそれを阻む。


「誰よこんな所で暴れている非常識は」


 激しく動いていたせいか騒音で誰かが近くまでやってきた。


「来栖!?」


「狐じゃない。何やってるのよ」


「見ての通りだ」


 妃華璃も状況を確認すると、さっきとは打って変わった椿の姿を見る。


「来栖が此処に何の用だ。来る理由なんて無いだろ」


「来たくて来た訳じゃ無いわ。椿と戦った時に煙管を落としたみたいだから届けに来たのよ。それにしてもさっきとは雰囲気も別物みたいに殺気を感じるわね」


「話は後だ。来たなら手を貸せ。出来れば無傷で捕らえたいんだ」


「もう既に傷だらけよ」


「これ以上増やすなと言っているんだ」


「面白そうだから付き合ってあげる」


 妃華璃も刀を抜き構える。すると椿は妃華璃に斬り掛かる。


「さっきより速いし重いわね」


 椿の気を引いている隙に茜は飛び掛ると、気配を感じて交わす。二人の攻防は椿を無傷で捕らえるには至らなかった。


「無傷は無理かもな」


「おいたが過ぎるようだから少しお仕置きしましょう」


 二人は更に力を出し椿に仕掛ける。それに負けじと付いて行く。


「動きに隙がないわね」


「だが、人間相手に此処まで力を出すのは初めてだ」


「そうね」


 次第に椿の動きが鈍くなり攻撃が当たるが倒れない。


「二人とも! そのまま取り押さえて!」


 桜が霞蛇を連れて戻って来た。


 茜と妃華璃はそのまま椿を取り押さえると、霞蛇は持って来た麻酔を打ち込んだ。


「話を聞いて強力な麻酔を打ったわ。とりあえず運んで、話は治療の後で聞くわ」


 急いで蛇杖院へ椿を運ぶと直に治療を始めた。別室にて待機し終わるのを待つ。


「す、すみませんでした! 私の勘違いでした」


 桜より紹介され、頭を下げているこの少女は不知火音々。先に鎮痛剤を打ち痛みだけ抑えている状態で謝りに来たのだった。


「過ぎた事をとやかく言う積もりは無い。しかし椿の偽者か」


 霞蛇は椿に襲われたのでは無く、椿とそっくりな奴に襲われたらしい。音々は椿が斬ったと勘違いをして襲ったそうだ。


「ところで妃華璃さんはどうしてここに?」


「これよ。私の家の前に落ちていたわ」


「椿ちゃんの煙管。これを届けに来たんですか」


「蛇杖院に向っているって聞いていたからね。それに薔薇を守ってくれたお礼よ」


「椿の傷が増えていたのはお前のせいか」


「あんな刀携えて来たら誰だってそう思うわよ」


「まぁどの道来栖の所にも行く予定だったんだ。手間が省けた」


「けど、人間嫌いの狐が人間と行動なんて傑作よね」


「好きで一緒に行動している訳ではない。来栖、分かってて言っているだろう」


 そして妃華璃との戦闘の経緯、椿の狂気の話、今何が起きているのかと今後の話をする。


「それで、私にも協力しろって言う訳ね」


「来栖に頼むのは癪だが今はそんな事言ってられない。今の状況とハク様の勘が正しければ、私は二、三日魔軸の修復を手伝わなければならない。椿と桜で調査させるにはさっきみたいな事になってしまうと対処が厳しい。来栖、お前とは長い因縁があるが、その付き合いでお前は信用出来ると思っている」


「狐と長年殺り合った御蔭で変な信用が付いてしまったようね。いいわ。私もこの世界の居心地が好きなのよ。それに椿との約束があるわ」


「約束?」


「今度寝込みを襲うと言ったのよ」


「寝込み!? 何を言っているんだ来栖!」


「寝込みじゃ無いです! 妃華璃さんも茜様をからかわないで下さい!」


 狼、女狐に説明中。


「紛らわしい事を言うな」


「フフ。どんな意味で捉えたのかしら」


「今此処で決着を付けてやろうか」


「望むところよ」


 睨み合う二人の視線の中心に火花が見える。


「院内で喧嘩しないで頂戴」


 別室の扉が開くと霞蛇が呆れた表情で入って来た。


「霞蛇さん。椿ちゃんは」


「彼はタフさと頑丈さだけが取柄の様ね。今は眠っているわ。時期に目を覚ますわよ」


 桜は急いで病室へと向うと、一行も各々安堵の溜息、呆れた溜息を吐き病室へ向う。


「一体こいつの体は何で出来ているんだ」


「そうでなくちゃ戦い甲斐がないわ」


「特別製の薬を塗ったからある程度の傷は直に治るわ。深い傷は時間が掛かるから安静と言いたけど、そうも言ってられないようね」


「まだ幾つか調査が必要な所がある。霞蛇の所も被害者と言ったところの様だしな」


「桜から粗方の話は聞いたわ。怪我をした時はいつでもいらっしゃい」


「協力感謝する」


「彼が関わっているのなら当然の事よ」


「椿の人望を甘く見るな…か」


「確かに甘く見ない方がいいわよ。茜が思っている通り、強者の妖怪に容疑が掛かっているのなら椿は必要不可欠よ」


「ライアの時といい、今といい、ようやく分かったよ」


「そう、なら昼食の準備をさせたから食べてきなさいな。音々、貴方はこれから治療よ」


 霞蛇は音々を連れて部屋を出て行った。


「ねぇ狐、椿はそんなに顔が広いの」


「私も昨日初めて会ったんだ。椿に何があるのか私には分からん。今朝方ハク様にも訊ねたが教えてくれなかった」


「けど、椿は何かを秘めている。あの眼を見た時に底知れぬ恐怖を感じたわ」


「来栖が恐怖? この世も終わりだな」


「煩いわよ。ほら犬も、そんなに心配しなくても時期に目を覚ますんでしょ。狐なんてほっといてお昼頂に行くわよ」


 妃華璃は桜の襟を掴み引き摺りながら部屋を出る。


「こら! 桜を手荒に扱うな!」


 茜も妃華璃の後を追った。


「ん? 此処は…」


 皆が居なくなり暫くしての事だった。椿が目を覚ました。


 机の上に置いてある煙管に気が付き手を伸ばすと、縁側に腰掛ける。


「手当てされてるって事は無事に入れたって事ですよね多分」


 煙管に火を点けると疲れからの溜息を煙と一緒に吐き出す。


 庭を歩いていた音々が椿の姿を見つけると歩み寄ってきた。


「貴方はさっきの」


「不知火音々です。椿、先ほどはすみませんでした。私の勘違いでした」


 深々と頭を下げる音々に椿は「気にしないで下さい」と笑顔で許した。


「ところで何があったんですか」


 音々は椿の隣に座ると一連の説明をする。音々の腕の事を椿は謝ると、お互い様ですのでと気にしなかった。


「厄介な事になってますね」


「多分この様子だと、他の所も同じようになっていると思います。この後はどうする積もりですか」


「やっぱり人里が気になるので向ってみようと思います」


「そうですか。ですが今はゆっくり休んで下さい」


 音々は立ち上がると、椿に一礼してその場を去った。煙管にもう一度火を点け一服するとベットへ戻り、何も考えず時間を潰す。


「あら、目が覚めたようね」


「…え!? 何で居るんですか。って言うか今は勘弁して下さい!」


「人の顔見て行き成り逃げなるなんて失礼ね」


 妃華璃は逃げ様とする椿を捕まえそのままベットへと戻す。


 妃華璃説明中。


「再戦かと思い殺されるかと思いましたよ」


「やってくれるなら喜んで受けるわ」


 椿は蔑んだ目を視線を送る。


「そんな目で見るのは止めなさい」


「喧嘩好きにも困ったものですよ。ですがまぁ、煙管ありがとうございます」


「それより椿、貴方いい体付きしていたわね」


 横になっている椿の身体を優しく撫でる。


「気色悪い触り方しないで下さい」


「見た目と違って無駄の無い筋肉の付き方」


「ちょ、ちょっと! 何で上着脱いだんですか!?」


「分からないのかしら? だったら体で教えてあげるわ」


「意味が分からないです!? なんでそうなるんですか!?」


「こう言うのは嫌いなのかしら?」


「嫌いじゃないですけど意味が…!!?」


「フフフ。気がついたかしら」


「殺るって、ヤるって言う意味も含んでいましたーー!!」


 妃華璃の言動の意味をやっとの事理解した。思い返してみると確かに妃華璃は「その時は私から仕掛ける」と言っていた。まさかこんな事になるなんて誰が予想出来ただろうか。


「じゃぁ続き始めるわよ」


 すると扉が開き、茜と桜が入って来た。ホンの一瞬の間が空き椿と茜の目が合った。


「椿貴様、起きたと思ったら何をしてるんだ」


「つ、椿ちゃん…」


「誤解! 誤解ですよ!」


「はぁ、空気の読めない人達ね」


「妃華璃さん椿ちゃんに何してたんですか!」


 桜は慌てて妃華璃を問い詰める。


「何って…それは」


 茜は桜の耳を慌てて塞ぐ。それは子供には聞かせられない内容だと分かったからだ。


「と、とあえず茜達が入ってきてくれて助かりました」


 椿は少し残念と思ったものの、ヤバイ現場を見られたらそれこそこの後どうなるか分かったものじゃないと理解していた。それ故に二人が戻ってきてくれた事に感謝した。


「えっとなぁ椿、事が起こった後で言い辛いが―」


「まだ事は起こしてませんよ!」


「これからは来栖も共に行動する」


「!? さっき殺されかけた上に今はヤられかけたんですけど!? そんな人と一緒にですか!」


「フフ。宜しくね椿」


「は、はぁ。仕方ないですよね。拒否権無いですよね」


「さっき音々から椿が人里へ様子を見に行きたいと聞いてな。それに同行した後は一旦私はハク様の所へ戻る。引き続きの調査は来栖が私の代わりだ」


 渋々納得した椿はため息を付く。


「それより起きたのならお前も昼食に行って来たらいい。その様子じゃ食欲はあるんだろ」


「ええ。そうさせて貰います」


 椿はベッドから立ち上がると食事処へ向った。


「じゃぁ私も付いて行きます」


「え、桜は行かなくてもここは安全だ」


「昨日も今日も椿ちゃん大怪我しているので心配なんです」


 茜の制止を聞き入れず桜も椿の後を追い出て行く。


「娘を取られたお母さんの気持ちかしら」


「黙れ。しかし桜、随分椿に懐いたな」


「何か惹かれるものがあるのかしらね」


「来栖こそ、人間に体を許そうとするなんて正気の沙汰か」


「あら、私だって一人の女よ。選ぶ権利位あるわ」


「だからって椿は無いと思うがな」


「あら、私に取られるのが悔しいのかしら」


「ば、馬鹿を言うな! 貴様に取られるくらいなら私が落とす」


「暴力女狐にそんな事できるのかしらね」


「性悪悪女には言われたく無いがな」


「そもそも貴方、人間の男嫌いじゃなかったかしら」


「椿をお前に渡すくらいならそんな事どうでもいい」


 最強で最凶。お互い捻くれた性格のガールズトーク(口喧嘩)が火を噴いた瞬間だった。




 桜の案内で食事処へ着くと、用意されていた食事を頂いた。


「まさか妃華璃と一緒に行動するなんて」


「まさかこんな日が来るとは思いませんでした」


 桜の言葉に「何故です?」と言葉を投げた。


 話によると、幼馴染らしいが相性なのか性格なのかお互いに合わなかったらしく、会えば喧嘩の繰り返し。成長し力もつくと今度は殺し合いの繰り返しとなり仲が悪いとの事。


「お互い利害一致と言う意味では椿ちゃんの御蔭かもしれません」


「?」


「茜様だけでは妃華璃さんの協力を得られなかったと思います。偶然でもあそこで妃華璃さんと戦って、認められた椿ちゃんだからこそこうしてすんなりと味方になってくれたんだと」


「それはそれで良いですけど桜、昨日の今日で随分と遠慮が無くなりましたね」


 椿の昼食をチョコチョコとつまみ食いしながら話をする桜だった。


「雪華ちゃんがお兄ちゃんと慕っている様に、私も椿ちゃんをお兄ちゃんとして慕っていますから」


「それはありがとうございます」


「エヘへ」


 優しい溜息を吐き微笑むと桜の頭を撫でる。


「(やっぱりどんな時でも笑顔は守らないといけませんね)さて、食べ終わりましたし戻りますか」


 昼食を食べ終え再び部屋へと歩を進める。扉の前に着くと何かを言い争っている。


「二人ともどうしたんですか」


「やっぱり茜様も妃華璃さんも以前のままです。幸いなのは戦闘してない事だけです」


 二人の存在に気付いた茜と妃華璃。すると直にズカズカと椿に迫る。


「な、なんですか?」


「「椿! 私とこいつどっちが魅力ある!」」


「え、いや、えっとその」


「「どっち!」」


「そんな一日二日で決められませーん」


 思考をフル回転させるが言葉が決まらず、余りの迫力に椿は部屋を飛び出し脱兎した。すると矛先は桜に向く。


「桜、勿論私だよな(いつも一緒にいるんだ。桜なら私の魅力に気付いている筈だ)」


「桜、私を選ぶわよね(選ばないと前みたいに痛い目見るわよ)」


「(茜様の魅力は痛いほど分かります。分かりますけど妃華璃さんのあの目、前に薔薇園で遊んで怒られた時と同じ目。怖い。いや、どっちも怖いです)」


「「桜!」」


「ど、どっちも素敵です~」


 桜も圧迫された空気と緊張で部屋から脱兎の如く去って行った。


 椿と桜が部屋から逃走して互いに顔を合わせる。


「何やってんだ私は」


「茜と居ると調子狂うわ」


 お互い反省の溜息を吐くと、茜は椅子へ、妃華璃はベッドへと腰掛ける。


 反省を踏まえ大人しく会話をしながら待つ事になった。


「戻ってくると思うか」


「暫くは無理でしょうね。ところで何で張り合ったのかしら」


「言っただろ、お前に取られるくらいなら私が落とすと」


「だからって男嫌いの貴方の口からその言葉が出る事に驚いているのよ。昨日初めて会ったんでしょ。たった一日で何があったのかしら」


「私がどうして男嫌いか知っているだろ」


「それが原因で憂さ晴らししに来た事があったから知ってるわ」


「一日一緒に居て椿と言う人間が少し分かった様な気がしただけだ」


「そうね。見た目で判断せず中身も知った上で上手く接している様に見えるかしら」


「あいつの言動次第で一方的に殴っているんだが、椿はそれでも最後は笑っていた」


「この狐を一日で変えるなんてやっぱり面白いわね」


 クスクスと笑う妃華璃に今度は茜が同じ質問を投げる。


「来栖はどうして椿を襲おうとしたんだ」


「私は男になんて興味ないわ」


「!? まさかお前ゆ―」


「それ以上言ったら戦争よ。強いて言うなら男にじゃなく、椿という人間に興味が湧いただけよ。あの狂気を見て尚更ね」


「来栖にそこまで言わせる男か。少しは認めてやるか」


「そうしてあげなさい」



 一方逃げた二人は屋上に居た。


「違う意味で怖かったです」


「置いて逃げるなんて酷いです」


 二人は「はぁ~」と呆れながら溜息を漏らす。


「椿ちゃんあの二人に何をしたんですか」


「何もしてないですよ。俺だって何であんな事になったのか分かりませんし」


「でも、今の喧嘩は楽しそうでした。あんな二人の喧嘩は初めて見ました。しかも茜様があんな事を言うなんて、やっぱり椿ちゃんは凄いです」


 桜は「フフッ」と笑っていた。


「俺何かした覚えは無いですけど」


「茜様って、美人でスタイル良いですし尚且つ巨乳じゃないですか」


「性格があれなので残念美人とでも言っておきましょう」


「ま、まぁそれはそれとして、人里に買い物に行くと言い寄ってくる男性が沢山居たんです。ですがそれは茜様の表面だけ見て言い寄ってくる人だけでいつも殺気と威圧で追い払うんです。それが原因で男性嫌いになったんですよ。だから椿ちゃんにも冷たいんです」


「まぁ納得しました」


「けど椿ちゃんと嫌々だけど一緒に行動して気付いたんじゃないかと思います」


「何にですか」


「だって椿ちゃん、茜様の容姿に靡いて無いですし、しかも喧嘩もしますけど仲が悪いって事も無いじゃないですか。茜様は椿ちゃんが外見と中身を含め一人の個人として見てくれている事。そうでなければあんな事椿ちゃんに言わないかと」


「第一印象は大事と言いますけど、茜も妃華璃も見た目に反して第一印象最悪でしたから。茜に至っては会って直に病原菌呼ばわりですよ。行き成り口論から始まりましたしね。昨日の朝方の話ですけ

ど」


 長かったようで振り返ると昨日の出来事。まだ二日目なのかと思うと気が重かった。


「何にせよ、俺は俺って言うように茜もあの性格全部ひっくるめて茜なんです。妃華璃も桜も他の人もそう。中も外も全部ひっくるめて見るからこその個人なんです」


「なんか難しいです。つまりは性格なんて関係ないって事ですか?」


「いや、あの二人に至っては性格は最悪だと思います。あそこまで酷いのはそう居ないと思うので」


「椿ちゃん何かへこんでます」


「美人二人も同行するのは華があって良いんですけど、何分残念美人なんで」


「それに至ってはコメントはしないですよ椿ちゃん」


 椿はへこんだまま煙管の煙を吸い吐き出した。


 そしてそのまま空を見上げ大の字に横になる。それを見た桜も椿の腕を掴んで下げると枕代わりに一緒に横になった。


「こんな時間が続けば良いのに」


「そうですね。天気の良い日はこうしてのんびり過ごすのも悪く無いですね」


 互いに目を瞑るといつの間にか眠っていた。


「…遅い」


「そうね。いくら戻り辛いからって数時間も戻って来ないなんて良い度胸してるわね」


 二人は重い腰を上げる。途中見つけた音々に二人の居所を聞くと、音々は怯えながら「お、屋上へ」と声を震わせていた。相当怒っているのが顔に出ていたのであろう。


 音々の案内の下、屋上へ着く。辺りを見回しても居ない。校舎の屋上の様な扉の上のスペースに足だけが見える。三人は静かにそこへ向かった。


「来ない訳だ」


「呑気なものね」


 二人は幸せそうに眠る桜を見て、次に椿へと視線を移す。


「レディを待たせる男には」


「仕置きだな」


 双方椿を睨み剣を出す。


「さ、殺気! …!!?」


 只ならぬ気配で目を覚ました椿だが、頬擦れ擦れの両側に剣が刺さった。


「あ、茜さん、妃華璃さん…」


「う~ん。どうしたの椿ちゃ…ん…!?」


 騒がしさに起きた桜は二人の表情に凍りつき、近くにいた音々に縋り付いていた。


「お、おはよう、ございます…」


「他に言いたいことは?」


「い、命だけはご勘弁を」


「後は何だ?」


「笑って…くれませんか」


 二人はこうかと言わんばかりに殺意に満ちた笑いを見せると、椿は散った。


「戻り辛いのは分かってたけど二人で昼寝なんて緊張感無いのかしら」


「まだやる事は沢山あるんだ。昼真っから寝ている時間は無いんだ」


「だからって怪我人をフルボッコにするのはどうかと思いますけど。二人揃ってドSですかそうですか分かってはいましたけど」


「だったら身も心も調教してあげようかしら」


「そしたら最悪廃人だな。良かったな椿」


「(どうしたらここまで性格が悪くなるんでしょうかねぇ)俺が悪かったです」


「分かれば良いのよ」


 桜は放心状態のまま音々に手を繋がれていていた為何も聞いていなかった。


 一行は霞蛇の所まで行き挨拶を済ませる。分かれる間際、霞蛇は椿を引き止める。すると椿に小さなケースを渡した。


「鎮痛剤よ持って行きなさい」


 霞蛇は薬の説明をする。


 ①使用は激しく動く恐れのある時。②飲む量は一粒。③次に飲む時は数時間空ける事。


「結構強力な薬よ。例えで言うなら動ける麻酔。何が言いたいか分かるわよね」


「過剰摂取は痛覚麻痺になるって事ですよね」


「そうよ。これは医者として言うわ。痛みは体の危険信号、痛みを感じないのは強みでも何でもない。己を壊すわ。だから使用方は守ってね」


「薬は好きでは無いですが動けなくなるよりは良いですので貰っておきます。あ、請求はハクにしておいて下さい。後すっかり言い忘れるところでしたが頼みがあるんです」


 椿と霞蛇は皆に聞こえない様に話しをした。


「そう。分かったわ。気を付けてね」


 こうして四人は霞蛇と音々に見送られ人里へ向う。

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