決闘と言う名の試練
「おい、そこらの人間より少し強いからって調子に乗るなよ」
「調子に乗った覚えは無いですし、俺は元々平和主義者なんです」
「ならお前が本当に使えるか試させて貰う」
「だから成るべく穏便に済ませたいんですって」
「そんな考えでは誰も救えんぞ!」
すると茜は行き成り火球を投げて攻撃を仕掛けてきた。
椿は擦れ擦れでそれを交わす。
「反射神経は良いようだな。だが九尾を甘く見るなよ」
「九尾の狐って大妖怪じゃないですか。戦えって言うんですか?」
椿は文句を言いながらも距離を取り構える。
「茜様なんか機嫌悪いです」
「良いのですかハクタク様」
「まぁそれで気が済むなら少し位なら良いんじゃない。それに椿の事を知っているのは極一部の妖怪達だけだし」
するとハクタクが二人に声を掛ける。
「家が壊れるから本気で暴れないでよ」
「人間相手に本気なんて出しませんよ」
「俺、生き残れるかな」
「じゃぁ始め!」
ハクタクの合図で二人は戦闘を開始した。
「村正!」
何かを握る様に出した拳に刀が現れた。紅に輝く刀身。妖刀村正だった。
「妖刀を物にした霊力か。それなりに出来る様だな。なら私も」
茜もそれに答える為、手の平に狐火を出す。それが剣に形を成していった。
「レーヴァテインだ。来い椿!」
椿は間合いを詰め斬りかかるが受け流される。茜も反撃し鍔迫り合いとなると椿はすぐさま蹴りを繰り出し突き放す。その反動を利用し踏み込むと再び突っ込んだ。
「甘い!」
後ろへ飛ばされ体勢が整わない茜は体を反転させ尻尾で椿を弾き飛ばす。
「だからって油断は禁物ですよ」
壁に叩きつけられたそうになったが、体を捻らせ壁に着地しその反動と脚力で一直線で茜に突っ込んだ。
「そんな真っ直ぐな攻撃が当たるか!」
茜の間合いに入る直前、椿は鞘を地面に突き立てる。
「そんなことしたら俺が真っ二つですよ」
「くっ」
茜を飛び越え後ろを取り峰打ちで一太刀浴びせた。
「このっ!」
「がっ…!」
そのまま椿は尻尾の突きを喰らい後方へ飛ばされた。
椿は起き上がり刀を構え直すと茜も対峙する。
「そこまでよ」
ハクタクが終了の合図を出した。
「ですがハク様」
「剣で先に一本取ったのは椿よ。それに今度は力を上げる気でいたわよね」
「そ、それは…」
「今の力でも人間は歯が立たない茜に椿は一太刀浴びせたわ。これで信用出来るかしら。それに椿を甘く見ていた様だしね」
「返す言葉もありません…」
「茜様…」
傷の心配をしているのか不安そうな表情の桜が駆け寄って来た。
「私は大丈夫だよ。それよりあいつの傷を看てやってくれ」
ハクタクの合図と同時にその場に座り込む椿に桜が駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか。え、えっと…」
「椿です。西蓮寺椿。俺も大丈夫です。九尾の狐との戦闘で少し気疲れしただけですので」
「茜の尻尾をまともに受けて立てるなんて大したものね。普通なら骨が折れるんだけど」
「俺だって伊達に似非陰陽師やってませんからね」
「さ、西蓮寺さん、手当てしますので中へ」
「そんな畏まらなくても良いですよ。好きな様に呼んで下さい」
椿はしゃがんで優しく微笑むと、桜も笑顔で答えてくれた。そのまま家の中へ連れられると手当てを始める。その間にハクタクは茜に現状を説明した。
三魔界を繋げている五つの魔軸の内二つが破壊されたとの事。
魔軸とは、かつて三魔界がまだ連なっていない時、今の中層界がコアの回転を停止した。それは爆破消滅の前兆であった。爆発すれば下層界も上層界も巻き添えを喰らう為最善策として軸を作り強制回転させる事となった。その重要な軸が魔軸と呼ばれている。
魔軸は東西南北とその中心にある。破壊されたのは東と西。今は残っている所を創造者達が力を送り二本分補っているそうだ。
今分かっているのは犯人は魔軸を壊せる方法とそれだけの力を持っていると言う事。
「ではこの間の大地震や噴火も魔軸が壊された影響と言う事ですか」
「そうよ。今は持ち堪えているから心配無いのだけど、この事は他言無用よ。変に不安を与えてはパニックになってしまうわ。だから茜には椿と一緒に協力してくれる者を捜して欲しいの」
「緊急事態なので…」
事の重大さには納得したがどうしても椿と行動するのに不服を持っていた。
「そんなに椿が気に入らないの?」
「あんな平和主義者の人の良さそうなヘラヘラした人間、足手纏いとしか」
「今日が初対面と言うのに椿もそうとう茜に嫌われたものね。でも椿が居ないとダメなのよ。分かって」
「は、はぁ…。承知いたしました」
「しょうがないか」と自分に言い聞かせる様に納得させた。
「それと気を付けてね。強者の妖怪はこれに気が付いている者も多いわ。疑心暗鬼になっている筈よ」
「説得しろって事ですね」
「宜しく頼むわね。それより傷は大丈夫なの?」
「椿が刀に霊力を込めていなかった御蔭で。だから甘いんですよ」
「その内慣れるわよ」
話も終わったところに椿と桜が戻って来た。茜は椿にも事の説明をした。
「茜と共に行動って本気で言ってますか? 俺殺されますよ」
「茜に殺される前に貴方も狙われているわ。だから一緒に行動して頂戴」
椿も茜同様ごねるが、狙われていると知った以上単独行動は避けるしかない。
「私も椿ちゃんと茜様と一緒に行きたいですっ」
「つ、つばき…ちゃん!?」
「俺は構いませんけど」
「やったぁ!」
「おい桜! 椿ちゃんってなんだ!?」
「呼ばれるとき西蓮寺なんて子供には言い辛いですから、好きな様に呼んで下さいと言ったんです」
「それで椿ちゃんにしたんです」
「「ねー」」
椿をちゃん付けで呼ぶ事に対して怒ったのか桜に近付けたく無いのか分からないが、茜は椿を睨み付けながら近づいてくる。
「椿貴様、桜を丸め込みおって」
「ちょっ、止めて下さい! ホントに死にますって! 放して下さい!」
茜は椿の首を絞めながら持ち上げていた。
「茜様それ以上は! 椿ちゃん白目向いてます!」
「人選ミスったかしら」
「ま、まぁどうにかなりますよ」
「椿の人望も協力者を得る為には必要だったしね」