希望は抗ってこそ価値があるもの
「これが最期です。掛かって来なさいリリス!」
椿が立っているのを見つけると全ての球体は椿に突進してくる。
二体の球体が椿に当たる直前、両サイドから桜とワルキューレが斬り飛ばす。
「椿ちゃん、援護します!」
「本体にぶちかましてやって下さい」
それに続き妃華璃と茜も球体を斬る
「椿、これが本当の最後だ。終わらせるぞ」
「勝っても負けてもこれが最後の力よ」
諦めていない椿の眼差しは四人の戦意を高まらせた。
「それじゃぁ行きますよ!」
椿を囲む様に四人は援護する。一体、また一体と各々が散って行く。そして最期の本体、分裂する寸前、椿は二刀流で突っ込んで行く。
「リリス! 貴方に俺達は負けません。貴方が絶望の闇だとしたら、俺達はその先に見える光だからです!」
「笑わせるな! その光諸共闇へと消えなさい!」
どちらも最後の一騎打ち。椿は刀を握る手に力を込める。
‘行っけええぇぇえええ!!!’
一同が椿に声を上げた。
「私が…この私が…ぅああああぁぁぁぁあああ……」
椿の二刀流は分裂する前に十文字に切り裂いた。コアも四等分に斬られ消滅し、決戦は重傷者は居たが誰一人の死者も出さず椿達の勝利に終わった。
駆け付けていた仲間達の歓喜の声が上がるがそのまま地面に倒れる椿。茜が慌てて駆け寄り抱き起こすが反応が無い。
「何で…目を開けろ椿! お前が死ぬなんて許さないぞ!」
大粒の雫を零しながら耳元で叫ぶが、目を開けることも動こともなかった。
「椿ちゃん…椿ちゃーーん!!」
桜も涙を堪えていたが溢れ出る涙は流れ続け、泣きじゃくった。
「帰りましょう。約束したあの場所へ」
ワルキューレも俯き唇を噛むと涙を流す。そして、先に歩き出した。
「そうね。私達が出来る事をしてあげましょう」
妃華璃は涙を流さなかった。流す訳にはいかなかった。皆が泣いては椿に笑われてしまうと思ったからだろう。
茜は椿を抱えると兵士達に見送られる。先程の歓喜の声とは打って変わって、椿の姿、四人の表情を見たら悲愴に包まれた。そして動かない椿を連れ白赤城へと戻った。そこに皆も付いて来たらしく黙って遠くから五人を見守っていた。
帰って来た皆を出迎える雪華。表情から悟ったらしく、涙を流しながら黙ってカメラを持って定位置に着く。
椿を中心にあの写真と同じ位置に座ると、茜は椿を抱きかかえたまま椿の顔を見て数回優しく撫でた。
「茜様、約束ですよ。笑いましょう」
「そうですよ茜さん。椿さんもきっと笑いますよ」
「それとも茜は怒っている時の方が良い笑顔だったかしら」
「…分かったよ。笑えば良いんだろ」
皆に茶化されカメラに向けて笑う。シャッターが落ちる瞬間雪華は見てしまった。
「どうした雪華、そんなに驚いて」
「つ、椿様…が…」
指を指した手が震えていた。四人も椿に視線を移すと、椿の右手がピースを作っていた。
「椿ちゃん!」
「椿! 生きているのか!?」
再び耳元で騒ぎ立てる声に椿は小さな声で応える。
「生きてちゃ…悪いんですか?…」
聞こえて来た声に遠くで見ていた皆も駆け寄った。
「生きているなら最初から起きなさいよ」
「そうですよ。どれだけ心配したと思ってるんですか?」
「心臓位確認するのが常識だと思うんですけどね。ですが今は何も言いません。少し疲れましたので…休み…ます…」
半泣きの二人に力無く応えると、また直に意識を失った。
駆け付けた霞蛇に直に看て貰う。かなりの大怪我だが命に別状は無いと名医の診断。つまりは死なないって事だ。しかし、尋常じゃない程の怪我と霞蛇特製の薬の多量摂取で入院十日目になっても意識は戻っていない。