下層世界へようこそ
二日目の正午過ぎ、世羅と飛鳥が報告にやって来る。
「ダーリン、準備は整いました。下層都市宮殿で待機中です」
「私の方も粗方大丈夫です。彩魏さんが集った皆を宮殿へ連れて行く手筈になりました」
二人の報告は最良なものだった。それを聞いた椿たちは立ち上がる。
「流石ですよ二人共。じゃぁ俺たちも決戦へ向いましょう」
「ああぁ。私達に喧嘩を売ったなら買って然るべきだしな」
「二度と噛み付かない様に牙を全部抜いてやるわ」
「二人の笑い方…どっちが悪魔か分かりませんよ」
「根が悪魔みたいな人達ですからしょうがないんだと思います」
「桜も言う様になりましたね」
不敵に微笑む茜と妃華璃に対し、三人は聞こえたら絶対にとばっちりを食らうため聞こえないように話した。
皆も準備を済ませると、留守番の雪華に見送られる。
「あ、そうでした。雪華、カメラ持ってきて下さい」
四人を引き止めると前を歩いていたメンツも振り返る。
「どうしたのよ椿、何か忘れ物でもしたの?」
ライアが不思議そうに尋ねると、「直終わりますから」と先に行かせた。
雪華がカメラを持ってくると椿は四人を入り口前の階段へ手招きして呼ぶ。
四人は雪華のカメラを見て中央に椿、両サイドに茜と桜、後ろには妃華璃とワルキューレと、自動的にこの配置に立った。
「帰ってきたら、この場所この位置この配置でもう一枚撮りましょう。雪華お願いします」
決戦へ向う勇姿を収め、次は笑ってこの場所へ帰って来れるお守りとして写真を撮る。
そして遅れて五人も白赤城を後にした。
下層都市、待っていた世羅達に案内され宮殿へと足を運ぶ。
「よう椿、思ったより元気そうだな」
「流石は鬼と言った所ですね。回復力が違いますね」
彩魏に出迎えられ宮殿の主と謁見する。彩魏と並ぶ強さを誇る鬼の姉妹、欄華と憐華。
「初めまして椿さん。彩魏から話は聞きました。私達は昔は中層界を支配しようした身です。しかし、訳の分からない輩に先を越される位ならこちらから潰そうと言う結論に達しました。彩魏の頼みでもありますので存分に暴れて下さい。それに憐華も椿さんに興味あるようですし」
「お姉ちゃんの言うとおり彩魏にも勝る人間にも興味あるけど、今はリリスを止めなきゃね。死ななかったら私とも一戦交えてね」
彩魏とは違い、口調、威厳共に迫力ある鬼を目の前に一同は敵じゃない事に安心する。仮に鬼が敵側だったらと思うと絶対に殺り合いたくない三人だ。
「終わったら考えておきますよ」
主要人物達は別室へ集められ作戦会議を始める。
茜の話だと、今の椿の体力では前線から戦うには消耗が激しすぎる為、精鋭達で五人を本拠地まで強行突破する事になった。
「当たって砕けろ見たいな作戦ですね」
「お前の頭を砕いてやろうか」
椿に踵落しでもする気なのか、腕を組みながら膝を上げて構えていた。
「直手が出るとは言いましたが、直に蹴れる体勢をとるのもどうかと」
「足なら良いんだよな」
「誰ですか!? 茜に脳筋馬鹿って言ったの。本気にしてるじゃ無いですか!!」
「全部お前だ!!!」
結局踵を頭に落とされのびてしまう。
「え、えっと、いつもこんなのなんですか?」
「出会ってまだ数日位なんですが、平常運行です」
「本当に彩魏に勝ったのが信じられなくなってきちゃった」
「いつもはああだが、いざって時は強いぞ椿は」
こんな時でも喧嘩をしてマイペースを保つ二人に欄華と憐華は少々呆れ、桜は慣れたのか落ち着き、彩魏はフォローを入れてくれる。
「あなた達の椿への評価はいいとして、只でさえ怪我人で体力の少ない椿に前線からって言うのは体が持たないわ。やっぱり茜の作戦で行くしか無いわ」
「こちらも戦力はそこそこありますし、無理な作戦では無いかと」
皆の意見が合致し、五人を護送する前代未聞の作戦が取られた。
「先生、頭痛が痛いので帰ります」
「馬鹿言ってないで行くぞ」
頭を押さえながら挙手をし頭痛を訴え駄々をこねる椿に、「いい加減にしろ」と襟を掴まれ引き摺り出される。
「ホントに緊張感無いわね」
「それでこその椿ちゃんです」
「椿さんもそれだけ安心しているって事じゃないですか」
茜に引き摺られていく涙目の椿の姿を見る三人も特に心配する様子も無く笑いながら付いて行った。
三人の鬼達により作戦を伝えられた兵士達。その中に見覚えのある姿があった。
「椿、私達も参戦するわよ」
「誤解とは言え迷惑を掛けたお詫びはします」
蛇杖院の二人とその仲間。
「人里ではお世話になりましたし、結局永久に無駄遣いで怒られましたので今度は奢って下さいよ」
「彩藍様とデートをしてくれるまで死なせられないからね」
「ふふ。教会じゃないから好きなだけ暴れられますね」
「黒い…これがシスターの本性だったんですね」
「兄ちゃん、私達の本当の強さってのを見せてあげるよ」
「今度は最高の戦力になってみせますから」
人里で共闘した妖怪達。そしてそこの住人達。
飛鳥が集めてくれた妖怪、妖獣達も何かしら椿に借りがある者達だった。皆椿の為に集ってくれた。そんな皆を見た椿は「ははっ」と俯き微笑んだ。
「椿、行く前に景気付けに何か皆に言ったらどうだ」
「皆椿を慕い、助ける為に集まってくれた様だしね」
「椿さん、皆貴方の言葉を待ってますよ」
「椿ちゃん早く、皆注目してますよ」
四人に背中を押され一歩前に出された椿は更に注目を浴びる。
「それでは… 皆で一暴れして、皆で疲れた身体を酒でも飲んで癒して騒ぎましょう!」
特に言葉を決めていなかった椿は今自分がしたい事を叫んだ。一瞬の間があり「おおおぉぉぉ!!」と言う叫び声が上がる。
「締まらない言葉だ全く」
「でも椿らしいじゃない」
「皆で宴会でも開きましょう」
「必ず帰ってくるんです」
四人も椿の言葉に納得すると兵士達と共に戦地へ赴いた。