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三魔界の似非陰陽師  作者: ロック
10/17

時を超えての贈り物

 次の日。マリア達と別れ一行はハクの所へと戻った。


 クダンが出迎えるとハクの居る所へ案内される。


「妃華璃と椿も一緒なのね。まさか妃華璃も仲間にするなんて」


「成り行きよ。悪いかしら」


「いや、寧ろ好都合ね。後はワルキューレ。まぁ彼女も大丈夫でしょ」


「…やっぱりそうでしたか。ハク、犯人の正体知ってますね」


「ええ、知ってるわ。だけどまだ確証が無いわね。先にそっちから話してくれない?」


 人里で起きた事件をハクに説明した。するとそれで確証が出来たのか頷いている。


「浅緋の体を使った別の魂。そうなると犯人はやっぱりあいつしかいないわね」


 もったいぶるハクに茜は「あいつとは誰なんですか!?」と催促する。


「リリスよ。私の妹ジュンタクと茜の母浅緋が自分を犠牲にして封印した悪魔。リリスは悪霊を操るわ。器として浅緋の体を与えたのね。それと椿を襲ったフード娘、椿が恨みを買うとすれば一人しかいないわ」


「サタンですか」


 ハクタクは「そうよ」と一言だけ返事をする。


「それと、椿の考えはどうなのかしら」


 ハクの問い掛けに先日考えていた事を話す。


「シナリオね。復讐する為に使い手を集めた様な感じかしらね」


「俺と茜、偶然なのか必然なのか妃華璃も加わり、後はワルキューレでしたね。ですが一人足りないですよね」


「椿は陰陽師の家系だから気付いたのかしら」


「やっとでしたけどね」


「どう言う事ですか?」


 桜は頭にハテナマークを浮かべると椿が簡潔に説明してくれた。


「霊刀ですよ。ハクはそれが必要だと言いました。そして茜のレーヴァテイン、紅い刀身は炎を意味します。妃華璃の刀は叉乱れ、その水色の刀身は水を表します。そしてワルキューレです。彼女の刀はエクスカリバー、金色の刀身は地を表します。空・火・風・水・地の五大元素を司る刀です。俺の刀は妖刀なので輝きませんけど。この五大元素が封印の要みたいですね。これがハクの話と似非陰陽師としての推測を混ぜた俺の答えです」


 桜も少しは話が解ったようで感心しながら頷いた。


「だけどあと二つ足りないわよ。空と風はどうするのかしら」


「椿の妖刀は妖怪、悪霊も殺せる。勿論悪魔も例外じゃないわ。五大元素の刀は悪魔の力を抑えることが出来る。弱った所で椿に止めを刺して貰うしかないのよ」


「力押しって事ね。私達に合っている戦法ね」


「当時は五つ揃っていても使い手が生き残ったのは木春だけだったのよ。それほど手強い相手よ気を付けなさい」


 椿はハクの言った名前に反応した。


「ハク、木春って言うのは」


「風の刀の主で桜の母よ」


「私の母上と幼馴染で共にハク様達と一緒に過ごしていたお方だ。私の師匠は母上だが、当時来栖の師匠は木春だったな」


「写真か何かありますか!」


 椿の様子が明らかに変化した。ハクもその勢いに押され「今持って来るわ」と自室へ戻る。


「そんなに慌ててどうしたんですか椿ちゃん」


「お前にしては珍しいな」


「確かめたいんです。約束した事が果たせるかもしれないんですよ」


「そんなに大事な事なの」


「とっても大事な約束です。その手掛りになるかもしれません」


 暫くするとハクが一枚の写真を持ってきた。当時出会ったばかりの頃なのだろうか、今の茜と昔の浅緋がそっくりだった。そしてその隣にいる犬耳の女性。椿は言葉を出せず数滴の涙を流す。


「そう言う意味でしたか…だから俺の名前は…」


「椿?」


「ハク、ありがとうございます。これで約束が果たせます」


 涙を流す椿を見て言葉を掛けようとしたが、声を被せお礼を言う。そして桜に向き直る。


「木春、見つけましたよ」


「椿ちゃん…?」


 心配そうに見守る桜に椿は桜の名を呼ぶ。


「木春…いえ、貴方の母より渡してくれと」


 椿は桜の前に座り直し一本の刀を出すとそれを桜に差し出す。


「これってもしかして」


「風の刀…嵐竜!」


 ハクも椿がこの刀を持っていた事に驚いた。


 桜は刀を受け取ると、刀身が美しい緑に輝く。


「椿ちゃん…私のお母さんって…」


 椿は皆に木春の事を話す。


 どういった経緯で来たかは知らないが、木春は代々椿の家、西蓮寺家に住み着いている妖獣だった。椿の代になっても陰陽師として一緒に行動した事。しかし椿を庇って死んだ事。死に際にその刀を託された事。椿が木春について話せる事を全て打ち明けた。


「俺の母さんは桜の事を知っていた。木春の願いも乗せて俺を椿と名付けたんです」


「木春、椿、桜…そう言う事ね。木春は春の木、椿は冬から春に咲く花。訪れた春の木には桜が咲く。椿はその架け橋になっていたのね」


「『貴方の名前の意味はいつか解るわ』って最期に言われましたからね。確かにその通りでした」


「でも、私に使いこなせるのでしょうか」


「その柄の札を剥がして下さい。何かは分かりませんがきっと役に立つとの伝言付です」


 桜は恐る恐る札を剥がすと、体中が光に包まれる。


「桜!?」


 茜が駆け寄ると次第に光は消えていき、桜の姿を見ると成長した姿が目に入った。


「木春そっくりですね」


「どう言う事だこれは」


「木春は妖獣でしたけど陰陽師でもあります。変化術を使った何かの応用かもしれません」


「椿ちゃん…私の頭の中にお母さんの記憶が入って来ました。今まで過ごした過程や生活、剣術武術、椿ちゃんとの思い出…これなら私も戦える気がします! 私も一緒に戦わせて下さい!!」


 木春の伝えたい想いは桜の中に届いた。いつも守られていた桜はこれに答えるべく一緒に戦うと名乗り出る。


「ええ。一緒に守りましょう。俺達の大事なものを」


 椿は桜に手を差し出すと、「はい!」と笑顔でその手を握り返した。


「私達古株妖怪は魔軸に力を使うから役に立たないわ。確り頼むわね」


 一同は各々返事をする。魔軸の修復完了まで二、三日掛かるとの事で他に進展があるまでどうするか悩んでいた。決戦が近いと分かると、ハクタクは茜を待機させた。


 暫しの間まったりとした時間を縁側で過ごす。


「茜、そういえば上層界へ行ってませんが大丈夫なんですか?」


「それなら心配は無いだろう。ハク様の古い友人がいるからな」


 椿は「そうですか」と答えると煙草に火を点ける。目の前で桜が妃華璃と模擬戦しているのを眺めながら再び問う。


「昔起きたそのリリスとの戦いってどんなんだったんですか」


「私と妃華璃はまだ戦いに参加出来るほどの力が無かったから少ししか知らないがな」


 そう言うと茜は知っている範囲の事を話す。


 かつて椿の様にこの世界を行き来していた巫女が居た。この世界を支配する為リリスが戦争を仕掛けると知り、その巫女は一人の男を連れてきた。その男と巫女の活躍により仲間が集り、リリスを封印できる刀を持った者達も協力してくれた。リリスは封印され悪霊も散ったが、こちらの被害も甚大だった。これが妖怪と悪霊の戦争、妖霊戦争。


「簡単に話したが大方こんなものだ。ハク様が気付いたって事は今回と似た部分があったのかもしれんな」


「そうかもしれませんね。しかし、最悪お互い今回も同じ末路を辿る事になるのかもしれません。その時は桜だけでも」


「そうだな。でもそんな事はやってみなくては分からないだろ。今から暗い事考えるな。お前はいつもの様に呑気に馬鹿みたいに笑っていろ」


「そうよ。椿、貴方は殺させない。私と殺り合ってくれるまで生きなさい」


「椿ちゃん、茜様、私だけ逃がそうとしてもそうは行きませんからね。何処へ行こうと何があろうと私は一緒にいますから!」


 いつの間にか模擬戦が終わっていたらしく、二人の会話に横槍を入れる。


「すまない。そうだな。そうだったな、私達はあの時と違うって事を証明してやろう」


「じゃぁ茜と妃華璃に一つ約束して欲しい事があります」


「椿ちゃん、私は?」


「桜にはまだ早い約束なので、またの機会に」


 桜はあからさまに「ちぇ~」と口を尖らせる。


「茜、妃華璃、この戦いが終わったら三人でハマグリで乾杯しましょう」


「…乾杯か。悪く無いな」


「ええ、良いわね。これで私達は死ねないわね。約束されちゃったから」


 桜は「私との約束~」と隅でのの字を書いていじけていた。


「桜との約束は…どうしましょう。桜が決めて下さい」


 花が開花した様な満面な笑顔で椿に迫る。


「じゃ、じゃぁ一緒にデートして下さい。美味しいもの食べたりお買い物したりしたいです。勿論椿ちゃんと二人っきりですよ!」


 茜と妃華璃にしてやったりの顔をする桜は楽しそうで無邪気に見えた。


「分かりましたからそんなに顔近づけないで下さいよ」


「約束ですよ椿ちゃん!」


 まだ出会ってたった数日。皆が椿に惹かれそれが絆となる。時間なんて関係無いのかもしれない。今この‘約束’が糧となる事を信じて。




 下層界。世羅は下層都市に居た。


「ダーリンの処刑は阻止出来ましたけど、脱走した死霊の調査とは如何なものか」


 一刻も早く椿に伝えたいが、この大変な時に脱走した死霊を突き止めろと言われた事にイライラを募らせながら都市を練り歩く。


 すると何体かの死霊が何処かへと行く姿を見つける。


「あれですね。後を付けて見ますか」


 見つからない様に一定の距離を取り後を追う。すると死霊は都市から出ると誘われる様に飛んで行く。その方向を確認する世羅は何かに気付いた。


「四方からあんなに死霊が!? あの方向…まさか!?」


 都市から更に奥へと向う先、あるのは一つだった。


「神殿!? ですがあそこに封印されているのは…! 死霊を思うがまま操れるのはリリスしかいませんね。この事件の主犯はリリスだったんですね。死霊が向ったのなら間違い無くあそこにいますね。早くダーリンに伝えないと!」


 世羅は急いで椿の下へと向った。

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