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01. ニセモノ令嬢と乙女騎士

 


「ニセモノのあなたより、私の方がグレッグ様を幸せにできるわ」



 先日そう言った彼女が、婚約者のグレッグの胸に顔をうずめている。信じられない気持ちで見ていると、グレッグの腕が彼女の背中にまわろうとした。彼女は私の方を見て、ニヤリと笑っている。



 その瞬間、私は弾かれたように2人に背を向け走り出した。曇っていた空は暗い雨雲に変わり、私の頬を雨粒が濡らしていく。



(いつから……? だってこの前の夜会も、その次の日もいつもどおりだったのに)



 2人がいつからこんな関係になっていたのかわからない。私は原因を探るように、ほんの数日前の日々を思い出し始めていた。




 ◇




「まあ! 今夜もレイラ様とグレッグ様の美しさは際立っているわ」

「ドレスもマダムロゼのものよ。センスが良いわ」

「グレッグ様は騎士団で鍛えてるだけあって、凛々しくていらっしゃるわね」

「本当にお2人は完璧ですわ」



 今夜の夜会も私達が顔を出したとたん、噂話が耳に入ってくる。美しい宮廷音楽に色とりどりのドレス。令嬢なら心ときめかせて過ごすはずなのに、私はさっきから上の空だ。今日は蒸すわね。早く家に帰りたい。そんな私の気持ちなどおかまいなしに、私達2人と話そうとやってくる人の列は絶えない。



「レイラ、次はハワード侯爵夫人だ。さっき教えた本の題名を覚えているか?」

「……?」

「乙女の誓いだ。夫人お抱えの作家が書いている作品だから、話題に出すように」

「わかりましたわ」

(乙女の誓い、乙女の誓い、乙女の…… よし! 覚えたわ!)



 私はいつもの様にグレッグから指示を受け、笑顔でハワード夫人を待ち受ける。



「レイラ! お久しぶりね! 最近見なかったけど、どうしていたの?」

「……少し体調を崩しておりまして、ようやく元気を取り戻したところです」

「まあ! お若いのに」

「ええ、でも療養中も今話題の……乙女の誓いという本に慰められましたわ」

「まあ! あなたも読んでいるの? あれ、実は私の――」



 ふう、うまくいったわ。思い出せなくて少し妙な間があいたけど、これで大丈夫! あとはグレッグがうまくやってくれるから、隣で微笑んでいればいい。案の定グレッグは私から会話を引きつぎ、ハワード夫人と楽しそうに話し始めた。



「ハワード夫人、僕もレイラにすすめられて、乙女の誓いを読ませていただきました」

「まあ! あなたまで? 男性は読まないどころか、馬鹿にする方もいらっしゃるのに! 嬉しいわ」



「ええ、とても素敵な本で、夢中で読みましたよ。特にヒロインのシャーロットが婚約者に捨てられた後、健気に孤児院で働くところに心を打たれました。またシャーロットが襲われた時。121ページですね。現れた騎士団長のマルクのセリフですが――」


「え? え? そ、そんなに?」



 ちょっとグレッグ! 感想を一気にまくしたてるから、ハワード夫人引いているじゃない。彼の腕にぎゅっと力をこめると、その意味に気づいたグレッグは、とろけるような甘い微笑みで振り返った。



「――とレイラが熱心に語ってくれました。ね、レイラ」

「ええ、そうね」



 2人揃ってにっこりとハワード夫人に向かって微笑むと、感激した夫人は「読書会を開くから、ぜひ来てほしい」と言って、上機嫌で去っていった。




「グレッグったら興奮しすぎよ。そんなにあの……乙女のなんたらが好きなの?」

「題名忘れるの早いぞ。あの本は最近の少女小説の中でも最高傑作に近い。俺は昨夜も2回読んでから寝た」

「まあ……早く寝ればよろしいのに」

「寝るのが好きな君からしたらそうだろうな。体調を崩していたのではなく、ただお茶会が面倒で寝てただけだと知ったら、みんな驚くだろう」

「寝ること以上に楽しいことはありません」




 私達が2人になるとすぐに顔を近づけ話すものだから、まわりからは「愛し合っているのね」「本当に素敵」という声が再び聞こえてきた。

本日5回更新する予定です。よろしくお願いします。

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