桜の花と雪だるま〜桜の下に死体が埋まってると、赤い花が咲くって言うよね〜
本当はもう少し書き込みたかったのですが、「なろうラジオ大賞3」への応募作品なので、削って粘って、試行錯誤のうえの998文字です。
そのため、会話文が多めです。
もともと「あとは読者様のご想像におまかせします」タイプの作品でしたが、文字数制限のため、よりその印象が強くなってしまいました。
「桜の樹の下に死体が埋まってると、赤い花が咲くって言うよね」
幼なじみの縁と永遠は、地元でも有名な桜の樹の周囲が騒がしく、しばらく様子を窺っていた。
「上からじゃないと見えないけど『あいしてる あの人よりも』って、雪の上に赤い文字で書かれてるらしい」
「え、人の血?」
「どうだろ。ペンキとか悪くても動物の血とかじゃないか?」
「あの樹って、噂のやつだよね?」
と、同じ高校の生徒の声も聞こえてくる。
「地面、掘り返すのかな?」
「そういうこともあるかもな」
ここは痴情のもつれを題材に書かれた小説のモデルで、いわゆる聖地というやつだ。
「どんな話だっけ? 江戸時代頃ってことしか覚えてないわ」
「えっと、わりと良いお家のお嬢さんとご子息が、子供の頃に婚約してね。政略結婚だけど、お嬢さんは相手を好きになっちゃうの」
「へぇ、良さ気な話だけど」
「でも、男には他に体の関係がある人がいて、結婚してからも離れるつもりはなくて。婚儀の日の夜も、愛人に会いに行ったって」
「急にゲスいな」
「けしからんよね!」
「それで?」
「二人で夜道を歩いていたら突然、白無垢姿の花嫁に愛人が懐剣で刺されるの。でも、愛人も刺さった剣を引き抜いて、力を振り絞って本妻に斬りかかった。どちらも致命傷で結局亡くなるけど」
「あぁ……」
「そこで終わらなくてね。花嫁の幼なじみの男性が現れて、二股男を殺すの。彼女のことがずっと好きだったから」
「まぁ、そうなるわな。色んな意味でドロドロのグチャグチャだな」
「最後はね、あの桜の下まで男と愛人を引きずって行って、埋めた。で、白無垢姿の彼女を樹の根元に座らせて、彼もそこで自害したの」
「花嫁も引きずられたのか?」
「ううん。大事に抱えて連れて行ったんじゃないかって。白無垢には土がほとんど付いてなかったから」
「そっか」
「彼は花嫁を後ろから抱きしめて亡くなってて、綿帽子の上に頭があるから、遠目には雪だるまみたいで。白無垢に散った血は、赤い桜の花びらみたいに見えたらしいよ。フィクションか実話か、未だに分からないらしいけどね」
「実話であれば、あの桜の下に死体が埋まってる、と」
「もし、俺が浮気したらどうする?」
「えぇ? とりあえず刺しとく?」
「あぁー、気をつけるわ」
「何か言った?」
「刺されないように気をつけるわ、って」
「違う。もっと何か、こう……」
「気のせいじゃね?」
「あぁ、うん、そうだね。気のせい、気のせい。帰ろっか?」