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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第97話 終戦へ向けて

「終わった……の?」


 セレンが聖剣技で神聖化していた大剣の効力を解いて鞘に収める。

 背後からネオンの疑問の声がする。

 どこか懐疑的で、未だ信じられないと言った感情が色濃く残っているようだ。

 周囲からは闇の禍々しい気配は消えていた。

 ネオンもそれは察知しているはずだが、いまいちピンと来ないのだろう。


 セレンはネビロスが黒いちりと化したのを見届けた。

 滅びゆく様子を見るに、彼は既に人間を辞めていたのだろう。


 セレンは取り敢えず、ネオンたちを安心させるべく振り返ってはっきりと告げた。


「終わりです。漆黒司祭と魔神デヴィルは滅びました」


「……後は、オークたちだけと言う訳ね」


「ですね。すぐに伝えましょう。敵が信じれば自ずと瓦解していくはずです」


 セレンは猛烈に消耗していた。

 これだけ長時間に渡って【憑依】を使ったのは初めての経験だ。

 既にセレンの体は悲鳴を上げている状態であったが、もう少しの辛抱だと言い聞かせ、自分に喝を入れる。


 ネオンは膝を着いてアマリアを抱き支えながら、光精霊による回復を行っていた。アマリア自身は外傷を負っていないが、漆黒術イクスタスを喰らい精神を摩耗しているのだろう。

 セレンも力の断片を受けた時のことを思い出す。

 精神が恐慌状態を起こし、虚無感に襲われるのだ。

 漆黒術イクスタスをまともに喰らったアマリアが生きているのが不思議な程であった。


 事実、アマリアに放たれたのが『リントヴルム』ではなく『ネビロス』だったなら、彼女の命は今ここにはなかったはずである。


「光精霊は精神までも癒すことができるんですか?」


「ええ。心身共に回復できるわ」


 セレンから少し離れた場所ではディロードが壁に寄りかかって足を投げ出している。胸を貫かれたにも関わらず、ネオンの迅速な行動により回復が間に合ったのである。


 聞こえてくるのはいびきだろう。

 よくよく見れば船を漕いでいるのが分かる。

 豪快なハイエルフだとセレンは思わず苦笑いをしてしまう。


「セレン様……また助けて頂きましたね……」


「いや、アマリアさんがネビロス相手に奮戦してくれたお陰で、魔神デヴィルを倒せたんですよ」


 ネビロスとバファルに連携させなかったことが勝敗が決まる大きな要因になったとセレンは考えていた。


「それにしても人間とオークの裏にあんな奴らがいたなんてね」


「うーん……僕には〈義殺団プライマーダ〉とネビロスやバファルは繋がっていないと思えるんですよね」


 とてもじゃないが〈義殺団プライマーダ〉程度が魔神デヴィルを使役できるとは思えない。

 ましてや魔神デヴィルを使役していたネビロスを従わせることなどできないだろう。


 また、目的も違うように感じられた。


「ま、今そんなことを議論していたってしょうがないわね。外での戦いを終息させなきゃね」


 ネオンの言うことももっともである。

 一刻も早く砦の外で戦っているハイエルフたちに加勢しなければならない。

 流石のオークも漆黒司祭と魔神が(デヴィル)滅びたと知れば、士気も落ちるであろうし、降伏したり逃亡したりする者も出てくるかも知れない。


「ネオンはしばらくアマリアさんを回復してあげてください。僕とディロードさんで外に出てネビロスたちを倒したことを喧伝します」


 アマリアはとても動ける状態ではない。

 セレンはいびきをかいているディロードの体を揺すって起こす。

 ディロードは大きく伸びをすると上半身を起こして周囲をキョロキョロと見回している。

 寝起きは悪くないようだ。


「あー俺は死んでないみてぇだな。確か胸を貫かれたと思ったが……」


「ネオンが回復してくれたんですよ。体調はどうですか? 戦えます?」


「たりめぇよ! 胸を貫かれた程度で俺を止められねぇさ」


 死にかけていた癖に何故か大威張りのディロードにセレンはジト目を送る。

 ネオンもアマリアもも苦笑いしている。


「で? こんなに場が和んでるってこたぁ、敵を倒したんだな? ……って死体は見えねぇみたいだが」


「はい。奴らはちりとなって消えましたよ。後は外のオークたちを何とかするだけです」


 ディロードは立ち上がると玉座の方へと歩いていく。

 そこには物言わぬむくろとなったハイエルフたちが倒れ伏している。

 そっと近づいたディロードはしゃがみ込んで彼らに向かってこうべを垂れた。


「俺が不甲斐ないばっかりに部下を死なせちまった。クソッタレッ……」


 セレンも大事な人を失ったばかりである。

 彼の気持ちはよく理解できたが、高々12歳のセレンが掛けられる言葉など見つからない。ディロードのいつもより小さく見える背中を前に、セレンはただただ黙ってそれを見守った。ネオンもアマリアも声を掛ける気配はない。


 しばしの沈黙が場を支配した。

 重たい雰囲気の中、ディロードはすっくと立ち上がる。


「うじうじしてたってしょうがねぇ。後で森へ返してやるからな……」


 流石、一軍の将と言うだけあってディロードはすぐに気持ちを切り替えたようだ。振り返ったその顔は真剣そのものだ。


「大将首でもあれば良かったんだがな。塵になっちまったんならしょうがねぇ」


「ハイエルフ族の旗――国旗みたいなものがありますよね? それを砦の屋上に掲げましょう」


「そうだな。砦陥落を知らしめて、この戦いを終わらせるぞッ!」


 セレンはディロードの力強い言葉に、こちらも力強く応えると走り出した。


 全てに終止符を打つために。

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