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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第94話 アマリア、奮戦!

 セレンの騎士剣技による攻撃をローブ姿の男が受け止めた。

 それを見たネオンとディロードもそちらへ援護に向かう。


 残されたアマリアは必然的に漆黒司祭ネビロスと相対することとなった。

 漆黒術イクスタスと言う初めて耳にする術を使う存在であり、セレンの剣技を止めることのできる者を従える人間。


 その禍々しい力を発する闇の司祭の相手をしなければならない。

 アマリアはそのあまりの重圧プレッシャーに吐き気がしていた。

 しかし弱音を吐いてなどいられない。


「あなたたちッ! こっちは私たちで踏ん張るわよッ!」


 後ろに控えるハイエルフたちに向けてアマリアは叱咤激励しったげきれいの声を掛ける。

 これは自分自身の心を鼓舞するための叫びでもあった。


おうッ!!」


 普段、目にすることのないアマリアの雄姿に、ハイエルフたちの士気は上がる。

 抜剣ばっけんした戦士たちは一斉にネビロスへと殺到した。

 アマリアは精霊術を行使すべく集中を開始する。


 ネビロスの目の前にディロードの部下たちが迫る。

 しかし、黒の司祭のフードの奥には動揺などない。

 むしろ余裕の笑みさえ浮かべている。

 ネビロスは見た目とは裏腹に素早い動作で彼らの剣撃けんげきを全てかわし切ると術を発動した。


「死ねッ! 『リントヴルム』」


 ――発動が速いッ!


 ハイエルフの攻撃をかわし後方へ下がったネビロスに再度突撃する彼らを迎え討つかのように、漆黒の竜が無機質な石の床から出現する。

 黒く光る鱗、赤い瞳、あまりにも巨大な竜の出現に、言い様のない悪寒がアマリアたちを襲う。まさに蛇に睨まれた蛙、いや竜に睨まれたハイエルフである。


「土精霊よッ! 仲間を護って!」


 心を奮い立たせてアマリアが叫ぶ。

 アマリアは石の壁を出現させ、ネビロスの術を防ぐつもりだった。

 彼女の呼びかけに応えて歪な形をした石の壁がハイエルフたちの前に立ちふさがる。


 が。


「実体がないと言うのッ!?」


 漆黒の竜リントヴルムはあっさりと石壁をすり抜けると、3人のハイエルフと重なり合う。アマリアには彼らが竜の体の中へ吸収されたように見えた。


 刹那。


 3人の口から苦痛の絶叫がついて出たかと思うと、彼らは糸の切れた操り人形のようにバタリと倒れ伏した。

 表情は苦悶に満ちており、目をカッと見開いたまま絶命している。

 ネビロスが生み出した漆黒の竜は虚空に溶けて消えた。


「貴様ら程度には我が『ネビロス』を使うまでもない。逆らったことを後悔して死ね」


「土精霊よッ! 敵を錐で貫けッ!」


 ネビロスの言葉に全く耳を傾けることもせず、アマリアは精霊術を行使していく。


「話を聞かぬ女だッ!」


 石の床から次々と円錐状の鋭いトゲが出現し、ネビロスに向かって伸びる。

 優秀なアマリアにかかれば、呼び出せる精霊の数も多く、術の威力も高い。

 ネビロスは術士らしからぬ俊敏な動きでかわしていくが、トゲは何本も床から現れて執拗にネビロスへと突き進んでいく。

 最後に残ったディロードの部下の1人もタイミングを合わせて精霊術を使用した。


「火精霊よ! 灼熱の獄炎を持って敵を消し炭に変えてくれッ!」


 要請に応えてその身に炎を纏った精霊たちがネビロスに向かって飛んでいく。

 荒ぶる火精霊たちの出現で部屋の温度が一気に上昇する。

 火精霊は意思持ってネビロスへと波状攻撃を仕掛けた。

 精霊術は神聖術などとは違い、特に定まった攻撃の形はない。

 精霊術士と精霊の思うがままに形を変え、そのバリエーションは多岐に渡る。


 火精霊はその口から火炎を放射したり、自身の炎の出力を上げて突攻したりとネビロスに次々と襲い掛かっていた。

 何とか土の錐から逃れたネビロスは、今度は火精霊の攻撃に晒されていた。


「チッ……。小癪こしゃくな真似をッ!」


 流石にハイエルフ2人の精霊術を相手にして分が悪いと思ったのか、ネビロスの口から苛立ち交じりの声が漏れる。

 土精霊の攻撃を凌ぎきられたアマリアは、抜剣ばっけんすると左手に闇を纏わせ始めたネビロスに向けて一直線に走り出した。

 剣と精霊術で同時に攻撃を仕掛けねば、異様に体術に優れた男を倒すことは叶わないとアマリアは判断したのだ。


 危険だが接近せざるを得ない。


 ――虎穴に入らずんば虎児を得ず


 周囲では火精霊が暴れ躍っていたが、精霊力エレメンを持つ彼女は襲われることはない。

 ネビロスに突攻した火精霊が、彼の左手から生じた闇の障壁によって防がれる。


「風精霊よッ! 鋭利な刃と化して敵を斬り裂いてッ!」


 アマリアは剣と精霊術の同時攻撃でネビロスを倒すつもりであった。


「おのれッ! 『リントヴルム』」


 ネビロスの目の前、アマリアが突撃した付近に再び漆黒なる闇が発生する。

 2度目の漆黒術イクスタスの発動はそこまで速くはなかったが、先程の仲間たちの死にざまがアマリアの目の前にチラつく。


 彼女を襲うのは焦燥と逡巡。


 漆黒術イクスタス『リントヴルム』は中距離型なのだろう。

 中央砦の外で目にした術とは明らかに違う。

 精霊術は精霊の気まぐれなのか、単に仕事が速いだけなのか、術の発動に掛かる時間は短い。

 神聖術などは術の規模によって発動までの時間は大きく変動する。

 あとは術者の資質と精神状態によるところが大きい。

 漆黒術イクスタスも恐らく神聖術と同じはずだ。


 アマリアは接近は危険と判断する。

 止む無く突撃を諦めて、風精霊のみをネビロスへ放った。


 火精霊と風精霊が融合して、ネビロスの周囲は火炎渦巻く地獄のような光景になっている。

 ネビロスは炎に巻かれながらも耐えていた。

 怨嗟えんさのようなうめき声が重低音となってアマリアの耳をつんざく。


「グウウウウウウウウウウ!」


 ネビロスが無事なのは漆黒術イクスタスのお陰なのかは、アマリアには分からない。

 奈落のような闇の底から大きな竜が出現する。


 アマリアはとてもかわすことなどできないと判断し、光精霊を呼び出した。

 精霊は意思を持つため、神聖術と比べれば同時に複数の精霊を使役し易い。

 と言っても、二重術ダブル三重術トリプルを扱えるのは優秀な精霊術士のあかしである。

 光精霊は他の精霊や術への抵抗値を上げる。

 火精霊を制御していたハイエルフと、火精霊と光精霊を制御したアマリアが金色こんじきのオーロラのような光のカーテンに包み込まれた。


 そこへ得物に襲い掛かる獰猛な獣の如く漆黒竜が迫り来る。


 ――かわし切れない


 巨大な竜の口が2人を飲み込んだ――実際は実体のない竜が2人をすり抜けた。

 途端に精神を漆黒なる“何か”が侵蝕していく。

 アマリアの心に言い様のない負の感情が怒涛の波の如く押し寄せた。


 それは圧倒的なまでの憎悪。そして狂乱。


 仲間のハイエルフは抵抗レジストしきれなかったようで、ガクリと膝を着くとその場に力なく崩れ落ちた。


 アマリアは引き裂かれそうになる精神を何とか抑え込もうとしていた。

 心が悲鳴を上げている。

 いつまで耐えればいいのか――あるいは一瞬の出来事だったのかも知れないが――突然、アマリアの肉体に一気に負荷が掛かった。


「ガハッ……」


 両手両膝をついて吐血するアマリア。

 彼女は何とか耐えきったのだった。

 アマリアはフラフラになりながらもぼんやりした頭で推測する。

 漆黒術イクスタスは精神へのダメージがそのまま肉体のダメージとなるのではないか、と。


「耐えきっただとッ!?」


 10マイト程離れたところで驚愕に満ちた声が聞こえてくる。


「あの炎と風の精霊術を耐えたことだって驚きよ……」


 アマリアは自分に喝を入れると、剣を杖代わりにして何とか立ち上がる。

 そして再度、精霊術を使うために集中力を高める。

 アマリアは自分の精霊術ではネビロスを倒しきることはできないと感じていた。

 

 なれば――


 ――何としても時間を稼ぐ。


 ネビロスともう1人の男を共闘させてはいけない。

 アマリアの第六感がそう告げていた。


 アマリアの周囲を水精霊と風精霊が舞い踊るかのように飛翔を始めた。


「バファルッ! 援護しろッ!」


 ネビロスの声に余裕はない。

 ここはハイエルフの聖地、清浄なる泉(ウンディ・ウェル)

 呼び出すのはただの水精霊ではない。

 全てを浄化する神聖なる力を秘めている水に棲む精霊である。


「ハイエルフを滅ぼそうとした邪悪……私が浄化しますッ!」


 アマリアの言葉には決死の色がにじんでいた。

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