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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第93話 魔神バファル

 漆黒司祭ネビロスの体から闇が溢れ出る。


 ゾワリとセレンの背中を不愉快な感覚が襲う。

 恐らく、外で戦っていたハイエルフが殺された未知の術だ。

 砦の外でハイエルフがこの術で殺されたのを見てセレンは遠距離型の術だと考えていたが、近距離型の術を持っていてもおかしくはない。


 何もかもが分からない術である。

 勝負は一刻を争う。


 セレンは一撃で勝負を決めるべく、騎士剣技を使った。

 先手必勝だ。


閃烈剣せんれつけん


 瞬間的にセレンの移動速度が爆発的に跳ね上がる。

 ネビロスの姿があッと言うまにセレンの目の前へと迫る。


 ――った!


 剣撃けんげきが閃光のようにまばきらめく。

 光の残滓ざんしを残してネビロスの体がバラバラに斬り刻まれる――


 はずであった。


 セレンの剣撃はネビロスに届く直前で止められていた。

 封剣ふうけんゼクスナーガを握る両手首を左手で押さえたのは、ローブ姿の男であった。

 いとも簡単に騎士剣技を見切られてしまい、セレンに動揺が走る。

 これまでセレンの剣技をまともに防いだのはモンステッラだけだったのだから当然と言えば当然かも知れない。


「くッ!」


 セレンは宙ぶらりんの格好から体を捻ると男の顔面目がけて右足で蹴り上げる。

 その一撃は軽々とかわされるが、男が被っていたフードが捲り上がった。

 露わになった顔は蒼白で、不気味な紋様の刺青いれずみが入っている。

 男の右手がセレンの腹にめり込む。


「ガハッ!」


 肺の中の空気を全て押し出されたかのようなな息苦しさがセレンを襲う。

 何とか足をばたつかせてもがいてみるも両手を掴まれて動けない。


「セレンッ!」


 ネオンが長剣を抜き男へと躍りかかる。

 同時にディロードも大剣を振り上げて駆け出した。

 彼らは男の左右からタイミングを合わせて挟撃を掛ける。

 セレンを盾にして牽制する男に対してネオンは焦りの声を滲ませる。

 下手に仕掛ければセレンを傷つけかねない。


 一方、セレンは男の顔を見た瞬間、今自分を縛めている者が何者なのか理解した。


 ――魔神デヴィル


 クロムの記憶やゴルセムナたちの話から、この世界に魔力グラマヌスは満ちていないのは知っている。そんな世界でどうやって顕現しているのかは知らないが、堕ちた神、堕ちた天使と言われる魔神デヴィルに効果のありそうなスキルは――


覇戒はかい


 セレンの体から空色の力が発せられ、魔神デヴィルの体を破戒はかいする。


 破戒はかい――戒めを破り、魔界へ堕ちた神には相応しい。


「グアアアアアアアア!!」


 縛めから逃れたセレンは床に着地するや否や魔神デヴィルの首元へ鋭い突きを放つ。

 ダメージを負いながらも左手で迫り来る大剣を掴む魔神デヴィル

 その手を斬り裂かれながらも大剣はその動きを封じられてしまう。

 セレンに同じ過ちを犯す気はない。

 すぐさま、柔剣技を行使した。


真球倒撃しんきゅうとうげき


 先程は両手を抑えられて剣技を使えなかったが、【真球倒撃しんきゅうとうげき】は触れていさえすれば効果はある。はたから見れば間抜けに見える程豪快に魔神デヴィルはバランスを崩して床に倒れ伏した。その隙にセレンは聖剣技の発動に移ろうと集中力を高める。


 倒れた魔神デヴィルにディロードが好機とばかりに斬り掛かる。


「ディロードッ! 戻りなさいッ!」


 セレンの意図を読んだのかネオンの大声が飛んだ。

 【雷轟神聖撃らいごうしんせいげき】を放つつもりだったセレンは止まらないディロードを見てすぐさま戦術を変える。

 ディロードを巻き込む訳にはいかない。


聖剣撃化ホーリーブレード


 封剣ふうけんゼクスナーガが金色こんじきに光り輝く。

 何しろ元から神聖属性、竜種特効属性を持ち、今まで喰ってきた数々の聖剣、神剣、魔剣の能力が宿っているのだ。

 そこへ更なる聖剣技による神聖力ラディガスの増幅である。

 何級の魔神デヴィルであろうが絶大なダメージを与え得るだろう。

 ましてや魔力グラマヌスのない状態であれば尚更だ。


 床に転がされた魔神デヴィルはディロードから振り下ろされた大剣の一撃を紙一重でかわすと、着ていたローブを脱ぎ捨てる。

 目くらましとなってディロードの動きがほんの一瞬だけ止まった。

 大剣でローブを払った彼の目の前には魔神デヴィルが待ち構えていた。

 背中に2枚の漆黒の翼を持った魔神デヴィルが。


「クソッタレッ!」


 悔しさの滲む声がディロードの口からついて出るが時既に遅しであった。

 彼の鳩尾みぞおち魔神デヴィルの右ストレートが決まる。


「ガァッ!」


 鈍い音が響く。骨が砕かれる嫌な音である。

 ディロードは咄嗟に丸太程はあろうかと言う太い左腕で魔神デヴィルの一撃をガードしたのだ。結果、左腕と引き換えに体への大ダメージを回避した。


「ウオラァァァァァァ!」


 お返しと言わんばかりに大剣が振り下ろされる。

 直撃コースだ。

 ディロードの濃い顔が確信の色に染まる。


パッキーーーーーーーーン!


 予想とは違う結果にディロードの顔から笑みが消える。

 魔神デヴィルに左肩へと直撃した大剣は澄んだ音を残して砕け散ったのだ。


「舐めているのか? 魔力グラマヌスがないからと言ってその程度の攻撃が通用すると思っているのならとんだ侮辱だぞ貴様」


 魔神デヴィルはディロードを見下みくだしながら冷ややかな声で告げる。

 冷たいだけではない底冷えするかのような声色は、怒りすら滲んでいた。


 セレンとネオンもジッと傍観していた訳ではない。

 魔神デヴィルの左右から同時に斬り掛かる。

 大剣を砕かれたディロードは後方へ下がろうとするが魔神デヴィルの動きは速かった。

 皮の軽装鎧とは言え、丈夫な作りをしていた装備は易々と貫通されてしまった。

 ディロードは胸の辺りを押さえて激しく吐血する。


「がはッ!」


「おのれぇぇぇぇぇ!」


 そこへいかれるネオンが長剣を下から払い上げる。

 魔神デヴィルはこともなげに右手で長剣を受け止めた。


「ほう。光の精霊の力か……だが及ばんよ。俺を滅ぼしたければ聖剣でも持ってく――」


「ガアアアッ! なッ!?」


 最後まで言わせずにセレンの大剣がディロードを貫いていた魔神デヴィルの左腕を斬り飛ばした。放り出されるように床に倒れ伏すディロード。セレンは更に追撃を掛けつつ、ネオンに指示を出す。


「ネオンッ、ディロードさんを頼むッ!」


 魔神デヴィルはネオンの持つ長剣から手を離し、セレンの攻撃をいなそうとする。

 脅威はセレンだけだと判断したのだろう。

 斬り落とした左腕はちりへと変わり、傷口は少しながら再生が始まっているようだ。超再生の力であるが、魔力グラマヌスがないのに何故起こっているのかはセレンにも分からなかった。


「何なのだお前はッ!?」


 セレンの追撃からからくも逃げ切った魔神デヴィルの焦躁の混じった声がセレンへと投げ掛けられた。


 魔神デヴィルは憎々《にくにく》し気にセレンを睨みつけ、セレンは今にも飛び掛からんと隙をうかがいながら両者は再び対峙した。

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