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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第85話 思わぬ再戦②

 青天だった空にかげりが見え、明るかった空からは太陽が姿を消していた。

 ハイエルフ軍の圧倒的優勢がくつがえりつつあり、ガリレアが闇に堕ちてダークエルフとなった。状況は、ハイエルフにとって刻々と悪い方向へ転がっていた。




 セレンは警戒しつつ、ガリレアとの立ち回りを演じていた。

 ガリレアには初めて対面した時から天力アストラがあるのは分かっていたが能力が顕現しているのかは分からない。

 これは実力を測るための決闘ではない。


 死合いなのだ。


 事実、ガリレアの剣捌きは前回の決闘の時よりも鋭く、的確にセレンを殺しに来ていた。しかし、既に能力を発動してクロムの霊魂を降ろしているセレンにとっては負ける訳にはいかなかったし、負けるつもりもなかった。

 少し離れた場所からは喚声かんせいが、この戦いの場ではただただ剣撃けんげきの音のみがセレンの耳に入ってくる。


 ――急がないとッ!


 未知の術で押されていると言うハイエルフ軍のことが気になって勝負に入り込めていないとセレンは感じていた。

 戦いの趨勢すうせいはセレンに傾きかけていたが、一瞬の集中力の乱れが命取りとなる。

 セレンはガリレアのフェイントを見極めて、カウンターの横薙ぎの一閃を放つ。

 それを軽快なサイドステップでかわすガリレア。

 そして素早い動きで左右に移動を繰り返しながら長剣を振るい、セレンの右から左から次々と斬撃を放ってくる。


 その動きを読み攻撃を合わせようとセレンが動いた――


 瞬間。


 ガリレアの体と右手の長剣が淡い青色に輝いたかと思うと、その俊敏性が一気に跳ね上がる。

 

 横の動きから一転、縦の動きになり一気に間合いを詰められたセレン。


「チッ!」


 想像を超えた進入速度に思わず口から舌打ちがついて出る。


 咄嗟とっさに体を仰け反らせるセレン。


 体に走る鋭い痛み。


 ガリレアの長剣は丈夫な皮鎧を貫いてセレンの左肩を斬り裂いた。


「セレンッ!」

「セレン様ッ!」


 後ろで見守っていた2人から悲鳴に近い声が上がる。


「こなくそッ!」


 セレンは後方へ少し引くと追撃をかけようと更に前へ踏み込んだガリレアの鳩尾みぞおちに右蹴りを喰らわせる。


「チッ!」


 今度はガリレアが舌打ちをする番であった。

 不十分な体勢から放った蹴りであったが、一旦、間を取るのには十分だったようだ。セレンは体勢を立て直し、ガリレアは追撃を諦める。


「その長剣は聖剣だったのか」

「……神剣エイラーク。勇者の剣だ」


「神剣か……。なるほど。それは神剣だったのか」

「なんだ? 神剣は反則だとでも言うつもりか?」


「いや、別の為すべきことが出来たと思っただけだ」

「為すべきことだと……?」


 怪訝けげんな表情を見せるガリレア。

 神剣や聖剣の効果は発動してしまえば、持ち主の意志が変わらない限りずっと継続する。これからガリレアには戦闘中ずっと付加効果が続くことになる。

 必殺の場面で使ってくる辺り、切り札だったのだろう。

 切り札が利かなかったにしてはガリレアはそれ程悔しそうな表情をしていない。


「他にも追加効果があるのか?」


「さぁな。身を持って確かめてみろ」


 セレンとしては契約に従って処理するのみだ。


「とっておきの切り札が防がれて残念だったな」


「阿呆が。切り札ってのは最後まで取っておくものなんだよ。いきなり勝負手を切るのは考えなしのれ者のすることだ」


 セレンの挑発に、ガリレアは小馬鹿にしたような言葉を投げかける。

 彼の言葉もまた挑発と分かっていてもその言葉に少しイラッとくるセレン。

 全くもって大人げない。

 いや、まだ子供なんだけれども。


 セレンがそんなことを考えていると、ガリレアから表情が消える。

 お話はこれまでとばかりに、セレンとガリレアは再び剣を構えた。


 ガリレアが尋常ならざる速度で一気に間合いを詰めてくる。

 その顔は喜色に染まっていた。

 神剣の加護を得て、彼の自信が見えるようだ。

 もちろんそれだけではないだろう。

 面子を潰されたガリレアとしてはセレンを殺したくて溜まらないはずだ。

 ダークエルフへ堕ちたのもそのせいだろうとセレンは考えていた。


 再び剣と剣とのぶつかり合いが始まった。

 セレンはひたすら神剣の乱打を弾きながら、取り敢えずガリレアと密着できる隙を窺っている。しかしガリレアはフルーレを扱うように巧みな突きを使ってセレンの接近を許さない。


 クロムを降ろしている状態でガリレアに善戦されているが、これ以上の苦戦はクロムの格が落ちるようでセレンには我慢ならない。

 何とか大剣で押し込みたいところであった。


 ――剣技系は使えないのか?


 セレンは奥の手を残しているであろうガリレアを警戒するが、あまり勝負を長引かせる訳にもいかないため、彼の突きにタイミングを合わせて剣技を発動する。


撃攘げきじょう


 今までの剣撃けんげきの音よりも高く澄んだ響きを残してガリレアの神剣が弾き返される。スキルによる受け流しである。その威力は通常のそれより強力だ。

 予想以上の威力にひるんだのか、ガリレアの表情が余裕から焦り交じりのそれに変わる。バランスを崩したガリレアにセレンは大上段から大剣を振り下ろした。


 ガリレアは片膝を着きながらも両手でその一撃を喰い止める。


「クッ!」


 苦悶の表情を見せるガリレアをそのままの勢いで押し込むと、セレンは封剣の力を解放した。


「今こそ、その力を解放せよッ! 全てを喰らいつくせッ!」


《封剣ゼクスナーガ》


「何ッ!?」


 神剣から淡い青色の輝きが失われていく。

 同時に自分の体に訪れた変化にも気付いたようでガリレアは驚愕の声を上げた。


「貴様、何をしたッ!?」


 セレンは何も答えずに鼻で笑うと、聖剣技を発動しようとする――その瞬間。


「クソがッ! 闇精霊よッ! 俺に力を貸せッ!」


 勝負を一気に決めたかったセレンの目論もくろみは破れた。

 虚空から出現した闇を纏いし、邪悪な風貌をした精霊が漆黒の波動を放ってきたのだ。


 セレンは精神の集中が霧散していくのを感じていた。

 剣技の発動には集中力と剣技の種類に見合った間が必要だ。


 これも闇精霊の力かと改めて精霊術の多様性に驚きながらも、飛び交う複数の闇精霊を大剣でぶった斬り、あるいは打ち払う。

 その間に体勢を立て直したガリレアであったが、流石に精霊術を行使しながら剣での戦いを行うのはが悪いと判断したのか、すぐに闇精霊を消してしまう。

 精霊術を扱うには精霊たちを制御するために、かなりの集中力が必要なのである。


 ――ここが勝負のとき


 再びガリレアに飛び掛かり、攻勢を掛けるセレンの大剣がガリレアの左脇腹へと肉迫した。

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