第82話 セレン、戦場へ
話を聞いたセレンは妖精王の了承を取ってすぐさま戦場へと赴いた。
妖精王もセレンに助力を頼む腹積もりだったのだろう、すぐに許可が出た。
セレンの言葉を聞いて、ネオンと精霊術士のアマリアも妖精王に上申すると後に続く。流石にネオンは止められていたが、静止を振り切って本陣から飛び出した。
妖精王は慌ててネオンを護衛するための兵に後を追わせる。
意外と子煩悩なところもあるようだ。
ちなみに妖精王自身も本陣の残った兵力を全て投入して自ら戦う意志を見せたが、側近や他の族長から止められて止む無く引き下がった。
風の精霊の力を借りて、3人は凄まじい速度で清浄なる泉に到着した。
そこでセレンが見たものは、死屍累々としたまさに戦場であった。
そこにはハイエルフもオークもゴブリンも区別はない。
今はハイエルフの衛生部隊が襲撃を警戒しながら生存者を探しているようだ。
戦況は圧倒的優勢に推移していると聞いていたが、伝令の言葉にあったように正体不明の術によって形勢が逆転、あるいは拮抗の様相を見せ始めているようだ。
街の中心部の方では喊声が聞こえてくる。
主戦場は街を取り囲む石垣付近から、かなり奥へと移っているようだ。
「かなり押し込んではいるようね」
「そうですね。僕は中央砦を攻撃している部隊に合流します。ネオンとアマリアさんは危険なので、この辺で衛生部隊の皆さんと一緒に生存者がいないか探して回復させてあげてください」
「そんなッ! 私も行きます!」
そんなつもりで同行したのではないアマリアはセレンの言葉を断固拒否した。
アマリアの言葉には強固な意志が感じられる。
「ゴルセムナさんに聞いたでしょう? 相手は未知の術の使い手かも知れないんですよ?」
「だからこそですッ! セレン様に身に何かあれば私が回復致します!」
「僕のことは大丈夫です。それより王女であるネオンの身を護ることを優先してください」
セレンが王女の名を出すと、ネオンがすぐ隣までやってきて肩に腕をまわす。
そしてセレンをぐいッと引き寄せると、その豊満な胸を目一杯に主張しながら声高らかに宣言した。
「なーに言ってるのかな。セレンは。あたしも一緒に行くに決まってるじゃないッ!」
「何が決まってるんですか! もっと王女としての自覚を持ってくださいよ……」
ヘッドロックの状態になりながらもセレンはそれでもネオンの身を案じていた。
このじゃじゃ馬姫に半ば諦めつつも。
それにセレンはまだネオンが戦っているところを見たことがないのだ。
「王女と言うより現妖精王の子と言った方がしっくりくるわ。妖精王は世襲ではないから、あたしの身分なんてあってないようなものよ」
ネオンの様子はいつもと変わらない。
彼女の立ち位置は不安定なものなのかも知れないが、本人の中では既に気持ちに折り合いが着いているのだろう。
ネオンとアマリアの2人は強い視線をセレンに向けている。
セレンとしてもこんなところで無駄な時間を浪費している訳にもいかない
「分かりました。そこまで言うなら3人で行きましょう」
観念したセレンの言葉に2人は喜びの声を上げた。
ネオンは着いてきた護衛兵にこの場で衛生兵の手助けをするよう指示を出す。
彼らからは異論が出るが、ネオンは聞く耳を持たなかった。
結局、中央砦には3人で向かうことになり、セレンたちは風精霊の力を借りて再び高速で天を翔けた。




