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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第80話 ガリレア堕つ

 ガリレアにとって最近は本当にずっとクソッタレな毎日であった。


 ガリレアはハイエルフの勇者――勇敢な者が持てる神剣、通称勇者の剣を前妖精王から授かっていた。

 それは奴隷狩りに来た人間を撃退し、長年に渡ってファルス族の剣士として活躍し、剣士団を精強な軍団にした功績で下賜かしされた物だ。


 それなのにどうだ。


 聖地――清浄なる泉(ウンディ・ウェル)がオークと人間に奪われ、妖精王が代替わりして、現妖精王ノルヴィーレが就任した。

 オークの大軍と人間の介入におびえた南部の族長たちのせいで、オーク軍に押されて森林はどんどん切り拓かれ、オークの砦が妖精の森(リーンフェル)へと接近してくるのを座して待つ日々。やっと反攻に移ろうかと言う流れを作ったのは、ガリレアからしたらまだまだ子供の人間であった。

 セレンと言うその子供はオークの大軍を1人で殲滅したと言う話で、妖精王の娘であるリングネオンに取り入ったかと思うと妖精王まで籠絡ろうらくしてしまった。

 しかもセレンは自らをあのクロムの子だと名乗った。

 更に聞けば人間の組織を潰したのもセレンだと言う。


 誇り高いハイエルフの勇者としての自負を持っていたガリレアは、セレンに虚仮こけにされた上、決闘にも敗れた。

 勇者の剣を持ち、数々の修羅場を潜って来たガリレアが手も足も出せずに敗れたのだ。剣士団の指揮権はお情けで剥奪されなかったが、ガリレアの誇りはズタズタにされた。


 砦攻略戦では大損害を受けて失態を見せ、橋頭堡きょうとうほとなる砦はライバルのリンスキーに任されることとなった。

 しかもアマリアにまで愛想を尽かされてしまった。


 今回の聖地奪還戦でも部隊を任されたのはリンスキーであった。

 状況がハイエルフ族に優勢に推移する中、ガリレアは前線へ赴くことを志願した。妖精王には本陣に留め置かれていたからだ。ガリレアの脳裏には手柄を上げさせたくない妖精王の小賢しい考えが浮かんでいた。


 このままでは今まで築き上げてきた名誉と誇りが崩れ去ってしまう。

 そうさせないためにガリレアは清浄なる泉(ウンディ・ウェル)へと走った。


 ガリレアは単騎で街に侵入すると、オークやゴブリンを見つけた側から斬って捨てた。心の中で荒れ狂う激情をぶつけるかのように荒々しく。


「ハッハァ! オーク如きが俺に勝てるものかよッ!」


 ある者はその首をはね飛ばし、またある者は腹を斬り裂いてやった。

 オークなどガリレアに掛かれば、大した脅威などではない。


 ――どいつもこいつも舐めやがって。


 3体のオークが小癪こしゃくにもガリレアを取り囲み、一斉に槍で突いてくるが、それを余裕を持って飛んでかわした。

 当然、ジャンプする方向は計算済みだ

 無防備なオークの1体の首を刎ね、残り2体の巨躯を鋭い剣撃と素早い動きで斬り裂いていく。反撃の機会を与えることなくなぶり殺す。


 ――ほら見ろ。俺はこんなにも強い。


 妖精王と言っても高々50歳にも満たない若造なのだ。

 ガリレアは妖精王3代に渡って仕えてきた重臣でもある。

 軽んじられて良いはずがないのである。


 ガリレアは、新たに目を付けたオークに飛び掛かると鋭い剣捌きでその喉を掻き切る。


 ――何が新しい風をハイエルフ族にもたらすだ。


 屈辱を晴らすためにガリレアは一心不乱に斬って斬って斬りまくった。


「セレンだと? リンスキーだと? 俺が……俺こそがリングネイトの勇者なのだッ!」


 そこへどす黒い気配が天から舞い降りた。

 亜人などとは比較にならない程の力の波動だ。

 斬り結んでいたオークを地獄へ落とすと、ガリレアはその力の主を探る。

 しかし、探すまでもなくガリレアはその人物に視線を向けた。

 目の前に漆黒の翼を持つ者が大地に降り立ったのだ。

 人間のような容姿をしているが、見た目通りのはずがない。

 漆黒の翼を持った種族と言えば有翼族を除けば1つしかいない。


魔神デヴィルだと……?」


「ご名答」


 魔神デヴィルは余裕の笑みを浮かべてその問いに答えた。


「まさか背後にデヴィル神がいたとはな……討ち取ってやる。俺のために死ね」


「ふふふ……。ハイエルフ如きが大言を吐きおる」


「ハッタリをほざくなッ! 知っているぞ。魔神デヴィルと言えど、その力は封じられている。今はな」


「ほう。知っているのか。伊達に長生きはしていないようだな」


 魔神デヴィルは目を大きく見開いて大袈裟おおげさに驚きを表している。

 その表情にガリレアの苛立ちが掻き立てられ、その言葉には憎悪が籠る。


「……わざわざ殺されに来たのか? 望み通り滅ぼしてやる」


「まぁ聞け。お前のことは見ていた。お前はこんなところで小物共にこき使われて終わりたいのか?」


「離間をはかるか。俺はリングネイトの勇者ガリレアだ。貴様らに着くなど有り得ん話だ」


「……そうか。意外と義理堅いようだ。だが今のお前には素質がある」


「……? 言いたいことはそれだけか? 話は終わりだ。殺してやる」


 ガリレアは何の警戒もなく魔神デヴィルとの間合いを詰める。

 いくら魔神デヴィルと言えども、ガリレアは負けるはずがないと考えていた。


「フンッ……我らもナメられた物だ……。確かに今の我に魔力グラマヌスはない。だが、この程度なら出来る」


 どんどんと距離を詰めてガリレアの剣の間合いに入ろうかと言うその瞬間、大気が震え闇が生まれた。


 ガリレアの体が漆黒が包み込む。


「な、何だッ!? 貴様何をしたッ!?」


 突如として闇に包みこまれた上、急激に光に祝福されたガリレアの力が萎んでいくのだ。

 

 ドクンッ。


 ガリレアの心臓が跳ねる。

 精霊神に祝福されし、光の精神が闇に染まる。

 ガリレアは自らの心の中にある光が小さくなっていくのを感じていた。

 しかし、このまま流される訳にはいかない。


「うぐぅぅぅぅぅ……」


 今やハイエルフの勇者としての自負のみで心に圧し掛かる漆黒の負荷に耐えている状態だ。


「単純な話だ。正から負へ。全ては反転する」


「なん……だと……?」


「受け入れろ! 快楽に身を委ねるのだッ!」


「うおおおお! ッガァァァァァァァァ!」


 ガリレアの心の空隙くうげきを闇が埋める。

 やがて彼を包み込んでいた闇が消え、漆黒の柱が青天を衝いた。


 そこには肌の色が薄黒く変色し、真っ黒な瞳となったガリレアの姿があった。

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