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第8話 刺客

 追放と蟄居ちっきょ処分とは言っても、クロムの拘束は大甘であった。

 クロムは大剣を返されて、手元にそれを常に置いていた。

 これらは聖地アハトの管理者であるメリッサの意向であり、ガリランド神殿の神官たちの総意でもあったのだ。

 それ程、クロムの人望は厚く、信頼されていた証拠である。


 それでも蟄居ちっきょと言う建前上、街を堂々と闊歩すると言う訳にもいかないので、やることはもっぱらクロムとセレンの剣術の稽古であった。


 稽古は真剣を使った乱取りを行うのが昔からのやり方だ。

 日中はほとんど、2人で剣を振るっていた。

 その他の修行と言えば、まだ8歳のセレンは、筋力もそれ程発達していなかったため、走り込みなどで下半身の強化に時間が当てられた。

 あとは瞑想である。精神を統一し、心に水をたたえて波紋の1つも立てないような精神性を身につけることは剣技を使う上でも重要事項であると言う。

 剣技発動の速度や威力には、精神の集中が肝要なのである。


 夜になり、稽古を終えて与えられた部屋で休んでいた時、それは起こった。


 突如として部屋の窓ガラスが割れたかと思うと、丸い何かが投げ込まれた。

 動いたのはクロムだけではなく、テルルもだった。

 クロムは目の前のテーブルをつかんでひっくり返し、テルルはセレンの手を取ったかと思うと身を挺してかばいながらソファーの陰に身を投げ出したのだ。

 セレンは何が起こったのか理解が着いて行かず、ただただ何が起こったのかと驚いているばかりであった。

 そして炸裂音が響いた後、黒ずくめの人間が5人程部屋へと侵入してきた。

 クロムがテーブルを立てたのは、盾にして爆発から身を護るためだったのだ。

 彼はすぐに大剣を抜き放つ。

 いつも大剣を肌身離さずそばに置いているので反応は速い。


 クロムの強烈な前蹴りでテーブルが吹っ飛ぶ。

 それに巻き込まれる形で黒ずくめの1人が壁との間に挟まれる。

 他の4人はその一瞬でクロムの周囲に展開し、手に短剣を持って前後左右からタイミングを合わせて飛びかかってきた。


「敵ながらやるなッ!」


 クロムはそう吠えると、前から来た黒ずくめを一瞬で叩き斬り、返す大剣で左の敵を下から薙ぎ斬った。

 少し後ろに重心がかかり上体がのけ反る形になったクロムだが、後方から襲った敵は今、彼の目の前にいる。姿勢を低くして近づいてくるその敵の刃がクロムに肉迫した瞬間、敵の側頭部に鋭い蹴りが決まった。

 その勢いのまま右から来た敵を遠心力の乗った一撃で肩口から袈裟斬りに斬って捨てる。蹴りを喰らった敵は辛うじて気を失うには至らなかったようで、ふらふらと短剣を突き出してくるが、遅い。

 前に出した右腕を斬り飛ばされた上、鳩尾みぞおちに前蹴りを喰らって吹っ飛ばされて気を失ってしまった。


 テーブルに挟まれていた黒ずくめは何とか脱出したようで、クロムの背後から苦無くないを投げつける。しかし、クロムには後ろにも目があるのか、それをあっさりと弾き飛ばすと、一瞬で間合いを詰めて敵の喉元に大剣を突きつけた。


「速い連携だったが天力能力アストラビィや剣技を使うまでもない」


 セレンからはクロムの表情は見えなかったが、恐らく返り血で顔が染まっていることだろう。セレンは父親の流れるような一連の動作によって敵は一瞬で壊滅したように見えた。


 テルルは前蹴りを喰らって気を失った敵の止血をしている。

 3人は斬り殺され、1人は腕を斬り飛ばされて気絶、もう1人は現在クロムによって首に大剣を突きつけられて動けない。


 セレンにとって全ては一瞬の出来事だった。

 今更ながら茫然と、父親であるクロムの強さを再認識していると神官たちが炸裂音を聞きつけて部屋へと駆けつけた。


「クロム様、な、何事です!?」


「刺客だよ。どうやら敵さんは俺に死んで欲しいようだ」


 そこへ遅れてメリッサも部屋へ入って来た。

 その顔は普段の彼女からは考えられないような厳しいものだ。


「何事ですか! 説明を!」


 彼女は開口一番そう言うと、室内を見渡しながらクロムに歩み寄る。

 クロムは大剣を突きつけていた黒ずくめを神官たちに引き渡すとメリッサに説明を始めた。

 メリッサはそれを聞いたのと、現場を見たのとで察したのだろう。

 神妙な顔付きになると生き残った2人の刺客を縛り上げた上、猿ぐつわまで施してどこかへ連れて行ってしまった。


 その後、3人は新しい部屋へ案内され、そこで夜を明かすこととなった。


「父様、生き残った者たちはどうなるのでしょう?」

「事情を聞かれるだろうな。()()()


 その答えにセレンの頭の中は?でいっぱいになる。

 彼らが素直に黒幕の名を話すはずがないし、名前すら知らされていない可能性が高い。セレンは強引と言う言葉の意味を良く理解できずに不思議そうな顔をする。


 それを見たクロムは愉快そうに笑った。

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