表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/100

第76話 ルベルジュの会

 話し合いを行うことが決定した後、直ちに使者が送られた。


 憎しみ合う両種族であるから、使者が問答無用で死者に変わる可能性があったのだが、南部コルツァ族の豪傑、ディロードが自ら使者としておもむいた。

 彼はハイエルフとは思えない程の巨躯を持ち、その胸板も厚く筋骨隆々の男であり、ハイエルフには珍しく口髭を長く伸ばしている。

 セレンに温かい言葉を掛けてくれたハイエルフの戦士だ。


 結果、彼は殺されることなく無事帰還して、見事その役割を果たして見せた。


 話し合いは清浄なる泉(ウンディ・ウェル)とスリナ砦の中間地点で行われることに決まった。

 その地は人間がルベルジュ平原と呼んでいる土地で、清浄なる泉(ウンディ・ウェル)周辺の森林が切り拓かれたこともあって見渡しの良い平原になっている。


 出席するのは妖精王ノルヴィーレとコルツァ族族長ゴルセムナ、セレン、そしてファルス族の重鎮であるアルバルの4人である。

 ……のはずだったのだが、ディロードが「使いっ走りだけじゃガキの仕事だぜ」とゴネたので結局、彼も同行することとなった。

 対してオークはオークキングを筆頭に5体が参加し、話し合いの場のセッティングなどを行った。


 ルベルジュ平原の真ん中に陣幕が張られ、周囲から中を覗き見ることはできない。

 幕に囲まれた中央付近に低いテーブルと強い繊維質の草を編み込んだ座布団が置かれている。オーク側は武器を持った護衛兵が周囲を固めており、その数は多い。


 現在、テーブルを挟んで両勢力の代表が睨み合っていた。

 オークたちからの殺伐とした視線が突き刺さる。

 しばしの間、睨み合いが続いたが、埒が明かないと思ったのか、オーク側の代表が重い口を開いた。

 話を切り出したのは、5体のオークの中で最も体格に恵まれた個体であった。

 オークキングなのだろう。名前はガイ・ズと言ったはずである。


「我らの砦を落し同胞を殺しておいて今更話し合いとはどう言った了見だ?」

「いやな。これから決戦になれば、貴殿らには更なる損害が出ると思ってな? 勧告に来た」


「ほう……抜かしよる。その勇気に免じて聞くだけは聞いてやろう。まぁ座れ」


 そう勧められるや、妖精王はどっかと座布団に腰を下ろした。

 今、この場にいる全員が武装している。

 下手をすれば騙し討ちで斬り掛かられてもおかしくない状況で、堂々とした態度である。セレンは妖精王の名は伊達ではないと感心しつつ、彼に続いて胡坐をかいて座った。そうして話し合いの場にいる全員が座ったタイミングで料理や飲み物が運ばれて来た。


 給仕も全てオークである。

 それを見たセレンは、オークたち亜人はどうやって個体識別をしているのだろうと全く関係ないことを考えていた。

 人間からすれば年齢も性別も見た目には全然分からないのだ。


「まぁ、一献いっこんどうだ」


「頂こう」


 テーブルの中央に座っていた貫禄あるオークが酒瓶を差し出すと、妖精王もさかずきを持ってそれを受けた。

 傾けられた酒瓶から白濁した酒が注がれる。

 それを一気にあおる妖精王。

 毒が入っているなどとは考えないのか、大した胆力である。


「まぁ、喰え」


「ゴルセムナ殿、アルバル、セレン殿、ディロード、頂こうぞ」


 ハイエルフは肉などはあまり食べないはずだ。

 しかし、目の前に盛りつけられているのは、何かの肉であった。

 どうするのか注目していると妖精王はその肉に豪快にかぶりついた。

 先を越されたディロードも慌てて手を伸ばす。


 美味そうに食べるものだ。

 セレンも良い香りに惹かれて料理に手を伸ばす。


「それで気になっていたんだが、その子供は人間ではないのか?」

「そうだが、何かあるのか?」


「何故、人間が我々の問題に介入するのかと思ったのだ」

「それを貴殿らが言うのか。ノースデンの人間の組織と組んでいたのはそちらだろう」


 セレンはお互いが憎しみあっていると聞いていたので、もっと殺伐とした会談になると想像していたのだが、存外、礼儀正しい者も存在するようだ。


「ふん。奴らは突然姿を見せなくなった。勝手なものだ」

「それはすまないことをしたようだ。その人間たちを葬ったのはこの子供だよ」


「何ッ!?」


 妖精王の言葉にオークキング以外の4人が色めき立つ。

 そんな中、中央のオークキングだけは何やら考え込む素振りを見せる。


「セレン……。セレンか。そうだ。ジェ・ダが言っていた子供とはお前のことか?」


「で、では我が軍、五○○を全滅に追いやったのはこの子供!?」


「信じられん……」


 取り巻きたちの顔が驚愕に歪んでいる。

 憎しみよりも驚きの方が勝っているようで、誰もセレンを罵倒してこない。

 ディロードは聞いているのかいないのか、飲み喰いを続けている。


「そう言う訳だ。我がハイエルフの聖地を返すと言うなら、貴殿らが開拓したこの周辺の森林跡とルベルジュの辺りを領土として認めよう」


 妖精王はゴルセムナの願い通りの条件を出した。

 オークキングは無言で妖精王の目を正面からジッと睨みつけている。


「認めるだとッ!? 何たる物言いだッ!」


清浄なる泉(ウンディ・ウェル)も周囲の森林地帯も我々が占拠したのだッ! 返す義理などないッ!」


 沈黙を守るオークキングに対して側近のオークたちからは異論や反論がセレンたちへと浴びせられる。勝手なことを言い散らかすオークたちに妖精王は、あくまで開戦に至らないための言葉を投げかける。


「そちらがよければ上手く共生していければと思う」


 ゴルセムナの意をんでいるとは言え、その物腰は穏やかなものだ。

 とても開戦して聖地を奪還しようと考えている者の態度とは思えない。

 セレンはそこに王としての器の大きさを見い出していた。


「我々は元を辿れば同種族のはず……無理な話ではないはずじゃ」


 黙って成り行きを見守っていたゴルセムナもここぞとばかりに口を開く。


 ディロードはひたすら飲み喰いを続けている。

 セレンも自分が口を出すことはないと思い、彼にならうことにした。

 鉄製のフォークを手に取り、綺麗にスライスされた肉切れを口に運ぶ。


「うまッ……」


 思わず声が出てしまったが、誰も反応しない。

 小さな声だったので聞かれなかったようだ。


「これは獣の肉だな。この感じはギガラビィかな?」


 恐らく、丸焼きにして煮詰めた上にスパイスを利かせてあるのだろう。

 亜人は魔物の肉を食べると聞いたことがあったセレンは獣の肉が出されていることに若干驚いていた。

 魔物の肉は人間が食べるにはエグ味がすごくて向いていない。

 とても食べられたものではないのだ。

 敵対している者にわざわざ配慮する辺り、オーク側の意図が読めなくてセレンは困惑する。オークの料理の予想以上の美味しさに食べる手が止まらない。


「共生か……。その道もあったのかも知れぬな……」


 小さなつぶやきにセレンはハッと顔を上げる。

 聞き違いかとも思ったが、オークキングはどこかはかなげな表情をしている。

 周囲の様子を探るが、変わったところはないので、今の言葉は聞き取れなかったのかも知れない。


 あるいはセレンの空耳か、だ。


「その条件を呑むなど有り得ぬことだ。取り返したいなら力づくで掛かって来い」


 オークキングの様子を窺っていたセレンは、彼の表情が変わったことに気付いていた。そして退けない覚悟を決めたような力強い言葉だ。


「待て、待つのじゃ! もう1度問おう。我らと共に繁栄の道を歩まぬか?」


「くどいッ! 我らは相成れぬ敵同士。交渉の余地はない」


 ゴルセムナの言葉には何とか開戦を回避しようと言う感情が見える。

 それに対してオークキングの返答は無慈悲なものであった。


「……そうか。ならば是非もなし。戦場で相見あいまみえようぞ。ゴルセムナ殿もそれでよろしいな?」


「……」


 妖精王はそう言うと立ち上がる。

 交渉は決裂した。

 ハイエルフとオークの一大決戦が決定した瞬間であった。


 ちなみにディロードはずっと飲み喰いしているだけであったのは言うまでもない。セレンは何しに来たんだこのおっさんはと心の中でツッコミを入れつつ、大きくため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ