第70話 反攻戦
決闘から3日後の早朝。
セレンはガリレアとアマリアを連れて森の中を進んでいた。
弓矢を持ったハイエルフの剣士二五○、精霊術士五○も一緒である。
結局、南部の族長を対オーク戦に参加させることはできなかったようだ。
セレンは既に兵士たちの実力は把握している。
剣士はその多くが高い技量を持ち、剣技を使える者もいる。
また、弓を扱うのに向いたスキルを持っている者も存在する。
精霊術士は大気に揺蕩う精霊の力を借りて様々な現象を起こすことができるらしい。
セレンはあまり知らないのだが、神聖術とはまた違った奇跡の顕現と言えるのだ。と言ってもハイエルフは皆、精霊と意志を通わせることができるため全員が精霊術士と言っても過言ではないようだ。
セレンたちは最初のポイントにたどり着いていた。
少し小高い場所に建てられている砦はまだ未完成であったが、周囲の木々は伐採されて禿山のようになっている。
「ひどいな……このままでは森の木が全て切り拓かれてしまうぞ」
ガリレアがボソリと呟くが、恐らく自然に出た感想なのだろう。
リングネイトの森はレイラーク王国の領土の約三分の二を占める広さを持ち、ノースデンから南のミッドフェル、そして王都のノルドライク付近まで南北に細長く広がっている。ノースデンのすぐ南付近の森はかなり開拓されており、その木は主に燃料に、その土地は畑に変わっていると言う。
ハイエルフからしてみれば、これだけでも森林に対する暴挙なのだろう。
セレンはハイエルフの主張も理解できないでもなかったが、人間には人間の事情があると言うことも分かっていた。
特にノースデン周辺は寒冷地である。
燃料に木々を多く必要としているし、レイラーク王国自体が木材を他国へ輸出しているらしい。
セレンは妖精王が中心になってハイエルフの国家を建設すれば、牽制になるのでは?とも思ったが彼らがどう考えているかは分からなかったし、口を出すことでもないと考えていた。
オークたちが築いた砦は、リーンフェルを囲むように密になって造られている。
各所が連携して攻撃や防御に当たる仕組みなのだろう。
事前の打ち合わせでは、妖精王の部隊とタイミングを合わせて襲撃する手はずとなっている。
これも精霊の力で行うと言うことだ。
精霊術士団の長であるアマリアが聞きなれない言葉を呟いたかと思うと、人の頭程もある光の球が出現した。
彼女はそれを天高く打ち出した。
天空で一際明るく輝いてその光球は消滅する。
辺りはまだ薄暗いので、見落とすことはないだろうが、当然敵であるオークたちからも見えるはずだ。
流石に見張りを立てていないということはないだろう。
ここからは速度が重要だ。セレンは自分が主になって解決する気はなかったが緒戦で優位に立つためには多少目立つのも仕方がないと割り切る。
少し間があって、遠くの空に光球が輝いた。
妖精王の部隊も準備が整ったのだろう。
「よし。突撃だッ!」
ガリレアの言葉に剣士たちが黙々と砦に向けて駆ける。
砦の場所と襲撃する手順は事前に打ち合わせてあるので、後は制圧するだけだ。
森から離れており、森林への延焼がないと思われる場所の砦は焼き払うことになっている。
セレンも駆ける。
天力能力は使用していない。
それは自身が強くなったと言う自負もあるが、より上位のオークと戦った時、どの程度通用するか見極めるためでもあった。
セレンが一番最初に小高い丘を駆け上がり造りかけの砦に侵入する。
そして目についたオークを斬り伏せた。
次々と侵入を果たしたハイエルフたちはオークたちの寝込みを襲い、最初の砦は瞬く間に制圧された。
ハイエルフ側から攻勢をかけたことは少ないと言う話なので、恐らくオークたちも油断していたのだろう。
続いてガリレアを筆頭に、オークやゴブリンを容赦なく殺していった。
それを見ていたセレンは、彼らの間にある深い溝と因縁を感じ取っていた。
精霊から分岐したハイエルフと精霊の成りそこないであるゴブリンやオークの間には人間には理解できない何かがあるのだろう。
セレンは生き残りがいないことを確認すると、すぐに次の目標へ急ぐ。
砦は燃やす手はずになっている。その処理は精霊術士に任せるのだ。
最終目的地はオークの拠点となっている場所で、ハイエルフたちに『清浄なる泉』と呼ばれており、元は彼らの聖地だったと言う。
オークたちがその場所を占拠し、今では亜人の巣窟になっているらしい。
次の砦は平地に建てられ、空堀と柵に囲まれていた。
セレンは天力を使って大きくジャンプしてあっさりと砦内に侵入すると、起き出して来た亜人たちを斬りまくる。
砦と言っても防御用の矢避けの板や反撃用の櫓があったり、侵入を阻害したりするだけの簡易な造りで、セレンの見た限りではただ兵を駐屯させることに主眼を置いて造られたようだ。
内部に入ってしまえば、ほぼ広場のようなものなので、防御機構などない。
起き出したオークやゴブリンは全てセレンに一刀の下に斬り伏せられていった。
こうして2つ目の砦を制圧したセレンはフーッと大きく息を吐きつつ空を見上げる。
流石に少しばかり疲れたからだ。
少し離れた場所から煙が上がっている。
妖精王の部隊も上手くやっているようだと判断したセレンは、ガリレアたちと共に休憩もなしに次の砦へと向かった。




