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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第68話 ガリレアとの決闘

 剣士団と精霊術士団が集まるのに少し時間がかかったものの、妖精王の屋敷前の広場には多くのハイエルフたちが詰めかけていた。


 今、セレンは剣士長のガリレアと向かい合っている。

 その距離は5マイト程。


 その周囲を妖精王を始め、ネオンや多くのハイエルフが円形になって取り囲んでいた。


 セレンは大剣を抜いて軽く素振りをしていた。

 別に相手の実力を測るだけなので天力能力アストラビィを使うつもりなどない。


 対してガリレアは大剣よりは細いが少し長めの剣を手にしている。

 彼はセレンには似つかわしくない大剣を見て、形容し難い表情をしていた。


 場はセレンにとって完全なアウェーである。

 しかし、この歳にして数々の修羅場を潜って来たセレンに緊張や気負いと言ったものはなかった。


 妖精王が周囲に向けて一喝する。

 それに応えてハイエルフたちが静まり返った。

 剛毅ごうきで統率力のある王なのだろう。

 もしかしたらオークと一進一退の戦いが出来ているのも彼の功績なのかも知れない。


「殺すのも傷つけるのも禁ずる。これはあくまでもお互いの実力を見る決闘だ。では、いざ尋常に勝負ッ!」


 妖精王の大音声で決闘の火蓋が切って落とされた。

 周囲から喚声が上がる。


 セレンはすぐには攻め掛からなかった。

 長剣をセレンの方に向けて構えるガリレアからは天力アストラが解放されている。それは揺蕩いながらも安定した天力アストラであった。


 天力アストラが解放されているからと言って能力使い(アストラル)であるとは限らない。

 まだ発現していないことも考えられるのだ。


 考えていてもらちが明かないのでセレンは取り敢えず攻めてみることにした。

 予備動作もなくセレンの大剣がガリレアに迫る。

 距離を一気に詰めた上、予期できない動きで大剣による突きを放ったセレンに驚いたのか、ガリレアの表情が変わった。

 しかし、ガリレアはそれを一歩引いて受け流すと、一転間合いを詰めて横薙ぎの一閃を放つ。


 ――速い


 長剣の動きが読みにくい。

 今の初撃は左から横薙ぎに払った直後に、右からの袈裟斬りが飛んできた。

 セレンは慌ててかわしつつ、二撃目を大剣で受け止める。

 ガリレアは得意の連携だったのか、通じなかったことに焦りの滲んだ声を上げた。


 セレンは、ガリレアが考えていたよりも強いことに安堵していた。

 嬉しい誤算である。


 妖精王との謁見のような場でキャンキャンと噛みついてくるような輩は大抵カマセだ。セレンがそんなことを考えている間にも、ガリレアは次々と剣撃を放ってくる。子供相手に大人げないなと思いつつも、それをことごとく弾き返しながらセレンは冷静に分析していた。

 予想では、以前セレンが戦ったオークロードのジェ・ダを速さで翻弄できるレベルだろう。後はスタミナ次第だなと思いながらも、セレンはこれ以上受け太刀していたらあなどられると考える。


 ガリレアが上段から斬りつけて来たところで、セレンはタイミングを合わせて思い切り弾き飛ばした。

 大きくのけぞるガリレアが何とか長剣を正面に構え直したところで、再び飛んだセレンの横薙ぎの一撃が更に彼を吹っ飛ばす。

 何とか地に足をつけて踏ん張ったガリレアであったが、セレンの攻撃を受けることも受け流すこともできていない。

 後は連撃で追撃を掛けるのみ。


 とても大剣の動きとは思えない連撃にガリレアは何度も弾き飛ばされる。

 ガリレアの顔には最初の余裕めいた笑みなど微塵みじんもない。

 何とか長剣で防いでいるのが不思議な程であった。

 周囲のハイエルフたちの声も次第に小さくなっていく。

 セレンとガリレアの打ち合い……と言うより一方的な攻撃が五合程続いたところでキーンと言う澄んだ音を立ててガリレアの持つ長剣が大きく弾き飛ばされる。

 彼の手から離れた長剣は大きな弧を描いて飛んで行き、地面に突き刺さった。


「勝負ありッ!」


 妖精王の大音声だいおんじょうが響き渡る。

 それを聞いたガリレアはガクッと膝をついて項垂うなだれてしまった。

 辺りを支配する静寂。


 この決闘の結果は最初から明らかであった。

 実戦経験もまるでない時に〈堕ちた幻影(フォールンソウル)〉を使ったものの、オークロードを圧倒した上、その大軍を殲滅するレベルであり、その後も天力能力アストラビィを使って戦いの中に身を置いていたセレンの戦闘力は常に磨かれ洗練されていった。


 クロムの霊魂を降ろして戦っていれば強くなるのも当然のことであったし、実戦に加えて打ち込み、体捌きなどの修行も欠かさず、日々瞑想にも耽っていたセレンに負ける理由などなかったのだ。


「ガリレア、セレン殿の実力は分かっただろう。お前の部隊は彼の指揮下に入れ」


 剣士団長と言う自負を持って自身から挑んだ子供相手に負けたところに王からの無慈悲な言葉である。

 精神的ダメージは大きいだろう。

 今もガリレアは動けないでいた。

 セレンは少し考えてから妖精王へ言葉を返した。


「あの……お言葉ですが、剣士団の皆さんを指揮するのはガリレアさんの方がいいと思うんです。急に指揮官が代わるのは混乱の元だと思うので……」


「ふむう……。そうか、そうだな。分かった。では、セレン殿はガリレアを補佐してやって欲しい」


 断られるとは考えていなかったのか、妖精王は顎鬚あごひげを撫でつけながらしばらく考えると、セレンの進言を呑んだ。

 そもそも人間にも不信感を持っていそうなガリレアと剣士団、つまり現場の者がセレンの命令を聞くとは思えなかったし、今はいさかいを起こしている場合ではない。

 それにハイエルフ族とオーク族の争いにセレンが先頭に立って解決に導くのも違う気がしたのだ。

 セレンが了承の返事をすると妖精王がニヤリと笑う。


「それにしてもセレン殿は強いな! 私とも()らないか?」


「それは遠慮させて頂きます……」


 ノリノリで決闘を挑んでくる妖精王にセレンは苦笑いを返しておいた。

 この親にしてネオンあり、である。


「そうか。楽しそうなんだがな。まぁよい。皆の者、これから攻勢に出るぞッ! 私の部隊とガリレアの部隊で砦を落としていくッ! オーク共をすり潰すぞッ!」


 セレンが「いや、あんたも出るんかい」と内心思っているといつの間にか近くに来ていたネオンが事もなげに言い放った。


「父上はここらで一番の剣の使い手だから燃えるのも仕様がないね」


 セレンはそう言うことは早く言ってくれと脱力感に見舞われたが、同時にこの戦いは思ったより優勢に戦えるかも知れないと期待するのであった。

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