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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第62話 万感の思い

 セレンは持っていた僅かばかりのお金を使って保存食を買いノースデンの東門へと向かった。相変わらず閑散としており、人はまばらである。日中なので東門は開いていたが出入りする者はほとんどいない。


 ここでセレンは重大なことに気が付いた。


「そうだ……街からどうやって出ようか……」


 街への出入りは厳しく制限されていると言う。

 ジオナンド帝國の補給物資などは入って来るのだろうが、この都市の市民を街の外に出す許可を与える理由などない。

 更に言えば、身分的にもセレンはレイラーク国民でもなければ、ジオナンド帝國軍関係者でもなく、探求者ハンターですらない。


 セレンの身分を証明する物は何もないのである。


 どうしたものかと城門付近をウロウロしていると、衛兵が2人セレンの方へと近づいてきた。

 余程、挙動不審だったようだ。

 まさか斬って押し通る訳にもいかないだろう。そう思ってセレンは物騒な考え方になったものだと少し笑ってしまう。

 かと言って良い考えが浮かぶこともなく、あわあわとしているところへ衛兵から声が掛けられた。


「おい。そこの。さっきから何ウロチョロしているのだ?」


「ええと……。ま、街から出たいなーなんて……」


「現在、ノースデンの市民には通行許可が下りていない。諦めて家に帰りなさい」


 2人の衛兵に代わる代わる話しかけられて、セレンは早々にこれは無理だと判断する。肉体言語でのコミュニケーションを取り過ぎて、いつの間にか脳筋気味になっているようだ。だが、いつまでもノースデンに留まっている訳にもいかない。


 セレンは、駄目で元々、モンステッラの名前を出してみることにした。

 彼はラディウス聖教国のメリッサを訪ねる様にと言っていたことを思い出したからだ。


「あ、あの……僕はセレンと言う者なんですが、モン……ラムダーグきょうから何か聞いていないでしょうか?」


 とてもモンステッラに挑みかかったとは思えない程の態度である。

 セレンは消え入りそうな声でそう言った。


「ん? ラムダーグ将軍から?」


「そう言えば何か通達があったような……。君、着いてきなさい」


 衛兵に促されるままにセレンは東門の詰所へと向かった。

 セレンが詰所の外で待っていると、彼らが手に書類を持って戻って来た。

 それとセレンの顔を交互に見ながら、彼らはセレンに近づいてくる。

 柄にもなく緊張していると衛兵の1人の顔がにこやかな笑みに変わる。


「ああ、確かに。君がセレンと言う少年か……」


 衛兵に書類を見せてもらうと、そこにはセレンの写真が添付されていた。

 いつの間に撮られたのか、目をつむったセレンの顔が写っている。


「気を失っている時に撮ったのか……」


「君はラディウス聖教国に行くと言うことだね。通行を許可しよう」


 ジオナンド帝國とラディウス聖教国は友好国だ。

 衛兵もそれを知っているためか、その表情は柔らかい。

 セレンは2人にお礼を言って城門へと歩を進めた。




 城門の真下――ノースデンと外の境界で立ち止まると、両足で大地を踏みしめる。




 タンタンと軽い音がする。

 それを確認すると、セレンは街の方へと振り返った。

 一陣の風が哀愁を運んでくる。

 人がまばらな街を見ながらセレンはこの2年間のことを思い出していた。


 尊敬する両親の死。


 セクターとの交流。


 オークの大軍を殲滅したこと。


 スラム落ち。


 リオネルたちとの出会い。


 〈義殺団プライマーダ〉との抗争。


 セクターの死。


 ニルファーガとの対決。


 コパンとの攻防。


 そして、モンステッラとの一騎討ち。


 色々なことがあった。

 あり過ぎた。

 セレンは否応なく変わらざるを得なかった。

 この変化が良いのか悪いのか、セレンにはまだ分からなかったが、心が少しだけ強くなったような気がする。


「大丈夫だ。これからも乗り越えられる。俺には父様とうさま母様かあさまの魂が宿っているんだから……」


 セレンはそう呟くと、再び外の方へ向き直り歩き出した。

 セレンが後ろを振り返ることはもうなかった。

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