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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第2章 妖精の森攻防編

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第60話 ラディウスへの道標

 セレンはモンステッラが言っていたことを思い出していた。


『ラディウス聖教国のメリッサ殿を訪ねろ。外から真犯人を探すのだ』


 セレンは自分の心が落ち着いているのを感じていた。

 ノースデンで暮らした最初の一年でクロムは変わっていった。


「俺はこだわり過ぎていたのか……? 俺自身も妄執もうしゅうとらわれていただと?」


 クロムのモンステッラを恨む言動を見続けたあまり、セレン自身もクロムの思い込みに染められていたのかも知れない。

 父は恐らく薬物中毒だと理解していたはずなのに、とセレンは自省する。


「証拠だ。証拠が必要だ」


 セレンは証拠もなくモンステッラに挑みかかった自分を恥じた。

 ニルファーガの時とは違うのだ。

 彼の寛大な対応に感謝した。

 最悪、事件に関わった者の記憶を継承してセレンさえ真犯人が分かればそれでも良い。もちろん、クロムの名誉を回復するために世界に向けて証拠を発信するのがベストではあるが。


「お、目が覚めたようだね」


 不意に声を掛けられたセレンの体がビクッと反応する。

 セレンが声のした方向へ顔を向けると、そこにはうら若き乙女がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。

 うら若きとは言ってもセレンはまだ12歳だ。

 彼よりはどう見ても年上であろう。

 長く伸ばした、しなやかな金髪が美しい。


「ん? どうかした?」


 彼女の言葉にセレンはハッと我に返る。

 思わず見とれていたようだ。


「いえ。俺……僕を運んで頂けたようで……。ありがとうございます」

「いや、運んだのは多分、別の人だよ。私は様子を見てくるように言われてね」


 彼女はセレンのベッドの脇に置かれていた椅子に座る。

 セレンは一騎討ちの現場にいたのかな?と思い、少し委縮してしまう。

 あの場にいた騎士たちの激昂げっこうぶりはそれ程半端なかったのである。


「もう大丈夫です。モンス……ラムダーグ卿には申し訳ないことをしてしまいました……」

「将軍はそのようなことを気にされるお方ではないよ」


「……それで傷の方は?」

「残念ながら欠損は治らなかったよ。将軍は肘から先を失ってしまった」


 セレンは絶句した。

 取り返しのつかないことをしてしまったことにセレンは動揺を隠せない。

 その様子を見て何か感じ取ったのか、彼女はセレンににこやかな笑みを向けた。


「いやはや大したものだよ。キミは。その若さであの閣下と互角の戦いをするとは驚きだね」

「あれは――」


 天力能力アストラビィ、〈堕ちた幻影(フォールンソウル)〉のお陰だと言いかけて言うのを止める。

 スキルや能力はなるべくなら明かさない方が良いのだ。

 黙り込んだセレンを見て、彼女は少し首を傾げながら言った。


「それに将軍の聖剣から加護が消えたのはどう言うカラクリなんだい?」

「あれは父様とうさま探求者ハンターをしていた時に神……竜から与えられた大剣の効果です。ラムダーグきょうの聖剣の力を喰ったんです」


「驚いた……。そんな剣が存在するとはね」

父様とうさまは言っていました。黄金竜おうごんりゅうが世界に散逸した聖剣や神剣、魔剣に宿った力を集めて欲しいと依頼してきたそうです」


 信じられないことを立て続けに聞かされて彼女は笑顔のまま固まってしまった。

 セレン自身も信じられないのだから当然かも知れない。

 しばらく経って我に返ったのか、再び柔和な表情を作るとセレンに問い質す。


「キミはこれからどうするのかな?」

父様とうさまの無念を晴らすために真犯人を見つけようと思います」


「良かった! では閣下は無実だとキミは判断した訳だね?」

「証拠が見つかればまた戦うことになるかも知れませんよ?」


 セレンはそうはならないだろうと思いつつ、冗談めかしてそう言った。


「む。それはいかんな。閣下の側近は皆カンカンだよ? 次、近づいたら斬り掛かってくるかも」

「ですよね。殺されても文句は言えないのにも関わらず、こんなにもお世話になってしまいました。すぐ出て行きます」


「行く当てはあるのかな?」

「はい。ひとまず南のミッドフェルへ向かった後、ラムダーグきょうの助言通り、ラディウス聖教国に入ろうと思います」


 そう言うとセレンは立ち上がり、律儀にも揃えて置かれていたブーツを履く準備にかかる。


 彼女はじっとそれを見つめていた。

 ブーツを履き終わり、ベッドに立てかけてあった大剣を手に取るとセレンは彼女に頭を下げる。


「お世話になりました。あなたのお名前は?」

「私? ふふ……私は『黒狼騎士団こくろうきしだん』第三部隊長のミリアス・パルスザンだ。また会おう。少年よ」


 ミリアスは少しおどけた調子で右手を挙げると、演技がかった態度を見せる。

 その端整な顔には満面の笑みが浮かんでいた。

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