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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第1章 ノースデンの悲劇編

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第57話 正念場

 こうして玄関ホールでの決戦が始まった。

 ニルファーガ以外のコパン隊員に動く様子はない。


 セレンの鋭い突きをかわしたニルファーガの短刀が空を斬り裂く。


 ――全力で殺しにきてるじゃないかッ


 この程度は小手調べとばかりに、短刀の斬撃がセレンの急所に迫る。

 明らかに短刀での二刀流の扱いに慣れているのがセレンには理解できた。

 ニルファーガは思ったより武闘派なのかも知れない。


 しかし、見えない訳ではない。

 セレンは確実に急所を狙ってくるニルファーガの攻撃をことごとくかわして見せた。

 綺麗な右手と左手によるコンビネーションによる攻撃だが、剣聖の名は伊達ではない。クロムの霊魂を降ろしたセレンが、普通の二刀使いに押されるはずはなかった。まるで剣舞のような攻撃を仕掛けてくるニルファーガであったが、セレンは二刀の同時攻撃を横薙ぎの一閃で弾き返すと、のけぞった彼のふところへ進入する。


真空破しんくうは


 横薙ぎの剣撃と同時に騎士剣技により大剣から生じたソニックブームがニルファーガに肉迫する。


「くッ!」


 焦りの声を上げながらも、何とか天力アストラを纏わせた短刀でソニックブームを相殺そうさいするが、流石に追撃の大剣をかわしきることはできず、直撃を受けて大きく吹っ飛ぶニルファーガ。


「やるなッ!」


 セレンはその衝撃からニルファーガが衝撃を弱めるために自分から身を投げ出したことを理解した。

 飛ばされながらも体勢を立て直し、短刀を逆手に握り直すと、ニルファーガは再びセレンに向けてダッシュを掛ける。


 接近戦が再開されるが、セレンの剣捌けんさばきはニルファーガを確実に上回っていた。

 と言ってもセレンの方も余裕がある訳ではない。

 ニルファーガがどんな隠し玉を持っているか分からないのだ。

 未知の天力能力アストラビィの存在は、それだけで圧力プレッシャーとなる。


 ニルファーガの右手の短刀がセレンの首に迫る。

 それを確実に見切ってかわすも、今度は左手の短刀がセレンの心臓へと襲い掛かる。急所への攻撃を大剣で弾いた瞬間、ニルファーガの動きが変わる。


 ――甘いんだよッ


 一転して鋭い小刻みな攻撃へと移行するニルファーガであったが、セレンはそれを読んでいた。

 先程までは明らかに急所ばかりを狙った攻撃であった。

 セレンは淡泊過ぎて何かを仕掛けてくる前兆かと考えていた程だ。


 セレンは初めこそニルファーガが武闘派だと思ったのが、そうではないのかも知れないと考えを改め始めていた。

 攻撃系統の能力を持たないのかも知れない。

 しかし、油断はできない。

 一撃必殺の能力を持つ可能性も否定できないのだ。


 セレンは気を引き締めると、正面切って猛ラッシュを掛ける。

 大剣の大きさと重量に物を言わせた攻撃である。

 短刀で受け切るには厳しかったようだ。


 ニルファーガの右手の短刀が大きく弾き飛ばされる。

 セレンがその好機を逃すはずもなく更なる追撃で、鋭く刃を返した。

 その一撃がニルファーガを肩口から両断しようとした瞬間、左手の短刀が体とセレンの大剣の間に割り込んでくる。


 パキィィィィィィィィィィィン!


 澄んだ音を立てて短刀が砕け散る。

 セレンの大剣は少し勢いを弱めたものの、ニルファーガの体を斬り裂いた。


 が、浅い。


 ニルファーガが重厚な皮鎧を身に着けていたこともあって、セレンの一撃は致命打にはならなかった。

 慌てて飛び退すさったニルファーガは、天力アストラを短刀の形に変化させ、両手に持つと腰を落として再び戦う姿勢を見せる。


「観念しろッ! ニルファーガッ! 〈義殺団プライマーダ〉がレイラーク王国と蜜月みつげつの関係にあるのは知っている。だが、王国に隠れて国内でも犯罪に手を染めていることも俺には分かっているぞッ!」


「何だと!? セレン君。どう言うことだ?」


 聞きづてならないと言った表情でセレンに問いかけて来たのは、先程、ニルファーガに懐疑的な目を向けていた男だ。


「その通りの意味だ。あんたたちは〈義殺団プライマーダ〉を取り締まる姿勢を民衆に見せながらも、対立しないようにと上から言われているんだろ?」


「……」


 その男は少しうつむくと、沈黙してしまった。

 図星だったのだろう。


「それはレイラーク王国国内で暴れないと言う約束事があったからだ。だが、実際は国内でも色々やっているみたいだぜ? 薬物売買、子供の奴隷化、ノースデンではリングネイトの森のハイエルフ族とその土地を狙っているってのもあるな」


戯言ざれごとだッ! 俺はそんな情報を掴んでなどいないッ! 耳を貸すなノーアッ!」


 ノーアの呼ばれた男は、ニルファーガの方を一瞥するが、すぐにセレンに向き直る。その目は真剣そのものだ。


「何故だ……? 何故スラムの子供にそんなことが分かるんだ? 俺にはそれが分からない」


「それが俺の天力能力アストラビィだからだ。セクターさんと〈義殺団プライマーダ〉のガナッツ、コーネリアスの記憶は今、俺の頭の中にある」


「記憶を取り込めるのか!?」


 ノーアは驚愕の声を上げる。

 他の隊員たちからもどよめきが漏れている。


「そんなことが出来るはずがないッ! 出来ると言うなら俺の記憶を喰ってみろッ!」

「喰ってやるよ。だが、それは貴様を殺してからだ」


「俺を殺す理由が欲しいだけじゃないのか? 我々を説得したいなら能力を使って証明してみせろッ!」

「自分の能力の詳細を嬉々としてバラす馬鹿がいると思うか?」


 自分の能力の発動条件や、どう言った系統かなどの情報が洩れることは死活問題である。戦いを有利に進めるためには、如何いかに相手に解析されないか、知られないかが鍵となるのは間違いない。

 ニルファーガもそれをよく理解しているため、ぐうの音も出ないようだ。


「ノーアさんと言ったか? あんた、〈義殺団プライマーダ〉やそいつらに癒着している奴らを調べてみた方がいい。それがこの国のためだ」


 セレンは何やら考え込んでいるノーアに告げると、ニルファーガへ大剣を向けた。


「続きだ、ニルファーガ。殺してやるから掛かって来い」

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