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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第1章 ノースデンの悲劇編

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第47話 惨劇への序章

 アジト付近に現れた〈義殺団プライマーダ〉のメンバーからセクターに関する脅迫を受けたセレンは、すぐにニルファーガにセクターの保護を頼むべく、スラムの表通りへ足を運んでいた。


 狩りに行く時のように一般居住区に近い区域へと向かう。

 閑散として表にあまり人の姿がないスラム内部に比べ、人の数が違い過ぎる。

 セレンはいつもの通り、ニルファーガに会うために休憩処きゅうけいどころの方へ歩いていく。そうすると、何故かいつもにこやかな笑みを浮かべたニルファーガが待ち受けているのだ。


 セレンはスキルに精通している訳ではなかったが、自分の【憑依】スキルを基にした天力能力アストラビィである〈堕ちた幻影(フォールンソウル)〉のような規格外な能力があるからには、想像もつかないような天力能力アストラビィやスキルが存在していてもおかしくないと思っていた。


 ニルファーガからは天力アストラが感じられる。

 彼もそんな特殊な能力やスキルを身に着けている可能性は十分に考えられる。

 若くしてコパンの1番隊隊長にまで上り詰めた人物である。

 天力能力アストラビィを持っていると考えておいた方が良いだろう。


 天力能力アストラビィやスキルが人に知られることは何としても避けなければならない。

 特に【憑依】スキルの存在は例え味方であってもなるべく教えない方が良いだろう。セレンがそんなことを考えながら歩いていると、いつものようにのんびりとした声が掛けられた。


「やぁ、セレン君。今日は何の用だい?」


 やはりいたかと、セレンは何か形容し難い感情に襲われる。


「実はご相談がありまして」

「セレン君に頼ってもらえるとはね。まぁ座ろうか」


 休憩処きゅうけいどころのテラスへ座ると、ニルファーガが注文をする。

 これがいつもの流れである。

 いくら遠慮したところで聞き入れられないのでセレンはもう諦めている。


 やがて団子と番茶が運ばれてくる。

 するとニルファーガが話を切り出す。

 これもいつも通りだ。


「それで相談とは?」

「また〈義殺団プライマーダ〉と争いになったんですが、脅迫を受けまして……」


「それはまた物騒な話だな。しかし脅迫なんて回りくどいことをするものだ。それでどんな内容だい?」

「僕がこれ以上、〈義殺団プライマーダ〉にかかわればセクターさんの命はないと言われました」


 団子を口に運びかけたニルファーガの手が止まる。


「ふッ……我々も舐められたものだ。彼の警護は完璧だよ」

「完璧ならニルファーガさんがこんなところで油を売っていていいんですか?」

「ははは……。そりゃそうだ。ではすぐに任務に戻るとしよう」


 そう言うとニルファーガは団子を頬張り始めた。

 こういうところはとても腕利きのコパン隊長だとは思えない。

 セレンは少しギャップを感じつつも団子に手を伸ばすのであった。


 2人はすっかり団子を平らげるとニルファーガが勘定を支払い店を出る。

 セレンはお礼を言ってアジトへ戻ろうとしたところでニルファーガに呼び止められた。


「セレン君。以前にも言ったと思うが、セクターさんは探求者ハンターを巻き込んでスラムのマフィアを一掃する計画を立てている。彼は本気のようだ」

「何でいつもそんな大事なことを最後に言うんですか……。でも何故、探求者ハンターなんですか? 本来ならコパンが出るところじゃないんですかね」


「ははッ……そいつは手厳しいね。まぁ所詮しょせんは融通の利かないお役所仕事ってヤツさ。だからこその探求者ハンターなんだろう。まぁそんな訳だ。セレン君は〈義殺団プライマーダ〉とことを構えないようにくれぐれも自重してくれよ?」


 ニルファーガにもどこかもどかしい気持ちがるのかも知れないなとセレンは思った。一応、「分かりました」と言って彼に背を向けると、セレンは再び歩き始める。


 自重などできようはずもない。

 仮にセクターの件で大人しくしていても、既に〈血盟の誓い〉は〈義殺団プライマーダ〉と抗争状態なのだ。飛んでくる火の粉は払う必要がある。


 すると、再び背後から声が掛けられる。

 2度も呼び止めるとは珍しいことだ。


「セレン君。これは忠告なんだが……悪人には弱みを見せてはいけない。そして譲歩してはならない。そうしたが最後、どこまでも喰らい尽くされ骨までしゃぶり尽くされるだろう」


 セレンは真意を確かめようとするが、目深にかぶったソフトハットのせいで彼の目を見ることはできなかった。ニルファーガは言いたいことを言い終えると、きびすを返してさっさとその場を後にした。


「……はい。心に留め置いておきます」


 セレンの返事が彼に届いたかは分からない。

 何だか奇妙な感覚にとらわれてしばらくニルファーガの背中を見つめていたセレンであったが、すぐに気を取り直すとアジトへ向かい走り出した。

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