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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第1章 ノースデンの悲劇編

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第41話 運命の出会い

「お前が新入りだな。なるほど、確かにお人好しそうな顔をしている」


 開口一番かいこういちばん、そう言われたセレンであったが、それが褒め言葉なのかけなし言葉なのか判断がつかない。


 実際は単なる皮肉なのだが。

 だがセレンにとってそれはどうでも良いことであった。

 大剣さえ戻れば良い。


「……何が目的だ? とにかく大剣を返してもらおうか」

「お前の腕は見せてもらった。大剣を返して欲しくば俺たちのチームに入るんだな」


「チーム? 僕にギャング団に入れと?」

「その通りだ」


「断るッ! 善良な人々に迷惑を掛けるスラムの組織に入るつもりなどないッ!」


 未だ顔がよく見えない少年にセレンは全力のNOを突きつけた。


「良く考えるんだな。お前はスラムの闇組織、〈義殺団プライマーダ〉に敵対行動を取った。ここは1人で生きていける程甘くはないぞ?」

「大剣があれば、あんな奴らは敵じゃない」


「その大剣とやらは一体どこにあるんだ?」


 言葉に詰まるセレン。

 大剣がなくても戦えるが、あれはクロムの形見であり、託された使命でもある。


 セレンの首筋をたらりと汗がしたたり落ちる。

 ただでさえ暑いのに閉め切られた倉庫内は風通しも悪く、かなりの温度に達していた。


「冷静になれよ。俺たちは別に悪事を働いている訳じゃあない。〈義殺団プライマーダ〉の下部組織のギャングともう1つのギャング集団と勢力争いをしている。こっちはもう何人も殺されているんだぜ?」


「……ここで善良に生きていると言うことか? 見たところ子供ばかりのようだが、どうやって生活していると言うんだ?」


「そりゃ地道にさ。スラム外で慈善活動をして対価をもらい、物乞い、炊き出しで何とか暮らしている。ここはミスリル採掘都市だからな……金を持っているヤツは多い」

「採掘労働者として働く気はないのか?」


「はッ! お前がそれを言うのか? あんなところにいたらあッと言う間に死んじまうぜ。お前だってそれが嫌でスラムに来たんじゃないのか?」

「……」


「先日、このチームのトップだった俺の兄が殺された。その他にも身内を殺されたり薬漬けにされたりした者たちでこのチームは構成されている」


「薬?」


「ああ、この街はスラムを中心に中毒性のある薬物が大量に出回っている。他の都市にも流れているはずだぜ。そしてそれを牛耳ぎゅうじっているのが闇の組織、〈義殺団プライマーダ〉の連中だ」


 それを聞いた瞬間、セレンの中で何かが弾けた。

 両親は聖地アハトにいた頃から、言語障害などの症状に悩まされてきた。

 薬物中毒ではないかとメリッサがずっと疑っていたことを思い出す。


「〈義殺団プライマーダ〉が中毒性のある薬を世界に拡散しているのか?」

「そうだ」


 もし両親の死因の1つが薬物中毒によるものだとしたら、〈義殺団プライマーダ〉はモンステッラと同じくセレンの仇である。それにハイエルフ族のネオンのことを考えると、とてもじゃないが許すことなどできはしない。

 

「……分かった。組織は潰す。だが、人を殺すつもりはない」

「なッ!? 敵は殺すつもりで襲ってくるんだぞ? ヤツらの頭を殺らない限り組織は潰せないッ!」


「これだけは譲れない。僕の剣は人を殺すためのものなんかじゃない」

「チッ! 甘い。甘過ぎだぜ。いつまでそう言っていられるかな? だが、まぁいい。俺たちはこれで仲間になった訳だ」


 そう言ってコンテナの上から飛び降りると器用に着地して、セレンに近づいてくる。段々と顔が見えてきてセレンの正面に立った少年は、セレンよりも大柄ながらもまだあどけない顔付きをしていた。


「俺はリオネル。代理でこのチームのトップを張っている。よろしくな」

「僕の名はセレン。誇りある剣聖クロムの子だ」


 お互いに自己紹介を済ませるとリオネルがスッと手を差し出してくる。

 それをがっちりと握りしめたセレンはリオネルを値踏みするかのように、その瞳の奥を覗き込む。代理とは言え、チームのトップと言うだけあって、その中には確固たる強い意志が感じられた。


「リン! もう出てきてもいいぞ!」


 リオネルにそう言われて、物陰から出てきたのは先程セレンの大剣を盗んで逃げ去った少女であった。どことなくリオネルに似た面影があり、茶髪を短く刈り込んでおり、黒い瞳をしている。

 その少女――リンはおずおずとセレンの前までやってくると、大剣をセレンに渡す。


「ありがとう」


 セレンからそんなことを言われるとは思ってもみなかったのか、リンはリオネルの陰に隠れようとする。


「おいおい。何恥ずかしがってんだよ」


 リオネルは再びリンをセレンの前へと引っ張り出した。


「そう言えば、逃げるのがやたらと速かったけど、何かスキルを使っていたの?」

「特殊スキル【とんずら】……」


 尚も恥ずかしそうにしながらもスキル名をつぶやくリン。


「ああ、逃げる場合に限って素早さが脅威的なまでに上昇するスキルらしい」


 リオネルが捕捉説明をする。


「へぇ……。便利なスキルもあるもんだな」

「俺たちはがくがないからな……もっとスキルに関して知識があればいいんだが」


 セレンはリオネルに比べればスキルに関する知識はある。

 完全に把握している訳ではないが、クロムの講義と知識の継承でスキルの知識は持っているのだ。

 偉大なる父親でも知らないことは世界にはまだまだ溢れているのである。

 【とんずら】も初めて耳にしたスキルだ。


 スラムの新参者であるセレンにとってこの地区は未知の領域だ。

 当面の間、リオネルたちの組織で生きるすべを学ばせてもらうつもりである。

 セレンの正義に反する場合は組織を抜ければ良い。

 そう考えながら、セレンは今後のことについて頭を悩ませ始める。


 隣ではリオネルが仲間の紹介をしていたが、セレンの耳にはほとんど届いてはいなかった。

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