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封剣伝説~復讐から始まる【憑依】スキル使いの英雄譚~  作者: 波 七海
第1章 ノースデンの悲劇編

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第28話 思わぬ邂逅

 セレンは戦っていた。


 オークキングを名乗る体長3.5マイトはあろうかと言う巨躯きょくとの大剣による打ち合いだ。

 その巨体にも関わらず、その動きは俊敏で隙がない。

 やがて打ち合いにも終止符が打たれた。

 セレンが頭を叩き斬られたのだ。



―――



「ッ!?」


 目を覚ますとベッドの上であった。

 どうやら夢を見ていたようで、額には大量の汗が浮かんでいる。

 跳ね起きたのか、セレンに掛けられていた布団がベッドからずり落ちそうになっている。いまだ胸の動悸どうきが治まらない中、かぐわしい木の匂いが鼻腔びこうをくすぐった。


「木の匂い……自然の匂いだ」


 その心地良い香りは幾分か、セレンを悪夢から解放した。

 セレンが胸に手を当ててみると、その鼓動も段々と普通の状態に戻ってきたように感じる。


「あら、起きたのね」


 不意に掛けられた言葉にセレンは思わず過剰な反応を示してしまう。

 ビクッとしたセレンの態度を受けて、声を掛けた側も驚いたようだ。


「な、何よ……びっくりするじゃない……」


 セレンの目の前にいたのは金髪をサイドテールにした碧眼の少女であった。

 ただし、人間ではない。

 その耳は長く、瞳も左右の色が異なっている。

 所謂いわゆる、オッドアイと言うヤツだ。


 オッドアイはともかく、その特徴的な容姿には見覚えがあった。

 ジオナンド帝國の王宮内で見かけたことが何度かあったのだ。

 人間に近い亜人種――ハイエルフである。


「あの……ここはどこなんでしょうか?」

「妖精の森、リーンフェルよ。何も覚えていないの?」


 ――妖精の森(リーンフェル)


 リングネイトの森の特に最奥部さいおうぶのことをそう呼ぶ者が多い。

 セレンが聞いたところに寄れば、そこには妖精王ようせいおうを中心としたハイエルフの部族がいくつか存在すると言う話だ。


「あー、確かオークの大軍と戦って……気を失った……?」


「そうね。それであたしが貴方をココに連れて来たって訳」


 ボーッとしていた頭が覚醒してきたようで、戦いの状況を思い出すセレン。

 あの時の感覚が蘇ってくるのが分かる。

 あれは相当無茶をした戦い方だったと今、振り返ればそう思う。

 良く助かったなとセレンは感じ、助けてくれたと言う椅子に座る少女に感謝した。


「それにしても貴方、ちっこいのに凄い腕ね。1人であの数のオークを葬り去るんだから」


 お礼の言葉を言おうと口を開きかけた瞬間に、機先を制されてしまい、セレンは思わず黙り込む。


 褒めらるのは嬉しいものだ。

 何しろ父親のことも褒められているようなものなのだから。

 セレンの顔は見る見る内に紅潮し、その態度もしどろもどろだ。


「あたしはネオン。ホントはもっと長いんだけど……」


 そう言って立ち上がると、彼女は扉の向こうへ声を掛ける。

 近くにも他にハイエルフがいるのだろう。

 何か頼んでいるようだ。


 ネオンがセレンの方へ向き直ったのを見てセレンは思いきって口を開いた。


「あ、あのッ……助けて頂いてありがとうございます。僕はセレンと言います」

「あらそうなのね。セレンはどうしてオークと敵対しているの? ノースデンの人間はあたしたちを追いだしたいと考えていたと思うんだけど?」


 その質問がどこかに落ちなくて、どこかピンと来ないセレン。


「……? 別に敵対している訳ではありません。襲われてしまったので撃退したまでです」

「そうなの!? 何か目的があってココに来たのかと思ったわ」

「探検していたのです。森の奥まで入ったことがなかったので……」


 その時、部屋の扉がコンコンとノックされる。

 ネオンが入るように促すと、これまたハイエルフらしき女性たちが食べ物と飲み物を運んできた。


「立てる? ほら、こっちに来て座りなさいな」


 ネオンは大きなテーブルに飲食物を置かせ、空いている椅子をボンポンと叩いてセレンを促した。

 タイミング良くセレンの腹の虫が鳴いた。

 思わず赤くなるセレン。


「あ、ありがとうございます。頂きます」


 ネオンは顔を赤くして照れているセレンを見て面白がっているようだ。

 ベッドから起き出して、椅子のところまで歩いてみるが特に体に異変は感じなかった。どうやら一晩でしっかり回復したようだと、セレンはホッと胸を撫で下ろす。


「美味しい……」


 律儀に神に祈りを捧げてから手を付けたセレンをネオンはじッと見つめている。

 料理はパンと根菜のスープ、サラダのみであった。

 そこまで贅沢なものではなかったが、セレンに文句などあろうはずもない。


「人間にはちょっと物足りないかしら?」

「いえ、十分です。助けて頂いた上に食べ物まで……。ありがたいです」


 ネオンと会話をしながら黙々と食べ続ける。

 スープやサラダはノースデンで食べているものと似ていたが、パンだけは違う味がしてセレンは興味をそそられた。

 聞けば、森林地帯で育つネイフォッサの実から作ったものらしい。

 また、妖精族、ハイエルフ族、エルフ族は木々や草花から精気を取り込むすべを持っているため、肉や魚などはあまり口にしないと言う。


 あっと言う間に食事を平らげたセレンにネオンは、ニコニコと微笑み掛けている。年齢の割にさといセレンは、これから本題が来るんだろうなと思いつつ、勧められたハーブティに口をつけた。


「それでね。あたしたちハイエルフはノースデンの人間の圧迫を受けているんだ。それに、どこからか流れてきた亜人……オークやゴブリンとも敵対しているの」


「はぁ……それで僕は一体何をすればいいのでしょうか?」

「話が速くて助かるわ! ノースデンの統治機構の人間と話がしたいの」


 セレンが余計な腹の探り合いをせず単刀直入に切り出したことで、ネオンの顔がパッと明るいものに変わる。

 すぐに自分の要求を伝える辺り、彼女も回りくどいことは好きではないようだ。


「ええ……僕はまだ11歳の子供ですよ? 無理ですよそんなこと……」

「セレンは11歳なの!? それであの腕なのね。それならあたしたちの用心棒になってくれないかしら?」


 セレンは幼い頭で考え始める。

 ノースデンの人間とハイエルフが敵対していることは探求者ハンターギルドで得た情報とも一致する。ネオンの話の信憑性は高いだろう。


「3日前の戦いでオークの戦力は大打撃を受けたと思うわ。こちらは当分大丈夫だと思うから、後は人間よね」

「えッ!? 僕は3日も寝てたんですか!?」

「そうよ。目覚めるか心配だったんだから」


 そんなに時間が経っているならセクター夫妻も心配しているだろうとセレンは申し訳ない気持ちになる。取り敢えず、ネオンの話を聞いたらすぐに家に帰らねばと強く思うセレンであった。

 そんなセレンの心を知らずに、ネオンはすぐに話を再開する。

 この森に棲む妖精や精霊たちにとって余程、重大な出来事なのだろう。


「話を戻すわね。ある時、ノースデンの〈義殺団プライマーダ〉を名乗る人間たちがやってきて森を切り拓き始めたの。当然森に棲むハイエルフが中心となって抗議の声を上げたわ。そしたら人間は武力をチラつかせて脅してきたって訳」


 エルフやハイエルフは一般的には人間と友好的な関係を構築しているが、中には奴隷として人間の間で取引されていることも多々見られると言う。

 表向きは違法になっているようだが、権力者や富豪の間で愛玩奴隷として人気があるようだ。

 これはクロムから継承した記憶から得た知識だ。

 脅迫してきた者が闇の人間ならば、ネオンたちは単に森を追われるだけでは済まないだろう。


「それと同時期にオークやゴブリンの活動が活発になってきたのよ。調べた結果、裏で人間とつながっているみたい」


 セレンは考える。

 恐らく人間の本当の目的はハイエルフたちの捕獲であって、森の開拓はむしろオマケだろう。かと言っていくら温厚で平和主義のハイエルフ族であっても森林に籠られて抵抗されては損害も大きくなる。

 そこで『ちた精霊』と言われるオークやゴブリンとの共闘だ。

 ハイエルフとオークたちとの関係はかなり険悪なもので、お互いに憎悪の対象であることは有名な話であった。

 その〈義殺団プライマーダ〉と言う組織はハイエルフを隷属化するために、彼らの土地でオークたちを釣ったのだろう。ネオン曰く、相手は流浪のオークだと言う。定住できる土地を得られる上ににっくきハイエルフを駆逐できるのだから、人間の提案は魅力的に映るに違いない。それに事が成って手を切る場合でも亜人と言えど魔物に分類されるオークが相手ならば、探求者ハンターに討伐を任せれば後腐れなく済む。


「貴方の腕を見込んでお願い! 報酬はエルフィンラピスと言う鉱物を用意するわ」

「エルフィンラピスですか。稀少なものですね」


「知っているの?」

「はい。僕の大剣にも使われていますし」


 剣に用いられる鉱物としては、魔力と相性の良いミスリルなどが代表的だが、このエルフィンラピスは精霊の加護を得てその力を剣に宿すと言う特殊な性質を持つ。かなり稀少なのとハイエルフなどの棲む森でしか取れないので、とある国はハイエルフが何か隠していると考え、戦争を吹っかけたと言う話がある程だ。


「どうやって入手したのかしら。貴方、何か特殊な伝手でもあるの?」


「いえ……」


 セレンは言葉を濁した。

 エルフィンラピスの価値は稀少なだけあってかなりのものだ。

 そのまま持っているにしろ、売るにしろ、そんなものを子供が入手してはトラブルの元になりかねない。とは言え、先立つ物があれば探求者ハンターになるまでの1年をセクター夫妻に迷惑を掛けずに過ごせるのは間違いないと思われた。


 セレンは2人が大好きになっていた。

 両親の悲しみに満ちた最期を見届けているだけに、あの2人には穏やかな老後を送って欲しいと願っていた。


「用心棒となると長期間の任務になりますね……。依頼の達成条件はどうなりますか?」

「できれば人間の干渉がなくなるまで居て欲しいわ」


 腕を組んで頭を唸りながら、助けてもらった恩とオークの群れと戦うことの危険性の狭間で揺れ動くセレンにネオンは畳み掛ける。


「そう……そうよ! 何を隠そうあたしはこの森に棲むハイエルフの族長の娘! さ・ら・に! その族長は現妖精王なのッ! 今ならハイエルフとのコネができるわ! これはもう超お得ね!」


 ネオンは何故か、その豊かな胸を反らせつつ威張り始めた。

 そんな彼女にセレンは不審者を見るかのような視線を送るが、当の本人は全く気付いていない。セレンはふぅッとため息をつく。


「取り敢えず、一旦帰ろうと思います。助けて頂いてありがとうございました」

「そう? もっとゆっくりしていったらいいのに」

「ノースデンに心配してくれている人がいますから……。また来ますよ」


 セレンの言葉にネオンの表情がパァッと明るくなるのが分かる。


「それじゃあ、貴方がオークと戦っていた場所まで来てくれれば、迎えを寄越すわ!」


 ネオンはまるで、既にセレンが用心棒を引き受けたかのようにはしゃぎ出した。

 セレンは、それを見て感情の出やすいハイエルフもいたものだと思わず苦笑いをしてしまう。そんなセレンに、彼女は妖精の森の精霊樹の葉からとれるエキスを精製した、精霊樹の雫(エルフィ・スィーズ)をお土産に渡す。

 これは飲んだり傷にかけたりすることで治癒の効果があるアイテムだと言う。

 貴重な物だと思い、流石に断ったがどうしてもと言って無理やり持たされてしまった。セレンは押しに弱かった。


 こうしてセレンは、案内役をつけてもらって帰路についたのであった。

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