表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

05 一撃必殺のスキル

 シュタイマンは冒険者学校の生徒である、シュリンクラブの腕を掴んで混乱の船内を進む。

 小さな救命ボートに集まり、争いを始める者たちにも目もくれず、ずんずんと船首へと向かう。


 シュリンクラブのクラスメイトたちは「面白そうだからついていってみようぜ!」と後に続いていた。


 船首から現れた巨大ガニは、とうとう甲板にまで侵攻してきている。

 槍を手にした船員たちと、一部の勇敢な乗客たちが応戦していたが、まったく歯が立たない。


 巨大ガニの殻は鋼鉄のように硬く、生半可な剣撃スキルなどやすやすと跳ね返す。

 ハサミがギロチンのごとく振り下ろされ、甲板に大穴を開ける。


 人間など一撃で両断するほどの攻撃から、逃れるだけで精一杯のようであった。

 シュリンクラブは赤毛を消し飛ばされる炎のように逆立てて、すっかり震えあがっている。


「お、オジサン、やっぱりムチャだよっ!? ボクなんかのスキルじゃどうにもならないよっ!」


 しかしシュタイマンは聞く耳を持たず、シュリンクラブをぐいぐいと引っ張って参戦する。

 ハサミがギリギリ届かないくらいの砂かぶり席までやって来ると、


「シュリンクラブ君、少々失礼する」


 そう断ってから、シュリンクラブの腰に手を回してから、ぐいっと抱き寄せた。

 そばかすまみれの顔を、ポッと赤くするシュリンクラブ。


「な、なにするのさ、オジサン」


「キミの持っている、あの(●●)スキルを巨大ガニに向かって使うのだ」


 それだけでシュリンクラブは察したが、とんでもないとばかりに目を剥いた。


「ええっ!? あの(●●)スキルを!? でも、あんなでっかいのに効くわけが……!」


「いまは問答している時間などない。いいから、わたくしの言うとおりにするのだ」


 シュタイマンは懐から音叉を取りだし、ハンドベルのようにひと振りする。


 ……ポーン!


 その音色は柔和であったが、戦いの騒乱の中でもハッキリとした主張を持って響き渡った。

 甲板で戦っていた者たちが、何事かと手を休めて注目してしまうほどに。


 そしてシュリンクラブには不思議な感覚が湧き上がっていた。


「お……お腹が、あったかい……!?」


「そうだ。わたくしがキミのスキルを調律(チューニング)し、効果を一時的に増幅したのだ。

 だいぶ落ち着いてきただろう?」


「う、うん……! なんでだろう、ずっとドキドキしてたのに、嫌な感じがぜんぜんなくなった……!

 なんだか、ワクワクするようなドキドキになった……!」


「よし、それではシュリンクラブ君、キミの自慢のスキルをあやつに叩き込んでやるのだ。

 キミは誰にも負けないスキルを持っているはずだ、しかもふたつも。

 ひとつは『エビ剥き』スキル。そしてあともうひとつは……」


 シュリンクラブの顔にもう迷いはない。


 巨大ガニに向かってバッ! と手をかざすと、赤毛を逆巻く炎のようになびかせ叫んだ。

 まるで、ボクのスキルを見ろといわんばかりに。


「これがボクの、『カニ剥き』スキルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ……ズトッ……! ガァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 轟音とともに巻き起こった光景に、誰もが目を疑った。

 巨大ガニの甲羅が、まるで小さなサワガニのそれであるかのように、軽々と吹っ飛んでいたからだ。


 生きたまま甲羅を剥かれた巨大ガニは、最初はなにが起こったのかわからない様子でキョトンとしていた。

 攻撃を再開しようとハサミを振り上げようとしたが、ままならない。


 剥がれた甲羅はハリケーンで巻き上げられた馬車のように宙を舞ったあと、巨大ガニの剥き出しの身にズドンと突き刺さった。


 キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?


 まさか自分の甲羅が剥かれ、それが降ってきたとは思いもしなかっただろう。

 巨大ガニはわけのわからぬまま、断末魔の絶叫とともにあたりに泡を吹き散らかし、やがて絶命した。


 誰もが呆然自失のようになっていた。

 船員も、冒険者たちも、面白半分でついてきたクラスメイトたちも。


 そして誰よりも、この事をしでかしたシュリンクラブがいちばん唖然となっていた。


「う、うそ……。こ、このボクに、こんな力が……あったなんて……」


 次の瞬間、彼は英雄となった。


「うおおおおおっ! すげえすげえすげえ! すげえな、お前っ!」


「プロの冒険者でも歯が立たなかった巨大ガニを、一撃で倒すだなんて!」


「マジですげえよ! 『カニ剥き』スキルがこんなに強力だなんて知らなかった!」


「今までバカにして悪かった! お前、最強だよっ!」


「おいみんな! この船のピンチを救ってくれた英雄を胴上げだっ!」


 甲板にいた者たちから歓声とともに取り囲まれ、あれよあれよという間に胴上げまでされるシュリンクラブ。


 まだ信じられない様子で宙を舞う赤毛の少年。

 シュタイマンはというと、そのお祭り騒ぎを遠巻きに見つめていた。


 見事な演奏を披露して拍手喝采を浴びるピアニストを、舞台袖で見つめる調律師(チューナー)のように。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 『カニ剥き』スキルというのは、その名のとおりカニを簡単に剥けるスキルのことである。

 一般的に『はずれスキル』とされており、このスキルを与えられた者の将来は、レストランの厨房で一生カニを剥く運命にあった


 このスキルをモンスターに対して使おうなどという者は、誰ひとりとしていなかった。

 しかしシュタイマンは、己の調律(チューニング)によって、このスキルを戦闘スキルにまで昇華させたのだ。


 特定のモンスター限定ではあるものの、強敵を一撃で葬れるとなると話は変わってくる。

 言うなればこれは、『トカゲ殺し』スキルが『ドラゴン殺し』スキルになるようなものである。


 『はずれスキル』が、一瞬にして『神スキル』に……!


 そしてそのキッカケを作った張本人は、水晶玉の前でワナワナと震えていた。


「ば……ばかな……! わらわが呼び出したモンスターを、一撃で葬るとは……!

 おっ……おのれ! おのれぇぇぇぇ……!

 わらわは占いによって、すべてを思うがままにしてきた……!

 『地獄に落ちる』と言ってやれば、すべての者がわらわの足元にすがってきたというのに……!

 あのシュタイマンだけは、わらわの思い通りにならぬ……!

 なぜだっ、なぜだっ、なぜなのだっ……!?

 だが、わらわは決してあきらめぬぞ……!

 わらわはなんとしても、そなたを手に入れてみせるっ……!

 たとえ地獄の底に逃げても、引きずり戻してくれようぞっ……!」

「続きが気になる!」と思ったら、ぜひブックマークを!

「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆からぜひ評価を!


それらが執筆の励みになりますので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] ヤンデレにモテるシュー君(ノ´∀`*) ママといい、ヤンデレといい、スゴい調律師でも女運は悪い?(笑) そしてかに剥きスキルは地味に欲しい! かにが食べやすそう(*/□\*) 寒くな…
[一言] おなごの嫉妬はオソロシイです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ