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03 追放なのにざまぁ

 翌日、シュタイマンはいつものように職務のために登城する。

 しかし転送陣にて待ち構えていた兵士たちに取り押さえられ、投獄されてしまう。


 そしてその日の午後には多くの王族や貴族たちが見守るなか、裁判にかけられていた。


「被告は前王より任命されたスキル調律師(チューナー)という立場を乱用し、この帝国を混乱せしめた。

 スキルの不調などというありもしない概念を持ちだし、多くの者たちを惑わせたのだ」


 ある程度身分のある者の裁判については、『聖偉大賢者』であるゴッドエルダーが裁判長を務める決まりになっている。

 年輪のように深くシワの刻まれた長老のような男は、しわがれた声で、しかし淡々とシュタイマンを糾弾した。


 「そうだそうだ!」と多くの聖偉たちが乗っかる。


「そもそも、スキルが不調になるなどありえなかったのだ!

 もしそんなことがあるのであれば、シュタイマンひとりで帝国臣民全員の面倒を見るなど不可能であろう!」


「その圧倒的な物量の差こそが、何よりものインチキの証拠だ!

 スキルの不調というものが存在するのであれば、今頃はスキルの不調を訴えるもので溢れていなくてはおかしいではないか!」


 紳士であるシュタイマンは声を荒げることをしない。

 しかし今は自分の立場を守るために必死であった。


「それは、わたくしがこの帝国じゅうに敷設した『結界』の効果によるものだ!

 『結界』は、中級程度のスキルであれば不調を治癒してくれる効果がある!

 上級スキルを持つ王族や貴族たちはそれでは補えないから、わたくしが個別に()ていたのだ!」


 それは声を枯らすほどの訴えであったが、老獪なる大賢者には届かなかった。


「証拠はまだある。そなたが宮廷に仕える者のなかで唯一、『ヒート族』ではないのだ」


 『ヒート族』。この世界における四大メジャー種族のひとつで、『炎の種族』と呼ばれる。

 いわゆる『人間』という存在で、人口がもっとも多いとされている。


「被告は『ヒート族』ではなく、『リクニス族』なのだ」


 『リクニス族』。『地の種族』や『オッサン族』とも呼ばれる。

 四大メジャー種族のひとつだが、その数はもっとも少ないという。


 人間の数倍の寿命を持つが、彼らの幼少期や青年期はほんの一瞬しかない。

 容姿が中年から初老のオッサンになると成長が止まり、その姿で悠久の時を生きるという。


 この告発に、裁判所内はざわめいた。

 シュタイマンはそれのなにがいけないのかと、声をかぎりにする。


「そうだ。わたくしはたしかに『リクニス族』だ!

 前王の王室ではすべての種族がバランスよく要職についていたではないか!」


「それは前王が『エルフ族』であったからだ。新王は『ヒート族』。

 多種族より寿命が短いが、それは怠惰に生きていない証であり、優秀であることの証でもある。

 リクニス族であるそなたは、怠惰なる種族であるにも関わらず権力を欲した。

 帝国臣民を不安で支配し、スキルフル帝国をその掌中に収めようとしていたのだ。

 前王から任命された『スキル調律師(チューナー)』という、まやかしの力によって」


「新王が『ヒート族』となったのは優秀ゆえではない!

 『ヒート族』は数の力によって前王を追放したのだ!

 わたくしの友であった者たちまでもを、みんな……!」


 次の瞬間、裁判所内にいたすべての者が立ち上がり、罵声や物をシュタイマンめがけて投げつけた。


「こいつ、とうとう正体を表したぞ!」


「友人であった前王が追放された恨みを、帝国を転覆させることにより晴らそうとしていたんだ!」


「それに言うにことかいて、俺たちヒート族が優秀じゃないだと!」


「万年オッサンのくせして、ふざけやがってぇ!」


 結局、シュタイマンに下された判決は『帝国外追放』。

 追放刑の中ではもっとも重い処罰となった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 次の日、シュタイマンは自宅で身支度を整えていた。

 そのルーティンはいつもと変わらなかったが、今日はひとつだけ大きな違いがあった。


 家を出るときの荷物が、トランクひとつ分増えていたことと。

 シュタイマンのが玄関扉を開けて外に出ると、そこには多くの民衆たちが集まっていた。


 王族や貴族たちはシュタイマン追放の判決に快哉を叫んでいたが、民衆たちはみんな悲しそうにしている。

 その最前列にいた農夫たちは、えぐえぐと泣いていた。


「シュタイマン様、ほんとうに行っちまうだか?」


「ノーフ君、仕方がないであろう。これも法の裁きなのだから」


「ううっ……シュタイマン様は追放されるっていうのに、タキシードでパリッとキメられてて……。

 しかも逃げも隠れもせずに堂々としてて、本当にすごいだ……!」


「無論だ。紳士たるものどんな時も、心だけでなく着るものも錦であるべきだからな。

 そんなことよりも、ニワトリたちを大切にしてほしい。

 長年にわたり、わたくしの朝食を支えてくれたものたちだからな」


「ああ、みんなビックリしてただ!

 シュタイマン様のニワトリは身体も大きくて毛艶もよくて、鳴き声もすごいって!

 ニワトリコンテストに出したら、グランプリは間違いないニワトリばっかりだっただ!」


「そうか。では、ニワトリともども達者でな」


 シュタイマンは人垣を抜け、家の間に停まっていた迎えの馬車に向かう。

 彼は罪人なので本来は檻のついた馬車なのだが、そこにあったのはシンデレラが乗っていそうな最高級の馬車であった。


「どうぞ、シュタイマン様! 我々がシュタイマン様をお送りさせていただきます!

 へへ、びっくりしました? 城からこっそりVIP迎賓用の馬車を持ち出したんです!」


 シュタイマンを護送する兵士たちが、いたずらっぽく笑う。

 彼らはかつてシュタイマンが『兜割り』スキルでアドバイスした、青年兵士たちであった。


 後でバレたら懲罰ものだが、兵士たちはどうしてもこの馬車でシュタイマンを送りたいと言って聞かなかった。

 シュタイマンはやむなく馬車に乗り、王族のようにゆったりと帝国を出ることとなった。


「それではシュタイマン様、どちらにお送りしましょう?」


「わたくしは引退したら、ヘルボトム領を訪ねるつもりでいた。

 だからヘルボトム領に向かうとしよう。

 ここからだとヘルボトムウエストが一番近いから、帝国のいちばん西の港にやってほしい」


「ええっ!? ヘルボトム領!?

 帝国外の土地はぜんぶ最悪だと言われていますが、その中でもいちばん最悪の土地じゃないですか!?

 『この世の地獄』と呼ばれ、帝国が流刑地として使っているような場所ですよ!?

 追放刑なのに、わざわざ自分から流刑にグレードアップさせなくても!?」


「ヘルボトムにはわたくしの旧友たちがいるのです。

 たとえ『この世の地獄』であってもかまわないから、やってほしい」


「わ、わかりました……。じゃあ西の港までお送りします。

 途中で気が変わったら、いつでも遠慮なく言ってくださいね!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 その頃、ゴッドマザーは王城の自室のなかで、ひとりウキウキと小躍りをしていた。


「うふふ、楽しみだわぁ。早くシュタイマンちゃんが来ないかなぁ、来ないかなぁ~!」


 彼女は『聖偉』のなかでは珍しくシュタイマン擁護派であった。

 しかし『聖偉会議』のときも裁判のときも何もしなかったのは、少しばかりシュタイマンにお灸を据えるつもりであったから。


「追放刑になれば、シュタイマンちゃんもきっとママを頼ってくることでしょう。

 『助けてぇ、ママ~!』って! うふふふっ!

 そうなればシュタイマンちゃんをかくまって、一生ママのものにするんだから!

 ああ、楽しみだわぁ! 早くママのところにシュタイマンちゃんがこないかなぁ!」


 そこに、彼女の配下である大臣が飛び込んでくる。


「ゴッドマザー様! 追放刑のシュタイマンがたった今、西の港から船に乗ったと報せが入りました!」


「えっ」


「シュタイマンは逃げも隠れもせずに、帝国外を出ようとしているようです!」


「えっえっ」


「無能と言われた男ですが、どうやら観念したようですなぁ!」


「えっえっえっ」


「シュタイマンが帝国外を出て、追放刑が完了したときにまたお知らせにまいります!

 そのあとは、祝杯でも……おや? どうされましたか、ゴッドマザー様?」


「えっえっえっ……えええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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[一言] 主人公が裁判で糾弾され、袋叩きにされるのを「もっと構って貰う為にお灸を据える」とか私欲で傍観している段階で、ゴッドマザーとやらも既に擁護派ではないね。せいぜい一緒にざまぁされて苦しみに沈めば…
[気になる点] >「そもそも、スキルが不調になるなどありえなかったのだ!  もしそんなことがあるのであれば、シュタイマンひとりで帝国臣民全員の面倒を見るなど不可能であろう! この世界でスキル…
[良い点] 普通は民衆も対象者に対して、石を投げるがそれをしないところ [一言] リクニス族には笑いました(^_-) ドワーフとは違うのですね?
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