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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第94話:反乱前夜②

二日後。

緊急議会は城内に用意されている議会室にて行われていた。

集まったのは議会に名を連ねる王侯貴族たち。

ダミアンとベネッタが共に現れたことにざわめいていたが、ガトーの「静粛に」との声に一同口を噤む。

内容は予定通り、妖精交渉伝令人について進められていく。

中には本当にその話をしに来ている者もいる。

己の私利私欲だろうがなかろうが、そういった者たちは教会とは関係がない人物であった。


「カロラス様のお力が必要なのでございます。」

「それに指名することにより、これまで同様の領地へ派遣された方が、見知った土地、見知った顔。伝令人の負担も少ないのでは。」


「同じことを言わせるな。それが第二皇子である必要などどこにもない。我が弟はただ上位の妖精親和性をもつだけにすぎん。」


「我が領地は王領より離れている。もしもの事態を排除するため、力ある者を派遣していただきたい。」

「上位の者には上位の伝令人がふさわしいのでは!」


「弟より優秀な伝令人もいる。しかし貴殿らは、尚第二皇子を望む、とな。」


笑えるな。


肘掛けに肘を付き一切笑わずに発せられた言葉。

その場にいた貴族が全員固まる。

国王からの圧に、ただの貴族が耐えられるわけがないのだ。


そもそも()()()()()ダミアン達を前に、議会をすること自体不必要なこと。形式として開いているにすぎないのだから、こうして話をする必要はない。


一番気がかりなのは、貴族の中で王族に次ぐ力を持つ筆頭公爵であり、教会と関りがあるとされている男。彼の姿が見えないことである。

体調不良との報せが届き、今は代理人が出席しているが、真実か否か。

この場に集まっている教会関係者である貴族たちは、反乱のことについては知っていてもそれがいつどこで行われるのか知らないらしい。

末端ということだ。


反乱を起こすのは、一体いつだ?


議会はずっと平行線が続き、一時休息を取ることになった。

座っていたベネッタの元に騎士が一名近づく。

カロラスからの緊急伝令があるとのこと。

伝令用の魔道具は今ここで見ることはできない。

ダミアンに確認を取り、ベネッタは一人議会室を出る。

騎士の付き添いの元、カロラスから送られた魔道具を起動する。


『ベル、オレだ。用件だけ伝えるな。まずチカは無事だ。合流して、ちゃんと帰れる。妖精女王陛下のお力を貸してもらえることになって、今からそっちにいく。』


妖精に誘拐されたと聞いていた智香子の無事。そして帰還。

ベネッタは安堵に頬を緩める。


『次が緊急なんだけど、城に着いたときに問題が、』


続くメッセージを聞こうとしたとき、後ろで物音がする。

慌てて魔道具を消滅させた次の瞬間には、ベネッタの視界は真っ暗になった。


パチパチパチ…………


遠くから聞こえる何かの破裂音。

頭の痛みを耐えていたベネッタだったが、直前の記憶を思い出して慌てて体を起こす。

そこは見たことのある場所。豪華な飾りとステンドグラスの窓。

正面の最も見えるところには、創生の女神が描かれた壁画が飾られている。

貴族街にある神殿。教会の根城である。

世界の乙女として、何度か訪れたことのある場所であった。


会場中に響いていたのは拍手。


事前にガトーから知らされていた、議会に出席していない教会関係者。

そのほとんどがこの場に集まっている。

一人の男が進み出てくる。

洗礼された身のこなし。柔和な笑み。身に付けているものは全て高価なもの。

祭壇前に寝かされていたベネッタはやられたと歯を食いしばった。

貴族の中で王族に次ぐ力を持つ筆頭公爵である男。


「お目覚めでございますな。第二皇女殿下。」


「……ビルイッタ・ディバル。」


ディバル公爵。

王領と隣り合うところに領地を持ち、柔らかな笑みと冷酷な決断力により豊かな領地を作り上げた男。

一方で、裏では悪事にも躊躇なく手を染める。そして一切その証拠を見せないため、尻尾をつかむことが出来ないでいる。

その手腕は他の追随を許さず、貴族も平民も、皆彼を尊敬した。


(やはりこの男が、教会関係者の親玉か。)


鳴り続ける拍手をそのままに、どうやってここから逃げられるか。

貴族関係者の証拠を持って帰られるか考えを巡らせる。


「何が目的?」


「我々の目的は始めから一つ。貴方様が王となられること。ただそれ1つでございます。」


違和感に気づいたときには、もう手遅れであった。


後ろから降り注ぐ光。

振り返れば、こちらを飲み込まんとする”世界”があった。


「今の国王ではこの国を豊かにすることなどできはしない。しかし、”世界の乙女”である貴方様であれば。貴方様ならば、この国に幸せを、豊かさを、恵みを、もたらすことができる。”世界の乙女”のお力によって。どうか、我らに幸福を。豊富を。恵みを。」


既に約束は、世界との間で結ばれてしまっていたのだ。


世界の声が響く。

ベネッタを通してではない、世界の声。


『”約束の根幹”に則り、願い人の命を対価として、願いであるアドリオンに幸福・豊富・恵を与えること。これを諾とする。』


世界から注がれる光が強くなっていく。

ベネッタは後ろを見た。

向けられる笑み、拍手。

誰もこの状況を可笑しいと思っていないのだ。


「”世界の乙女”でありながら、十四歳まで生きた者。稀有な存在。彼女こそ、創生の女神ツェーララの生まれ変わりに違いない!この国の王は、女神こそが、ふさわしい!」


視界の端で、婚約者が目に入る。

ディバル公爵の長男。政略のための婚約であると互いに分かっているから、関りはほとんどない。

名前と、家同士の関係くらいしか知らない間柄。


婚約者である彼が、この場でただ一人、笑うことも拍手をすることもなく、こちらを見ていた。


世界に、飲み込まれていく。

”言霊”により無意識で力を使わないよう、言葉を制限して。

短命であるこの身をなんとか生き長らえさせようと、あれほど抗ったのに、それが逆に仇になったとでも言うのか。


悔しさを感じることもなくなっていく。

意識が遠のいていく。

虚ろな瞳でただ赤い瞳は宙を見た。


丁度視線の先にあった、教会のステンドグラスに陰りが見える。


「ベネッタ!!!!!」


弾け割れたそこから現れたのは、大きな獣の背にまたがった少女。


なんで。どうやって。

それ以上に思ってしまう。


(どうして、来てしまったの。)


助けに来てくれても、智香子が危険な目に合うだけではないか。

今も集った貴族たちが智香子を傷つけようとしている。

早く逃げて。早く隠れて。私はもう助からない。

意思とは反対に、ベネッタは手を伸ばした。


「ベネッタ!!!!!!」


貴族の攻撃を避けて掻い潜って、こちらにボロボロになりながら走ってくる智香子。

真っすぐ伝わる強い想いはとても心地よい。


「チカ、たすけて」


智香子から伸ばされた手が、ベネッタの手を掴む。


「当たり前よ。」


世界はベネッタと智香子の二人を飲み込みんだ。

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