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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第89話:タナフォーリの宴

場所は開けた草原。

宴と称されるだけあって、地面に並ぶ食事や、自然に生えた木々に施された飾り付けは豪華であった。

これをたった数十分で行えるとは、妖精すごいな。

草原の中、一つの大木の下に敷かれたマットの上に座り、目の前に運ばれてくる食事を口に入れながら智香子は思った。


『あ、それもこっちに。これはもう食べたから下げて。』


そして隣には配膳に細々とした支持を送る妖精女王。

『チカコさん、これも美味しいですよ!』などと言いながら口元に料理を差し出してくる甲斐甲斐しさ。

差し出されたものは食べなければ失礼だと一口食べ、飲み込む。


「いや妖精女王なんだから貴方がお世話されなさいよ。なに私のお世話をしてるのよ。」


思うだけに留めようと思っていた言葉がつい出ていた。

不思議そうに首を傾げるエフィエルシー。


『え、でも、じゃぁ誰がチカコさんのお世話を…?』


「食事くらい一人でもできるわ!貴方数日だけど私と一緒に行動してたわよね?!別にお世話されなくても大丈夫なのは見てたわよね?!」


真似して周囲を飛んでいた下級妖精が同じように首を傾げている。


『ですが今こうなって分かったのですが、チカコさんはあまりにか弱い生き物じゃないですか…。ちゃんと衣食住を管理しないと…。』


「マンボウと同じレベルとでも思われているのかしら。私そんなすぐ死なないわよ。」


『マンボウ…?』と更に首を傾げるエフィエルシー。

数体の妖精が彼女に近づいてくる。どうやら久しぶりの女王に挨拶がしたいとのことだ。


『お目通りをしたく存じます。』


『…今我はこの世で最も肝心なことに手を付けている故、この場を離れることは、』


「そんなわけないでしょ。出鱈目言ってないでさっさと挨拶回りしてきなさいよ。貴方にしか安心させられない、ってことも分からないのかしら。」


子供みたいに駄々を捏ねる妖精女王の背を押し出す。

最後まで嫌そうな顔をしていたが、智香子が折れないと分かると諦めた。

さきほど宴を開くことには「妖精たちを安心させることができるから」とか言っていた割には、挨拶回りには腰が随分重かったなと息を吐く。

少し離れたところで妖精たちに囲まれるエフィエルシーを見ながら、食事を一口。

見慣れぬ見た目、味だが、とても美味しい。

舌鼓を打って気にしないようにしていたが、やっぱり気になるのは周囲にいる妖精からの敵意である。

女王がいなくなった途端すぐこれだ。

智香子はもう慣れたもの、と思いたいが、やはり可愛いものからの敵意は大分胸が痛い。

とくに鋭い妖精王たちの視線から意識を逸らしていると、ふよふよと浮かぶ下級妖精が目に入った。


彼らの目に敵意や憎悪はない。

よく見れば見たことがある顔ぶれじゃないか。


「あら貴方たち。前にあったことあるわね。」


ゲットル伯爵領で会ったことのある妖精たち。

その後ろには同じく、伯爵領で会った中級妖精三人もいる。

相変わらずの頭突きを受ける。やめろと言っても聞かないのでどうすることもできない。

やがて以前会ったことがある妖精以外にも、先ほどティムニヒッカで話した下級妖精まで寄ってきて、智香子はたちまち妖精に囲まれる。


『ついに妖精女王から見放されたか。』

『哀れな。』

『無様な。』


「いや、挨拶回りに行っただけよ。貴方たちこそわざわざ哀れで無様な私のところに来るなんて。あぁ、暇なのね。」


『可哀そうな人間を救わんとする我らの行動を笑うか!』

「可哀そうだと思われなくて結構!私は現状可哀そうでもなんでもないもの!」

『かわいくない!』

『生意気!』


顔見知りなら先ほど助けてくれても良かったのではないか、と思ったのだが。


『わたしたちになにかできるわけないー』

『でていくだけむだー』

『むだむだー』


「くっ…言っていることは納得できるのに、言い方が気に食わないわ…!」


すると横で何やら不穏な会話が聞こえる。


『この人間にはね、あたまをこつんっ!ってするんだよー!』

『へー!なにそれー!』

『面白そー!』


「?!ちょ、待ちなさい!」


悪い予感はしっかりと当たる。

不穏な会話が聞こえた直後、智香子のおでこは下級妖精たちに狙われることになる。

手で守っても蹲っても強引に浮かせたり火などで脅してくるので、最終的には諦めることになる。

しかしこれが後に挨拶がわりとなり、出会い頭に食らわせられることになるのを智香子はまだ知らない。


下級妖精たちと戯れていると、急に彼らが『きゃー』と言って散り散りになっていく。

何事かと思っていると、強い敵意を感じて振り返った。

そこには4人の妖精王たちの姿があった。

憎らしいと智香子を睨みつけて、エフィエルシーの元へ歩いていく。

別に何を言われる訳でも無く、何かされることもなく。

なんだったんだ?とその後ろ姿を見送る。


『あれは、貴方に文句を言いたいけど、言うと陛下から更に嫌われるから言えない。でも貴方が嫌いで仕方がない。って感じだろうよ。』


しかし一人残った妖精王がいた。

てっきり彼らと一緒だろうと思っていたので、いつの間にか後ろにいて智香子は驚き変な声が出てしまう。

黄色を身に纏う、土の妖精王ザラーク。

中性的な風貌であるが、どちらかと言えば男性体的な体と声。


「何の用?貴方も彼ら同様、私のことが嫌いでしょう?近寄らない方が良いわよ。」


若いその見た目に反して、座り込む時には『よっこらせ』とか言うのだから、見た目と実年齢がとことん釣り合っていない種族だ。


『ん?私は別に貴方を嫌ってなどいない。そもそも上位の妖精になればなるほど、魔力は魅力でなくなるのさ。彼らが貴方のことが嫌いなのは、陛下が貴方に、貴方にのみ、心を開いているから。自分たちではなく、貴方に。』


「それこそ自業自得よ。貴方たちが気づかず、傷つけた。その結果エルシーに嫌われても、そりゃそうでしょ、としか言いようがないわ。責任を私になすりつけないでもらいたいわね。」


『その通りだ。我らには弁解のしようもない。ただ一つ言わせてほしいのは、私は貴方を嫌っているどころか、感謝しているということだよ。』


いくら美しい見目をしていようとも、その内には苛烈さを秘めている。

こと女王のことになれば、彼らが途端に目の色を変えることを智香子は身を持って知っている。

警戒を解くことはできない。

しかし一先ず話を聞こうと、ザラークの前に腰を下ろした。


『私が願うのは、陛下が楽しく笑い、幸せだと時を過ごしてくださること、それだけなんだよ。陛下は貴方といるととても楽しそうだ。』


「……エルシーが楽しそうだと、貴方も楽しいの?」


『あぁ。もちろん。幸せを感じる。』


真っすぐこちらを見る目。

ウソをついているようには見えない。


「……一応は、信じてあげるわ。別に貴方たちとの関係が良かろうと悪かろうと、エルシーの友人じゃ無くなるわけじゃないもの。貴方がどういうつもりで私に近づくのかは、どうでもいいってことよ。」


智香子の言葉にザラークは優しく微笑む。

一体どれほど生きているのか。

不思議に思っていると、背後に人の気配がする。

振り返るとエフィエルシーが少し息を弾ませて立っていた。


『な、なにを、っ、どのような言葉を紡いでいたのか…?!』


「落ち着きがないわね。羽があるのになんで息切れしてるのよ。」


『あ、羽があるの忘れて走っちゃって…。』


「馬鹿なの?」と呟き、エフィエルシーを座らせる。

たいした内容は話していない、と伝えて。

疑うエフィエルシーをそのままに、智香子は気になったことをザラークに訪ねた。


「ずっと気になっていたのだけど、なんで魔力無しは魅力無しなの?貴方たちが使う力は、自力でしょう?別に魔力は関係ないじゃない。」


まだ少し息が整わないエフィエルシーが何か言いたそうにしているが、ザラークが答える。


『それは妖精たちが、愛の神から呪いを受けているからだろうよ。』


「愛の神って、創生神のお姉さんで、創生神と一緒に妖精を作ったっていう、あの?」


よくできました、と頷いたザラークは、当時を思い出すために目を閉じる。


『かの神は、この世界をお創りになられた創生の神を大層可愛がっていた。』


しかし、創生神がこの世界に留まらず、どこかに姿を消してしまう。

そのことを妖精たちは非難した。


「なぜ妖精は非難したの?」


『我らが妖精女王と創生の神は、大層仲が良かったのだよ。創生の神のことも、妖精たちは愛していた。大切にしていたさ。しかし創生の神が姿を消したことで悲しんだ陛下を、妖精は憐れんだ。いや、想いすぎていたのさ。妖精の性質上、それは仕方のないことだったのかもしれないがね。己らの頂点が一番大切だったのさ。結果、当時の妖精は、消えてしまった創生の神を責めた。非難した。詰った。』


そのことに怒ったのが、愛の神だった。

彼女は天から降り立ち妖精に呪いをかけた。




「消えた愛は悲しく、哀しく、されど戻ることはない。あぁ、あぁ、なんということなの。それほどに脆く、繊細で、しかし大切なもの。あぁ~、酷い。あぁ~、惨い。あれほどあの子に愛を語ったのに、あれほどあの子に愛を語らせたのに、思い通りにならないからとその愛を、身勝手にも消してしまうのね。私の愛しい子に、愛を向けられぬというのなら。愛がなくなったというのなら。えぇ、つまりその愛、いらないってことよね?でも、なくすだけじゃ許せない。作り、尊び、可愛がってくれたあの子を、二度と愛せないようにするだけじゃ、この胸は許せない。そうよ、そう。かつての愛しい存在を。かつての尊い存在を。いつかそうだと知るその日まで、嫌うと良いわ。そして思い知る。己が侵したことを。愛しい存在を、そうと知らぬまま傷つけていたことを。罪と、罰と、その重さを。思い知った時の、絶望!絶望!絶望!その絶望の度合いが、度合いこそが、想いの重さを知らせるの!知らせてくれるの!あぁ~~~~~、これこそが、愛、よね♡」




「創生神を傷つけて、怒られて、呪いをかけられた、までは分かるわ。でもそれと魔力無しは魅力無しに繋がらないように思えるのだけど。」


『あぁ。創生の神は魔力をお持ちではなかったのだよ。彼らは神だから、魔力や自力といった制限に縛られていなかったのさ。』


話がやけに具体的な所から、もしかしてと思い、実際にその場面を見ていたのかと聞けば、そうだと頷かれる。

これで世界がいつ生まれて創生の神がいつ眠りについた、もしくは消えたのかが分かれば、いよいよザラークたちの歳を知ることが出来るだろう。

加えて他の妖精王たちも知っているのかと訪ねれば、彼らは知らないらしい。


「?同じ妖精王なのよね?なぜ違いが出ているの?」


『彼らは創生の神を憎んだからね。当時、創生の神を非難した妖精は皆、愛の神から転生させられているんだよ。転生するとね、前の記憶や知識の一部が欠けたり、褪せたり、あやふやになったりするのさ。そして力が弱くなる。また知識を蓄えればいいだけの話なんだけどね。当時転生しなかったのは、私と陛下のみ。だから私は覚えているのさ。』


育ち手という仕組みを思い出す。

自分が知らないことを知るのは新鮮で面白い。


「てか愛の神ヤバいわね。」


『なるほどですね…。』


智香子がご飯を食べながら相槌を打つ中、エフィエルシーがうんうんと頷く。

待ったをかけるのは智香子だ。


「エルシー。貴方、妖精女王の記憶が戻ったんでしょう?だったら知ってたんじゃないの?」


『あぁ、はい。記憶は戻りました。ですが、今のお話を聞いてて分かったのですが、思い出した部分とまだ思い出せていない部分があるみたいです。それも結構な量。』


女王になったのに、なぜそんなことが起きているのか。

これについてのエフィエルシーの見解は、急に膨大な知識や情報を入れてしまうと、体が耐えられずに壊れてしまう。

崩壊しないように、身体になじませながら徐々に思い出していくだろう、と。


『あと自力についても同じですね。前に自力が体内で溢れて死にかけてましたが、あれは女王の特性が関係していました。』


妖精女王。妖精の頂点。

故に彼女の元には自力が、自然が、勝手に集まってきてしまう。

復活を果たした今であれば体が集まる自力に耐えられるし、自力を使うことも出来るので問題はない。

しかし以前は体に見合っていない量がずっと集まって溜まり、しかも放出されることもない。

自然と体がボロボロになってしまうのも頷ける。

妖精王の一部がエフィエルシーの体内に溜まった自力を取り出すことで、一命を取り留めていたのだ。


『彼らがそばにいてくれなければ、すぐに体が耐えられずに消滅していたことでしょう。いや~、ほんとよかったです!』


「よく笑えるわね。」


『え、面白くないですか?』


「どこか面白いところあったかしら?!」


二人を微笑ましく見ていたザラークは、遠くを見て目を細める。


『人の子よ。』


「何よ。」


『貴方に客人だ。』


私に?この妖精の国で?

一体誰だとザラークの視線を追ってみれば、近づいてくるのはやたら妖精に囲まれた人。

近くに来た時にようやく顔が見えて驚きに声を上げる。


「カロラス?!」


もみくちゃにされ、髪の毛もボサボサ。

疲れ果てた様子のカロラスが、智香子に手を振った。

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