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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第85話:儀式の強行

『人間。1つ聞きたいことがある。』


「聞きたいことがあるからこうして私の近くに来たんでしょ。それ以外に何があるって言うのよ。私を助けてくれるとか?そんなわけないわよね。わざわざ分かりきっていることを口にして時間を無駄にするなんて勿体ないことするものだわ。」


『っ〜〜〜!!』

『落ち着け!腹が立つ気持ちは痛いほど分かるが、今は落ち着け!』


後ろに乗っていた妖精たちの力が弱まり、体が動くことを確かめる智香子。

これなら逃げられる。


『人間。お前は何を信じて生きている?』


大量の下級妖精に囲まれているから、恐らく智香子の動向は妖精王たちに見えていない。

体を起こしてエフィエルシーを抱えなおす。

中級妖精からの要領を得ない質問に智香子は動きながら首を傾げた。

しかし待っても中級妖精たちはそれ以外に何か付け加えようとはしない。


何を聞きたいのか分からなかったが、今の智香子に深く考えるまでの余裕はなかった。


「私が信じているのは、諦めなければ大概どうにかなるし、生きていけるってことくらいよ。」


『どうにかならないときは?』


「その時は一旦引き下がるわ。」


『それは諦めというのではないか?』


「一旦って言ったでしょ。聞いてなかったのかしら?一旦引き下がって、また作戦を練って、挑んで、うまくいかなければまた引き下がる。上手くいくまで繰り返すの。それは諦めじゃないわ。挑戦よ。」


語学を勉強するとき。智香子は覚えられない単語や例文を繰り返し勉強した。

覚えられないなら、身につかないなら。

自分の勉強方法が何かしらよくないのだと思い、友人やクラスメイトに方法を聞き、試すことを繰り返した。

結果はついてくる。知恵は身に付き、自信もつく。

さらに語学は勉強することで、海外で生きていくことも可能になってくる。

得られるものがあることがうれしくて、智香子は勉強が好きだった。


中級妖精が何を聞きたいのか分からないが、智香子は語学の勉強は、やればやるだけ結果が出てくること。それだけは信じていた。

それが中級妖精にも伝わったのだろう。


『…そうか。』


満足げな、何かを決意した顔をした彼らを見て、智香子も頷く。

語学の話をしていないのによく中級妖精たちは分かったなと思いつつ、せっかくなら彼らの学習がよりはかどるよう、智香子が考える最も語学を簡単に習得することができる勉強法について教えようとしたとき。


『さっきから一体何をしている!早く儀式を戻せ!』

『罪あるものには相応の罰を!』

『『『『罰を!』』』』


妖精たちからの声が上がり、智香子は儀式のことを思い出した。

まずい、と扉を見ても遅い。

素早く妖精たちが動いて、扉の前に立ちふさがってしまう。


『お前たち、早くどけるんだ!』

『儀式の邪魔になるだろ!』


『?どうして?』


中級妖精が下級妖精に退けるよう指示を出すが、下級妖精たちは首を傾げる。

今まで下級妖精から疑問を向けられたことも、指示通りに動かなかったこともない中級妖精はたじろいだ。


『は?!どうしてって、』


『ぎしき、必要なのはどうして?』


『それはそこの人間と不足者が罪を犯したからで、』


『でもそれはうそって言ったよー?』

『うん!うそって言ってた!』


『いや、うそっていうのがうそで!とにかく、これは決められたことだ!我々は儀式を遂行しなければならない!』


『どうして?どうして遂行しなきゃなのー?』

『どうして?』

『どうして?』

『『『『どうして?』』』』


上空で様子を見ていた最上級妖精シャールは焦っていた。

儀式を任されたのに、たかが人間に進行を妨害され、格下の妖精たちの言うことを聞く羽目になり、その際に火の妖精王カルパトに怒られて。

今もまた、罪深き者たちを儀式に戻したいのに、なぜか上手くいっていない。

ちらりと盗み見た妖精王たちの顔は、怒りに染まっている。

このままでは自分の最上の地位も失われてしまう。

散々な状況に、焦り、憤りを感じていた。


(私は、本当の私の実力は、こんなものではないのだ!本当ならもっと上手く儀式を、ヤーレン様から任せていただいた儀式の進行役という役目を、しっかりこなせていたのだ!それを、あの人間が、邪魔をした!あの不足者が邪魔をした!)


手に持っていた儀式の書を開き、眼下の騒ぎをそのままに水の最上級妖精シャールは書かれていた文を読み始める。

『まだ下級妖精たちがいるだろう?!』と慌てて止めに入った他の最上級妖精を薙ぎ払い、シャールは強引に儀式を進める。


『儀式さえ無事に終わればいいのだ!これは罪深き妖精と大罪を犯した人間を赦し、浄化し、彼らを真なる自然の元へ教育するためのもの!責任と慈愛を持ち、最後まで見届けなければならない!…そのためであれば、小さく尊い犠牲はやむを得ないことだ。』


賛同する妖精たちの声は大きく、ティムニヒッカを揺らすほど響く。

響きは水の最上級妖精シャールに自信を取り戻させた。


『これより転生の議を執り行う!』


慌てたのはもちろん智香子である。


「ちょ、あんたたち!やばいわよ!ここから離れなさい!」

周囲にいる多くの妖精たちをなんとか自分たちから離れさせようとする。

しかし彼らは『なんでー?』『人間がめいれいするなー!』と言って離れてくれず、なぜか逆にくっついてくるので智香子はより動けなくなってしまう。

「このままじゃ私たちだけじゃなくて、あんたたちも一緒に殺されちゃう、っ、ぐっ!」

智香子を囲っていた下級妖精たちを一切気にすることなく現れたのは中級と上級妖精たち。

彼らは智香子とエフィエルシーを地面に押さえつける。

後ろから背中に強い衝撃を受けた智香子は一瞬息が詰まる。


水の最上級妖精シャールは自身の自力で、智香子たちの上に水の塊を作り出していた。

それは4つに分裂し、智香子とエフィエルシーの頭の上でそれぞれ2つずつで止まる。

ぐるぐると回りだした水は、やがて形を変えて鋭い刃物へと変化する。

水でできた処刑人の剣。

振り下ろされた先にあるのは、二人の首である。


わちゃわちゃと飛び回る下級妖精に、智香子は何とか息を吸い「逃げなさい!」と叫ぶ。


「っ、証拠も不十分で正当な儀式なんてものじゃない、進行も自分のプライドが邪魔をして上手くできない、加えて罪も何もない妖精を巻き込むなんて、あんた、随分な司会者だわ!司会者に選定された理由を知りたいくらい!あぁ、もし推薦されたのなら、その人物を教えてもらえるかしら?あなたを選ぶいかれた審美眼を持った妖精の顔くらい見ておきたいもの!」


『こ、の!魔力もなく、魅力もない、矮小で生きている価値すらない人間風情がぁ!ただ我々と会話ができているからと、己の力を過信している醜い存在がぁ!!私を侮辱するだけには飽き足らず、私が敬愛してやまないヤーレン様を貶めるような発言をするとは!!!』


「あら、よりにもよって妖精王様だったのね!それじゃぁ今回のことで王の名に随分と大きな傷がついたことでしょう!あんたの実力で引き起こされたどうしようもないこの惨状でね!」


『許さない!許さない!貴様だけは、絶対に許さない!』

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