第80話:四つの光
【訂正のお知らせ】
創造神→創生神
創造神だと、創造者と名前被っちゃうな、と思いまして、変更いたしました。
今後とも転移小人をよろしくお願いしたします!
完璧に守られた部屋。
ここは談話室だ。
智香子たちが天井裏で隠れていた部屋は談話室の一個前になる。
談話室に用意されている五つの椅子に腰を掛ける妖精王たち。
一つだけ上座にある長椅子には、誰も座らない。
決められた人物だけが座るために。
赤色を身に纏うは火の妖精王、カルパト。
直感力に優れ未来をみすえ、行動的。
青色を身に纏うは水の妖精王、ヤーレン。
感情的で誰とでも親しくなり、常に静かである。
水色を身に纏うは風の妖精王、フェリカ。
広い視点で物事を見極め、活動的。
そして、黄色を身に纏うは土の妖精王、ザラーク。
合理的に物事を分析し、常に安定して穏やかだ。
火は水を蒸気にし、水は火を消し。
土は風を重くし、風は土を緩める。
自然がそうして回るように、彼ら四人によって妖精の国は、女王不在の現在でも息ができている。
各々自分と同じ属性の妖精、同族のことのみを気にかける。
各部族に定められている部族長も同様だ。
そのため女王がいない今では全体を取りまとめるのは族長の役目だ。
妖精王たちが出入りした扉以外の四つの扉は、それぞれが四人の妖精王たち専用の執務室につながっていた。
談話室は先ほどの部屋よりも厳重に、妖精王たちによって守りの結界が張られている。
それもそうだ。
この談話室のさらに奥。
そこは、妖精女王の執務室であるのだから。
もう長いこと使われていない部屋だが、毎日妖精王の誰かが整えているため、誰かが今もその部屋を使っているかのように綺麗である。
口先を切ったのは火の妖精王、カルパト。
『このままじゃまずい。一刻も早く事の原因の発見と排除をしなきゃならねぇ。』
椅子の背もたれに足をかけ、本来とは真逆の用途で椅子を使っている。
注意をすべきであるが彼にそうする者は誰もいない。
見慣れているからだ。
『はぁ、なぜこんなことが起きているのか。このままでは、いずれ気付いた者から恐怖が広がってしまうではないか。』
水の妖精王、ヤーレンが息を吐いて背もたれに体重を預ける。
別に彼らは座る必要がない。
宙に浮くことなど苦ではないからだ。
逆に常に浮いている彼らにとって、こうして地面に繋ぎ止められている方が苦であった。
しかしこうして地面に足をつけ、椅子に座るのは習慣から。
千年前。
女王がいなくなるまで、ずっと続けられてきたことだった。
ただそれだけのことで彼らは地面に繋ぎ止められる。
かつての記憶を今なお大事に抱え、覚えていた。
『もしこのままなら、事態はどうなる…と思う?』
風の妖精王、フェリカは手をもぞもぞさせながら火の妖精王であるカルパトに問う。
己の直感とこれまでの長い経験を持ち、未来を見据えるカルパトの予見する言葉には重みがある。
『近いうち…そうだなぁ。一年……いや、何者かによって引き起こされているのなら、その者の意思一つで、明日にでもこの国は滅ぶだろうさ。』
水の妖精王ヤーレンは思わず拳に力が入る。
『なぜ、妖精殺しなどを行うのかっ…。』
現在、彼らの中で問題になっていることは、国外で頻発している妖精の死亡である。
上位であればあるだけ寿命が伸びる妖精たち。
しかし下位の妖精であっても、その寿命は人間の寿命と程変わらない。
だがそれよりも遥かに短い年数で、妖精は次々と命を落としていた。
命を落とすことは珍しいことではない。
問題はその数だ。
主に下級をはじめとして、最近では中級妖精の死亡数まで増えてきていることが分かった。
不審に思い存在が消滅した場所を辿れば、多くはこの国の周辺。
妖精の遊び場であるタシャーパ森林であった。
捜索中、彼らはとあるものを見つけて眼を見張った。
それはズタズタにされた妖精の死骸。
川中に沈められたそれを前に、彼らは悟った。
これは何者かが意図して妖精を殺しているのだ、と。
同胞の亡骸を前に、せめて安らかに眠らせてやろうとした妖精王に、土の妖精王であるザラークは『やめなさい。』と止めた。
『不用意に動かすものではない。よく見ろ。呪いがかけられている。おそらく、触れることで感染する類のものだ。…まだ、不完全のようだがな。』
ザラークの言う通りであった。
加えて、その呪いは生まれ変わりさえ許さない。
ただ川に流されチリとなり消えるのみ。
自分たちが何者かの掌の上で転がされている感覚に気分が悪くなる。
まるで命を握られたような感覚だ。
『俺らにとって縁遠いはずの死。それを身近に感じるとはなぁ。』
生まれ変わり、つまりは転生によって何度でも生き返ることが可能な妖精。
生まれ変わる前の死は彼らにとって死ではない。
しかし転生することとは以前の生を失うということ。
記憶はあっても知識がなくなった彼らは、生まれ変わってすぐは弱く不十分な存在となる。
だから生まれ変わるとすぐに他の妖精、育ち手がつけられて、以前の知識を取り戻せるように教育を施されるのだ。
彼らにとって死とは、その存在の消滅。
ただチリとなって消えること。
現在わかっている消滅方法は三つ。
過度な攻撃をその身に受けるか。
嘘を吐き続けるか。
または、自然のものではない人工物を体内に取り込むか。
ある程度育った妖精たちには皆、同族が消滅しない程度の威力加減が教育されている。
『……あれは、なんだ?損傷からして過ぎた攻撃によるものか?』
『そう見せかけるためにボロボロにしてただけだろうが。ザラークが言ってたように、呪い、つまり人工物を無理やり体に入れられたんだ。』
『分からないのは、どうして川に捨てたのかってこと……と思う。我々の壊滅を望んでいるのなら、ああして水中に呪いを閉じ込める意味がない……と思う。』
『あぁ。まるで、俺らを守るみたいに、な。』
カルパトが苛立たし気に背もたれを蹴る。
『くそ……。陛下さえいれば、こんなこと一瞬で解決するのに…。』
『それを言うな。皆、思っていても、言わないのだから。』
『……陛下が眠りにつかれて、千年…。数年前に何者かによって暴かれるまで、存在をちゃんと確認できていたのに、今、どこにいらっしゃるのか心配……と思う。』
思い出すのは、彼女が眠りについたあの日のこと。
とある人物と古くに交わされた約束を信じ、長いときを待ち続けた妖精女王は、やがて疲れてしまう。
心配した土の妖精王が、彼女に提案したのだ。少し休んではどうか、と。
女王は一本の細い木に姿を変え、妖精たちが近寄らぬ隠された場所で眠りについていた。
しかしある日、その気が何者かによって掘り起こされ、なくなってしまった。
女王の存在が消えたことに慌てた妖精王たちは妖精たちを総出で探したが見つからず。
王たちと女王の深い繋がりから、この国に女王が存在していることはわかるのに、どこにいるのかがわからない状態であった。
それは女王が女王として、完全に覚醒していないためである。
『力の一部が陛下の近くにいることはわかるのに、なぜ場所が分からねぇんだっ…。』
『我々の力があまりに小さいからだ。下級妖精よりもはるかに小さい力で、一体陛下をどうやってお守りしているというのか。』
『会いたい……陛下……会いたい……。』
『我々にできることは、ただ待つことのみ。』
ずっと沈黙を貫いていた土の妖精であるザラーク。
その声には皆を黙らせる力があった。
『時が来れば、陛下御自ら姿を現してくださるだろうよ。』
静かになったのを確認したザラークは、服の中から一枚の文書を取り出した。
『相次いでいる妖精の殺害に関して、先日文書が届いた。情報が洩れると危険なため、使者が来るとのことだよ。』
『使者ぁ?この忙しい中来るなんて大層なことじゃねぇか。一体どこの国だ!』
開かれた文書に押されている印は、赤色。
『アドリオンだと?』
赤の国、大国アドリオン。
使者が使わされる、と書かれているが、一体だれが、いつ到着するのかも書かれていない。
ただ、貴国で起きている事件について情報提供がしたい旨のみが書かれている。
『使者の到着はいつになる……と思う?』
『ん。もう到着している。』
ツ、とザラークが、四人が座っているところから少し離れた空いた空間を見る。
すると黄色い光が溢れ、収まったとき。
そこにはある人物が立っていた。
一方智香子とエフィエルシーは今、長い階段を上っている。
救いなのは、来た時とは違い、壁のいたるところに窓が設置され、階段の幅も広く、恐る恐る上らなくても良いというところだ。
上りやすい階段を走って駆け上がる二人。
「いつ、つくのよ!」
『もう、少し、です!』
息も切れきれだ。
視界にちらついた色に、智香子はあっと声を出す。
「貴方たち!」
それはエフィエルシーのそばにいる、四人の下級妖精たちであった。
「帰ってくるのが遅いわ!どこで道草食ってたのかしら!」
『深淵、なる、ぜぇ、闇から、舞い戻りし、ひぃ、我が、眷属、た、ふぅ、ちよ…。ひぇーーー、今こそ、我に力、を…。』
「エルシーは無理してしゃべるんじゃないわよ。」
所々で空気を吸い込んで何言っているのか微妙にわかりずらい。
そこからまた登った先。
綺麗にされた扉を見て、智香子とエフィエルシーは互いに頷き合うと、その扉を押す。
しかしピクともしない扉。
なぜ、と息を整えながら考える智香子とは逆に、エフィエルシーはやはり、と息を吐いた。
『これは自力を持つ者でないと開けられない仕組みになっているようです。』
「それなら!」
四人の下級妖精に頼み、扉へ自力を流してもらう。
すると、下級妖精の力であっても扉が徐々に開いていくではないか。
喜びに笑顔を浮かべた二人は、扉が開くのもそこそこに中へ入った。
踏み入れたのはタティーピト最上部。
かつて妖精女王が白の民を追い返し、国を救った場所。
現在となっては、国儀が行われる神聖な場所である。




