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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
82/152

第79話:変装は十分な準備をして③

6/19 加筆しました!

エフィエルシーの言葉に智香子は驚いた。


「は?!妖精王?!」


『ちょ、チカコさんっ!』


エフィエルシーが智香子の口を押さえる。

妖精王執務室。

一番先に入ってきたのは燃えるように赤い妖精。

ギロ、と天井に目を向ける。

2人はお互いに抱きついた。

赤色の妖精王に続いて入ってきた、青色の妖精王と水色の妖精王が不思議そうに首を傾げた。


『どうした?何かあったか?』


『…いや、何か気配を感じたんだが…』


『この層は我らの自力が編み込まれた素材が壁や床に使われている…。侵入者は入ってくるどころか隠れることもできない…と思う…。』


『そうだぞ。さぁ、そんなことよりも我々は話すべきことがあるはずだ。』


今いる部屋のさらに奥へいくように促され、赤色の妖精王は渋々といった表情で頷く。


『まぁ何者かが侵入しているなら、厳しく教育すれば良いだけの話だな。』


『そのとおり…と思う…。』


最後に物騒なことを残して三人は部屋からいなくなる。

全身に力を入れて身を潜めていた智香子とエフィエルシーは息を吐いて力を抜いた。

生きた心地がしなかったとエフィエルシーは胸を撫でる。


『ふぁ〜…。まさか妖精王様たちをお見かけすることになるとは…。いやぁ、緊張しました…。』


「緊張するどころの話じゃないでしょ…。あれ、バレてたら最悪殺されちゃうところだったわよ…。」


『声出したのチカコさんじゃないですか…。』


「それもそうね…。ごめんなさい…。」


しかし、水色の妖精王が言っていた通りであるならば、智香子とエフィエルシーがこうして侵入し、隠れることができているのは何故か。


『恐らく、我々が通常であれば持っているはずの魔力や自力を持っていなかったから、ではないでしょうか。天井の隙間が空いてる状態であれば防魔・防自効果が働かず、普通はばれたはずです。しかし私たちは生き物や妖精が通常所有しているものを持っていません。だから、妖精王様たちは気づけなかったのでは。』


エフィエルシーの考えに頷いていた智香子だったが、グイッと近くなった彼女の顔に仰け反った。


『ですが、こういうときは天井の隙間を開けず、きちんと閉めてください!たまたま運が良かっただけで、本来侵入罪で捕まるか死にますから!まぁ、防音効果により、室内の様子が全くわからないよりも良かったかもですけど…。』


いやそれでもやはりあのような時はちゃんと逃げることを優先すべきでしたか…?と頭をひねるエフィエルシーをそのままに、智香子は天井板をずらして部屋を見る。

妖精王たちが入っていった部屋の扉は閉まっており、他に人の姿は見えない。


「これからどうするの?」


『隠し通路はわかっても、ここがどこに繋がっているかまでは知りません。また、このまま天井裏を移動し、運よく目的の場所にたどり着いても、こうして天井板が外れているとは限らないでしょう。それならば、天井裏から降りて移動する方が早いかもしれません。タティーピト内部の構造は頭に入っていますから。』


「ぐずぐずしていたら、私たちを探している妖精たちに見つかって殺されちゃうもの。」


しかし天井裏から降りる、となると、ここから地面に降りなければならないということになるのだが。


「『………。』」


中々の高さである。


『だ、だいじょうぶですよ、だいじょうぶ……。』


言ってて難しいと思ったのか、エフィエルシーの言葉は尻すぼみだ。


「!あの四人に降ろしてもらうのはどう?」


そこで思い出したのはエフィエルシーと常にともにいる四人の下級妖精たち。

先程彼らから浮かせてもらったのを思い出した智香子は、彼らに地面まで降ろしてもらおうと思いついた。

しかし、周囲を見渡しても彼らの姿はない。

何なら階段を上り切り、壁を開いて狭い道を移動していた時から、彼らの姿を見ていない気がする。


『彼らはなぜか、この妖精王様たちの執務室がある階には近寄らないんです。といっても、基本妖精たちは恐れ多いとこの階層には入らず、国儀が執り行われる最上階の入り口まで飛んでいくのですが。あ、私は羽がありませんから、もちろん、妖精以外が使用することを目的に作られた長い長い階段を歩くことでしか登れませんよ。』


タティーピトの構造としては、まず先程の最上級妖精から下級妖精までが集っていた場所が最も下に。

その間に長い階段が続き、妖精王たちの執務室がある階につき、そこからすぐ上の階に国儀用の場所が開けるという形になっている。


階段と妖精王たちの執務室が繋がっているというわけではなく、あくまで同じ階層にあるというだけだ。

実際、階段と執務室の間には厳重な扉と廊下がある。


どちらにしろ、四人がいなければ自力で降りるしかない。

どこかに降りやすい場所がないか探すため、智香子は恐る恐る天井裏から顔を出す。

エフィエルシーの話を聞く限り、この部屋は妖精王たちの執務室と廊下の間にでもある部屋なのだろう。

ものが少なく、ただ通るだけに過ぎない感じがする。

だが彼らが出入りした扉以外に四つの扉がある。

何の部屋だ?

少し先にはテーブルがあり、壁には棚がいくつかある。

あそこの天井板を外せれば、棚から机へと順に、楽に降りられそうだ。

導線を確認していた智香子はクルリと妖精王たちが入ってきた扉を見て動きを止める。


『………………………。』


いる。

黄色の妖精王が、いる。

入り口でこちらを見ている。

なんなら智香子が天井裏からガッツリ頭を出しているので、ばっちり目が合っている。

意識を三人の妖精王たちが入っていった扉の方に向けていたために、入り口の方は意識外であった。

自分の迂闊さに頭がくらっとする。


天井裏では、動きの止まった智香子を不審に思い、エフィエルシーが小声で心配している。

しかし智香子の頭の中は今、この状況からどうやって逃げ出すかで一杯だった。

妖精王に見つかるという最悪の事態。

瞬時に元来た道を戻り、また別の策を考えるべき。

しかし隠し階段を戻っても、そこには恐らく智香子たちを狙う妖精たちがわんさかいることだろう。

だがこの場に留まり、すぐさま妖精王から首と体を切り離されるよりはましかもしれない。

妖精王たちよりも力が弱い妖精であれば、何とかなるのでは。

いや、ゲットル伯爵領でのことを思い出せ。

あそこで彼らは人一人余裕で持ち上げていたではないか。

集まればそれだけ力になる。

二人は無理でも、エフィエルシーだけなら、なんとか。


どうする。どうする。


背を向ければすぐに攻撃されるかも、と目を反らせずにいる智香子。

こちらも目を離さない黄色の妖精王。

性別の分かりづらい見た目で、そして目を驚きに大きく開いていた黄色の妖精王は、緊張に唾さえ飲み込めずにいる智香子としばらく目を合わせた後。


視線を少しずらしては、なにか納得するように目を閉じた。


ガチャッと音がする。

三人の妖精王たちが入った扉が開かれるようだ。

慌てて頭をひっこめた智香子は、エフィエルシーと協力して今度はきっちりと扉を閉めた。

そのため中の会話は一切聞こえなくなってしまう。


赤色の妖精王が扉を開ける。


『おい、ザラーク。』


『どうしたんだ、カルパト。』


『?お前こそどうした。扉の前で立ち尽くして。さっさと来い。話し合いを進めないといけない。』


『…………あぁ。そうだったな。』


ザラーク、と呼ばれた黄色の妖精王は、綺麗に閉じられた天井裏を見てクスッと笑う。

そしてそこから離れたところにある、棚や机が置かれている場所の上の天井板を見た。


『そういえば、カルパト。陛下の手記は今、どこに保管されているのだったか。』


部屋に入ろうとしていた赤色の妖精王はあからさまに顔を顰める。


『…何いってんだ。ついにボケたか?そんなもん最上階の俺らの席の下に保管されてるに決まってんだろうが。』


『あぁ、そうだった。そうだったな。』


カルパトからの怪訝な視線を受けつつ、ザラークは部屋の中に入り、扉を閉めた。


それから少しして、端の天井板が動いた。

ひょこっと先程と同じように顔を出した智香子。

周囲の気配を念入りに確認し、すぐ近くにある棚の上に降りる。

続いてエフィエルシーも降りて、二人はひっそりと、しかし急いでその場から離れた。

予想通り、部屋から出ればそこには廊下に続いている。


「良かったわ…。」


『確かに良かったですけど…。どうして急にあそこの天井板が外れたのでしょうか…。おかげで部屋の中の様子も分かりましたし、出ることもできましたが。はっ、もしや!これは白き悪を打つ使命を持つ我への神からのご助力か…?!』


「そんなことを考える暇があるなんて随分余裕ね。でも運よく手記がある場所の詳細を知ることが出来たのは嬉しい誤算だわ。ともかく、バレる前に急ぐわよ!」


二人は廊下の奥にある扉を開けて、最上階へと向かった。

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