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転移小人の奮闘記  作者: 三木 べじ子
第1章
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第76話:祝福のお守り③

『いやはや申し訳ありません。勘違いをしてしまっていたとは、お恥ずかしい。』


早々に誤解を解き、操妖精は智香子たちに謝罪を込めて頭を下げる。

その背で羽が揺れた。


「誤解しても仕方がない状況だったのだから、頭を上げて頂戴。誰だって知らない人がいたら勘違いするわ。」


『おぉ、なんとお優しいお方だ……。』


見た目が中級妖精であるからか人形のように可愛らしいのに、話し方が年寄りで脳が混乱する。


『私のこともご存じない方がいるとは、驚きです……。』


妖精の国の現族長の一人娘であるエフィエルシー。

自惚れでもなんでもなく、妖精であれば皆知っているものだと思っていたのだが。


『なんとも申し訳ありません。わしは森の深いところに籠り、常妖精の不調を治す研究をしとります故、何分治世にとんと疎い。研究室を出るのも、数年に一度ですし、出たとしても、このような中央で暮らしとらん妖精たちばかり相手にしとりますので…。』


別に責めたいわけではなかったと、エフィエルシーは頭を下げる。

それに申し訳ないとまた操妖精が頭を下げて、エフィエルシーも頭を下げる。

きりがなくなってくるので、智香子は二人の頭をこれ以上下がらないように抑えた。


「折角来てもらってなんだけど、今この家の主は眠っているわ。起きるのを待つか、また出直すか。どうする?」


『ふむ……待たせていただきましょうか。』


操妖精がしばらくお邪魔します、と言ったとき、家の扉が開いて風音が現れた。

眠そうに目を擦る姿は可愛い。

今起きたであろう風音は、ドアの前にいる智香子、エフィエルシー、四人の妖精を見て、最後に操妖精を目に映すと。


『…………だれ?』


風音の言葉に、智香子たちの体に緊張が走る。

操妖精を装い騙しにきた妖精か。

エフィエルシーを狙ってきたあの三体の妖精の手下か。

4人の下級妖精はピッタリとエフィエルシーに張り付き、智香子もその前に立つ。

皆からの視線を受ける操妖精は、その首をゆっくりと傾げた。




それから一時間後。

智香子たちは今、妖精の国でいうところの街にきている。

全身を覆うマントを被り、周囲に視線を走らせるエフィエルシー。


『………我らを執拗に追いかける悪の組織の気配は、今の所ないようだ。』


「それはよかったわ。」


ほっと息を吐く智香子。

彼女もエフィエルシーと同様の格好をしている。

なぜこのようにコソコソと、街にいるのか。

事の発端は先ほどの操妖精との会話に戻る。




首を傾げた操妖精は眉を寄せて風音を見た。


『………どちら様?』


「『ん?」』


お互いがお互いを知らないという謎な状況が生まれてしまい、取り敢えず家の中に入って話をすることになった。


『ふむ。住処には妖精の好みが現れる。家の中の様子からして、家主は変わっとらん。しかし、わしはこちらの妖精様を存じ上げない。いつからここに住まわれとる?わしが知る限り、ここの家主は他人を自分の住処に入れるような者ではないと思うのだが。』


『いつから?やぬし?うーん、わかんない。ここがぼくのいえだってしってるだけだもん。』


『ふむ。もしかしたら、記憶を抜き取られているのかも知れぬな。』


突然の物騒な話に智香子たちは目を丸くした。


『ちょいと失礼』


操妖精は風音の額に自身の指先を当て、目を閉じる。

じっと見ていれば、操妖精の身体からうっすらと黒いモヤが現れ、それが風音に向かっていく。

モヤが指先を通して風音に到達すると、操妖精は素早く手を引き呻いた。


『やはり記憶が欠けておる。妖精の中で記憶を操作できる類の者に記憶を抜かれたのだろうな。』


『っ……。』


「…随分淡々と言うのね。」


黒いモヤをゆっくり霧散させながら、操妖精はホホッと笑う。


『この記憶消しはの、人の世界でいうところの口止めと同じなのです。しかし我らにとって、嘘は御法度。自然の産物であるはずの我らが、自然とは異なることを口にすれば、それは自然に逆らうこととなる。真実を捻じ曲げる行為は己の存在をも捻じ曲げる。我らが嘘を吐き続ければ、捻じ曲がり、曲がって、やがて死に至るのよ。それ故、わしらは嘘を付かない。聞かれれば素直に答えてしまう。そこでよ。始めからその出来事を無しにしてしまえば、話すことがそもそもないのだから、真実も嘘も何も言えない。』


自分に関係ある話だというのに、風音はもう済んだと宙をプカプカ浮いている。


『記憶を抜き取られてしまうとな、妖精は自力を扱う力も、体内に所有する自力の収納庫も大幅に小さくなる。それに見合った身体へと縮み、小さくなってしまうのよ。記憶は力。長い年月によって蓄えられた知識という名の力が抜かれてしまえば、そりゃ弱く小さくなってしまうよなぁ。』


うんうんと頷き、操妖精は持ってきていた小さな鞄を開け、黒色の小さなビーズのようなものが沢山入った瓶を取り出して、それを風音に渡す。


『取り敢えず、自我を固定する薬を出しときますから、これを1日に一回は飲むように。記憶を抜き取られて、そう時間が経っていないようですからな、前と今の自我が混ざって不安定になっとるはず。これを飲んどけば、まぁ大丈夫ですから。記憶が戻らなくても普通に生活できるようになりますし、記憶が戻るならそれはそれですぐ自我が安定できますからな。』


『わかったー!』


自分と同じくらいのサイズの瓶を抱える風音。

まさか記憶がなくなっているとは思わなかった。


「記憶を戻すにはどうすればいいの?」


『簡単なこと。記憶を抜き取った妖精を殺せば良いのです。』


「こ、殺す?!」


鞄を閉じながら当然だと操妖精は頷く。


『記憶操作は、それぞれ妖精がこの世に生まれた時に授かる火、水、風、土の四属性外のものですからな。基本、上級以上であればどの妖精も使用可能なのです。しかし記憶を抜き取ることは、言い換えるならば命を奪ったのと同義。知り得たことを取られ、自分が何者であるかも忘れ、彷徨う。それだけのことをするのです。殺されても仕方がない。』


ガタッと智香子は席を立つ。


「だめ、ダメよ!殺すなんて…。殺すなんて、そんな…。」


『チカコ、さん…?』


様子の変わった智香子は荒く呼吸を繰り返す。


だめだ。

だめだ。

誰かが死ぬなんて、ダメだ!


『まぁ、それ以外に方法がないわけでもないのですがな。』


向けば、操妖精は『大変、大変に、大変な方法ではありますが、ないわけではない。』と笑う。


死ななくても良い。

誰かが必ず死ななければならない、なんてことはない。

ほっと智香子は力を抜いた。


『そうそう、先ほどから気になっていたのですが、族長の娘様。』


『は、な、なんだ!』


『どうして羽をお持ちでないのです?』


あまりに無神経だと言わざるを得ない急な問いに、智香子よりも先に4人の下級妖精が操妖精に飛んでいく。

慌てる操妖精。


『?!ど、どうされた?!』


智香子は操妖精への対応は下級妖精たちに任せ、エフィエルシーに視線を向ける。

しかしエフィエルシーは傷ついた表情をしていなかった。

顔に浮かぶのは、驚き。

どうして、とその口が呟くのが聞こえたのか、操妖精を追い回していた4人の妖精たちは動きを止める。


『どうして、とは、どういうことでしょうか?』


操妖精はボロボロになった服を整える。


『ヒィ、ヒィ、ふぅ…。いや失礼いたしました。羽をお持ちでないのがあまりに不思議だったもので、つい。』


『それは、良いです。詳しく教えてください。』


『……ぅうむ。過去の数件ではありますが、羽が生えてこずに生まれてきた妖精は、実は存在しているのだ。しかし羽なしの妖精などいない。それはなぜか?』


『……生まれ変わりを強制的に執行したのでは?』


『そうだ、そうだな。それが実に早いのであろうな。しかし彼らはそれを認めず、羽を手に入れることを諦めなかった。そうして、完成したのだよ。羽を生やす薬を。』


智香子が見た、エフィエルシーの顔は、驚きから色を変える。

歓喜。

あまりの嬉しさに、涙が溢れるほど。

もう無理だと諦めていたはずの羽を、まだ諦めないで良いことが、彼女にとってはとんでもなく、嬉しいことだった。


『その薬は羽を構成するのに必要な自力の循環を促進し、羽を生やすだけではなく羽の再生も可能とした。故にその後の妖精の国では妖精王から下級妖精まで日常的に使うものとして普及した。のが、わしの記憶違いでなければ大体のところ200年前になるか。市でも簡単に手に入るものを、なぜ、族長の娘様が手に入れずにいたのか、気になってしまってのぉ。不躾な質問をしてしまい、申し訳ない。わしも当初は治療に使うために持っていたのだが、普及してからは容易に手に入るようになってな。手持ちはないのだ。あぁ、空の器なら確かあったはず。どこに入れたかのう。』


ガサゴソと鞄を探り、取り出されたのは空の瓶。側面にトープォーの羽が描かれている。


『…初めてみるものです、ね…。市でも見たことがありません。』


『キレー!』


『まぁ、わしが引きこもってから、30年経ってるからのぉ。』


「長っ!」


空の瓶は探すのに役立つかもしれないからと、エフィエルシーがもらうことになった。


『市にないのであれば、あとはもう作るしかない。』


『レシピはどこに!例え何年、何十年かかろうと、必ず作って見せます!』


意気込むエフィエルシー。


『羽を生やす薬の作り方はのう、妖精女王の手記に記されとる。』




その妖精女王の手記を手に入れるべく、智香子たちは現在街に来ているのだが。

智香子の隣でガッと音がして慌ててそちらをみる。

音の正体はエフィエルシーが壁に頭を打ちつけた音だった。

エフィエルシーが妖精女王が嫌いだったことを思い出す。


『た……っだでさえ、あんな人のものだっていうのに吐き気がするのに、よりにもよって、手記…?』


ボソボソと何か呟く彼女を前にどうすれば良いか困っていた智香子の前に風音が飛んでくる。


『じょおうさまのしゅきって言った?』


「えぇ、あの時は聞ける雰囲気じゃなかったから聞かなかったのだけど、知ってる?」


『うん!タティーピトのいちばん上にあるよ!』


「タティーピトって、」


『妖精の国の中央、あの人が勝手に引きこもる前に白の民を退けて国を守ったとされる神聖な場所。その最上階で国儀が執り行われる場所…。最上階に行くまでにはとんでもない長い階段を登らなきゃいけないし、かといってその後には妖精王様たちの執務室があるから厳重に厳重かけた警備体制敷かれて虫一匹も入れないくらいの場所通ってようやく辿り着くとかどう考えても無理です…。』


ガンッと打ちつけられる額に慌てるのは四人の下級妖精たち。

いつもそれ以上の威力を持ってエフィエルシーにぶつかりに行っているのに、これは心配になるのか。

ふよふよ飛ぶ妖精たちを安心させるようにエフィエルシーは笑う。


『とはいっても、行かなきゃ羽は手に入りませんし、覚悟決めないとですね。』


それに、妖精女王の手記には、他のことも記されているらしい。




『手記には女王の知識が全て詰め込まれとると噂されておる。見れば万物を知り、理解し、扱えるようになると。族長の娘様。主の自力が扱えない原因も、もしかしたら分かるやもしれん。』




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